【完結】斎宮異聞

黄永るり

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急変

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「失礼いたします」
 冬子が寝殿の客間に入ると、すでに母女御と兄弟たちが集っていた。
 几帳越しに覗くと、奥の上座には母方の叔父の通任みちとうが座っていた。
「参議殿、皆さま方お集まりになりました」
 女御付き筆頭の女房が声を掛けた。
「では」
 こほん、と軽く咳ばらいをすると通任はおもむろに口を開いた。
「本日、恐れ多くも主上おかみが東宮様に御譲位ごじょういあそばされました」
「えっ?」
 思ってもいなかった言葉に、その場にいた通任以外の者は一様に驚いた。
 今上帝きんじょうていが御譲位されたということは?
「これにより東宮様が御位みくらいにおつきになられまして、東宮位には今上、いえ、院の二の宮様がおつきになられました」
 長らく東宮位にあった冬子の父が、ついに帝になったのだ。
 冬子はこの父の即位にともなう話で、結局は母に道雅とのことを話しそびれてしまった。
 しかも、この日を境に冬子の周辺はにわかに騒がしくなってしまった。
 即位の慶賀を伝える公卿くぎょう殿上人てんじょうびと本人や、その使者たちがひっきりなしに邸を訪れるようになってしまったのだ。
 これでは、道雅との逢瀬を再開させるどころか、文のやりとりも人目が増えたことによって困難になってしまったのだ。
 冬子は、御代みよ替わりのこの嵐さえ乗り切れば何とかなるだろうと思っていたのだが、御代替わりの変化は思わぬ展開を冬子にもたらすことになってしまった。
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