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4巻
4-2
しおりを挟む「いちいち、そういきり立つものではないよ、リュディ。いい加減な奴だが、実力があることは間違いない。奴が魔力でこの城を維持しているからこそ、我々は結界の維持と勇者への復讐に力を注げるわけだし。それに、奴が気まぐれを起こすのはいつものことだろう」
ノワールの手を取りソファに導きながら、アズールは言いました。
腹立たしげに腰を下ろしたノワールは、ぶつぶつと呟きます。
「まったく、解せないわ。なんで魔王様は、あんないい加減な男を重用されていたのかしら。一位のくせに、幹部をまとめる役割も、ディエールに押し付けて……!」
彼女の隣に腰を下ろしてから、アズールが言います。
「魔王様は、その気まぐれなところを面白がっておられたのさ。いかにも魔族的だとね」
「魔族的ですって? ふんっ」
ノワールは鼻で笑いました。
「まぁ、奴にはあの女のお守をさせておけばいい。我々の手間が省けるしな。それより、シュワルゼの城の方はどうなっている?」
その言葉を聞いて、ノワールは気を取り直したらしく、真顔で答えます。
「斥候からの情報によると、もう全滅させられたらしいわ。さすがと言うべきか……予想より早いわね」
「ならば、こちらの予定も早めればいいだけだ」
アズールはそう言って、にやりと笑いました。
「バカだねぇ。気まぐれだからじゃなくて、負の連鎖の外にいたからだよ。そんなことも分からないから、君たちはダメなのさ」
鏡に向かって、ヴェルデはやれやれといった様子で呟きました。
アズールとノワールは、今後の計画とやらについて話し合っているようでした。
私にも関係がありそうなので、聞き逃すまいと一歩踏み出したとたん、ヴェルデが私を振り返りました。すると、鏡の中の光景はふっと掻き消えてしまったのです。……ちぇっ。
ヴェルデは私に向かって、のんびりした口調で言いました。
「というわけで、君は今から僕の侍女ね」
「は、はぁ……」
他に何が言えたでしょう。けれどヴェルデはそれが気に入らなかったようで、不満げに唇を尖らせました。
「何? その気のない返事は。何ならディエールたちのところに戻るかい? 僕は君の腕が一本なくなっても、別に構わないんだけど?」
ひぃぃぃ!
私は焦って叫びました。
「い、いえ、侍女がいいです! 元々侍女ですから、侍女やります! むしろ、やらせてください~!」
――そうして私は、「魔王城の侍女」になったわけです。
なんで自分を攫ってきた相手に仕えなければならないのか……と思いましたが、腕を切られるより遥かにマシです。
そんな私が最初に命じられた仕事が「お茶を淹れること」でした。
どこから持ってきたのか分かりませんが、この部屋にはお茶を淹れる道具が一式揃っておりました。シュワルゼの城で使われているのとよく似たコンロ型の魔具や鉄瓶、そしてもちろん茶葉もあります。
それらを棚から取り出した私は、ショックを受けました。
なんと茶葉が、最高級と言われるミンダルク産のものだったのです!
魔族のくせに……!
大切だからもう一度言います。魔族のくせに!
魔族は生きるのに食べ物や飲み物を必要としないので、それらを口にするのは完全に嗜好品としてだと聞いています。お茶は人間にとっても嗜好品なわけですが、何か納得いきません!
魔族が飲むお茶など、せいぜい二級茶葉で十分だと思うのです。最高級品なんて、贅沢ですよ!
