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婚礼の行列
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シャアラの婚礼の行列が延々と婚家に向かっている。
枯れ果てた荒野の中をひたすら真っすぐ西へと向かっていた。
普通の隊商と違うのは行列の華やかさが示している。
金糸銀糸で縫われた赤い絹織物の薄いベールが荷物の随所に縫い留められている。
シャアラは東の草原の国から西の砂漠の国へ嫁ぐのだ。
家同士が昔から決めていた婚礼だったため、シャアラの意思も婿の意思も関係ない。
結婚の儀式で初めて顔を合わせたら、そのままその日から死ぬまで夫婦だ。互いの一族の関係上、離婚という選択肢はない。あるのは別居程度だ。
だからシャアラは、住み慣れた館を出る直前まで、母や乳母たちから夫となる男性に過度な期待を抱いてはいけない。期待通りだったらまだいいが、期待通りでなかった時に落胆してしまうから、と言われ続けた。
結婚に夢など持ってはいけない。
愛など期待するものではない。
むしろそんなものは幻想にすぎない。
砂漠の蜃気楼と同じこと。
そういわれるので、両親のような仲睦まじい夫婦になれたら良いなと片隅で思ってはいたものの、シャアラは結婚後の自分の人生について深く考えもしていなかった。
年相応に結婚し、年相応に子供を産み、年相応に死んでいく。
それくらいしか考えることがなかった。
この時までは。
明日は婿の家側が準備してくれた花嫁側の一行を迎え入れる別館に到着するという日。
夕日が砂漠に半分埋まっている頃、花嫁一行を指揮しているシャアラの父親・アルドのもとに母国の王から派遣された勅使が追いかけてきた。
その王からの勅書を天幕の中で一人で読んだアルドは驚いた。
思わず天幕の中、一人でいて良かったと思ってしまった。
そうでなければ己の真っ青な顔が誰かに見られて、周囲に不安を広めかねなかったから。
それくらい王の文の内容は驚愕の内容だった。
アルドは天幕の外に控えていた者に、花嫁一行の中にいる弟たちを呼ぶように伝えた。
数分後、アルドの天幕に小さな輪ができていた。
外に漏れてはならない内容なので、お互いの息がかかるくらい膝頭があたってしまうくらいの密度だ。
「兄者、急にどうしたのだ?」
「明日はもう到着だろうに、何があったのだ?」
アルドの弟たちは不思議そうな顔をした。
「皆、声をたてずに聞いてくれ」
小声でアルドはそう言った。
長兄の滅多にない緊張した声に一同は体を固くした。
ランプの光に照らされたアルドの顔が、どこか具合が悪そうに見えるのも気のせいではなさそうだ。
アルドの口ひげがわずかに揺れた。
「実は王都から勅使が追いかけてきた」
「王都から?」
「ああ」
「ではさきほどの勅使は兄者あてにきたのか?」
「そうだ」
勅使が来たということは、王からの文ということだ。
その内容が通常の連絡のわけがないだろう。
そのまま息をのんで一同はアルドの次の言葉を待った。
「アジュジャール王からとんでもない勅書が届いた」
「どのような内容でございますか?」
「アジュジャールが最近、雨が全く降らなくて大旱魃という異常事態になっているのはお前たちも知っているだろう?」
「ああ」
アルド以外が全員頷いた。
枯れ果てた荒野の中をひたすら真っすぐ西へと向かっていた。
普通の隊商と違うのは行列の華やかさが示している。
金糸銀糸で縫われた赤い絹織物の薄いベールが荷物の随所に縫い留められている。
シャアラは東の草原の国から西の砂漠の国へ嫁ぐのだ。
家同士が昔から決めていた婚礼だったため、シャアラの意思も婿の意思も関係ない。
結婚の儀式で初めて顔を合わせたら、そのままその日から死ぬまで夫婦だ。互いの一族の関係上、離婚という選択肢はない。あるのは別居程度だ。
だからシャアラは、住み慣れた館を出る直前まで、母や乳母たちから夫となる男性に過度な期待を抱いてはいけない。期待通りだったらまだいいが、期待通りでなかった時に落胆してしまうから、と言われ続けた。
結婚に夢など持ってはいけない。
愛など期待するものではない。
むしろそんなものは幻想にすぎない。
砂漠の蜃気楼と同じこと。
そういわれるので、両親のような仲睦まじい夫婦になれたら良いなと片隅で思ってはいたものの、シャアラは結婚後の自分の人生について深く考えもしていなかった。
年相応に結婚し、年相応に子供を産み、年相応に死んでいく。
それくらいしか考えることがなかった。
この時までは。
明日は婿の家側が準備してくれた花嫁側の一行を迎え入れる別館に到着するという日。
夕日が砂漠に半分埋まっている頃、花嫁一行を指揮しているシャアラの父親・アルドのもとに母国の王から派遣された勅使が追いかけてきた。
その王からの勅書を天幕の中で一人で読んだアルドは驚いた。
思わず天幕の中、一人でいて良かったと思ってしまった。
そうでなければ己の真っ青な顔が誰かに見られて、周囲に不安を広めかねなかったから。
それくらい王の文の内容は驚愕の内容だった。
アルドは天幕の外に控えていた者に、花嫁一行の中にいる弟たちを呼ぶように伝えた。
数分後、アルドの天幕に小さな輪ができていた。
外に漏れてはならない内容なので、お互いの息がかかるくらい膝頭があたってしまうくらいの密度だ。
「兄者、急にどうしたのだ?」
「明日はもう到着だろうに、何があったのだ?」
アルドの弟たちは不思議そうな顔をした。
「皆、声をたてずに聞いてくれ」
小声でアルドはそう言った。
長兄の滅多にない緊張した声に一同は体を固くした。
ランプの光に照らされたアルドの顔が、どこか具合が悪そうに見えるのも気のせいではなさそうだ。
アルドの口ひげがわずかに揺れた。
「実は王都から勅使が追いかけてきた」
「王都から?」
「ああ」
「ではさきほどの勅使は兄者あてにきたのか?」
「そうだ」
勅使が来たということは、王からの文ということだ。
その内容が通常の連絡のわけがないだろう。
そのまま息をのんで一同はアルドの次の言葉を待った。
「アジュジャール王からとんでもない勅書が届いた」
「どのような内容でございますか?」
「アジュジャールが最近、雨が全く降らなくて大旱魃という異常事態になっているのはお前たちも知っているだろう?」
「ああ」
アルド以外が全員頷いた。
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