満月の秘め事

富樫 聖夜

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~エリアーナ編~

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 エリアーナ・レイディオ子爵令嬢はあることに悩まされていた。
 
 身体が熱い。燃えるようだ。
「んっ……、あ、くぅ……ん」
 エリアーナはシーツを握り締め、身体の中心から湧き上がる疼きに堪える。
 ――あと少し。眠り薬が効くまでだから……!
「あ……ふぁ……ん」
 けれど桃色の唇から洩れるのは自分でも恥ずかしくなるほど悩ましい声だった。
 あまり大きな声を出せば同じ階で寝る妹のジャネットを起こしてしまう。エリアーナは何とか声を漏らすまいと唇を噛みしめるが、それがかえって下腹部から広がる熱を内側に篭らせてしまう結果となった。
「ふ、くっ……」
 逃げ場を失った疼きが体内を駆け巡り、エリアーナを駆り立てる。
 ――薬よ、早く効いて……!
 エリアーナはぎゅっと目を閉じて祈った。

 満月の夜になるたび、エリアーナの身体はおかしくなる。
 身体が火照り、湧き上がる欲情にどうしようもなくなってしまうのだ。
はしたないことだし、あってはならないことだが、もし今ここに男性が現れたら、それが誰であろうとエリアーナは「抱いて」と懇願してしまうかもしれない。
 もちろん、普段のエリアーナだったらこんなことは考えもしないだろう。貴族子女として厳しく貞操観念を躾けられている上、元来エリアーナは内気な性質で、家族や昔からいる使用人以外の男性の前に出ると気おくれして何もしゃべれなくなってしまう。
 当然、市井の娘たちや一部の貴族女性のように、婚約を交わす前に男性と火遊びをすることもなかった。性の知識も未婚の貴族女性が習う態度のものしか知らない。
 なのに、どうしてか、満月の夜になるたびに身体が熱くなり、どうしようもなくイヤらしい気持になる。
 つい半年前まで肉欲など、欠片ほども感じたことがなかったのに。
けれど今では満月の夜になるたび、身体が男を欲する。疼く身体を鎮めるためには、男が――いや、『雄』が必要だと、なぜか本能的に分かっていた。
 ――助けて。誰か。この熱を沈めて。
「あ、はぁ……んっ」
 湧き上がる熱と欲情のせいか次第にエリアーナは頭がぼうっとしてくるのを感じた。そのせいか理性が緩み、つい口走る。
「……助けて……抱いて……ジオルド兄様……!」
 次の瞬間、自分の言ったことに気づき口元を抑えるが、一度頭に浮かんだ欲求は消えることはなかった。
 ――兄様。ジオルド兄様の身体に抱かれたい……。
 朦朧とした意識の中、普段は慎重に隠している願望が次から次へと飛び出してくる。
「ジオルド……兄様……抱いて、私をめちゃめちゃにして」
 シーツの上で悶えながら熱に浮かれたように呟く。ジオルドに犯されている自分を想像すると子宮がズクンと大きく疼いた。
 けれどそこでようやくベッドに入る前に飲んだ睡眠薬が効き始めたのだろう。
 欲にけむった意識を眠りの衣が幾重にも包み込んでいく。
 やがてエリアーナは身体を火照らせたまま、深い眠りの淵に落ちていった。
 
