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第8話 誕生日の魔法石(4)
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明くる日、エリーゼは宮廷に来ていた。
依頼を受けることを決めたので、魔法研究機関に挨拶に来たのだ。
エリーゼ一人では宮廷の勝手が分からないのでダリウスにも来てもらおうと思ったが、さすが公爵、また今日も忙しいらしく予定が空いていないので、執事のルイスについてきてもらった。
騎士団のことやら領地のことやら、色々追われている様子で、エリーゼと一緒に行きたいと悔しがっていた。
「こちらです、エリーゼ様」
「ごめんなさいね、ルイスさん。わざわざ案内させてしまって……」
「いえ、良いのですよ。エリーゼ様のお手伝いも、公爵様から任せていただいた私の大切な仕事ですから」
ルイスはそう言ってニコニコ笑ってくれるが、宮廷に初めて足を踏み入れるエリーゼは緊張しっぱなしだった。
「ようこそ魔法鑑定士様。お待ちしておりました」
魔法研究機関では様々な魔法使いたちが宮廷のために忙しなく働いている。
その中で、エリーゼを出迎えてくれたのはイヴァンという青年だった。
「初めまして、私が魔法鑑定士のエリーゼ・トワイライトです」
挨拶に来たと言っても、今日は打ち合わせのようなものだ。
当日、どのような働きをすれば良いのか、しっかり頭に入れておかねばとエリーゼは気合いを入れて挨拶をした。
ひとまず、応接室へ通される。
「どうぞこちらにおかけください。しかし、魔法鑑定士様がこれほど若く可愛らしい方だとは思いませんでしたよ」
出た、若く可愛らしい。
どこへ行っても最初はそんなことを言われる。
もちろん、イヴァンに悪気は無いのは分かっているので特に咎めるつもりはない。そもそも、若く子供のような顔のエリーゼはそう言われて当然なのだ。
(なんというか、もう少し威厳のある顔でいたかったな……)
遠い目をしてそんなことを考えてしまう。
「そちらのお付きの方も、どうぞおかけください。もっと気楽にしていただいていいんですよ」
「これはどうも」
イヴァンに促されてルイスもエリーゼの隣に座った。
紅茶の用意をしているイヴァンを横目に、エリーゼはルイスにこっそりささやく。
「ル、ルイスさん……ここ、すっごく緊張するんですけど」
「同感ですね。向こうから視線をすごく感じますよ」
エリーゼとルイスの視線の先には、隣の部屋だ。
壁に遮られているはずのそこから、めちゃくちゃに視線を感じている。
恐らく魔法使いたちが透視しているのだろう。
警戒されているのか、品定めされているのか。
魔力が込められた、力強い視線はルイスもはっきり感じていたようだ。
「魔法鑑定士様が依頼を受けてくれたことで、もう皆さんすごく期待して、楽しみにしているんですよ」
ティーカップを置きながら、イヴァンはそう言った。
「え、そうなんですか?」
向こうの気配からして、とてもそんなようには思えないのだが、と思ったのだが。
「もちろん!なんといったって、あのシルヴァルド様のお弟子さんですからね!」
「あはは……」
輝くようなイヴァンの笑顔に、エリーゼは乾いた笑いしか出なかった。
シルヴァルドの弟子だからといって、師匠やダリウスのような活躍を期待されると少し困る。
エリーゼの得意分野は彼らの戦闘に特化したような魔法とは違うのだ。
そもそも、魔法使い自体、なるのは難しいことではない。
魔力は誰でも持っている。
貴族や平民、分け隔てなく生まれた時から備わっているものだ。
それらを上手く使いこなし、様々な魔法を扱える人物を魔法使いと呼んでいる。
大雑把に説明すると、魔法使いとはそのような存在だ。
かつて数百年前、国中の魔法使いが皇宮に招集されることがあった。
これまでバラバラだった魔法使いの勢力を、国の名のもとに一纏めに掌握したいという目論見からのことだったが、結果としては宮廷に属し宮廷のために働く代わりに国家の庇護を得た魔法使い一族と、宮廷には属さず、これまで通りに生活を続ける一族と二通りに分かれた。
