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小話
フェア用SS 「侍女Bによる侍女Aについての考察」
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私の名前はベリンダ・アースワーズ。
シュワルゼの片田舎の男爵令嬢で、行儀見習いを兼ねて第二王女・ルイーゼ様付きの侍女をやってます。
……ええと、アーリアがそう名乗れと煩いので一応言っておきますが……侍女Bです。姫様の第二侍女を勤めております。
アーリアというのは私の友人にして、姫の第一侍女をしているアーリア・ミルフォードのこと。侍女Aです。本人がそう自分で言ってます。
今日はこの侍女Aのことをお話したいと思っています。
――アーリアはとても変わり者です。
「私は普通です!」
と、本人は事あるごとにそう言ってますが、私に言わせれば十分におかしいって!
お茶を入れるのが好き――まぁ、このあたりは普通。もっとも、王家御用達の高級茶葉屋から仕入れているお茶ではなくて、わざわざ街に出て自分で茶葉を買ってきて、それを使いたがる気持ちはよく分かりませんが。
「だから、王家御用達店の茶葉はブレンド済みなんですってば! 私は自分でブレンドするのが好きなんです!」
一応子爵令嬢なのに、休暇のたびに街のお茶屋に行って嬉しそうに値切る気持もよく分かりません。
「向こうの言い値で買ったら馬鹿を見るじゃないですか!」
言っていることとやっていることがまるで貴族令嬢らしくないんですよね。庶民的なんです。
「……う。それは否定しません」
いえいえ、非難しているわけじゃないのよ?
だって私も貴族としては底辺の方にいる田舎男爵家の三女ですもの。さすがに値切りはしないけど、少しは庶民感情もわかっているつもりです。
さて、アーリアのおかしなところをもうひとつ挙げるとすれば、妙に王道や定番が好きなところでしょうか。
なんだかやたらと「お約束」にこだわるんですよ。
魔王が現れたという噂が国中に流れた時も、拳を握って『魔王は美形に違いありません! それが王道ってもんです! お約束です!』と力説して、みんなをびっくりさせていました。
確かに勇者物語によれば、先代も先々代の魔王も美形だったらしいよ? だけど、だからといって、魔王がすべて美形という保障はどこにもないのに。
案の定、ルイーゼ姫様を攫った魔王の唯一の目撃者になったアーリア本人が愕然としながら「魔王は美形ではなくて中年のマッチョでした……ショックです」なんて言っていたのを聞いて、やっぱりと思ったものです。
お約束は当てになりません。前例は破るためにあるんです!
……ところで、なぜアーリアがあんなに王道や定番にこだわるのかといえば、どうも聞いたところによると父親やお兄さん、つまり「あの」ミルフォード子爵たちが関わっているらしいのですよね。
普段は「面倒くさい」を連発して動こうとしない子爵とアーリアのお兄さんだけど、いざ自分の趣味や得意分野になると無駄な行動力を発揮して、家族や使用人たちをアタフタさせるということがしばしばあるとか。
それで彼女としては先がわかって安心できるお約束とか定番とかに心を引かれるようになったらしいのです。
……でもごめんなさい、アーリア。理由を聞いてもさっぱりお約束にこだわる気持ちがわからないわ、私。
そして、友人アーリアの最大の普通じゃないところと言えばやっぱりコレでしょう。
――侍女A。
言っておきますがこれは名前ではありません。役職名でもありません。単にアーリアが自称しているだけですからね、皆さん!
確かに大ベストセラーの「勇者物語」では、その他大勢には名前がなくて、侍女ABC、村人ABC、兵士ABCと呼ばれていますよ? 下手すれば「召使たち」や「群集」の一言で済ませられてしまっていますよ?