 ***
 
「お姉さま、顔色悪いわ。大丈夫なの?」
 次の日の朝、食事の間に現れたエリアーナを一目見るなり、ジャネットが心配そうに声をかけてきた。
 ジャネットはエリアーナの六歳違いの妹だ。
おっとりしたエリアーナと違い、ジャネットは十歳ながらもしっかり者でハキハキとしている。まるで性格の違う姉妹だが、仲はとても良かった。
 エリアーナはジャネットにこれ以上心配かけまいと、笑顔を作って明るく答える。
「大丈夫よ、少し夢見が悪くて寝不足なだけだから。すぐによくなるわ」
 寝不足は事実だが、エリアーナの顔が曇っているのは自己嫌悪に陥っているからだ。満月の次の日はいつもそうだった。昨夜の自分が恥ずかしくて仕方がない。
 ――ジオルド兄様に抱いて欲しいと口走ってしまうだなんて。
 なんてはしたいないことを自分は考えしまったのか。誰も聞いていなかったのが幸いだ。
「そう? それならいいけれど……」
 なおも心配そうにエリアーナを見ていたジャネットだったが、急に何か思い出したのかパッと表情を変えた。
「そうだわ。来月トワーレ伯爵の舞踏会にジオルド兄さまと一緒に出席するのでしょう? お姉さま、着ていくドレスは決まったの?」
「まだよ」
 答えてからエリアーナはテーブルに視線を落とす。
「できれば、あまり行きたくないのだけど……」
 その呟きを耳にした母親であるレイディオ子爵夫人は眉をあげた。
「エリアーナ、まだそんなことを。一度受諾のお返事をした以上、欠席なんて失礼な真似は許しませんよ。それに喪中でしばらく社交界から遠ざかっていたジオルドが、せっかくあなたのエスコートをしてくれると申し出てくれたのですからね」
「……それは、分かっていますわ。お母様、ただ……」
 そこまで言ってエリアーナは口をつぐむ。理由を言うわけにはいかなかった。
 エリアーナがトワーレ伯爵の舞踏会に行きたくないのは、その日が満月に当たるからだ。
 舞踏会は夜に開催される。もし万が一、公衆の面前でイヤらしい気分になって声をあげてしまったら。いや、ジオルドの前で醜態を晒したらと思うと、怖くてたまらない。できれば舞踏会になど行きたくなかった。
 でも、母親の言うとおり、父親の喪に伏しているジオルドがわざわざエリアーナのためだけに出てきてくれるのだ。
 それに、エリアーナもジオルドに会いたかった。
 ――だって、もう何ヶ月もジオルド兄様のお姿を見ていないんですもの。
 エリアーナもジャネットも「兄様」と呼んでいるが、ジオルドは兄ではない。
 母親であるレイディオ子爵夫人の兄、つまりエリアーナたちの伯父がハーシュイン伯爵で、ジオルドはその嫡男だ。つまりエリアーナたちにとっては従兄弟にあたる。
 昔から交流があり、生まれた時から知っている優しくて大好きな従兄弟――それがジオルドだ。
 もっとも、エリアーナにとってジオルドはただの兄代わりでも、従兄弟でもない。彼女は仄かな思いをジオルドに寄せていた。
 ――だからこそ、絶対に兄様に身体の異変を知られたくない。
 もし、ジオルドにふしだらな娘だと思われたら、エリアーナはきっと死にたくなってしまうだろう。
「エリアーナ?」
 急に黙ってしまった娘に、母親は怪訝そうに尋ねる。エリアーナは慌てて首を横に振った。
「いえ、何でもありません。舞踏会のこと、承知しておりますわ、お母様」
 ――大丈夫、一晩だけですもの。きっと我慢できるわ。
 不安を押し殺しながら、エリアーナはそう自分に言い聞かせるのだった。

 ***

「久しぶりだね、エリアーナ」
 半年振りに玄関に現れたジオルドの姿を見て、エリアーナは頬をほんのり染めた。
濃い金髪をきちんと撫で付け、逞しい身体を黒の礼服に包んだ姿は誰よりも素敵だった。
「お、お久しぶりです、ジオルド兄様」
 おずおずと挨拶をするエリアーナは、ジャネットと二人で長い時間をかけて選んだ藤色のドレス姿だった。それはエリアーナの淡い金髪と紫色の瞳を引き立てる色あいのドレスで、上品なデザインながら彼女の若々しい曲線を際立たせるものだった。
 ジオルドはエリアーナのドレス姿を見つめたあと、琥珀色の目を細めて微笑んだ。
「とても素敵だ、エリアーナ。こんな美しい貴婦人をエスコートできるとは光栄だ」
「ま、まぁ、兄様ったら、口がうまいんだから」
「嘘じゃない。本当のことだ。半年会わないうちに君はますます綺麗になったようだね」
「そ、そんな、ことは……」
 褒められて恥ずかしくなり、エリアーナはますます頬を赤く染めて俯く。そのせいで、エリアーナを見おろすジオルドの琥珀色の瞳孔が一瞬だけ縦に細くなった瞬間を見ることはなかった。
ジオルドはうっすらと微笑んだ。
「甘い香りがする。熟した果実の香りだ。待った甲斐があったかな」
「え?」
 何かとても小さな呟きが聞こえた気がしてエリアーナが顔をあげる。けれどジオルドは何もなかったかのように、エリアーナに手を差し出した。
「何でもないさ。ああ、そろそろ時間だ、行こうか」
「……はい」
 エリアーナは腑に落ちないものを感じたものの、今のやり取りを頭の外におしやり、ジオルドの手のひらに自分の手を預けた。