そんなことを考えながら支度をしているもので、手つきがついつい乱雑になってしまいます。
そもそもこのミンダルク産の茶葉が全然出回らなくなって更に価格が高騰してしまったのは、魔族のせいなんですよ。
ミンダルクという国とレイクサリダという国の間にある山では、昔から良質の茶葉が採れていました。
でも魔王城がその山に建てられてからというもの、怖がって山に立ち入る人が少なくなり、茶葉が出回らなくなってしまったのです。
グリード様のおかげで魔王城がなくなった後も、気味悪がって山に入る人間が少ないため、未だに価格は高騰したまま。いつになったら、気軽に買えるような値段になるやら……
……などと思っていたら、いつの間にか目の前の鉄瓶から、シュンシュンというお湯の沸く音がしておりました。
私は茶葉の値段のことはひとまず置いておき、ポットにお湯を注ぐ作業に集中することにしました。せっかくの最高級茶葉です。無駄にはしませんよ。
コンロ型魔具の火を止めると、私は鉄瓶の取っ手に素早くタオルをかぶせて持ち上げ……
その時、ソファに寝転がったヴェルデから能天気な声で催促されたのでした。
「ねぇ、アーリアまだぁ? 待ちくたびれたよ、僕」
――そして冒頭の場面に戻るのです。
「お待たせしました」
ようやく淹れ終えたお茶を、私はヴェルデのもとへ運びました。
手つきは多少乱雑であったものの、しかるべき手順を踏みましたので、美味しいお茶ができているはずです。
「お、待ってました!」
ヴェルデは起き上がって、カップを持ち上げました。そして一口飲んで言います。
「うん、美味しい。以前宿屋で淹れてもらったものより何倍もいい」
おっと、褒め言葉が出ました! もっとも、高いお茶ですから美味しくて当然ですけどね。
それよりも、何やら気になることを言っていたような……?
「宿屋?」
一瞬、魔族の宿屋かと思いましたが、そんなわけありませんよね! 人間の宿屋に決まっています!
「なんで魔族なのに宿屋に? というか、その赤い目は隠せないはずでは……」
高位の魔族は人間の姿をしていますから、人間の中に紛れ込むこともできなくはないと思います。
でも多くの魔族がそれをしない理由が、魔族が人間を嫌っているということの他に、もう一つありました。
それは、魔族特有の赤い目。その特徴を、彼らはどうしても隠せないらしいのです。
なので宿屋なんかに行ったら、すぐに魔族だってバレるはず。それなのに、お茶を淹れてもらっただなんて……宿屋の人を脅したのか、もしくは宿屋の人がとんでもなくツワモノだったのか……
「確かに、この目の色は変化させることも、隠すこともできないよ」
ヴェルデはティーカップを持っていない方の手で、自分の目を指さして言いました。
「でも、相手に術をかけることはできる。僕の目が赤く見えないよう、宿屋の人間に術をかけたのさ。彼らには、きっと黒い目に見えていたと思うよ。魔法使いや魔力に敏感な人間がいない片田舎の町だったからこそできた、荒業だけどね」
「そんなことができるんですか……!」
自分の目の色が変えられないのなら、相手からの見え方を変えてしまおうという発想ですね。
「でも、そんな手間をかけてまで、なぜ宿屋に行く必要が……? いや、そもそも魔族が人間の宿屋に泊まるなんて、ものすごく変じゃないですか?」
つい、正直に言ってしまいました。
けれどヴェルデは気を悪くした様子もなく、カラカラと笑って言います。
「そりゃあ、人間に興味があるからだよ。対象のことを知りたいなら、身近で観察するのが一番だろう? いやぁ、人間のふりをしてあちこち放浪するの、楽しかったなぁ」
「そ、そうですか……」
とっくに分かっていたことですが、ヴェルデってとても変わっています。少なくとも、私がイメージする魔族とはまったく違います。
アズールとノワールからは気まぐれで自分勝手だと思われているようですけど、そんなところも含めて妙に人間的で……それに何より、一番違和感を覚えるのは。
――ヴェルデには、人間に対する敵意がないのです。
アズールやノワールからひしひしと感じられた人間への憎しみが、ヴェルデからはまったく感じられません。
「あの……人間が嫌いじゃないんですか?」
恐る恐る尋ねてみたら、あっさり答えが返ってきました。
「別に好きでも嫌いでもないよ? でも興味はあるし、人間のことをもっと知りたいと思っている。色々なところを回って、面白い発見がいくつもあったよ。そのうち飽きるかと思ったけど、なかなか興味が尽きないねぇ」
そしてヴェルデは、何かを思い出したようにクスクス笑いだしました。
うーん、よく分かりません。魔族って、人間を憎んでいるものだとばかり思っていたので。それに好きでも嫌いでもないのに興味があるって、微妙に矛盾している気が……
でも私を侍女にした理由が何となく分かりました。きっとそれも、「人間に興味があるから」でしょう。アズールたちに協力したのも、私と話がしたかったからだって言ってましたし。
何やら私に聞きたいことがあるとか……でも私が知っていることって一体何でしょう?
