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不安
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「道雅様」
いつになく硬い表情で冬子は最愛の男を迎えた。
「今宵はあなた様にお聞きしたいことがございます」
「何でしょう? どうなさいましたか? 今日は何やら怖いお顔をなさっておられますね。冬子にそんな顔は似合いませんよ」
道雅は少しおどけてみせた。
だがそんな道雅の凍りついたような場を緩ませようという努力は、あっさり無言で却下されてしまった。
「叔父上様から伺いました」
「何を、でございますか?」
「道雅様がすでにご結婚なされておられると。しかも御子までおられるとか」
冬子は優しげな道雅の瞳を見つめる。
冬子の真っすぐな視線を受け止めて、道雅は困ったような顔をする。
「確かに権中納言殿の姫の元には通っています。しかし、それはあくまで通う女の一人としてです。正式な妻・北の方ではありませんよ」
「でも……」
「二十歳前の頃に、通う女の一人もいないのはおかしい、と大臣に言われて仕方なくです。今はあなた以外の女性の元には通ってはおりませんよ」
優しく冬子に言い聞かせるようにそう言うと、その優しさのまま冬子を抱きしめた。
「何はともあれ黙っていて申し訳ありません。さぞや不安にさせてしまったのでしょうね。申し訳ありません」
「いえ。それなら良いのです。ただ父上様が、私が未婚でありながら妻子ある公達を通わせているという噂を信じておられるようなので」
「どこからそんな話が?」
「叔父上様がそう仰っておられました」
「参議殿から?」
「はい」
「そうですか……」
「道雅様、私はあなた様を信じてもよろしいのでございますよね?」
不安そうに冬子は道雅を見上げた。
「もちろんですよ」
道雅は冬子を抱きしめながらも、心はどこか虚ろであった。
そんな虚ろな様子の道雅の様子がさらに冬子を不安にさせた。
通任はすぐには院の御所へ報告に向かわずに、さる邸に立ち寄ってから院の元へ向かった。
「それで前斎宮はどのようであった?」
床に伏せながらも、院は明朗な声で問うた。
「乳母の中将殿は、娘の式部の元に通っておられると力説されておられましたが」
「真実は?」
「はい。宮中に流布されておられるとおりかと存じました」
通任は深く頭を下げた。
「そうか」
院は一言そうこたえると、愛娘に伝えるにはあまりに酷な言葉を伝えるように通任に命じた。
いつになく硬い表情で冬子は最愛の男を迎えた。
「今宵はあなた様にお聞きしたいことがございます」
「何でしょう? どうなさいましたか? 今日は何やら怖いお顔をなさっておられますね。冬子にそんな顔は似合いませんよ」
道雅は少しおどけてみせた。
だがそんな道雅の凍りついたような場を緩ませようという努力は、あっさり無言で却下されてしまった。
「叔父上様から伺いました」
「何を、でございますか?」
「道雅様がすでにご結婚なされておられると。しかも御子までおられるとか」
冬子は優しげな道雅の瞳を見つめる。
冬子の真っすぐな視線を受け止めて、道雅は困ったような顔をする。
「確かに権中納言殿の姫の元には通っています。しかし、それはあくまで通う女の一人としてです。正式な妻・北の方ではありませんよ」
「でも……」
「二十歳前の頃に、通う女の一人もいないのはおかしい、と大臣に言われて仕方なくです。今はあなた以外の女性の元には通ってはおりませんよ」
優しく冬子に言い聞かせるようにそう言うと、その優しさのまま冬子を抱きしめた。
「何はともあれ黙っていて申し訳ありません。さぞや不安にさせてしまったのでしょうね。申し訳ありません」
「いえ。それなら良いのです。ただ父上様が、私が未婚でありながら妻子ある公達を通わせているという噂を信じておられるようなので」
「どこからそんな話が?」
「叔父上様がそう仰っておられました」
「参議殿から?」
「はい」
「そうですか……」
「道雅様、私はあなた様を信じてもよろしいのでございますよね?」
不安そうに冬子は道雅を見上げた。
「もちろんですよ」
道雅は冬子を抱きしめながらも、心はどこか虚ろであった。
そんな虚ろな様子の道雅の様子がさらに冬子を不安にさせた。
通任はすぐには院の御所へ報告に向かわずに、さる邸に立ち寄ってから院の元へ向かった。
「それで前斎宮はどのようであった?」
床に伏せながらも、院は明朗な声で問うた。
「乳母の中将殿は、娘の式部の元に通っておられると力説されておられましたが」
「真実は?」
「はい。宮中に流布されておられるとおりかと存じました」
通任は深く頭を下げた。
「そうか」
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