 ***

 トワーレ伯爵の舞踏会には大勢の独身の貴族子弟や令嬢たちも招待されている。
 半年ぶりに姿を現したジオルドは彼らの注目の的だった。
 無理もない。もともとその容姿で多くの女性たちを惹きつけていた。それが、半年前に急死した父親の跡をついで、今は伯爵という高い地位まで手に入れているのだ。女性たちはますます彼に群がるようになるだろう。
 現に今もエリアーナたちのダンスが終わるのを令嬢たちが今か今かと待っている。きっと声をかけてダンスに誘おうというのだろう。
 けれど、曲が終わってもジオルドはエリアーナの傍から離れようとせず、令嬢たちにダンスに誘われても断わり続けていた。
「あの、兄様。私のことは気にしなくていいのよ?」
 すごすごと戻る令嬢の後ろ姿を見ながら、エリアーナはさすがに申し訳なくなって申し出る。
 それにジオルドを占領しているエリアーナを見つめる貴族令嬢たちの視線はすっかり険しいものになっている。無言で責められている気がして、落ち着かない気分になっていた。
 けれど、ジオルドは首を横に振った。
「いや、今日はダンスするのは君だけと決めているんだ。それに一度君を手放したとたんに、列を成して待っている雄どもに攫われてしまいそうだ」
「まさか。私に声をかける男性などいないわ」
 自分が男性を惹きつける魅力に欠けていることを、エリアーナは誰よりも自分で分かっていた。
 社交界デビュー以来、何度か舞踏会や夜会へ赴いたものの、若い男性に声をかけられることはほとんどなかったからだ。もっとも、声をかけられてもエリアーナは気後れしてまともにしゃべれなかったに違いないが。
「いや、それは僕が男たちを牽制していたからさ」
 いたずらっぽくジオルドは笑った。
「僕の従姉妹に手を出したら許さないとね」
「兄様が?」
 エリアーナは目を見開いた。初耳だった。
「そうさ。大事な従姉妹を興味本位で声をかけてくる飢えた狼どもから守るためにね」
「まぁ……」
 ――『大事な従姉妹』か。そうよね、私は兄様にとっては単なる従姉妹に過ぎないのだもの。
 男性を牽制したというのも本当かどうか。
 ――きっと声をかけられないなどと私が言うから、気を使って言ってくれたんだわ。
 昔からジオルドはエリアーナたち姉妹にはとても優しい。でもそれは従姉妹だからであって、特別な意味はない。
 分かっているのにそれがとても辛かった。
「……ジオルド兄様。ダンスをやりすぎたみたい。少し疲れてしまったわ」
 不意にジオルドから離れたくなり、エリアーナはジオルドを見上げた。
「私は少し席を外して休憩するから、兄様は遠慮なく、他の女性と……」
 続く言葉は最後まで言うことができなかった。ジオルドがエリアーナの言葉を遮ってこういったからだ。
「ならダンスは中断してバルコニーに出て少し風にあたろう。あそこなら来る人は少ないし、一息入れることができるだろう」
「え、あの……」
 ジオルドはエリアーナの腰に手を回し、舞踏会のホールから連れ出した。
 ホールから出たジオルドはエリアーナを廊下を挟んだ反対側のバルコニーに導く。
 バルコニーには誰もいなかった。招待客のほとんどはホールに隣接したバルコニーの方に行くからだろう。
「ふぅ」
 バルコニーの手すりに身体を預けながらエリアーナは深い息を吐いた。火照った身体に夜風が気持ちいい。
「水を貰ってこよう。少し待ってて」
 ジオルドはそう言ってエリアーナを残してバルコニーを出て行った。今のエリアーナにはありがたかった。
「……んっ……はぁ……」
 手すりを握りしめ、エリアーナは歯を食いしばる。しばらく前から身体が疼いてしかなかった。
ジオルドと身体を寄せ合ってダンスをしたからだろうか。エリアーナの身体は目の前の雄を欲しがり、いつもにもまして疼いていた。
「……はぁ……ふぅ……」
 どうにかどうにか身体の奥底から沸き上がる熱を冷まそうと深呼吸を繰り返す。
 ――押さえなければ。ジオルド兄様にバレてしまう……!
 けれど、疼くも熱もますます酷くなっていった。そのうちに意識までも朦朧となって――そして気づいた時にはジオルドの腕に包まれていた。
「こんな大勢の人がいるところでそんなに甘い香りを振りまいて男を誘って……悪い子だね、エリアーナ」
 そう囁く声が聞こえて目を開けたら、目の前には琥珀色の瞳があった。けれど、その目の瞳孔は縦に割れて、じっとエリアーナを見おろしていた。
「ジオルド、兄様……?」
 いつもと様子が違う気がしてエリアーナは眉をひそめる。けれど、ぼんやりとした頭では、何がおかしいのかよく分からなかった。
「馬車の手配はしておいた。トワーレ伯爵にも挨拶は済んでいるし、叔母上にも今晩君は帰らず僕の屋敷で泊まると連絡しておいた。さぁ、帰ろう、エリアーナ」
「兄様の屋敷に、泊まる……?」
 ジオルドは微笑みながらエリアーナの頬を撫でた。
「そうさ。悪い子にはお仕置きしないと。それに、これ以上男を誘う香りを振りまいて、誰かが気づいてしまう前に摘み取らないとね。まったくこっちが相続の手続きで忙しくて顔を出せない間に発情期が始まるとは思いも寄らなかったよ」
「香り……? 発情期?」
 何を言っているのかよく分からなかった。甘い香りとか、男を誘っていると言われても、心当たりはない。
「ずっと果実が熟すのを待っていたんだ。今さら他の男に摘み取らせはしないよ、エリアーナ。僕のつがい
 ――番?
 けれどその言葉の意味を考える前にジオルドの顔が覆いかぶさり、唇を奪われた。
「……んうっ……!?」
 唇を割ってねじ込まれた舌がエリアーナの咥内を蹂躙する。生まれてはじめて与えられた濃厚な口付けに、エリアーナは次第に頭がぼんやりしてくるのを感じた。
 ――頭がクラクラする。これは夢なの?
 夢でも構わない。そう思いながら目を閉じる。
 そこでまたもや意識は途切れ、次に目を覚ました次の瞬間、身を貫く激しい快感に我を忘れた。

