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フェア用SS
誕生祝いにご用心
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「そういえば、まなみ。もうすぐ君の誕生日だろう? 何か欲しいものがあったら遠慮なく言ってくれ」
上司兼恋人である仁科彰人課長がいきなりそう言ったのは、付き合い始めて半月ほど経った、とある平日の夜のことだった。
その時、私たちはマンションの近くにある和食の店でご飯を食べていた。お刺身の盛り合わせの中にある赤身のマグロに箸を伸ばしていた私は、手を止めてキョトンとする。
少し考えて、そういえば、と頷いた。
「すっかり忘れてましたけど、あと少しで私の誕生日でしたね」
引っ越しと彰人さんの突然の捕獲宣言のせいで、すっかり頭から飛んでいた。
私は早生まれで、三月末に二十四歳の誕生日を迎える。
……そうだ。私の誕生日がもうすぐってことは、舞ちゃんの誕生もすぐだ。
同じ学年だけど四月生まれの舞ちゃんとは、実質一年近く年が離れている。そのせいか小さい頃は舞ちゃんとの成長の差が顕著で、かなり悔しい思いをした。今はお互い成長が止まり、身長こそほとんど差はなくなっているけれど、胸の大きさの差だけは縮まっていない。
……と、胸の事はさておき、今年は舞ちゃんに何を贈ろうかな?
そんなことを考えていると、彰人さんが「何が欲しい?」と再び尋ねてきた。
「私ですか? 私が欲しいものは――」
そこまで言って、はたと思考が止まった。
欲しいもの。彰人さんに買ってもらいたいもの。それが全く出てこなかったのだ。
「えっと……」
こうなったら、私が最近欲しくて買いたいと思っていたものを考えてみる。
……冷蔵庫に牛乳がなかったから、牛乳……とか?
そこまで考えて、自分に軽く絶望した。
どこの世界に、恋人からの誕生日の贈り物に牛乳をねだる女がいるだろうか!
けれど、その他のものはまったく浮かばず、こう言うしかなかった。
「も、もうちょっと考える時間を下さい」
「上条ちゃん、無欲ねぇ」
感心したような、呆れたような声で水沢さんが言った。
それは会社の昼休みにビュッフェ形式のレストランで、料理を取りに行った川西さんと浅岡さんを待っている間のことだった。
「無欲というわけじゃないんですけど……本当に浮かばなくて」
あの後、欲しいものをもう一度考えてみたけど、マンションのロフトで使用するためのカラーボックスくらいしか思い浮かばなかった。けれど、誕生祝いにカラーボックスをねだるのも何か違う気がする。
恋愛には疎く、今まで「恋人いない歴=年齢」だった私でも、これくらいは分かる。誕生日プレゼントに牛乳とかカラーボックスはない。
「あら、何の話?」
ご飯とおかずを盛ったトレーを手に、川西さんと浅岡さんが戻ってきた。
「おかえりー。それがさぁ」
水沢さんが、おかしそうに笑いながら説明する。
「あらら。初々しいわねぇ」
話を聞いた川西さんは微笑んだ。でもその微笑みは、何となく生暖かい感じだ。
「課長は、予算はいくらくらいって言ってるの?」
フォークを手に浅岡さんが尋ねてくる。私はフルフルと首を横に振った。
「特に聞いてないけど……」
いや、実は聞いていない訳じゃない。彰人さんからは、『別にお金のことは気にしないでいい。いくらかかっても構わないよ』なんて言われている。
