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48 ユルの過去(ユル視点)
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「ハゥラスの弔いだ。奴の生まれた経緯を話そう。少し長くなるから、座るといい」
みんなが腰を下ろすと、語り始める。
「俺は、ミラーウ国の王都で生まれた。父には何人も妻がいたが、妻同士の諍いに疲れた母は、田舎の実家に戻って俺を育てた」
母は優しい人だ。ミラーウ国とタエキ国の終戦記念日には、国同士が仲良くすることこそ、お互いの発展につながると説き、平和的な思考を育んでくれた。
しかし、学校で出会った友だちの中には、そう思わない者もいた。そいつは物心付く前から、タエキ国に対する恨言を聞かされて育ったそうだから無理もないが、隣国の人のことを悪魔や鬼だと吹聴していたのは、気分が良くなかった。
「両国の歴史について、誤った情報を拡散していた友だちがいてな、つい、「それ、違うよ」と指摘してしまった」
子どもらしい素直な感想が、俺の人生を大きく狂わせた。
「その日から、正しい知識を与えてあげよう、本当のことを教えてあげるよ、そんな偽物の親切心を押し付けられ、奴の家で思想教育が始まったんだ」
家族はすぐに異変に気付いて、俺を違う学校に通わせたが、そこにも奴らの仲間がいた。身分が高い上に、数人に囲まれて連れていかれるから、逃げられない。
最後の手段として、母は俺を手放すことにした。父へ手紙を書いたら、喜んで引き取ると返事が来たそうだ。小さい時に別れたきりで会っていないから、俺は父の顔が分からない。そういえば、名前も教えてもらえなかった。
「王都の学校へ転校する手続きを取った直後、俺は誘拐された。……タエキ国に報復する計画が持ち上がり、その実行役を、俺は押し付けられたんだ」
今思えば、他の妻たちの仕業だったのかもしれない。
「眠らされている間に呪いをかけられ、膨大な魔力を手に入れたが、その代償として容姿と、若さを失った」
醜い顔で、しかも大人にされたなんて、家族に言ったところで信じてはもらえないだろうから、手紙だけ残して国を出た。奴らを殺すこともできたが、元に戻れなくなることを恐れ、必死で堪えた。
「任務を果たせば、呪いを解くと言われたんだ。かすかな希望を抱いたが、その志は大きく揺れた。タエキ国は、ミラーウ国よりも住みやすく、人々は穏やかで、よそ者の俺にも親切にしてくれたからだ」
悪魔の子も、鬼人もいなかった。
奴らに教えられたことは全て嘘だったのだ。
この優しい人たちを殺さないと国に帰れない。
「そのときの、俺の気持ちは誰にも分からないだろうな」
現実をねじ曲げ、妄言を吐く奴らに、俺は捨て駒にされた。後戻りのできない俺は、良心の呵責に苦しみながらも悪事に手を染めていくが、子どもたちに罪はない。わずかな人数でも救えるならばと、ホームの子どもたちを自国へ送っていた。
「あと少しで、この国を崩壊させられたのに、彼女が止めた。あの時は自暴自棄になったが、今となっては、感謝している」
「……お前は、これからどうする」
逮捕すると言っていたのに、選択肢を俺にくれるのか。俺の反応を試しているのかもしれないが、細かいことはどうでもいい。俺は、心のままに生きる。
「そうだな。俺のせいで被害に遭った者の救済をして、手下たちの犯罪行為をやめさせよう」
「ホームの子どもたちも返せ」
「分かった。ただ、子どもたちについては、本人の意思を確認してからになる。養父母との関係が良ければ、残りたいと言うだろう」
親切な人たちに育てられ、幸せに暮らしていると報告を受けているが、一度、確認に行こう。
「今後、ハゥラス商会の代表はクロードだ。商会の金は自由に使ってくれ。俺はしばらく留守にする」
「待ってください! いきなり代表なんて無理です! どこに、何しに行くんですか!?」
「……いろんな経験をさせてもらったから、奴らにお礼をしなくてはな」
簡単に殺すつもりはない。楽に死なせるものか。ユルとハゥラスの名で根回しをしてあるから、協力者はいる。芋づる式に捕らえてから、一気に始末しよう。
「俺は、三日後に国へ戻る。アリスのおかげで母に会いに行ける。ありがとう。母に君を紹介したい。一緒に来ないか?」
「冗談がすぎるぞ、笑えないな」
冗談ではないので、笑う必要はない。
「俺の呪いを解いただけではなく、必死になって庇ってくれた。こんな女性は他にはいない。アリス、結婚しよう」