 ***

「あっ、あ、んっ……」
 興奮したような女性の喘ぎ声が耳に入って、エリアーナはふと我に返る。その次の瞬間、脚の付け根にある敏感な花芯に舌が絡まり、背筋を貫く快感に腰が跳ね上がる。
「……あっ、あ、んぁ……!」
 声をあげているのはエリアーナ自身だった。
見知らぬ寝室で、全裸で横たわっている。そのエリアーナの開いた両脚に付け根に顔をうずめているのは、同じく一糸纏わぬ姿になっているジオルドだ。
 ――一体、なぜ……こんなことに……。
 エリアーナは喘ぎ声を漏らしながら朦朧とする頭に必死に思い出そうとした。
 ジオルドの屋敷に着いたところはなんとなく覚えている。馬車から抱きかかえられながら降ろされたが、顔なじみの使用人に挨拶をする余裕はなかった。ジオルドのキスが続いていたからだ。
 ジオルドは濃厚な口付けの合間に、使用人に指示を出したが、エリアーナはその内容をほとんど覚えていない。ただ、突然舞踏会から途中で帰ってきた主が従姉妹を抱きかかえながらキスをしても、使用人の誰ひとり驚いていなかったことだけが、やけに鮮明に記憶に残っていた。
 その後のことは熱と身を捩るほどの欲情に遮られてぼんやりとしか覚えていない。
 寝室に連れ込まれてドレスを次から次へと脱がされて、胸の先端や、すでに蜜を溢れさせていた蜜口に、手と舌で触れて我を忘れた。
「あんっ、あぁ、あン……っ!」
 エリアーナはジオルドが手を動かすたび、舌をひらめかせるたびに肢体を震わせながら、嬌声を響かせた。
 ところが、ジオルドはエリアーナが本当に求めているものは与えてくれなかった。