だけど何が悲しくて自分からABCを名乗らなければならないのでしょう。全くわけがわかりません。理解もできません。
これをアーリアが言い始めたのは、実はルイーゼ姫様が魔王を名乗る魔族に攫われてしまい、勇者様に救出を依頼しようと王様が決めてから。
それまでは確かにアーリアはよく自分を平凡だし特出するものがないからモブだ、その他大勢だと言ってましたよ? だけどABCは言ってなかった。普通に第一侍女って名乗ってました。
でも、勇者グリード様が来るかもしれないと知ったアーリアが俄然元気になって言ったのです。
「もし勇者様が姫様を救い出してくださるなら、二人はきっと恋に落ちると思うの。だってそれが王道ってものじゃないですか!」って。
それまで私たちは主を失い、まるで葬式の参列者のように落ち込んで嘆いて泣いてばかりいましたので、久しぶりの明るい話題にみんな飛びついて口々に「そうだ、そうに違いない」と賛同しました。
だって姫様は美人だけど奢ったところが少しもなく、性格もものすごく良いという、私たち自慢の主ですもの。男はみんな姫様に憧れるのが常だったし、勇者様もそうなるに違いないと思ったんです。
で、アーリアがその時に、「姫様が勇者様と結ばれるなら、勇者物語にも登場しますよね、きっと。そうなれば私たちは侍女ABCといった役どころということに……」と言ったことが始まりでした。
「ということは、私はさしずめ侍女Aといったところでしょうか。アーリアという名前だし、第一侍女だし。それに第二侍女のベリンダもBで始まる名前ですしね」
えー……と私は思いました。「勇者物語」に登場できるのは嬉しいことだけど、Bではくて実名がいいんですけど?
「いや、でも私たち、その他大勢のモブだし」
だからそれがおかしいというの! どこの誰が自分のことをその他大勢で喜ぶというのでしょう!
なのにアーリアはどこか遠い目をしながら、私の肩を叩いて言ったのです。
「ベリンダ。特別というものは、それほどいいものじゃないのよ? 責任が伴うし、本人が責任を取らなければ周囲の人間が迷惑するんです。平凡が一番です。それのどこがいけないんですか? 完全なるモブ。それでいいんです! それで上々、モブ万歳です!」
拳を握って力説するアーリア。
……一体何があったというのでしょうか?
ああ、いえいえ、聞くまい。どうせ実家がらみに決まってますからね。
「私は侍女Aでいいんです。それで十分です。……あ、でももし姫様が夜に攫われていたら、夜勤の侍女がAだったかもしれませんね……その場合は私が侍女Bですか」
アーリアはブツブツわけの分からないことを言い出します。
姫様の侍女はニ交代制。第一侍女のアーリアや私などは昼勤――つまり姫様がベッドに入るまでの勤務ですが、新人侍女などは夜勤に回されることが多いのです。
夜勤の侍女の仕事は隣の控えの部屋で待機し、姫様の様子を時々確認すること。それを見回りの兵士に報告することです。
姫様が眠れない時の話し相手になったりもしますが、大人になった姫様が侍女を呼び出すことはあまりなく、基本的には控えの間に詰めているだけです。
一見楽かと思われますが、眠ってはいけないし退屈なので結構辛い仕事だったりします。
今回、姫様が攫われたのは昼間。白昼堂々と現れたのです、アーリア曰く『中年マッチョ魔王』は。
その時はたまたまアーリア一人しか姫様の傍にいなかったため、彼女が唯一の魔王の目撃者になりました。
……あー。確かに攫われるのを目撃したから、それを勇者様に伝える役目がありますね。だから侍女Aですか。だけどはっきり言ってそんなことはどうでもよろしい。
美形と評判の勇者グリード様と会えるなんて羨ましいぞ!! ――ではなくて、おかしいですよね? 変わっていますよね!?
このようにアーリアは一見普通に見えるけど、ちょっとおかしい思考の持ち主なんです。本人に言うと怒るので言いませんが「さすがあのミルフォード子爵家の一員だ」と、こっそり心の中では思ってます。
さてさて、そんな一見普通、だけど実はちょっと変? なアーリアですけど、とてもいい友人です。
私の結婚が決まった時だって、「相手の方は幼馴染なのですって? おめでとうベリンダ! 離れ離れになるのは寂しいですけど。……それにしてもベリンダも結婚ですか。みんな私より先に……う、羨ましくなんてないんだから……!」
と、実際の言い回しは若干違っておりましたが、そのようなニュアンスのことを言って祝福してくれました。
『いえ、私は羨ましいだなんて一言も……』
アーリアの心の声によるツッコミが聞こえそうですが、いいんです。アーリアの本心は、しっかり分かりましたから!
『人の話を聞けぇ!』
……アーリアの心の声が、うるさいですね。
――でも、でもですよ?
アーリアはこのままずっと城勤めをして平凡な男性と結婚……とか何とか思っているようですが、私はきっと女神様がアッと驚くようなドラマチックな運命を彼女に用意してくれているんじゃないかと思っていたんですよ。
ほら、よく言うじゃないですか、自分を平凡だ普通だという人に限ってそうじゃなかったり、思いもかけない運命に出会うって。私はアーリアがそうなるんじゃないかと、ちょっと思ったりしてました。どういうわけか漠然と。
そしたら――そうしたら!
