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サハラート入国
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それから二人は陸路をたどってサハラートに入国し、王都へ向かった。
港町からサハラートまでは、シャアラの提案でそこまで行く商団の雑用係として雇ってもらって旅の難をしのいだ。
とはいえ、マールに不思議だったのは、商団を率いている男も仲間の男たちも、シャアラとマールに夜の相手をしろとは言ってこなかった。
本来女性の雑用係を雇うということはそういう意味も含まれているはずなのに、である。
そしてどことなくではあるが、シャアラを客人扱いしている感じもする。
(シャアラは気づいているのかはわかないけど、シャアラが商団に潜り込んで旅をするくらいシャアラのご両親なら見当がつくはず。だとしたら、先に陸路や海路を行く商団に頼んで娘の保護を依頼したのかも?)
だとしたら雑用係のわりに丁寧に扱われるのもわかるし、夜の相手を免れているのもそういうことなのだろう。
(少なくともシャアラの父親は娘がどの道をたどるかわかっているのだろうし、何のために婚礼前夜に花嫁の休息所から抜け出したのかも予想はついているのだろう)
「でも、なぜわかっているならシャアラをすぐに連れ戻そうとしないのだろうか?」
最終的にはサハラートの王に会いに来るのはわかっているだろうから、王宮で使者が待ち構えているか、あるいはサハラート王に保護を頼んでいるのか?
しかし、もしかしたらシャアラの父親も娘の神殿行きに賭けているのかもしれない。
両親はおそらくアジュジャールの者たちが監視しているから身動きがとれないだろうし、他の親族にたいしてもそうだろう。
唯一、適当に替え玉で婚礼をしのげば、シャアラだけは目こぼしされる可能性は高い。
砂漠の国での婚礼は、当日まで花嫁は花婿や花婿の親族に顔を見せてはならないという習慣があるから、シャアラと背格好の似た侍女を替え玉にしてもばれにくいだろう。
とはいえ、シャアラの両親ならこっそり状況を素直に婿と両親に伝えていそうだが。
なんといっても砂漠の中を進んでいるのに、旅が順調すぎるくらい順調に進んでいる。
懸念していた盗賊の襲撃など一度もなかった。
(これもシャアラの両親かサハラート王の加護なのか? まあ三神の加護とも言えるか)
祖父母の元で一時預けられていたとはいえ、傭兵稼業が身に染みているマールにしてみれば、何ともすかされた感じがする。
(まあいいか)
考えなければいけないのは、むしろ王都から砦までの三人の道行きだ。
(どうか腕に自信のある王子か王女が同行者でありますように)
砂漠に沈む夕日にマールはそっと祈った。
サハラート王国の王都は三種類の砂漠の中央に位置していた。
黄砂漠、白砂漠、赤砂漠、色によって呼び名が違う三種類の砂が混じった場所にある。
そこは伝説の砂漠の女神サハーリーが初代王にここに町を作って住みなさいと示されたから町が築かれ後に都となったのだとか。
女神が命じただけあってここには天然の水場、しかも枯れない水場が多数あって、美しいオアシス都市の様相となっていた。
日の出の開門と同時に二人は都に入った。
向かうは中央の王宮だ。
「このまま後宮へ行くのか?」
「そうだよ」
マールはここまであっさりした旅路に奇妙な感覚を覚えていた。
(本当に何も起こらなかった)
途中までは商団とともに旅をしていたが、王都に向かう目前で商団とは別れたのだが、女二人だけで無事に砂漠の王都についてしまった。
昨夜も開門まで城門付近にできていた簡素な天幕を立ててシャアラと交代しながら寝ていたが誰も何も言われなかったし、襲われもしなかった。むしろ周りの旅人は二人に親切の押し売り合戦をしていたくらいだ。水や敷物、簡単な食べ物など。荷物になりそうなくらいの物が与えられそうになった。
二人で頑張って断って、やっと荷物が多少増えるに留まったのだ。
これはいよいよシャアラの父親の意向が働いてるな、そうマールは確信した。
港町からサハラートまでは、シャアラの提案でそこまで行く商団の雑用係として雇ってもらって旅の難をしのいだ。
とはいえ、マールに不思議だったのは、商団を率いている男も仲間の男たちも、シャアラとマールに夜の相手をしろとは言ってこなかった。
本来女性の雑用係を雇うということはそういう意味も含まれているはずなのに、である。
そしてどことなくではあるが、シャアラを客人扱いしている感じもする。
(シャアラは気づいているのかはわかないけど、シャアラが商団に潜り込んで旅をするくらいシャアラのご両親なら見当がつくはず。だとしたら、先に陸路や海路を行く商団に頼んで娘の保護を依頼したのかも?)