それも昔のことで、今は属するも属さないも自由なこと。
宮廷の魔法使いたちの中には爵位を得ているものもいれば、宮廷外の魔法使いでも素晴らしい戦績をおさめたことで人々から英雄のように扱われるものもいた。
エリーゼの師匠、シルヴァルド・アルスフィアは後者だ。
そのため、宮廷の魔法使いたちからは一目置かれていたりもするのだ。
「それで、依頼のことなんですけれども、お恥ずかしながら私、皇子殿下のことをあまり知らなくてですね……」
もうしわけないことに、こちらは皇子王子のことは何も知らない。
ダリウスに言われたことだけでは、不安しかないので改めてイヴァンに聞いてみた。
「そうでしたか。アーネスト殿下は、陽気な方です。明るくて、パーティーなどの催し物がお好きなんですよ。魔法鑑定士様の噂を聞いた時から、ずっと気になっていたようでして、貴方様に会えるとなると、きっとお喜びになります」
イヴァンは第二皇子のことを、よくぞ聞いてくれたと言わんばかりに嬉しそうに語ってくれた。
皇子と関わりが深いのだろうか。
ダリウスが言うように、「馬鹿」っぽいような人物だという様子は見えない。
「殿下は、子供の頃はよくここへ来て魔法の練習をしていたんですけれどね、最近ではあまり顔を見せてくださらなくて、我々は少し寂しい思いをしているんです」
「まあ。そうだったのですね」
第二皇子は魔法を学んでいたとは。
辞めてしまったとはいえ、少なからず知識がある人なら、エリーゼのような奇特な存在がいたら気になるのも頷ける。
「今回の贈り物で、魔法に一生懸命だった昔の気持ちを思い出してもらえるといいなぁと思ったんですが、まさか殿下から魔法鑑定士様を呼ぼうと提案されるなんて思いもよらなかったですよ」
イヴァンは、あははと笑った。
一時的なものかもしれないが、これを機に魔法への関心を取り戻してくれたら嬉しいのだろう。
「もしよろしければ一度、魔法鑑定を見せていだけませんか?練習のつもりで、軽い気持ちでいいので……」
「もちろんいいですよ!任せてください」
ドンと胸を張る。
おそらく言われるであろうと思い待っていたのだ。
「エリーゼ様、何を鑑定するのですか?」
「そうですね……今は何も持ち合わせておりませんし、あなた方の中で見て欲しい魔法や魔道具がある方はいませんか?」
などと言っているが、本当は機関に眠っている様々な魔道具や魔法書をあわよくば見ることが出来たら……!と切実な欲望を抑えきれなかっただけだ。
魔法をこよなく愛するエリーゼとしては、こんな機会を逃すわけにはいかない。
「でしたら、ちょうどいいものがあります!」
来た!と内心はしゃぐエリーゼ。
一体どんな素敵な魔法を見せてくれるのかとわくわくしていたが、イヴァンは物を持ってくるのではなく、他の魔法使いを連れてきた。
黒い髪に仏頂面で、手には何か小さな箱を持っている。
「彼は僕の同僚のテレンスさんです。鑑定士様には、先日の遺跡の調査で発見した品を見ていただきたいのですが、よろしいでしょうか?」
「どうも」
テレンスという名の彼に、素っ気なく挨拶をされた。
「遺跡ですか!どちらへ行かれたんです?」
「南東のディステリアだ。遺跡の地下部分を調査したところ、コイツが発見された」
テレンスは箱の中から、なにやら奇妙な色をした石を取り出し、机の上にコトリと置く。
「魔石、ですかね」
青緑色で、半透明。
ごつごつとした荒削りの形は、人間の手が加えられていないように見える。
遺跡には様々な物が眠っている。
その中には秘宝と呼ばれるような魔石や魔法があるのはもちろんのこと、解明できない不思議なものだって転がっていたりする。
この石からは、微かに魔力を感じた。
けれど、通常の魔石を視た時に感じるようなものもはまるで違うようにも視える。
ぐっと顔を近づけて観察していたら、急にテレンスが魔石に向けて魔法を発動させた。
「わっ!」
テレンスの手から放たれた火球が魔石に弾かれ、至近距離で火花を散らす。
「エリーゼ様!」
ルイスが体を引っ張って庇ってくれた。
「見ての通り、こいつに魔法を使うと弾かれる」
「そんなの見たら分かりますよ!危ないじゃないですか!気をつけてください、エリーゼ様が怪我をしてしまうでしょうが!」