なんとビックリ仰天です! 目の前で、姫様と結ばれるのかとばっかり思っていた勇者グリード様がアーリアに求婚しているではありませんか!
運命キター!! と私は思いました! これぞドラマチック展開!
それに平凡な少女が見目麗しい男性に見初められて、試練に晒されながらも愛を貫いて結ばれる――これぞ王道で定番な恋物語というもの!
そう――アーリアの好きなお約束的展開じゃないですか!
私はいつの間に勇者様と親しくなったのか、根掘り葉掘り聞きたい気持ちを抑えて、嬉しさのあまり魂が抜けている様子のアーリアに声をかけました。
「おめでとう、アーリア! あの勇者様に求婚されるなんてすごいわ! もちろんOKするのよね? 結婚式には呼んでね!」
「……」
言葉もない様子のアーリアですが、なぜか顔を引きつらせておりました。……ちょっと目が死んでる気がしますけど、まぁ気にしない、気にしない。
……後にそれほど彼女が喜んでいないことが判明したわけですが、私はアーリアとグリード様が結ばれるものと確信しているので、彼女が抱える複雑な感情はスルーすることに致しました。
姫様も大国エリューシオンの第二皇子リュファス様との結婚が決まったことだし、自分の結婚と合わせて非常にめでたいこと続きです。
姫様が攫われた時はどうしようかと思いましたが、終わってみれば全てがうまく収まるようになっていたのだと思います。
だって魔王に攫われなかったら、姫様はリュファス様と出会うことはなかったし、アーリアもグリード様と出会うこともなかったでしょう。
これはやっぱり運命がそうさせたのだと思います。
――ところで、こうなってくると気になるのが、自分の表記です。
侍女Aであったはずのアーリアが「勇者物語」のヒロインになってしまったので、おそらく実名で記されることになるでしょう。
となると、繰り上がって私が侍女Aということに……?
――侍女A。
悪くはないです。悪くはないのですが――できればAとかBとかではなく、実名表記でお願いしたいです。
……ね、アーリア?
『そんなの知りません! 私は侍女Aのままがいいんですってばーー!』
(完)
シュワルゼの片田舎の男爵令嬢で、行儀見習いを兼ねて第二王女・ルイーゼ様付きの侍女をやってます。
……ええと、アーリアがそう名乗れと煩いので一応言っておきますが……侍女Bです。姫様の第二侍女を勤めております。
アーリアというのは私の友人にして、姫の第一侍女をしているアーリア・ミルフォードのこと。侍女Aです。本人がそう自分で言ってます。
今日はこの侍女Aのことをお話したいと思っています。
――アーリアはとても変わり者です。
「私は普通です!」
と、本人は事あるごとにそう言ってますが、私に言わせれば十分におかしいって!
お茶を入れるのが好き――まぁ、このあたりは普通。もっとも、王家御用達の高級茶葉屋から仕入れているお茶ではなくて、わざわざ街に出て自分で茶葉を買ってきて、それを使いたがる気持ちはよく分かりませんが。
「だから、王家御用達店の茶葉はブレンド済みなんですってば! 私は自分でブレンドするのが好きなんです!」
一応子爵令嬢なのに、休暇のたびに街のお茶屋に行って嬉しそうに値切る気持もよく分かりません。
「向こうの言い値で買ったら馬鹿を見るじゃないですか!」
言っていることとやっていることがまるで貴族令嬢らしくないんですよね。庶民的なんです。
「……う。それは否定しません」
いえいえ、非難しているわけじゃないのよ?
だって私も貴族としては底辺の方にいる田舎男爵家の三女ですもの。さすがに値切りはしないけど、少しは庶民感情もわかっているつもりです。
さて、アーリアのおかしなところをもうひとつ挙げるとすれば、妙に王道や定番が好きなところでしょうか。
なんだかやたらと「お約束」にこだわるんですよ。
魔王が現れたという噂が国中に流れた時も、拳を握って『魔王は美形に違いありません! それが王道ってもんです! お約束です!』と力説して、みんなをびっくりさせていました。
確かに勇者物語によれば、先代も先々代の魔王も美形だったらしいよ? だけど、だからといって、魔王がすべて美形という保障はどこにもないのに。
案の定、ルイーゼ姫様を攫った魔王の唯一の目撃者になったアーリア本人が愕然としながら「魔王は美形ではなくて中年のマッチョでした……ショックです」なんて言っていたのを聞いて、やっぱりと思ったものです。
お約束は当てになりません。前例は破るためにあるんです!
