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第一章 馴染みの

同僚たち ②

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 「相模課長、お疲れ様です!」

 和也が2課のオフィスに到着すると、桜木が出迎えてくれた。

 「桜木さんお疲れ様!」

 「課長、俺今コーヒー入れてきます・・・」桜木は足早に給湯室に行ってしまった。

 「桜木さん、大丈夫だよ・・・あっ・・・」

 既に桜木は行ってしまった。

 既に就業時間は過ぎていて、桜木以外は誰もおらず、2課のオフィスは静まり返っていた。

 「桜木さんだって報告書をまとめなきゃならんだろうに・・・そんなに気を遣わなくたって・・・」

 和也は鞄を置き、自分の席に着いた。パソコンを開き、本日の報告書の作成にかかる。

 「横浜体育大学のシャワールームで・・・おっと、俺は何を書いているんだ?!・・・疲れてるのかなぁ」

 「課長、横浜体育大学のシャワールームでどうしたんですか?」

 「えっ?あっ?!さ、桜木さん!いつからそこに居たの?!」

 「今ですよ課長、はいコーヒーどうぞ」

 「いやぁ・・・担当の淵野辺教授に汗をかいているようだからシャワー浴びていってと勧められて、ちょっとシャワールームを借りたんだよ・・・」

 「シャワールームですか?教授の部屋にはシャワールームもあるんですか?」

 「いやいや、桜木さん、体育会学生が使うシャワールームだよ・・・」

 「懐かしいですね、体育会のシャワールームって、私が昔学生だった頃は衝立もなく、ただシャワーが並んでいた殺風景なものでしたけど・・・最近はどうなんですか?」

 桜木は興味津々な表情をしている。

 「今も昔もそんなに変わらなかったよ」

 「いいですねぇ!課長、練習でめちゃくちゃしごかれて、汗だくになった後に浴びるシャワーは最高でした」

 「桜木さん、確かにね!練習の後のシャワーは格別だったね!」

 「しかし課長は大学の教授とも知り合いなんですか?顔が広いですね!あれ?横浜体育大学の淵野辺教授って聞いた事があります・・・ちょっと待ってください」

 桜木はスマホを取り出して、調べ始めた。

 「あ、やっぱりそうだ!スポーツメンタルではちょっと有名な人ですよ!たまにテレビに出ています・・・」

 「桜木さん・・・そうなんだ・・・」

 「あと・・・オープンな人で、LGBTである事を隠さないから、そっち系のコメンテーターなんかでも有名です!課長、こんな有名な方とどこで知り合ったんですか?」

 「えっ?あっ、何処でだったかなぁ・・・誰かの紹介だったかなぁ・・・」

 「課長・・・覚えていないんですか?!もしかしてシャワーも淵野辺教授と一緒に浴びたんですか?!」

 「いや、まぁ・・・そうだけど・・・」

 「課長・・・淵野辺教授に襲われなかったですか?!課長可愛いから心配です!」

 「えっ?桜木さん、俺が可愛いって?!」

 「はい、課長は男として可愛いと思います!顔も体も性格も!何だか守ってあげたくなるような!」桜木は真剣な眼差しで和也を見つめてくる。

 「おいおい、桜木さん・・・ちょっと落ち着いて!」

 「これが落ち着いてられますか!課長が淵野辺教授に何かされたかもしれないなんて!」

 「桜木さん!淵野辺教授とはただ一緒にシャワー浴びただけだから!」

 「そうですか・・・課長か何かされたんじゃないかと考えていたらつい熱くなってしまいました・・・すみません、頭冷やして今日の報告書をまとめます・・・」

 「いや、いいんだよ・・・桜木さん、心配してくれてありがとう」

 桜木は一例し自分のデスクに戻った。

 「桜木さんは鋭過ぎる・・・」桜木が立ち去り和也はホッと息をつく。

 「桜木さんはいつも俺に気を遣ってくれて、気に掛けてくれて・・・いや・・・それ以上なものを感じる・・・」

 「あいつも新婚だし、もう少しで子どもも産まれるし・・・気のせいだろう・・・」

 和也も桜木が入れてくれたコーヒーをすすりながら報告書を作成した。

 しばらくして和也が報告書を作成し終わる頃に、桜木がやってきた。

 「課長、報告書はメールで送信しましたので、またお時間ある時に目を通してください」

 「あと、課長、今日はお時間ありますか?」

 「・・・桜木さん、今日はまだちょっと仕事が終わらなくて・・・何か用かな?」

 「いや、久しぶりに一緒に飯や飲みに行きたいと思いまして・・・」

 「そうか、悪かったね、また今度でもいいかな?」

 「課長、もちろん大丈夫です!絶対にまた行きましょう!あのサウナとかがいいですね!」

 「桜木さん、あのサウナって、あのお祭りサウナの事?」

 「はい、[メンズサウナ祭りと余韻』です!課長、忘れちゃいましたか?」
 
 「いや、桜木さん、何となく覚えているけどね・・・」

 「じゃあ、課長決まりです!絶対に一緒に行きますからね!では、お先に失礼します!」

 桜木さは力強い目で和也を見つめる!そして名残惜しそうに帰宅した。

 「桜木さんはどうしちゃったんだろう・・・いつも冷静沈着なのに、誠ニさん(淵野辺教授)の話になったら途端にムキになって・・・」

 「しかも一緒にサウナに行きたがるとか・・・普通の居酒屋でいいと思うけど・・・」

 「今日は桜木さんと久しぶりに飲みたかったけど・・・今日の営業の事や誠ニさんとの事を切り返せる自信がなくて、思わず断っちゃった・・・」

 和也は桜木が先に帰宅し、1人残ったオフィスでメールで和也に送信された報告書に目を通した。
 
 桜木が担当している都ノ岡病院のものだった。

 「凄いなぁ、桜木さん、電動ベッド20台の契約に漕ぎ着けたんだ!」

 「一台12万5千円のベッドを11万8千円に値引きで契約・・・値引き範疇に抑えてるし上出来だ、桜木さん!」

 「これだけ凄い契約を取ってきたのに、口頭では何も言わないなんて・・・桜木さん、俺の心配なんかしなくてもいいのになぁ~」

 和也はぶつぶつと独り言をしながら桜木の報告書を眺めていたら時間は過ぎていった。

 「おっと、もうこんな時間だ・・・さぁて、そろそろ俺も帰るかなぁ・・・」

 和也はタイムカードを押して、オフィスを後にし、駅へ向かい1人歩き始めた。

 「そうだ、帰る前に嫁に電話を入れておかないと・・・」

 「もしもし、今から帰るから・・・え?福神漬を買い忘れたから買ってきてって?・・・わかったよ・・・」

 「今夜はカレーか・・・」和也は歩きながらボソッと呟いた。




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