そりゃあ、予算を気にする必要などないだろう。管理職として給料もかなりもらっているはずだし、何より佐伯グループの御曹司なのだから。
今住んでいるマンションだって、どうやら彰人さんの持ち物らしいし。その他にも彼が持っているであろう不動産や株などを合わせたら、かなりの額の資産になるはず。
そんな人にとっては多少高い物であっても、私の誕生日プレゼントを買うくらいわけないことだ。
水沢さんがサラダに盛り付けてあったプチトマトを口の中に放りながら言った。
「予算が分かれば、候補を絞れるのにねぇ」
「でも、あの課長がケチるとは思えませんし、その辺はあんまり考えなくていいんじゃないですかね。上条さん、この際いいものおねだりしちゃったらどう?」
浅岡さんがフォークを置きながら私を見つめる。
「いいもの?」
私が戸惑って聞き返すと、朝岡さんは「うーんと」と言いながら唇に指を当てた。
「ブランドものの洋服とか?」
「……洋服かぁ」
お祖父ちゃんがよく買って贈ってくれるけど、そのすべてがレースの入ったヒラヒラしたもので、私の趣味にはイマイチ合わない……。
いや、似合わないこともないと思うけれど、童顔なのでそんな服を着たら、更に幼く見えてしまうという問題がありまして。結局タンスの肥やしになっている。
そこで川西さんが口を挟んだ。
「じゃあ、バッグとか靴とか? 今なら春用の靴とかいいんじゃない?」
「……バッグと靴かぁ」
それらも舞ちゃんのお母さんである洋子伯母さんから、時々贈ってもらう。伯母さんはバッグとか靴とかを集めるのが好きだから、娘の舞ちゃんにはもちろん、他の従姉妹たちにもよく贈ってくれるのだ。
でも、こっちにも問題があって、パーティーで身につけていくようなキラキラしいデザインのものばかりなのだ。お嬢様である従姉妹たち三人はパーティーにお呼ばれもするだろうから使い道があるけど、私はせいぜい友達の結婚式に身につけていくくらいが関の山だ。
水沢さんがポンと手を叩く。
「アクセサリーもいいんじゃない? 手頃な値段で色々あるわよ。ネックレスとか指輪とか」
「……アクセサリーかぁ」
これもお祖父ちゃんや伯父さんから贈られたことがあるけど、やっぱり普段使いできるようなものじゃなくて、無駄にキラキラしい豪華なやつなんだよね。
なんだよ、三連の真珠のネックレスって。平凡な一般庶民に、いつ身につける機会があるって言うんだ!
つまり、セレブたちからの気合いの入った贈り物は、妙に使いづらいものばかりなのだ。
同世代の真綾ちゃんたちはともかく、親世代やお祖父ちゃんたちは『安いものなんか贈れない』って思っている節があって、いつもとんでもないことになる。
お菓子以外の贈り物は断固として受け取らないお母さんの気持ちが、何となく分かってしまう私だった。
そして彰人さんも隠れ御曹司、つまりセレブなのだ。いつもさりげなく高級品を身につけていることを知っている私には、彼に欲しいものをねだるなんていう恐ろしいことはできない。
だからこう答えるしかなかった。
「……特に、これといって欲しいものは……。身につけるものなら気楽に買える値段で、身の丈にあったものがいいです」
あんまり乗り気じゃない私の様子を見て、川西さんが首をかしげる。
「あれ? 上条ちゃんって、買い物するのが嫌いなわけじゃないわよね?」
私は頷いた。
「普通に好きですよ。洋服もバッグも靴も、そしてアクセサリーも。ただ、そういうのは自分で買った方がいいかな~と思っているので……」
金持ちにチョイスを任せると、とんでもないことになりますからね……!