……ところで、なぜアーリアがあんなに王道や定番にこだわるのかといえば、どうも聞いたところによると父親やお兄さん、つまり「あの」ミルフォード子爵たちが関わっているらしいのですよね。
普段は「面倒くさい」を連発して動こうとしない子爵とアーリアのお兄さんだけど、いざ自分の趣味や得意分野になると無駄な行動力を発揮して、家族や使用人たちをアタフタさせるということがしばしばあるとか。
それで彼女としては先がわかって安心できるお約束とか定番とかに心を引かれるようになったらしいのです。
……でもごめんなさい、アーリア。理由を聞いてもさっぱりお約束にこだわる気持ちがわからないわ、私。
そして、友人アーリアの最大の普通じゃないところと言えばやっぱりコレでしょう。
――侍女A。
言っておきますがこれは名前ではありません。役職名でもありません。単にアーリアが自称しているだけですからね、皆さん!
確かに大ベストセラーの「勇者物語」では、その他大勢には名前がなくて、侍女ABC、村人ABC、兵士ABCと呼ばれていますよ? 下手すれば「召使たち」や「群集」の一言で済ませられてしまっていますよ?
だけど何が悲しくて自分からABCを名乗らなければならないのでしょう。全くわけがわかりません。理解もできません。
これをアーリアが言い始めたのは、実はルイーゼ姫様が魔王を名乗る魔族に攫われてしまい、勇者様に救出を依頼しようと王様が決めてから。
それまでは確かにアーリアはよく自分を平凡だし特出するものがないからモブだ、その他大勢だと言ってましたよ? だけどABCは言ってなかった。普通に第一侍女って名乗ってました。
でも、勇者グリード様が来るかもしれないと知ったアーリアが俄然元気になって言ったのです。
「もし勇者様が姫様を救い出してくださるなら、二人はきっと恋に落ちると思うの。だってそれが王道ってものじゃないですか!」って。
それまで私たちは主を失い、まるで葬式の参列者のように落ち込んで嘆いて泣いてばかりいましたので、久しぶりの明るい話題にみんな飛びついて口々に「そうだ、そうに違いない」と賛同しました。
だって姫様は美人だけど奢ったところが少しもなく、性格もものすごく良いという、私たち自慢の主ですもの。男はみんな姫様に憧れるのが常だったし、勇者様もそうなるに違いないと思ったんです。
で、アーリアがその時に、「姫様が勇者様と結ばれるなら、勇者物語にも登場しますよね、きっと。そうなれば私たちは侍女ABCといった役どころということに……」と言ったことが始まりでした。
「ということは、私はさしずめ侍女Aといったところでしょうか。アーリアという名前だし、第一侍女だし。それに第二侍女のベリンダもBで始まる名前ですしね」
えー……と私は思いました。「勇者物語」に登場できるのは嬉しいことだけど、Bではくて実名がいいんですけど?
「いや、でも私たち、その他大勢のモブだし」
だからそれがおかしいというの! どこの誰が自分のことをその他大勢で喜ぶというのでしょう!
なのにアーリアはどこか遠い目をしながら、私の肩を叩いて言ったのです。
「ベリンダ。特別というものは、それほどいいものじゃないのよ? 責任が伴うし、本人が責任を取らなければ周囲の人間が迷惑するんです。平凡が一番です。それのどこがいけないんですか? 完全なるモブ。それでいいんです! それで上々、モブ万歳です!」
拳を握って力説するアーリア。
……一体何があったというのでしょうか?