全然思いつきませんが、その知りたいことを私から聞き出したら、ヴェルデは私に対する興味を失ってしまうかもしれません。そうなれば、こうして話すことなどできなくなるかも……
彼と会話ができる今のうちに、できる限り情報収集しておかないと!
「えっと……いくつか聞いてもいいですか?」
機嫌が良さそうにお茶を飲むヴェルデに向かって、私はそう切り出しました。
するとヴェルデは、とても軽ーい口調で「いいよ~」と答えます。
……そんなに気軽に言っちゃっていいのでしょうか?
「ただし三つまでね」
ですよね~!
まぁ、無制限にほいほい答えてくれるとは私も思っておりませんでしたよ。でも三つとなると、慎重に決めないといけません。
私は気を引き締めて、一番気になっていることから尋ねました。
「シュワルゼの城は……城のみんなはどうなったのですか? 魔獣があちこちに出現したそうですが、あの後は……」
まずは自分の安全を最優先すべきだと思い、今まであまり考えないようにしていたのですが、あれからみんなはどうなったのでしょうか。
姫様は? 他の王族の方々は? 宰相様やファミール様は?
グリード様たちがいる以上、最悪の事態にはなっていないと思うのですが……
うう、心配です。皆様の方は私を心配しているでしょうけど。
「ノワールが放った魔獣たちなら全滅したよ。勇者が一匹残らず消滅させたからね」
「ほ、本当ですか?」
「嘘を言ってどうすんのさ。もちろん本当のことだよ」
ホッとした私ですが、続くヴェルデの言葉に仰天することになります。
「しかしあの勇者、さすがというか、もはや化け物の域じゃない? たった一人で、しかもほぼ一瞬にして、全ての魔獣を消し去ったんだってよ。もう笑っちゃうよね~。でも力を放出しすぎて、今頃動けなくなってるんじゃないかな」
「は? は? どういうことですか?」
――そしてヴェルデから詳細を聞きだした私は、焦燥に駆られました。
なんでも私が攫われた直後、グリード様は城全体を攻撃範囲とする魔法を使ったのだそうです。それも人間には危害を加えず魔獣だけを殲滅する、複雑で強力な魔法を。
そのおかげで魔獣は消え去ったようですが、広大な範囲に対して一度に魔力を放出すると、かなり身体に負担がかかるので、さすがのグリード様も無事では済まないかもしれないと……
ちょ、ちょっとぉぉぉ!
「まぁ、あの勇者、魔力も何もかも人外っぽいから死にはしないと思うけどね」
確かに城のあちこちに出現した魔獣を一匹ずつ地道に倒していたら、いくらグリード様たちが頑張っても、必ずどこかしらで被害は出ていたでしょう。
だからグリード様は、一瞬で終わらせる方法を取った……それは理解できます。
け・れ・ど!
私はその場で地団駄を踏みたくなりました。
ちょっと目を離すと、すぐコレだ! なんであの人は、自分の身体を大事にしてくれないのでしょう。自分自身に対して、あまりにも無頓着すぎるんですよ!
グリード様を心配する私や、お仲間の皆様の気持ちなんて、気にもしないのです。
あああもう、これは帰ったら、絶対に教育的指導ですよ!