だとしたら雑用係のわりに丁寧に扱われるのもわかるし、夜の相手を免れているのもそういうことなのだろう。
(少なくともシャアラの父親は娘がどの道をたどるかわかっているのだろうし、何のために婚礼前夜に花嫁の休息所から抜け出したのかも予想はついているのだろう)
「でも、なぜわかっているならシャアラをすぐに連れ戻そうとしないのだろうか?」
最終的にはサハラートの王に会いに来るのはわかっているだろうから、王宮で使者が待ち構えているか、あるいはサハラート王に保護を頼んでいるのか?
しかし、もしかしたらシャアラの父親も娘の神殿行きに賭けているのかもしれない。
両親はおそらくアジュジャールの者たちが監視しているから身動きがとれないだろうし、他の親族にたいしてもそうだろう。
唯一、適当に替え玉で婚礼をしのげば、シャアラだけは目こぼしされる可能性は高い。
砂漠の国での婚礼は、当日まで花嫁は花婿や花婿の親族に顔を見せてはならないという習慣があるから、シャアラと背格好の似た侍女を替え玉にしてもばれにくいだろう。
とはいえ、シャアラの両親ならこっそり状況を素直に婿と両親に伝えていそうだが。
なんといっても砂漠の中を進んでいるのに、旅が順調すぎるくらい順調に進んでいる。
懸念していた盗賊の襲撃など一度もなかった。
(これもシャアラの両親かサハラート王の加護なのか? まあ三神の加護とも言えるか)
祖父母の元で一時預けられていたとはいえ、傭兵稼業が身に染みているマールにしてみれば、何ともすかされた感じがする。
(まあいいか)
考えなければいけないのは、むしろ王都から砦までの三人の道行きだ。
(どうか腕に自信のある王子か王女が同行者でありますように)
砂漠に沈む夕日にマールはそっと祈った。
サハラート王国の王都は三種類の砂漠の中央に位置していた。
黄砂漠、白砂漠、赤砂漠、色によって呼び名が違う三種類の砂が混じった場所にある。
そこは伝説の砂漠の女神サハーリーが初代王にここに町を作って住みなさいと示されたから町が築かれ後に都となったのだとか。
女神が命じただけあってここには天然の水場、しかも枯れない水場が多数あって、美しいオアシス都市の様相となっていた。
日の出の開門と同時に二人は都に入った。
向かうは中央の王宮だ。
「このまま後宮へ行くのか?」
「そうだよ」
マールはここまであっさりした旅路に奇妙な感覚を覚えていた。
(本当に何も起こらなかった)
途中までは商団とともに旅をしていたが、王都に向かう目前で商団とは別れたのだが、女二人だけで無事に砂漠の王都についてしまった。
昨夜も開門まで城門付近にできていた簡素な天幕を立ててシャアラと交代しながら寝ていたが誰も何も言われなかったし、襲われもしなかった。むしろ周りの旅人は二人に親切の押し売り合戦をしていたくらいだ。水や敷物、簡単な食べ物など。荷物になりそうなくらいの物が与えられそうになった。
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