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砦の中②

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 侍女たちが次々と飲み物や果物、菓子やパンなどを運んでくる。
 薄いパンに野菜とひよこ豆を潰してペースト状にしたものをぬっては、美味しそうに頬張っていく。
「美味しい~」
 しばらく水とラクダの乳と干したナツメヤシの実と干しブドウに薄いパンくらいしかなかったので、焼きたてのパンと新鮮な野菜の味がシャアラの体にしみた。
「ラクダの乳以外の味付きの飲み物も久しぶりだ」
 マールも嬉しそうに果物をしぼったジュースを飲んでいる。
 二人がどんどん食事を進めていっても、結局マワードは来なかった。
 彼も色々一人で考えることがあるらしい。
 侍女の一人に確認したら、やはり一人で部屋で食べているらしい。
「お腹いっぱいになったし、運動がてら書庫に行ってみる? それとも部屋で昼寝する?」
「そうだな……」
 マールは首をひねった。
「書庫に行ってみよう」
「わかった」
 二人はさっき見学した時に顔を出した一階の書庫に行ってみることにした。

 書庫は古めかしい紙や濃いインクの匂いに満ちていた。
 一応、昼間は侍女たちの誰かが交代で窓を開けて空気の入れ替えはしているらしいが、それでも籠った匂いはする。
「一体どんな本があるのかな?」
「そもそもここで読書する人間がいるのか?」
「それもそうだよね」
 ここを訪れるのは神に会いに来る三神の末裔のみ。
 それ以外は砦の扉は開かない。
 サハラートの王が管理を任されているとはいえ、マワードによると名目上のことで、即位や退位の時以外は訪れないものらしい。
「ここはサハラート王家の禁書の書庫だとか?」
「王家の禁書なら王宮の書庫じゃないのか?」
「ああ、そっか」
 ふとシャアラは目の前にあった本を手に取った。
 開いてみると、その本は神話が描かれたものだった。
 一度その本を書棚に戻して、書架にある本の題名だけ拾ってみると、ほぼ神の話ばかりだった。あとは、大陸の地理や気候、天文学など風土が記録されているもの。
 魔法使いが出てくるような子供たちが読むような面白そうな読み物は一冊もない。
 しかも、誰が書いたのかはわからない。
 一切書き手が記されていないものばかりだからだ。
「記録の書庫なのかな?」
「ああ、それも三神が天に帰られてからのものばかりのようだ」
「誰がこんなの書いたのかな?」
 とてもじゃないが一人で記録できる量でもない。
「あの侍女たちがやってるんじゃないか?」
「歴代ってこと?」
「多分」
 ではそもそもあの侍女たちはどこで生まれてどういう事情でここの管理や訪れた者たちの世話をしているというのだろうか。
「もう疑問しか浮かばないんだけど」
「そうだなあ」
 マールも不思議そうな顔をしている。
「何のために誰が記したのかわからない書物ばかりだ」
「それも古いものから最近書かれたっぽいものもあるし」
 二人は書庫を出て、再び自分たちが歩ける範囲内の砦の中をうろうろ歩いたりした。
 そうして、疲れたところで昼寝をするために一度部屋に戻った。
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