ルイスが珍しく声を荒らげてテレンスに抗議した。
エリーゼのことを心から心配してくれているのもあるが、彼らセラフェン公爵家仕える人々としては、エリーゼが怪我をすると、ダリウスが怒り狂って大変なことになるのだ。
万が一怪我をした後にどれほどルイスの仕事が増えるかを思うと、必死になるのも分かる。
「私は大丈夫ですよ。本当、いつも苦労させてごめんなさいね……」
「エリーゼ様が気にする必要はないですよ。次こそは、私が守ってみせますから!」
ぐっと拳を握りしめてルイスは意気込んでいる。
「ちょ、テレンスさん、謝らないと!」
「すまなかった。で、どうだ。何か感じたか」
棒読みの謝罪の後、すぐさま感想を聞かれる。
どちらかと言えば淡々としている方が相手にしやすいのでエリーゼとしては問題ない。
「そうですね、不思議な気は感じましたが……」
何か、引っかかる。
何かがおかしいような……。
「ちょっと失礼しますね」
エリーゼはおもむろに、足元に置いていたトランクから道具を取り出す。
普段はあまり使わないが、今日は特別だ。
「鑑定士様、それは……」
エリーゼが取り出したのは、一枚の紙だ。
ただの紙ではなく、中央には大きく魔法陣が描かれている。
魔法陣を使いたいが、その場に書くことが出来ない際に代用しているものだ。
「魔法陣か?見たことがない奇妙な法式だが」
「それは企業秘密ですよ」
エリーゼはくすりと笑うと、机の上に魔法陣を敷き、さらにその上に先程の魔石を乗せる。
「応えよ、我が名は清廉なる探求者───────」
魔法陣が光りはじめ、周囲に雪の結晶が舞い散る。
「凍てつく光よ、真の姿を我の元へ。氷霜の銀鏡!」
ぱあっと眩しい輝きに、一瞬辺りが包まれる。
「はい、だいたい分かりました」
皆が眩しさから顔を背けたその僅かな時間で、エリーゼは全てを悟った。
この魔石の正体は何か。
どういう意図でこれが出されたのか。
彼らは、エリーゼの何が見たかったのか。
「これ、魔石じゃありませんよね」
イヴァンとルイスが驚いたような顔をエリーゼに向ける。
その中でただ、テレンスの視線だけが、エリーゼを突き刺した。
依頼を受けることを決めたので、魔法研究機関に挨拶に来たのだ。
エリーゼ一人では宮廷の勝手が分からないのでダリウスにも来てもらおうと思ったが、さすが公爵、また今日も忙しいらしく予定が空いていないので、執事のルイスについてきてもらった。
騎士団のことやら領地のことやら、色々追われている様子で、エリーゼと一緒に行きたいと悔しがっていた。
「こちらです、エリーゼ様」
「ごめんなさいね、ルイスさん。わざわざ案内させてしまって……」
「いえ、良いのですよ。エリーゼ様のお手伝いも、公爵様から任せていただいた私の大切な仕事ですから」
ルイスはそう言ってニコニコ笑ってくれるが、宮廷に初めて足を踏み入れるエリーゼは緊張しっぱなしだった。
「ようこそ魔法鑑定士様。お待ちしておりました」
魔法研究機関では様々な魔法使いたちが宮廷のために忙しなく働いている。
その中で、エリーゼを出迎えてくれたのはイヴァンという青年だった。
「初めまして、私が魔法鑑定士のエリーゼ・トワイライトです」
挨拶に来たと言っても、今日は打ち合わせのようなものだ。
当日、どのような働きをすれば良いのか、しっかり頭に入れておかねばとエリーゼは気合いを入れて挨拶をした。
ひとまず、応接室へ通される。
「どうぞこちらにおかけください。しかし、魔法鑑定士様がこれほど若く可愛らしい方だとは思いませんでしたよ」
出た、若く可愛らしい。
どこへ行っても最初はそんなことを言われる。
もちろん、イヴァンに悪気は無いのは分かっているので特に咎めるつもりはない。そもそも、若く子供のような顔のエリーゼはそう言われて当然なのだ。
(なんというか、もう少し威厳のある顔でいたかったな……)
遠い目をしてそんなことを考えてしまう。
「そちらのお付きの方も、どうぞおかけください。もっと気楽にしていただいていいんですよ」
「これはどうも」
イヴァンに促されてルイスもエリーゼの隣に座った。