 今夜ですでに何度目だろうか。もう数え切れないほどエリアーナは絶頂を味わわされ、狂いそうになっていた。
「お願い、兄様。お願い」
 うわごとのように哀願を繰り返す。三本の指で蜜壷を蹂躙され、敏感な花芽を舌と歯で嬲られる。けれど、ジオルドはなかなかその先に進もうとしない。
 ――欲しい。この雄が欲しい……!
 エリアーナの本能が狂ったように叫んでいた。
「兄様ぁ、欲しいの、お願い……!」
「まだだめだよ、エリアーナ。これはお仕置きなんだから」
 充血した陰核に歯を立てながらジオルドが笑う。
「あン、んんっ。や、お願い、お願いだから……」
 涙を流しながらエリアーナは懇願する。手を差し出し、腰を押し付けて男を誘う。この時、エリアーナ本人は気づかなかったが、その体からは濃厚な甘い匂いを発していた。
 普通の人間には分からない、特殊な者だけが感じとることができる香りだった。
 その香りをまともに浴びることになったジオルドは思わず苦笑する。
「知っていたけど、とんでもないな。この香りが他の者に気づかれなくて幸いだ。王族なんかに嗅ぎ付けられたらとんでもないことになっていただろうね」
「兄様、お願い、私を犯して! めちゃめちゃにしてぇ」
 焦れたのか、普段のエリアーナからは想像できないほど淫らな言葉が飛び出していた。
「ああ、ぞくぞくするな。エリアーナ、僕の番。もっともっと僕を欲しがって」
 膣内のエリアーナの感じる場所を指で擦りあげながら、花芯を舌で嬲る。
「ああんっ……ジオ……! イく、またイっちゃう……!」
 エリアーナは背中を反らして嬌声をあげた。

 ようやくジオルドが顔をあげた時にはエリアーナの意識はほとんど飛んでいた。天蓋を見上げる瞳は焦点が合っていない。
「エリアーナ。他の男を咥えこまないように、よく覚えておきなさい。君は僕のものだ。それをこの身体に刻み込んであげよう」
 ジオルドは身体を起こすと、蜜でとろとろに蕩けた蜜壷に猛った怒張を押し当て、一気に埋め込んだ。
 その動きに処女に対する配慮は一切感じられなかった。
 エリアーナは激しい痛みに一瞬だけ息を止めた。けれど、すぐに痛みはすさまじい快感に変わり、ゆっくり繰り返される抽送が、エリアーナを再び押し上げる。
「ああっ、いいっ、いいの! 気持ちいい! もっと!」
 ジオルドの動きに合わせて身体を揺らしながら、エリアーナが淫らに叫ぶ。
「これが欲しかったの、ずっと! ジオルド兄様に犯して欲しかったの……!」
「もっとあげるよ、君が欲しいだけ。僕の番」
 エリアーナは目を開け、欲望に潤んだ紫色の瞳をジオルドに向けた。
「好き、兄様、好き……」
「僕も愛しているよ、エリアーナ」
「嬉しい……」
 きゅっと媚肉が蠢き、ジオルドの肉茎を扱き上げる。
「ああ、すごくいい」
 エリアーナの胎内を犯しながらジオルドは感嘆の吐息をついた。
「人狼の雌は激しい雄の欲望を受け入れるために、発情期には淫乱な体に変化するというのはどうやら本当のようだね」
 思いもよらない言葉が一瞬だけエリアーナを正気づかせる。
「人狼……?」
「そうだ。この国の成り立ちは知っているだろう?」
 エリアーナの住むこの国を立ち上げたのは人間ヒトではなく、獣人族と呼ばれる種族の中の竜人族たちだった。そのせいか、竜人族だけではなく、他の獣人族も多くこの国に住みついたのだという。
 けれどやがて数に勝るヒト族との混血が進み、獣人族の血は薄れていった。
「今ではヒト族とほぼ変わらない。長い間純血を保った王族でさえも、竜に変化することはおろか、かろうじて異能を使える程度だ。でもね、ヒトの血で薄まっても、我々には遠い祖先の獣人族の血が混じっている。そのせいか時々まれに先祖返りをおこす者が誕生するんだよ。……そう、君と僕のようにね」
「私と、ジオルド兄様が、先祖返り……?」
「そうだ。ハーシュイン伯爵家の元を辿れば人狼族にたどり着く。知ってるかい? エリアーナ。人狼族は満月の夜になると発情期を迎えるんだ。雌は甘い香りを放ち、番となる雄を誘う。雄は発情期の雌を犯して種つける」
「発情期……」
 ズンと打ち込まれながら、エリアーナは身を震わせる。
 ――では、私が満月の夜に身体が熱くなるのも疼くのも、発情期だから……?
「君が生まれた時に僕はまだ子どもだったけれど、すぐに分かったよ。君は僕のために生まれてきた僕の番だってね。だからずっと君が成長して、発情期を迎えるのを待っていた。そして、ようやくその期は熟した」
「ああっ! ああっ!」
 一際強く打ち込まれて、身を貫く淫悦にエリアーナは背中を反らして甘い悲鳴を放つ。
「さぁ、満月の夜は始まったばかりだ。楽しもう、エリアーナ」
ジオルドの欲情に煽られるようにエリアーナの意識は再び快感の波に飲み込まれていった。