「上条ちゃんはこれまで彼氏がいなかったから、異性から贈り物をされることに慣れてないでしょうしね。戸惑う気持ちも分かるわ」
その水沢さんの言葉に、私は内心「ハハハ」と乾いた笑いを浮かべるのだった。
食事を終えた後、まったりとお茶を飲みながら、改めて私はみんなに尋ねた。
「やっぱり、あまり高いものじゃない方が気楽でいいんですけど……何がいいと思います?」
「実はご飯を食べている間に、いいこと思いついたの」
川西さんがにやりと笑った。
「ねえ上条ちゃん。この際、課長にお任せしてみない?」
「え?」
「面白そうね、それ」
興味を引かれたらしい水沢さんが身を乗り出す。
「でしょ? 課長が上条ちゃんのことをどれだけ理解してるかも、それで分かろうってもんよ」
川西さんは上機嫌で水沢さんに言った後、戸惑っている私に顔を向けた。
「いいこと? 上条ちゃん。課長には『私が喜びそうだと思うものを課長が選んでください』って言うのよ!」
「は、はい?」
「考えましたね。川西さん」
浅岡さんが感心したように言う。
「課長が何を選ぶのか興味あるわ。何をもらったか、ぜひ報告してちょうだいね、上条ちゃん」
水沢さんが、私にずいっと顔を寄せて迫る。その迫力に押され、私は頷くことしかできなかった。
その晩、とりあえず川西さんの指示通りのことを伝えると、彰人さんは苦笑を浮かべた。
「そう来たか。考えたね、まなみ」
「え? いえ、考えたのは私ではなくて……」
「受けて立つよ。楽しみにしていてくれ」
彰人さんは、そう言って不敵に笑ったのだった。
***
――そして誕生日の夜。
彰人さんが私に贈ってくれたのは、ハートをかたどった品のいいピンクの髪留めと、大きな箱に入ったお菓子の詰め合わせだった。
「きっと君は豪華なものをいやがると思って、控えめなデザインにしてもらった。けれど、メインはどちらかと言えばお菓子の方かな?」
有名スイーツ店の名が印字された箱を開けてみると、中にはマカロンやクッキー、それにチョコレートなど、色々な種類のお菓子がぎっしり詰め込まれていた。
私は「わぁ」と顔を輝かせる。
「ありがとう、彰人さん! すごく、すごく嬉しいです!」
「喜んでもらえたようだね。よかったよ」
彰人さんはにっこり笑った。
「今度の俺の誕生日が楽しみだ」
「……へ?」
私がポカンとすると、彰人さんはそれはそれは黒い笑みを浮かべてこう言ったのだ。
「俺が喜ぶようなプレゼントを、今度はまなみがしてくれるんだろう? 楽しみだな」
……私は遠くないうちにやってくる彰人さんの誕生日のことを考えて、真っ青になるのだった。
――実は彰人さんが贈ってくれた髪留めには本物のダイヤが使われていて、べらぼうに高価なものであったことを私が知るのは、だいぶ経ってからのことだった。
(おまけの会話)
「課長が喜ぶプレゼント? そんなの簡単よ。ね、明美」
「そうそう。上条ちゃんが自分にリボンをかけて『私をプレゼントします』って言えば、喜ぶこと間違いなしよ」
「可愛い下着も身につけると、課長はいっそう喜ぶと思うわ、上条さん」
上司兼恋人である仁科彰人課長がいきなりそう言ったのは、付き合い始めて半月ほど経った、とある平日の夜のことだった。
その時、私たちはマンションの近くにある和食の店でご飯を食べていた。お刺身の盛り合わせの中にある赤身のマグロに箸を伸ばしていた私は、手を止めてキョトンとする。
少し考えて、そういえば、と頷いた。
「すっかり忘れてましたけど、あと少しで私の誕生日でしたね」
引っ越しと彰人さんの突然の捕獲宣言のせいで、すっかり頭から飛んでいた。
私は早生まれで、三月末に二十四歳の誕生日を迎える。
……そうだ。私の誕生日がもうすぐってことは、舞ちゃんの誕生もすぐだ。
同じ学年だけど四月生まれの舞ちゃんとは、実質一年近く年が離れている。そのせいか小さい頃は舞ちゃんとの成長の差が顕著で、かなり悔しい思いをした。今はお互い成長が止まり、身長こそほとんど差はなくなっているけれど、胸の大きさの差だけは縮まっていない。
……と、胸の事はさておき、今年は舞ちゃんに何を贈ろうかな?
そんなことを考えていると、彰人さんが「何が欲しい?」と再び尋ねてきた。
「私ですか? 私が欲しいものは――」
そこまで言って、はたと思考が止まった。
欲しいもの。彰人さんに買ってもらいたいもの。それが全く出てこなかったのだ。
「えっと……」
こうなったら、私が最近欲しくて買いたいと思っていたものを考えてみる。
……冷蔵庫に牛乳がなかったから、牛乳……とか?
そこまで考えて、自分に軽く絶望した。
どこの世界に、恋人からの誕生日の贈り物に牛乳をねだる女がいるだろうか!