ソファの脇に立ったままそんなことを考えている私に、ヴェルデがカップを差し出しながら言いました。
「何だか百面相しているところ悪いけどさ、アーリア。お代わりちょうだい」
「あ、はい」
空になったカップを見て、私は我に返りました。侍女の習い性というやつでしょうか。
再びお茶を淹れてヴェルデのもとに戻った時には、だいぶ落ち着きを取り戻しておりました。
グリード様のことはかなり心配ですが、エルフのルファーガ様や神官のレナス様といった治癒術を使える方々が近くにいますから、きっと大丈夫でしょう。
とりあえず今は、自分にできることをしなければ。
私はお代わりのお茶をヴェルデに手渡してから、二つ目の質問をしました。
「さっきアズールとノワールが、ここは魔王城だと言ってましたが……ここには魔王がいるんですか?」
それを聞いて、ヴェルデは一瞬笑みを消しました。
けれど、またすぐに笑みを浮かべ、目の前のテーブルにカップを置いて言います。
「いや、ここに魔王と呼ばれる存在はいない。……魔王様は、君の勇者に倒されてしまったからね」
その言葉に、私はヒヤッとしました。
けれど、ヴェルデは特に気を悪くした様子もなく言葉を続けます。
「ここには我々三人しかいないよ。ここを魔王城と呼ぶことを決めたのはディエールたちさ。元の城と同じ場所、同じ外観にすると主張したのもね」
ということは、ここは元々魔王城が建っていた場所――つまりレイクサリダとミンダルクの国境の山の中なのでしょう。
彼らは主である魔王が亡くなったその場所に、魔王なき魔王城を建てたということになります。しかも同じ外観で。
……亡き魔王に対する忠誠心からなのか、魔王を偲んでのことなのか。いずれにしろ、執念みたいなものを感じます。
ヴェルデは思いっきり顔を顰めて言いました。
「陰気だし、未練たらしいよね! バカじゃないかと思うよ。魔王様はもういない。この世界のどこにも、魔力の欠片すら残っていない。それなのに城だけ復活させるなんて。あいつらはこの城を、魔王様の弔いの場にしたいんだってさ」
それからヴェルデは、眉を上げて皮肉っぽく笑いました。
「でもそれってさ、まるで人間のようじゃないか。そう思わない?」
「そ、それは……」
親しい人を亡くしたら弔いたい。殺されたのなら敵を討ちたい。人間なら、誰しもそう思うことでしょう。気持ちは分かります。
けれど、魔族は元々個人主義で群れることが少なく、親子や兄弟の絆もほとんどないそうです。互いに仲間意識も薄く、魔王がいてようやくまとまる。そんな種族なのです。
ですから当然、仲間の死を弔うという概念もありません。彼らの死は人間の死とは違い、単なる消失なのです。
それなのに、アズールたちは未だに亡き魔王に忠誠を誓ってその死を嘆き、グリード様に復讐しようとしている。そして魔王城を同じ場所に再建し、魔王の弔いの場にしようと考えている。
そんな感情を抱く彼らは、まるで人間のようだ。ヴェルデはそう言いたいらしいです。
「人間を憎んでいるくせに、人間と同じようなことをしている。死んだ仲間を弔う魔族なんて、聞いたことがない。本当、バカだと思うよ」
ヴェルデはそう言うと、再びカップを持ち上げて笑いました。
「もっとも、今僕らが存在していること自体が前代未聞だけどね。魔王が消滅した後も生き残っている幹部など、僕らが初めてだよ」
「た、確かにそうですね」
過去の勇者は例外なく、全ての幹部を倒してから、ラスボスである魔王と戦っております。なぜなら普通は幹部を全員倒さないと魔王城への道が開かれませんし、むしろ幹部の方から勇者を魔王に近づけまいと戦いを挑んできたからでした。
けれど、今回初めてその常識が覆されたのです。グリード様は幹部を全員倒さず、いきなり魔王に挑んで倒してしまいました。
……だからこそ今、私がこんな状況に置かれているわけですけどね。
「せっかく生き残ったんだから、あとは好きに生きたらいいのに。あいつら、変に真面目でさぁ。自由に生きて行こうとしてた僕まで巻き込まれちゃったよ」
