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47 本当の姿
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「ぐああああっ!」
彼の体がグングン大きくなり、腕は太く、逞しくなっていく。私よりも低かった身長は、もう越されただろう。
「アリス、ごめん。ユルの変化が落ち着くまで、しばらく辛抱して」
このままですか。
自分で招いたこととはいえ、抱き枕状態なのはツライ。せめて、彼の痛みが軽減できればと、背中をさする。
「そいつに優しくする必要はない」
ラウル様はそう言うけれど、男性と密着しているという異常事態から、少しでも気を逸らしたいのだ。前にはユル、後ろにはラウル様のサンドイッチ状態では、刺激が強すぎてどうにかなってしまう。
「自分のためにしているだけです」
じぶんのため?
このとき、私は閃いた。
今こそ、妄想力が役に立つのでは。
男性だと思うから意識してしまうのだ。病気の大型犬を介抱している設定にしてみたらどうだろうか。柔らかい毛並みは、妄想力でカバーする。
……うん、いける!
その背を撫でる手が、さっきよりも優しい自分に驚く。イメージトレーニングはいいと聞くけれど、本当だ。
やがて、うめき声が収まってくると、フーッと大きく息を吐いて、ユルが脱力した。そこを見計らって、ラウル様が彼を押す。
「彼女から離れろ」
「……いやだと言ったら、どうする?」
その気だるい声は、犬のものではない。いきなり現実に引き戻されて、私の愛犬は消えてしまった。突如、現れた若い男性に驚愕する。
「は、離して!」
驚いて体を押しのけようとしたが、びくともしない。それどころか、さらに強い力で抱きしめてくる。
「いやなら、その腕を切り落とすまでだ」
「それは困る。今回は分が悪い。続きは、また今度にしよう」
パッと拘束が解かれると、ラウル様がすかさず私を引き寄せ、そのまま抱き上げる。ユルと間合いをとると、ふわりと下ろしてくれた。
「え?」
そこには、見覚えのない人がいた。
背が高くて、端正な顔立ちの男性だ。銀の髪は肩くらいまであり、歳は二十代後半に見える。いままで、あの人とハグしていたのか。小太りのおじさんはどこへ行ったのだ。
「次はない。お前は牢屋行きだ」
ラウル様が、剣に手をかけて牽制する。
「いや、ハゥラスは死んだ。もともと、そんな奴は存在しなかったのだが。とにかく、逮捕される謂れはない。ここからも、堂々と出ていくさ」
「させるものか! 僕たちが証人だ!」
「誰が信じる? 姿形だけではなく、年齢すら合わないのだぞ? 頭がおかしくなったと言われるのはお前たちの方だ」
レオンも食らいつくが、それを彼は嘲笑う。ユルの言う通り、同一人物だと証明するのは不可能だ。それでなくとも、恩人を刑務所へ送るなんて、クロードにできるわけがない。
「……確かにそうだな。だが、逃がすわけにはいかない。か弱い女性を傷付けた罪で、貴様を逮捕する」
それは、私のことかな?
話の腰を折るようで気が引けるが、これは自分から怪我をしたようなものなので、逮捕の理由にされるのはかわいそうだ。身柄を押さえたい気持ちは分かるが、でっち上げはよくない。
「あの、この傷は、私のミスです。彼のせいではありません」
「……奴を庇うのか?」
そんなつもりはありません。
冤罪を未然に防ぎたいだけです。
あと、顔が怖いです。
「君は、天使なのか」
ユルが、おかしなことを言い始めた。
すかさず、レオンが前に出る。
「いや。アリスは天然だ。この子の行動に深い意味はないから、勘違いしないほうが身のためだよ」
……レオン君は、誰の味方かな?