けれど、その他のものはまったく浮かばず、こう言うしかなかった。
「も、もうちょっと考える時間を下さい」
「上条ちゃん、無欲ねぇ」
感心したような、呆れたような声で水沢さんが言った。
それは会社の昼休みにビュッフェ形式のレストランで、料理を取りに行った川西さんと浅岡さんを待っている間のことだった。
「無欲というわけじゃないんですけど……本当に浮かばなくて」
あの後、欲しいものをもう一度考えてみたけど、マンションのロフトで使用するためのカラーボックスくらいしか思い浮かばなかった。けれど、誕生祝いにカラーボックスをねだるのも何か違う気がする。
恋愛には疎く、今まで「恋人いない歴=年齢」だった私でも、これくらいは分かる。誕生日プレゼントに牛乳とかカラーボックスはない。
「あら、何の話?」
ご飯とおかずを盛ったトレーを手に、川西さんと浅岡さんが戻ってきた。
「おかえりー。それがさぁ」
水沢さんが、おかしそうに笑いながら説明する。
「あらら。初々しいわねぇ」
話を聞いた川西さんは微笑んだ。でもその微笑みは、何となく生暖かい感じだ。
「課長は、予算はいくらくらいって言ってるの?」
フォークを手に浅岡さんが尋ねてくる。私はフルフルと首を横に振った。
「特に聞いてないけど……」
いや、実は聞いていない訳じゃない。彰人さんからは、『別にお金のことは気にしないでいい。いくらかかっても構わないよ』なんて言われている。
そりゃあ、予算を気にする必要などないだろう。管理職として給料もかなりもらっているはずだし、何より佐伯グループの御曹司なのだから。
今住んでいるマンションだって、どうやら彰人さんの持ち物らしいし。その他にも彼が持っているであろう不動産や株などを合わせたら、かなりの額の資産になるはず。
そんな人にとっては多少高い物であっても、私の誕生日プレゼントを買うくらいわけないことだ。
水沢さんがサラダに盛り付けてあったプチトマトを口の中に放りながら言った。
「予算が分かれば、候補を絞れるのにねぇ」
「でも、あの課長がケチるとは思えませんし、その辺はあんまり考えなくていいんじゃないですかね。上条さん、この際いいものおねだりしちゃったらどう?」
浅岡さんがフォークを置きながら私を見つめる。
「いいもの?」
私が戸惑って聞き返すと、朝岡さんは「うーんと」と言いながら唇に指を当てた。
「ブランドものの洋服とか?」
「……洋服かぁ」
お祖父ちゃんがよく買って贈ってくれるけど、そのすべてがレースの入ったヒラヒラしたもので、私の趣味にはイマイチ合わない……。
いや、似合わないこともないと思うけれど、童顔なのでそんな服を着たら、更に幼く見えてしまうという問題がありまして。結局タンスの肥やしになっている。
そこで川西さんが口を挟んだ。
「じゃあ、バッグとか靴とか? 今なら春用の靴とかいいんじゃない?」
「……バッグと靴かぁ」
それらも舞ちゃんのお母さんである洋子伯母さんから、時々贈ってもらう。伯母さんはバッグとか靴とかを集めるのが好きだから、娘の舞ちゃんにはもちろん、他の従姉妹たちにもよく贈ってくれるのだ。
でも、こっちにも問題があって、パーティーで身につけていくようなキラキラしいデザインのものばかりなのだ。お嬢様である従姉妹たち三人はパーティーにお呼ばれもするだろうから使い道があるけど、私はせいぜい友達の結婚式に身につけていくくらいが関の山だ。
水沢さんがポンと手を叩く。
「アクセサリーもいいんじゃない? 手頃な値段で色々あるわよ。ネックレスとか指輪とか」
「……アクセサリーかぁ」
これもお祖父ちゃんや伯父さんから贈られたことがあるけど、やっぱり普段使いできるようなものじゃなくて、無駄にキラキラしい豪華なやつなんだよね。
なんだよ、三連の真珠のネックレスって。平凡な一般庶民に、いつ身につける機会があるって言うんだ!
