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出発準備
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ルナとレムリアは東でも同じ部屋で休むことになった。
用意された部屋はさほど広くはなかった。むしろ、北の城の部屋のほうが広かったような気がする。逆に華やかさという点からいけば、こちらの部屋のほうが明らかに優っている。
寝台や窓に取り付けられている絹、随所に宝石がちりばめられている鏡台、美しい模様が縁どられた卓に玉の杯。どれをとっても王族の後宮にあるには申し分のない一品ばかりだ。
鏡も磨き上げられているし、北の部屋と違って隙間風もない。
女人に生まれたら、誰しも一度は泊まってみたい部屋だと思うだろう。
レムリアはさすが宮内大臣の養女とあってか、この部屋に滞在している姿は慣れたものだ。
ルナのほうがどこに自分の荷物を置いたりして良いのか、調度品の使い方などもいちいちレムリアに尋ねなければわからない有様であった。
(レムリアと部屋が一緒で良かった)
そうでなければ一人で右往左往していたはずだ。
ふかふかの寝台に体を横たえてもルナはどこか落ち着かなかった。
翌日から、化粧の濃い女人たちに囲まれる生活が始まった。
むせるような香の匂いが色々混ざりまくって、ルナは正直に閉口した。
(鼻も閉じたいけど、さすがに口と同時にはな~)
これではせっかくの料理の味も何もわかったものではない。
ルナはかすかに眉を寄せながら、我慢して手早く食事を済ませた。
そして食事を終えると、早々にトゥナルーンに謁見を願い出た。
ここ東の地域ではルナの試験が行われるのだ。
「では、今日にも参ると申すのか?」
「はい」
通された部屋は、後宮の入り口に近い小部屋であった。
ルナ、レムリア、太守トゥナルーン、太守に仕える錬金術師ユノー、そして各妾妃から監視のためにつけられた侍女数人がいる。
「そのように急がずとも、しばし北からの移動の疲れをとってから出立しても良いのだぞ」
驚いた顔でトゥナルーンはそう申し出た。
「私たちはこちらでの滞在時間が限られております。すでに北で三週間過ごしました。ここからトルマリンの鉱山までの往復の時間を考えましたら、今すぐにでも向かわなくてはなりません」
この城からトルマリンの鉱山までは、片道三日はかかると聞いた。
鉱山に着いても、すぐに目当てのトルマリンの原石が見つかるとは限らない。
「わかった。ではユノー、急ではあるがルナとレムリアの準備が整い次第、共に鉱山に発ってほしい」
太守の脇に立っていた中年の女性が頭を下げた。
「では出発は明朝、朝食を取り次第と致します。二人とも、鉱山に持っていく荷物をまとめておきなさい」
「はい」
「太守さま、馬車と護衛の兵士たちの用意を早急にお願いいたします」
「わかった。手配させよう」
それからルナとレムリアは、慌ただしく出発の準備に追われた。
「ごめんレムリア。こんなに急がせてしまって」
さぞや貴族出身の娘ならば、このような部屋でゆっくり過ごしたかったのではないだろうか。
ルナはレムリアの顔色をうかがった。
「別にいいわよ。北の砦もそんなに良い場所とは言えなかったけど、二人一組で行動するのが決まりだし。私の時もあなたは黙ってついてきてくれたし。お互い様よ。気にしないで」
レムリアは静かに微笑んだ。
「ありがとう」
これから二人が向かう鉱山には、山小屋程度の宿所しかない。
しかもそこには、鉱夫たちだらけだ。
護衛がつけられるとはいえ、とてもではないがお嬢様には耐えられないような場所だろうと思われた。
しかし当のレムリア自身が嫌がったそぶりを見せずにいてくれたので、ルナはいくぶんほっとした。
用意された部屋はさほど広くはなかった。むしろ、北の城の部屋のほうが広かったような気がする。逆に華やかさという点からいけば、こちらの部屋のほうが明らかに優っている。
寝台や窓に取り付けられている絹、随所に宝石がちりばめられている鏡台、美しい模様が縁どられた卓に玉の杯。どれをとっても王族の後宮にあるには申し分のない一品ばかりだ。
鏡も磨き上げられているし、北の部屋と違って隙間風もない。
女人に生まれたら、誰しも一度は泊まってみたい部屋だと思うだろう。
レムリアはさすが宮内大臣の養女とあってか、この部屋に滞在している姿は慣れたものだ。
ルナのほうがどこに自分の荷物を置いたりして良いのか、調度品の使い方などもいちいちレムリアに尋ねなければわからない有様であった。
(レムリアと部屋が一緒で良かった)
そうでなければ一人で右往左往していたはずだ。
ふかふかの寝台に体を横たえてもルナはどこか落ち着かなかった。
翌日から、化粧の濃い女人たちに囲まれる生活が始まった。
むせるような香の匂いが色々混ざりまくって、ルナは正直に閉口した。
(鼻も閉じたいけど、さすがに口と同時にはな~)
これではせっかくの料理の味も何もわかったものではない。
ルナはかすかに眉を寄せながら、我慢して手早く食事を済ませた。
そして食事を終えると、早々にトゥナルーンに謁見を願い出た。
ここ東の地域ではルナの試験が行われるのだ。
「では、今日にも参ると申すのか?」
「はい」
通された部屋は、後宮の入り口に近い小部屋であった。
ルナ、レムリア、太守トゥナルーン、太守に仕える錬金術師ユノー、そして各妾妃から監視のためにつけられた侍女数人がいる。
「そのように急がずとも、しばし北からの移動の疲れをとってから出立しても良いのだぞ」
驚いた顔でトゥナルーンはそう申し出た。
「私たちはこちらでの滞在時間が限られております。すでに北で三週間過ごしました。ここからトルマリンの鉱山までの往復の時間を考えましたら、今すぐにでも向かわなくてはなりません」
この城からトルマリンの鉱山までは、片道三日はかかると聞いた。
鉱山に着いても、すぐに目当てのトルマリンの原石が見つかるとは限らない。
「わかった。ではユノー、急ではあるがルナとレムリアの準備が整い次第、共に鉱山に発ってほしい」
太守の脇に立っていた中年の女性が頭を下げた。
「では出発は明朝、朝食を取り次第と致します。二人とも、鉱山に持っていく荷物をまとめておきなさい」
「はい」
「太守さま、馬車と護衛の兵士たちの用意を早急にお願いいたします」
「わかった。手配させよう」
それからルナとレムリアは、慌ただしく出発の準備に追われた。
「ごめんレムリア。こんなに急がせてしまって」
さぞや貴族出身の娘ならば、このような部屋でゆっくり過ごしたかったのではないだろうか。
ルナはレムリアの顔色をうかがった。
「別にいいわよ。北の砦もそんなに良い場所とは言えなかったけど、二人一組で行動するのが決まりだし。私の時もあなたは黙ってついてきてくれたし。お互い様よ。気にしないで」
レムリアは静かに微笑んだ。
「ありがとう」
これから二人が向かう鉱山には、山小屋程度の宿所しかない。
しかもそこには、鉱夫たちだらけだ。
護衛がつけられるとはいえ、とてもではないがお嬢様には耐えられないような場所だろうと思われた。
しかし当のレムリア自身が嫌がったそぶりを見せずにいてくれたので、ルナはいくぶんほっとした。
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