「ユル様、その、体は……」
「ああ、心配をかけたな。もう、大丈夫だ」
いや、クロードが聞きたかったのは、そこじゃない。今の姿について、説明して欲しいのだと思う。
「おい、お前の体はどうなっている」
さすがは、ラウル様。
単刀直入に聞いてくれた。
「ん? ああ、これが本当の姿だ」
彼の体がグングン大きくなり、腕は太く、逞しくなっていく。私よりも低かった身長は、もう越されただろう。
「アリス、ごめん。ユルの変化が落ち着くまで、しばらく辛抱して」
このままですか。
自分で招いたこととはいえ、抱き枕状態なのはツライ。せめて、彼の痛みが軽減できればと、背中をさする。
「そいつに優しくする必要はない」
ラウル様はそう言うけれど、男性と密着しているという異常事態から、少しでも気を逸らしたいのだ。前にはユル、後ろにはラウル様のサンドイッチ状態では、刺激が強すぎてどうにかなってしまう。
「自分のためにしているだけです」
じぶんのため?
このとき、私は閃いた。
今こそ、妄想力が役に立つのでは。
男性だと思うから意識してしまうのだ。病気の大型犬を介抱している設定にしてみたらどうだろうか。柔らかい毛並みは、妄想力でカバーする。
……うん、いける!
その背を撫でる手が、さっきよりも優しい自分に驚く。イメージトレーニングはいいと聞くけれど、本当だ。
やがて、うめき声が収まってくると、フーッと大きく息を吐いて、ユルが脱力した。そこを見計らって、ラウル様が彼を押す。
「彼女から離れろ」
「……いやだと言ったら、どうする?」
その気だるい声は、犬のものではない。いきなり現実に引き戻されて、私の愛犬は消えてしまった。突如、現れた若い男性に驚愕する。
「は、離して!」
驚いて体を押しのけようとしたが、びくともしない。それどころか、さらに強い力で抱きしめてくる。
「いやなら、その腕を切り落とすまでだ」
「それは困る。今回は分が悪い。続きは、また今度にしよう」
パッと拘束が解かれると、ラウル様がすかさず私を引き寄せ、そのまま抱き上げる。ユルと間合いをとると、ふわりと下ろしてくれた。
「え?」
そこには、見覚えのない人がいた。
背が高くて、端正な顔立ちの男性だ。銀の髪は肩くらいまであり、歳は二十代後半に見える。いままで、あの人とハグしていたのか。小太りのおじさんはどこへ行ったのだ。
「次はない。お前は牢屋行きだ」
ラウル様が、剣に手をかけて牽制する。
「いや、ハゥラスは死んだ。もともと、そんな奴は存在しなかったのだが。とにかく、逮捕される謂れはない。ここからも、堂々と出ていくさ」
「させるものか! 僕たちが証人だ!」
「誰が信じる? 姿形だけではなく、年齢すら合わないのだぞ? 頭がおかしくなったと言われるのはお前たちの方だ」
レオンも食らいつくが、それを彼は嘲笑う。ユルの言う通り、同一人物だと証明するのは不可能だ。それでなくとも、恩人を刑務所へ送るなんて、クロードにできるわけがない。
「……確かにそうだな。だが、逃がすわけにはいかない。か弱い女性を傷付けた罪で、貴様を逮捕する」
それは、私のことかな?
話の腰を折るようで気が引けるが、これは自分から怪我をしたようなものなので、逮捕の理由にされるのはかわいそうだ。身柄を押さえたい気持ちは分かるが、でっち上げはよくない。
「あの、この傷は、私のミスです。彼のせいではありません」
「……奴を庇うのか?」
そんなつもりはありません。
冤罪を未然に防ぎたいだけです。
あと、顔が怖いです。
「君は、天使なのか」
ユルが、おかしなことを言い始めた。
すかさず、レオンが前に出る。
「いや。アリスは天然だ。この子の行動に深い意味はないから、勘違いしないほうが身のためだよ」
……レオン君は、誰の味方かな?
「ユル様、その、体は……」
「ああ、心配をかけたな。もう、大丈夫だ」
いや、クロードが聞きたかったのは、そこじゃない。今の姿について、説明して欲しいのだと思う。
「おい、お前の体はどうなっている」
さすがは、ラウル様。
単刀直入に聞いてくれた。
「ん? ああ、これが本当の姿だ」
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