【完結】斎宮異聞

黄永るり

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初雪

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 冬子とうこには三人の同腹の兄がいる。
 父には多くの女御や更衣が側にいたが、父の御子を産んだのは母一人であった。
 だから異腹の兄弟姉妹は今のところはいない。
 その三人の兄のうち、末の兄が無駄に文字を書き散らしたことを手習いの師である僧都そうずいさめられてかんしゃくを起こしてしまったのだ。
 冬子は兄がそんな騒ぎを起こしているのも知らずに、兄たちの東の対屋たいのや乳姉妹ちきょうだいの式部のみを従えてこっそり忍んでいった。
 兄たちと庭の初雪で雪遊びがしたくて誘いに行くために。
「宮様、どなたか出てこられますよ」
 半蔀はじとみ越しに映った人影を目ざとく式部が気づく。
 二人は素早く壺庭を挟んだ部屋に隠れた。
 うるさい兄宮付きの女房に見つかってしまったら、乳母の中将に伝えられて直ちに部屋に連れ戻されてしまうからだ。
 しかし、真っ先に部屋から出てきたのは末の兄であった。
 何やら恐ろしい形相で壺庭を睨みつけると、持っていたすずりを庭の一角に勢いよく投げつけた。
「三の兄上様!」
 驚いた冬子は式部が止めるのも聞かずに、部屋を出て壺庭に降り立った。
 冬子の目を射たのは、墨まみれになった前栽せんざいであった。
 さきほどまで白一色だった美しい壺庭が、刻一刻と黒色に変じていく。白い枝は黒い枝になり、白い大地は黒い大地に変容していく。
 三兄は、冬子を冷たく一瞥いちべつすると墨まみれの手を拭いもせずに、その場を立ち去って行った。後から僧都や、お付きの女房達が慌てて追っていったような気がするのだが、冬子には変わりゆく庭のほうが気になって仕方がなかった。
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