 ***

「ジオルド兄様、もうっ……!」
 四つん這いになり、後ろからジオルドに激しく打ち込まれながらエリアーナは懇願した。
朝になり、月が隠れて日が昇り、窓から明るい日差しが差し込んでも、ジオルドはエリアーナを抱き続けていた。
 発情期が終わり、すっかり正気に戻ったエリアーナは身体に与えられる快感に溺れながらも戸惑わずにはいられなかった。
「発情期の淫乱な君もいいけど、正気になった時の恥ずかしがる君もいい」
 柔らかな曲線を描く臀部に腰を激しく打ちつけながら、ジオルドは笑う。朝になってもジオルドの欲望は果てることなく続いていた。
「人狼族の雄の性欲は強いんだ。その雄の欲望を受け止めるために雌のここはとても丈夫に作られている」
 言いながらジオルドは腰を強く押し付けたまま、ぐるりと回した。
「ゃっ、ああぁん……!」
 突かれるのとはまた違った場所を刺激され、エリアーナは甘い悲鳴を放ちながら腰を揺らめかせた。
「だから何度でも激しく攻められても平気だろう?」
「……」
 エリアーナは恥ずかしさのあまりシーツに顔を伏せる。
 その通りだった。一晩中ジオルドに激しく何度も抱かれても、エリアーナは痛みもなく今も彼の欲望を受け止め続けている。普通だったらとっくに壊されているだろう。
 疲れ果てていても、挑まれるたびにジオルドを熱く迎え入れて彼の欲芯を嬉しそうに締め付ける。それが可能なのも、彼が言う通りに、エリアーナが先祖返りだからに他ならない。
「普通の男には君を満足させることはできないよ。発情期の君の身体を満足させられるのは同じ人狼族の雄である僕だけだ。人狼族の雄と性欲の強さでは並ぶと言われる竜人族の雄なら可能かもしれないけど、まぁ、君が王族に会う機会がなくて幸いだった」
「ひゃぁああん!」
 いきなりジオルドはエリアーナの腕を引いて繋がったまま彼女の上体を抱き起こす。打ち付ける角度が変わり、新たな刺激にエリアーナの身体がぶるっと震えた。
「婚約の手はずはすでに整っている。結婚は残念ながら父上の喪があけるまであと半年待たなければならないけど、それまではこうして楽しもう。満月の夜は二人で一晩中狂ったように交わるんだ」
「あんっ、んっ、あ、はぁ、ん」
 ジオルドはゆるゆると腰を突きたてながら、エリアーナの耳に囁く。
「先祖返りや発情期のことは、他人には理解できないだろうから、このことは僕らだけの秘密だ。いいね?」
 エリアーナは頷く。欲にあてられ、もうまともに考えらなかった。けれど、ジオルドといっしょにいられるなら何でもよかった。

***

 再び満月の夜が訪れる。
 ベッドに腰をかけて待っていたエリアーナがふと顔をあげると、窓が開いて一人の男性が姿を現す。
 窓から覗く満月を背にし、男が嫣然と笑って手を差し伸べる。
「おいで」
 エリアーナはベッドから立ち上がった。その身体には何も身につけていない。脚の付け根はしとどに濡れ、胸の先端は痛いくらいに張り詰めている。
「待っていたわ、ジオルド兄様。私をめちゃくちゃにして……?」
 そう囁くエリアーナの顔は淫らに微笑んでいた。


(完)
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みんなの感想(1件)

紡
2018.06.30

富樫聖夜さんの作品いつも楽しみにしています。
単行本で読むことが多いのですがソーニャ文庫などで出しているものはほとんど全てと言っていいほど読んでいます。

これからも頑張ってください(*´꒳`*)

解除

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