やれやれとでも言いたげな口調でした。
私には、どっちかというとアズールたちよりヴェルデの考えていることの方が、よく分からないんですけど……
ヴェルデに人間的だと揶揄されたアズールとノワールの言動は、まだ理解できます。でもヴェルデの言動は、私の理解の範囲を超えています。
魔族なのに人間を憎んでいないどころか、主である魔王を倒したグリード様のことすら、どうでもよさそうですし……。一応アズールたちに力は貸したみたいですが、結局は好き勝手に行動してますし……
何を考えているのか、さっぱり分かりません。まぁ、その気まぐれのおかげで、私は今のところ無事なわけですが。
カップに口をつけてお茶を啜ったヴェルデは、私を見て言います。
「それで、三つ目の質問は?」
私はハッとして、しばし思案しました。
本当に聞きたいのは、この城から脱出する方法です。でもどう考えても、さすがにそれは教えてくれそうにありません。
他に知りたいことといえば、アズールたちは私をどうするつもりなのか、そしてグリード様に対して何を仕掛けようとしているのかということですが……
それは、私の精神状態のためにも聞かない方がいいような気がします。絶対に、ろくなことじゃないに決まってますから!
あとは……そう、これがありましたっけ。
「あの、私に術をかけたと言ってましたよね。それって、どういう術ですか?」
実はちょっと気になっていたのですよね。ヴェルデは魔力への耐性がない私を保護しているとか言ってましたけど、本当にそれだけなのかって。知らず知らずのうちに精神を操作されていたりしたら、怖いですから……
私の質問を聞いたヴェルデは、きょとんとしました。
「だから、君を魔力から保護しているだけだけど? 何か調子でも悪いの? まぁ耐性がなさすぎて、その保護の術にすら反応して具合が悪くなる可能性はあるけど……」
「あ、いえ、保護してもらってるだけならいいんです。ただ……こんな状況なのに、自分がやけに落ち着いているので、そのような術でもかけられているのかと……」
そうなんですよねー。魔族の幹部に攫われて、たった一人でこんなところにいるんです。普通ならパニックになったり、恐慌状態になったりしそうなのに、妙に落ち着いてるんですよ。
いや、怖いことは怖いんですが、それほどでもないというか……
だからヴェルデがかけた術のせいかなと思ったのですが、ヴェルデに顔を顰められてしまいました。
「僕の術のせいじゃないよ、それ。だいたい、なんで僕が君の精神状態まで慮る必要があるわけ?」
ですよね~! 言われてみれば、変わり者とはいえ魔族であるヴェルデが、私にそんな気遣いするはずがなかったですよ。
「単に、肝が据わってるだけじゃないの?」
「肝が据わってる……ですか?」
どこかで聞いたフレーズです。
――はっ。もしや……あまり考えたくないですが、いわゆる「ミルフォード気質」ってやつでしょうか。
父を筆頭として、我がミルフォード家が持つ特有の気質。面倒くさがりだったり趣味に異常に没頭したりする反面、逆境に強く、危機に瀕しても妙に肝が据わっているという……
……いえ、肝が据わっていること自体は良いのですが、やっぱり自分もあの父の子であったかと思うと、複雑な気持ちです。くぅ。
「そういえば、その術の話が出たからついでに言うけど……」
ヴェルデはふと思いついたように言うと、私の左手首の婚約腕輪に意味ありげな視線を向けて、にやりと笑いました。
「その腕輪って、魔具だよね? 神聖魔法と勇者の魔力を感じるよ」
私はハッとして、とっさに腕輪を右手で覆いました。
「君をシュワルゼの城から運ぶ途中で気づいたんだけど、何か仕掛けがありそうだね、それ」
「え、えっと……」
私は狼狽えて、一歩下がりました。
この腕輪は私とグリード様を繋ぐ大切なもの。今の私のよすがです。
取られたり壊されたりしては絶対にダメだと、私の中の何かが強く訴えています!
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