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旅立ちの船
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長引いた会議から一ヶ月後、カルトパンの西側に位置する最大の港から、魔術科、錬金術科、占星術科の生徒たちを乗せた三隻の船が出航した。
「ルナ」
振り返ると友人のサファラが立っていた。
「サファラどうしたの?」
「ごめんなさい!」
サファラはいきなり頭を下げた。
「え?」
何が何だかルナにはサファラに謝られる理由がさっぱりわからなかった。
「ルナとはずっと友達でいようねって言ってたのに、同じ国にしなくてごめんなさい」
ルナは大陸北西部にあるリファンカール王国を希望し、サファラは錬金術科本科の生徒の大半が希望する鉱山王国・シャルスタインに行くことを希望していた。
シャルスタイン王国は、大陸で一、二を争うほどの裕福な国で大陸の南東部に位置している。治安も良く、現王は賢君と称えられている人物だ。
対してルナが行こうとしている国・リファンカールは、特に貧しい国というわけではないが、治安の悪さと四人の王子たちによる分割統治によって政情が不安定と言われている国だ。しかも国境沿いでは小競り合いが頻発していて、平和とは程遠いものであった。
だからこそ会議でのイゼルの言葉通りにルナは誓約書を書かされたのだ。
あの会議の後、養父母は後見人代理としての署名を頑なに拒んでいたのだが、イゼルの個人的な説得により、やっと署名をしてくれたのだ。
ルナ自身、なぜイゼルほどの人物が養父母の説得までしてリファンカールに行けるようにしてくれたのかはわからないが。
でもこうして望みが叶ったのだ。
帰国したらちゃんと直接お礼を伝えに行こうと思った。
「本当にごめんなさい。これじゃあ友達失格だよね?」
ルナの数少ない友人のサファラは一般家庭の娘で、予備科の時から共に学んでいた。
卒業試験国はルナもシャルスタインを選ぶと思っていた。
「ううん。気にしないで。私の方もちゃんと言わなくてごめんね」
ルナはこれまでサファラから試験国を訊かれるたびに、適当な国名を言ってははぐらかしていたのだ。
サファラがルナと同じ国に行きたがっていることはわかっていたから。
自分の望みのために友人を巻き込むわけにはいかない。
サファラには心から案じてくれる実の家族もいるのだから。
「ルナ……」
「卒業式で会おうね」
「うん」
ルナはサファラに背を向けると、走り出した船の進む先を見つめた。
遠くにかすかに陸地が見える。
(行かなければ。どうしても彼の国に)
若さまとの約束を果たすために、ルナはリファンカール王国へ行かなければならないのだ。
「ルナ」
振り返ると友人のサファラが立っていた。
「サファラどうしたの?」
「ごめんなさい!」
サファラはいきなり頭を下げた。
「え?」
何が何だかルナにはサファラに謝られる理由がさっぱりわからなかった。
「ルナとはずっと友達でいようねって言ってたのに、同じ国にしなくてごめんなさい」
ルナは大陸北西部にあるリファンカール王国を希望し、サファラは錬金術科本科の生徒の大半が希望する鉱山王国・シャルスタインに行くことを希望していた。
シャルスタイン王国は、大陸で一、二を争うほどの裕福な国で大陸の南東部に位置している。治安も良く、現王は賢君と称えられている人物だ。
対してルナが行こうとしている国・リファンカールは、特に貧しい国というわけではないが、治安の悪さと四人の王子たちによる分割統治によって政情が不安定と言われている国だ。しかも国境沿いでは小競り合いが頻発していて、平和とは程遠いものであった。
だからこそ会議でのイゼルの言葉通りにルナは誓約書を書かされたのだ。
あの会議の後、養父母は後見人代理としての署名を頑なに拒んでいたのだが、イゼルの個人的な説得により、やっと署名をしてくれたのだ。
ルナ自身、なぜイゼルほどの人物が養父母の説得までしてリファンカールに行けるようにしてくれたのかはわからないが。
でもこうして望みが叶ったのだ。
帰国したらちゃんと直接お礼を伝えに行こうと思った。
「本当にごめんなさい。これじゃあ友達失格だよね?」
ルナの数少ない友人のサファラは一般家庭の娘で、予備科の時から共に学んでいた。
卒業試験国はルナもシャルスタインを選ぶと思っていた。
「ううん。気にしないで。私の方もちゃんと言わなくてごめんね」
ルナはこれまでサファラから試験国を訊かれるたびに、適当な国名を言ってははぐらかしていたのだ。
サファラがルナと同じ国に行きたがっていることはわかっていたから。
自分の望みのために友人を巻き込むわけにはいかない。
サファラには心から案じてくれる実の家族もいるのだから。
「ルナ……」
「卒業式で会おうね」
「うん」
ルナはサファラに背を向けると、走り出した船の進む先を見つめた。
遠くにかすかに陸地が見える。
(行かなければ。どうしても彼の国に)
若さまとの約束を果たすために、ルナはリファンカール王国へ行かなければならないのだ。
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