弟とあたしの攻防戦

富樫 聖夜

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衝撃の事実

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「姉弟じゃない? え? 冗談?」
 あたしは明良に組み敷かれながら混乱したようにつぶやいた。

「冗談なんかじゃないよ。本当の本当に姉弟じゃないんだ。便宜上姉弟になってるだけで、俺達は正確にはハトコなんだよ」
 再び首筋に唇を落としながら明良が言う。
 人の肌に口付けながら喋るから、非常にくすぐったいんですけど。
 
 いや、それより……。

「はとこ?」
 はとこはイトコの子供同士のことだ。
 つまり、あたしと明良の親がイトコだってこと……?
 そこまで考えてあたしはハッとする。
 はとこだってことは、あかしか明良のどっちかがお父さんお母さんの子供じゃないってこと!?

 がちょーん。

 衝撃の事実だ。

 そんな風にあたしがショックを受けてるというのに、明良は人の上で実に楽しげに肌に唇を這わせていく。
 って、いつの間にか、パジャマの第一ボタンが外されてるんですけど!?

「こ、こらこらこらこら!」

 人に爆弾落としておいて何をしてるか!

「どういうことなの、はとこって!」
 もがきながら叫んだら、明良が顔を上げた。かなりしぶしぶな感じで。
「説明して!」
「説明も何も、俺は反対に何にも覚えてないで本当の姉弟だと思っていた姉さんにビックリだよ」
「何も覚えてないって……?」
 明良ははぁとため息をついた。

「もらわれっ子なの、俺。四歳の時に事故で本当の両親が亡くなって、父親の従兄弟である父さんが引き取ってくれたんだよ」
「はぁぁぁ!?」

 初耳ですよ、明良君!

 またまたため息をつく明良。

「あのね、姉さん。俺がこの家に来たのは四歳の時。つまり、物心ついていたしちゃんと覚えてるんだよ? そして、姉さんは俺より一歳年上――つまり、俺がもらわれた時姉さんは五歳だったわけだ。『今日からあたしがお姉ちゃんよ』って言ったのは姉さんだよ? なのにどうして覚えてないのさ?」

「ええええええ?」

 ……ごめん。全く憶えてないデス!
 いくら探っても探っても、そんな記憶――しかも自分が一人っ子だった記憶も皆無なんですけど!

 しかし姉弟じゃなかったのか……。
 どうりで顔が似てないと思ってたよ。
 超絶美形な明良と平凡顔なあたし。
 血のつながりを疑ったことはもちろんあるにはあるんだけど、そんなわけないって疑惑の種を握りつぶして事なかれでやってきたツケが回ってきた感じ。
 だって、疑問に思って調べれば本当の姉弟じゃないってすぐ分ったわけでしょう?
 こんな弟に押し倒される前にさ。

 あ、いや、弟じゃなかったっけ。

「って、ボタンを外さないでよ!」
 ボケっとしているうちに明良はあたしのパジャマのボタンを次から次へと外し始めた。
 それも片手はあたしの両手首をひとくくりにして頭上で押さえつけていて。
 もう片方の空いている手で外してるんだよ?
 ボタンを片手でするすると外すなんて……どこまで器用なの、この弟は。あ、弟じゃなかったっけ。

「たとえ本当の姉弟じゃなくても気持はそうなんだから、やめれ!」
「近親相姦じゃないんだから構わないだろう、姉さん」
「近親じゃなくても相姦はんたーい!」
「近親じゃないから、相姦にはならない」
「つい今しがたまで姉弟と思っていたんだから、精神的には近親相姦だぁ! って、話聞け!」

 話している間も明良はプチプチとパジャマのボタンを外していき、とうとう最後の一番下のボタンまで外してしまった。
 前身ごろを開かれて、タンクトップ姿を明良の視線の下に晒すあたし。
 ブラジャーは付けないで寝る派だから、そのタンクトップの下は当然裸だ。

 うおおおお、心なしか明良の視線はこんもりと盛り上がったタンクトップの胸の部分に注がれている気がするのだけど!

 焦ったあたしは必死になって叫んだ。

「あああ明良だって姉だって思ってたのに、どうしてこういうこと出来るの!? こんな平凡顔のおねーちゃんではなくて、明良なら引く手あまたじゃないの! 考え直せ! 今なら間に合う!」

 そう。今なら笑って姉弟に戻れる。
 仲の良いブラコン・シスコンの関係をこれからも続けられる。
 
 あたしがとっさにそう思ったのは、おそらく何かが変わることを恐れたから。
 本当は知ってしまったらもう元には戻れないことを本能的に感じてて、それでも今までの関係にしがみつきたくて。
 必死に思ってしまったのだ。戻れると。
 今なら間に合うと。

 ――だけど。
 明良はそのあたしの甘い考ごと今まで築いてきて全てを吹き飛ばした。

「姉さん。俺は姉さんを“姉”だなんて思ってなかったよ? たとえ姉さんと呼んでいようとね」

 その顔に浮かぶのは妖艶な笑み。
 その瞳に浮かぶのは、情欲の焔。

「俺にとって姉さんは“女”。俺は……ずっとずっと姉さんが欲しかった。だから――姉さんを頂戴?」

 そう言う明良の顔は弟ではなく、一人の“男”のものだった。
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