ああ、いえいえ、聞くまい。どうせ実家がらみに決まってますからね。
「私は侍女Aでいいんです。それで十分です。……あ、でももし姫様が夜に攫われていたら、夜勤の侍女がAだったかもしれませんね……その場合は私が侍女Bですか」
アーリアはブツブツわけの分からないことを言い出します。
姫様の侍女はニ交代制。第一侍女のアーリアや私などは昼勤――つまり姫様がベッドに入るまでの勤務ですが、新人侍女などは夜勤に回されることが多いのです。
夜勤の侍女の仕事は隣の控えの部屋で待機し、姫様の様子を時々確認すること。それを見回りの兵士に報告することです。
姫様が眠れない時の話し相手になったりもしますが、大人になった姫様が侍女を呼び出すことはあまりなく、基本的には控えの間に詰めているだけです。
一見楽かと思われますが、眠ってはいけないし退屈なので結構辛い仕事だったりします。
今回、姫様が攫われたのは昼間。白昼堂々と現れたのです、アーリア曰く『中年マッチョ魔王』は。
その時はたまたまアーリア一人しか姫様の傍にいなかったため、彼女が唯一の魔王の目撃者になりました。
……あー。確かに攫われるのを目撃したから、それを勇者様に伝える役目がありますね。だから侍女Aですか。だけどはっきり言ってそんなことはどうでもよろしい。
美形と評判の勇者グリード様と会えるなんて羨ましいぞ!! ――ではなくて、おかしいですよね? 変わっていますよね!?
このようにアーリアは一見普通に見えるけど、ちょっとおかしい思考の持ち主なんです。本人に言うと怒るので言いませんが「さすがあのミルフォード子爵家の一員だ」と、こっそり心の中では思ってます。
さてさて、そんな一見普通、だけど実はちょっと変? なアーリアですけど、とてもいい友人です。
私の結婚が決まった時だって、「相手の方は幼馴染なのですって? おめでとうベリンダ! 離れ離れになるのは寂しいですけど。……それにしてもベリンダも結婚ですか。みんな私より先に……う、羨ましくなんてないんだから……!」
と、実際の言い回しは若干違っておりましたが、そのようなニュアンスのことを言って祝福してくれました。
『いえ、私は羨ましいだなんて一言も……』
アーリアの心の声によるツッコミが聞こえそうですが、いいんです。アーリアの本心は、しっかり分かりましたから!
『人の話を聞けぇ!』
……アーリアの心の声が、うるさいですね。
――でも、でもですよ?
アーリアはこのままずっと城勤めをして平凡な男性と結婚……とか何とか思っているようですが、私はきっと女神様がアッと驚くようなドラマチックな運命を彼女に用意してくれているんじゃないかと思っていたんですよ。
ほら、よく言うじゃないですか、自分を平凡だ普通だという人に限ってそうじゃなかったり、思いもかけない運命に出会うって。私はアーリアがそうなるんじゃないかと、ちょっと思ったりしてました。どういうわけか漠然と。
そしたら――そうしたら!
なんとビックリ仰天です! 目の前で、姫様と結ばれるのかとばっかり思っていた勇者グリード様がアーリアに求婚しているではありませんか!
運命キター!! と私は思いました! これぞドラマチック展開!
それに平凡な少女が見目麗しい男性に見初められて、試練に晒されながらも愛を貫いて結ばれる――これぞ王道で定番な恋物語というもの!
そう――アーリアの好きなお約束的展開じゃないですか!
私はいつの間に勇者様と親しくなったのか、根掘り葉掘り聞きたい気持ちを抑えて、嬉しさのあまり魂が抜けている様子のアーリアに声をかけました。
「おめでとう、アーリア! あの勇者様に求婚されるなんてすごいわ! もちろんOKするのよね? 結婚式には呼んでね!」
「……」
言葉もない様子のアーリアですが、なぜか顔を引きつらせておりました。……ちょっと目が死んでる気がしますけど、まぁ気にしない、気にしない。
……後にそれほど彼女が喜んでいないことが判明したわけですが、私はアーリアとグリード様が結ばれるものと確信しているので、彼女が抱える複雑な感情はスルーすることに致しました。
姫様も大国エリューシオンの第二皇子リュファス様との結婚が決まったことだし、自分の結婚と合わせて非常にめでたいこと続きです。
姫様が攫われた時はどうしようかと思いましたが、終わってみれば全てがうまく収まるようになっていたのだと思います。
だって魔王に攫われなかったら、姫様はリュファス様と出会うことはなかったし、アーリアもグリード様と出会うこともなかったでしょう。
これはやっぱり運命がそうさせたのだと思います。
――ところで、こうなってくると気になるのが、自分の表記です。
侍女Aであったはずのアーリアが「勇者物語」のヒロインになってしまったので、おそらく実名で記されることになるでしょう。
となると、繰り上がって私が侍女Aということに……?
――侍女A。
悪くはないです。悪くはないのですが――できればAとかBとかではなく、実名表記でお願いしたいです。
……ね、アーリア?
『そんなの知りません! 私は侍女Aのままがいいんですってばーー!』
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