紅茶の用意をしているイヴァンを横目に、エリーゼはルイスにこっそりささやく。
「ル、ルイスさん……ここ、すっごく緊張するんですけど」
「同感ですね。向こうから視線をすごく感じますよ」
エリーゼとルイスの視線の先には、隣の部屋だ。
壁に遮られているはずのそこから、めちゃくちゃに視線を感じている。
恐らく魔法使いたちが透視しているのだろう。
警戒されているのか、品定めされているのか。
魔力が込められた、力強い視線はルイスもはっきり感じていたようだ。
「魔法鑑定士様が依頼を受けてくれたことで、もう皆さんすごく期待して、楽しみにしているんですよ」
ティーカップを置きながら、イヴァンはそう言った。
「え、そうなんですか?」
向こうの気配からして、とてもそんなようには思えないのだが、と思ったのだが。
「もちろん!なんといったって、あのシルヴァルド様のお弟子さんですからね!」
「あはは……」
輝くようなイヴァンの笑顔に、エリーゼは乾いた笑いしか出なかった。
シルヴァルドの弟子だからといって、師匠やダリウスのような活躍を期待されると少し困る。
エリーゼの得意分野は彼らの戦闘に特化したような魔法とは違うのだ。
そもそも、魔法使い自体、なるのは難しいことではない。
魔力は誰でも持っている。
貴族や平民、分け隔てなく生まれた時から備わっているものだ。
それらを上手く使いこなし、様々な魔法を扱える人物を魔法使いと呼んでいる。
大雑把に説明すると、魔法使いとはそのような存在だ。
かつて数百年前、国中の魔法使いが皇宮に招集されることがあった。
これまでバラバラだった魔法使いの勢力を、国の名のもとに一纏めに掌握したいという目論見からのことだったが、結果としては宮廷に属し宮廷のために働く代わりに国家の庇護を得た魔法使い一族と、宮廷には属さず、これまで通りに生活を続ける一族と二通りに分かれた。
それも昔のことで、今は属するも属さないも自由なこと。
宮廷の魔法使いたちの中には爵位を得ているものもいれば、宮廷外の魔法使いでも素晴らしい戦績をおさめたことで人々から英雄のように扱われるものもいた。
エリーゼの師匠、シルヴァルド・アルスフィアは後者だ。
そのため、宮廷の魔法使いたちからは一目置かれていたりもするのだ。
「それで、依頼のことなんですけれども、お恥ずかしながら私、皇子殿下のことをあまり知らなくてですね……」
もうしわけないことに、こちらは皇子王子のことは何も知らない。
ダリウスに言われたことだけでは、不安しかないので改めてイヴァンに聞いてみた。
「そうでしたか。アーネスト殿下は、陽気な方です。明るくて、パーティーなどの催し物がお好きなんですよ。魔法鑑定士様の噂を聞いた時から、ずっと気になっていたようでして、貴方様に会えるとなると、きっとお喜びになります」
イヴァンは第二皇子のことを、よくぞ聞いてくれたと言わんばかりに嬉しそうに語ってくれた。
皇子と関わりが深いのだろうか。
ダリウスが言うように、「馬鹿」っぽいような人物だという様子は見えない。
「殿下は、子供の頃はよくここへ来て魔法の練習をしていたんですけれどね、最近ではあまり顔を見せてくださらなくて、我々は少し寂しい思いをしているんです」
「まあ。そうだったのですね」
第二皇子は魔法を学んでいたとは。
辞めてしまったとはいえ、少なからず知識がある人なら、エリーゼのような奇特な存在がいたら気になるのも頷ける。
「今回の贈り物で、魔法に一生懸命だった昔の気持ちを思い出してもらえるといいなぁと思ったんですが、まさか殿下から魔法鑑定士様を呼ぼうと提案されるなんて思いもよらなかったですよ」
イヴァンは、あははと笑った。
一時的なものかもしれないが、これを機に魔法への関心を取り戻してくれたら嬉しいのだろう。
「もしよろしければ一度、魔法鑑定を見せていだけませんか?練習のつもりで、軽い気持ちでいいので……」
「もちろんいいですよ!任せてください」
ドンと胸を張る。
おそらく言われるであろうと思い待っていたのだ。
「エリーゼ様、何を鑑定するのですか?」
「そうですね……今は何も持ち合わせておりませんし、あなた方の中で見て欲しい魔法や魔道具がある方はいませんか?」
