尻凛 shiri 〜 がちむちゲイの短編小説集 〜

くまみ

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湯屋の番人 前編

温泉町

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 古くからある温泉町、既にシャッターが閉まっている商店街の小道を守は歩いていた。

 22時に湯屋の湯守を終えて伊深の家に向かう。

 伊深の家はこの温泉町に代々続く酒屋の店主である。

 老舗の酒屋で自治会長である伊深はこの地域では顔が効き行事なども取り仕切っていた。

 よそ者である守が湯守を任されるのは本来はあり得ない事だったが伊深の強い推しによって可能となった。

 守は大好きな温泉に毎週末通えるのに加えてお手当と交通費も支給されているこの状況はよそ者の守にとってこの上なかった。

 「伊深さんのおかげだ・・・でも何で俺だったんだろう・・・」

 様々な温泉地がすたれて行く中で、人気もあり常に人でにぎわっているこの温泉地、常連客も多く他にも湯守をしたい人はいるだろう。

 守はそんなことを考えながら歩いていると伊深の家に着いた。

 酒屋は既に閉まっており、脇の通りを歩くと玄関があった。

 守は玄関前に立ちチャイムを押すとガラガラと引戸が開いた。

 「おぉ守さん、お疲れ様、まぁ入ってください」伊深がドアを開けて守を家に招き入れた。

 守は一室の客間に通された。
 
 「今日は母ちゃんがいないから何にもなくてな、乾きものばかりで悪いが酒なら沢山ありますぞ!」

 客間のテーブルには店にあるイカの燻製や缶詰が並べられていた。

 「守さんビールでいいですか?」

 「はい、すみません・・・」

 伊深はビールの栓を開けてグラスにビールを注ぎ二人は乾杯した。

 「忠雄はまだ来られないんだ、とりあえず二人で始めていましょう・・・」伊深はイカの燻製と缶詰を開けた。

 「守さん、湯守には慣れましたか?」

 「はい、伊深さんお陰様で楽しくやらせていただいております」

 「そうか、そりゃ良かった!守さんは湯守にピッタリだと一目見た時から思っていたんですよ」

 「ありがとうございます。でもなんで俺だったんですか?他にも湯守をやりたい人がいたんじゃないかと思って」

 「もちろんいましたけど田舎の共同浴場は色々と面倒でね簡単じゃないんですよ・・・」

 「伊深さんそうなんですか?」

 「はい、特に自治会の中でも長老会に気に入られなきゃならないですからね・・・」

 「長老会?」

 「はい、守さんもそのうちに長老会に紹介しなきゃならないんですが、その前にやらなきゃいけない事があるんですよ」

 「やらなきゃいけない事ですか?」

 「はい、そうですよ、その打ち合わせも兼ねて忠雄も呼んでるんですけど忠雄のヤツ遅いな・・・まぁ守さん飲んでください!」伊深は守の空のグラスにビールを継ぎ足した。

 世間話しなどをしていると忠雄が到着した。

 「おっ、初めまして守さん、なるほどいわおが見込んだだけはある、いい男だっ!」

 守は伊深以外の土地の人はほとんど知らなかった。当然忠雄とも面識はなかった。守も忠雄に挨拶をし返した。

 忠雄と巌(伊深)は昔からの同級生で中学高校は柔道をやっていた。二人ともヤンチャで酒のさかなに様々な若かりし頃のエピソードを話してくれた。

 「それで伊深さん、長老会に紹介される前までの準備って何をするんですか?」守は話を切り出した。

 伊深と忠雄は顔を見合わせる。

 「じゃあ風呂にでも入りながらその話をしましょう、なぁ忠雄・・・」

 「そうだな、巌・・・」

 忠雄は伊深の事を「巌」と呼ぶ。

 名前で呼び合う2人の男、仲の良さがうかがえた。

 酔いも回り伊深の勧めで3人は伊深の家の風呂に入る事になった。

 家の風呂といっても温泉が引き込まれていて、大の男が3人は遊に入れる広さだ。

 3人は裸になり股間と尻を流して守を真ん中にし湯船に入った。

 「伊深さん、いい風呂ですね!家庭でこんなに広くて温泉なんてうらやましいです」

 「守さん、この辺じゃあみんな温泉を引き入れているんですよ温泉はただみたいなもんだからどの家も風呂は広いんですよ!」

 「いいですね!それで、長老会に紹介される前の準備ってどんな事をするんですか?」

 「守さん、そんなに知りたいか・・・」忠雄が低い声で守の耳元でささやいた。

 「えっ?た、忠雄さん・・・あっ!ちょっとちょっと・・・そこは・・・」守はあわ蓋剥ふたむくのだった。

 

 


 

 
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