つまり、セレブたちからの気合いの入った贈り物は、妙に使いづらいものばかりなのだ。
同世代の真綾ちゃんたちはともかく、親世代やお祖父ちゃんたちは『安いものなんか贈れない』って思っている節があって、いつもとんでもないことになる。
お菓子以外の贈り物は断固として受け取らないお母さんの気持ちが、何となく分かってしまう私だった。
そして彰人さんも隠れ御曹司、つまりセレブなのだ。いつもさりげなく高級品を身につけていることを知っている私には、彼に欲しいものをねだるなんていう恐ろしいことはできない。
だからこう答えるしかなかった。
「……特に、これといって欲しいものは……。身につけるものなら気楽に買える値段で、身の丈にあったものがいいです」
あんまり乗り気じゃない私の様子を見て、川西さんが首をかしげる。
「あれ? 上条ちゃんって、買い物するのが嫌いなわけじゃないわよね?」
私は頷いた。
「普通に好きですよ。洋服もバッグも靴も、そしてアクセサリーも。ただ、そういうのは自分で買った方がいいかな~と思っているので……」
金持ちにチョイスを任せると、とんでもないことになりますからね……!
「上条ちゃんはこれまで彼氏がいなかったから、異性から贈り物をされることに慣れてないでしょうしね。戸惑う気持ちも分かるわ」
その水沢さんの言葉に、私は内心「ハハハ」と乾いた笑いを浮かべるのだった。
食事を終えた後、まったりとお茶を飲みながら、改めて私はみんなに尋ねた。
「やっぱり、あまり高いものじゃない方が気楽でいいんですけど……何がいいと思います?」
「実はご飯を食べている間に、いいこと思いついたの」
川西さんがにやりと笑った。
「ねえ上条ちゃん。この際、課長にお任せしてみない?」
「え?」
「面白そうね、それ」
興味を引かれたらしい水沢さんが身を乗り出す。
「でしょ? 課長が上条ちゃんのことをどれだけ理解してるかも、それで分かろうってもんよ」
川西さんは上機嫌で水沢さんに言った後、戸惑っている私に顔を向けた。
「いいこと? 上条ちゃん。課長には『私が喜びそうだと思うものを課長が選んでください』って言うのよ!」
「は、はい?」
「考えましたね。川西さん」
浅岡さんが感心したように言う。
「課長が何を選ぶのか興味あるわ。何をもらったか、ぜひ報告してちょうだいね、上条ちゃん」
水沢さんが、私にずいっと顔を寄せて迫る。その迫力に押され、私は頷くことしかできなかった。
その晩、とりあえず川西さんの指示通りのことを伝えると、彰人さんは苦笑を浮かべた。
「そう来たか。考えたね、まなみ」
「え? いえ、考えたのは私ではなくて……」
「受けて立つよ。楽しみにしていてくれ」
彰人さんは、そう言って不敵に笑ったのだった。
***
――そして誕生日の夜。
彰人さんが私に贈ってくれたのは、ハートをかたどった品のいいピンクの髪留めと、大きな箱に入ったお菓子の詰め合わせだった。
「きっと君は豪華なものをいやがると思って、控えめなデザインにしてもらった。けれど、メインはどちらかと言えばお菓子の方かな?」
有名スイーツ店の名が印字された箱を開けてみると、中にはマカロンやクッキー、それにチョコレートなど、色々な種類のお菓子がぎっしり詰め込まれていた。
私は「わぁ」と顔を輝かせる。
「ありがとう、彰人さん! すごく、すごく嬉しいです!」
「喜んでもらえたようだね。よかったよ」
彰人さんはにっこり笑った。
「今度の俺の誕生日が楽しみだ」
「……へ?」
私がポカンとすると、彰人さんはそれはそれは黒い笑みを浮かべてこう言ったのだ。
「俺が喜ぶようなプレゼントを、今度はまなみがしてくれるんだろう? 楽しみだな」
……私は遠くないうちにやってくる彰人さんの誕生日のことを考えて、真っ青になるのだった。
――実は彰人さんが贈ってくれた髪留めには本物のダイヤが使われていて、べらぼうに高価なものであったことを私が知るのは、だいぶ経ってからのことだった。
(おまけの会話)
「課長が喜ぶプレゼント? そんなの簡単よ。ね、明美」
「そうそう。上条ちゃんが自分にリボンをかけて『私をプレゼントします』って言えば、喜ぶこと間違いなしよ」
「可愛い下着も身につけると、課長はいっそう喜ぶと思うわ、上条さん」
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