などと言っているが、本当は機関に眠っている様々な魔道具や魔法書をあわよくば見ることが出来たら……!と切実な欲望を抑えきれなかっただけだ。
魔法をこよなく愛するエリーゼとしては、こんな機会を逃すわけにはいかない。
「でしたら、ちょうどいいものがあります!」
来た!と内心はしゃぐエリーゼ。
一体どんな素敵な魔法を見せてくれるのかとわくわくしていたが、イヴァンは物を持ってくるのではなく、他の魔法使いを連れてきた。
黒い髪に仏頂面で、手には何か小さな箱を持っている。
「彼は僕の同僚のテレンスさんです。鑑定士様には、先日の遺跡の調査で発見した品を見ていただきたいのですが、よろしいでしょうか?」
「どうも」
テレンスという名の彼に、素っ気なく挨拶をされた。
「遺跡ですか!どちらへ行かれたんです?」
「南東のディステリアだ。遺跡の地下部分を調査したところ、コイツが発見された」
テレンスは箱の中から、なにやら奇妙な色をした石を取り出し、机の上にコトリと置く。
「魔石、ですかね」
青緑色で、半透明。
ごつごつとした荒削りの形は、人間の手が加えられていないように見える。
遺跡には様々な物が眠っている。
その中には秘宝と呼ばれるような魔石や魔法があるのはもちろんのこと、解明できない不思議なものだって転がっていたりする。
この石からは、微かに魔力を感じた。
けれど、通常の魔石を視た時に感じるようなものもはまるで違うようにも視える。
ぐっと顔を近づけて観察していたら、急にテレンスが魔石に向けて魔法を発動させた。
「わっ!」
テレンスの手から放たれた火球が魔石に弾かれ、至近距離で火花を散らす。
「エリーゼ様!」
ルイスが体を引っ張って庇ってくれた。
「見ての通り、こいつに魔法を使うと弾かれる」
「そんなの見たら分かりますよ!危ないじゃないですか!気をつけてください、エリーゼ様が怪我をしてしまうでしょうが!」
ルイスが珍しく声を荒らげてテレンスに抗議した。
エリーゼのことを心から心配してくれているのもあるが、彼らセラフェン公爵家仕える人々としては、エリーゼが怪我をすると、ダリウスが怒り狂って大変なことになるのだ。
万が一怪我をした後にどれほどルイスの仕事が増えるかを思うと、必死になるのも分かる。
「私は大丈夫ですよ。本当、いつも苦労させてごめんなさいね……」
「エリーゼ様が気にする必要はないですよ。次こそは、私が守ってみせますから!」
ぐっと拳を握りしめてルイスは意気込んでいる。
「ちょ、テレンスさん、謝らないと!」
「すまなかった。で、どうだ。何か感じたか」
棒読みの謝罪の後、すぐさま感想を聞かれる。
どちらかと言えば淡々としている方が相手にしやすいのでエリーゼとしては問題ない。
「そうですね、不思議な気は感じましたが……」
何か、引っかかる。
何かがおかしいような……。
「ちょっと失礼しますね」
エリーゼはおもむろに、足元に置いていたトランクから道具を取り出す。
普段はあまり使わないが、今日は特別だ。
「鑑定士様、それは……」
エリーゼが取り出したのは、一枚の紙だ。
ただの紙ではなく、中央には大きく魔法陣が描かれている。
魔法陣を使いたいが、その場に書くことが出来ない際に代用しているものだ。
「魔法陣か?見たことがない奇妙な法式だが」
「それは企業秘密ですよ」
エリーゼはくすりと笑うと、机の上に魔法陣を敷き、さらにその上に先程の魔石を乗せる。
「応えよ、我が名は清廉なる探求者───────」
魔法陣が光りはじめ、周囲に雪の結晶が舞い散る。
「凍てつく光よ、真の姿を我の元へ。氷霜の銀鏡!」
ぱあっと眩しい輝きに、一瞬辺りが包まれる。
「はい、だいたい分かりました」
皆が眩しさから顔を背けたその僅かな時間で、エリーゼは全てを悟った。
この魔石の正体は何か。
どういう意図でこれが出されたのか。
彼らは、エリーゼの何が見たかったのか。
「これ、魔石じゃありませんよね」
イヴァンとルイスが驚いたような顔をエリーゼに向ける。
その中でただ、テレンスの視線だけが、エリーゼを突き刺した。
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