彼女の前に跪いて手を取りプロポーズするが、その手をパチンと、あの男に弾かれた。
「それは無理だな。彼女の婚約者は俺だ。横恋慕は控えてくれ」
婚約者くらいいるとは思ったが、こいつか。そういえば、場違いな愛の告白をしていたな。
「……では、やり方を変える。君に相応しい立場を用意しよう。今日はこれで引き上げるが、待っていてくれ。愛しいアリス」
彼女の手に口付けを落として、クロードと部屋を出る。
これから自分のすることは、神の怒りに触れるだろうが、勝手に怒っていればいい。どうせ何も出来やしないのだ。
泣いて助けを乞うても、俺を救わなかった神の赦しなどいらない。せいぜい高いところから、俺の開催するショーを眺めていろ。
みんなが腰を下ろすと、語り始める。
「俺は、ミラーウ国の王都で生まれた。父には何人も妻がいたが、妻同士の諍いに疲れた母は、田舎の実家に戻って俺を育てた」
母は優しい人だ。ミラーウ国とタエキ国の終戦記念日には、国同士が仲良くすることこそ、お互いの発展につながると説き、平和的な思考を育んでくれた。
しかし、学校で出会った友だちの中には、そう思わない者もいた。そいつは物心付く前から、タエキ国に対する恨言を聞かされて育ったそうだから無理もないが、隣国の人のことを悪魔や鬼だと吹聴していたのは、気分が良くなかった。
「両国の歴史について、誤った情報を拡散していた友だちがいてな、つい、「それ、違うよ」と指摘してしまった」
子どもらしい素直な感想が、俺の人生を大きく狂わせた。
「その日から、正しい知識を与えてあげよう、本当のことを教えてあげるよ、そんな偽物の親切心を押し付けられ、奴の家で思想教育が始まったんだ」
家族はすぐに異変に気付いて、俺を違う学校に通わせたが、そこにも奴らの仲間がいた。身分が高い上に、数人に囲まれて連れていかれるから、逃げられない。
最後の手段として、母は俺を手放すことにした。父へ手紙を書いたら、喜んで引き取ると返事が来たそうだ。小さい時に別れたきりで会っていないから、俺は父の顔が分からない。そういえば、名前も教えてもらえなかった。
「王都の学校へ転校する手続きを取った直後、俺は誘拐された。……タエキ国に報復する計画が持ち上がり、その実行役を、俺は押し付けられたんだ」
今思えば、他の妻たちの仕業だったのかもしれない。
「眠らされている間に呪いをかけられ、膨大な魔力を手に入れたが、その代償として容姿と、若さを失った」
醜い顔で、しかも大人にされたなんて、家族に言ったところで信じてはもらえないだろうから、手紙だけ残して国を出た。奴らを殺すこともできたが、元に戻れなくなることを恐れ、必死で堪えた。
「任務を果たせば、呪いを解くと言われたんだ。かすかな希望を抱いたが、その志は大きく揺れた。タエキ国は、ミラーウ国よりも住みやすく、人々は穏やかで、よそ者の俺にも親切にしてくれたからだ」
悪魔の子も、鬼人もいなかった。
奴らに教えられたことは全て嘘だったのだ。
この優しい人たちを殺さないと国に帰れない。
「そのときの、俺の気持ちは誰にも分からないだろうな」
現実をねじ曲げ、妄言を吐く奴らに、俺は捨て駒にされた。後戻りのできない俺は、良心の呵責に苦しみながらも悪事に手を染めていくが、子どもたちに罪はない。わずかな人数でも救えるならばと、ホームの子どもたちを自国へ送っていた。
「あと少しで、この国を崩壊させられたのに、彼女が止めた。あの時は自暴自棄になったが、今となっては、感謝している」
「……お前は、これからどうする」
逮捕すると言っていたのに、選択肢を俺にくれるのか。俺の反応を試しているのかもしれないが、細かいことはどうでもいい。俺は、心のままに生きる。
「そうだな。俺のせいで被害に遭った者の救済をして、手下たちの犯罪行為をやめさせよう」
「ホームの子どもたちも返せ」
「分かった。ただ、子どもたちについては、本人の意思を確認してからになる。養父母との関係が良ければ、残りたいと言うだろう」
親切な人たちに育てられ、幸せに暮らしていると報告を受けているが、一度、確認に行こう。
「今後、ハゥラス商会の代表はクロードだ。商会の金は自由に使ってくれ。俺はしばらく留守にする」
「待ってください! いきなり代表なんて無理です! どこに、何しに行くんですか!?」
「……いろんな経験をさせてもらったから、奴らにお礼をしなくてはな」
簡単に殺すつもりはない。楽に死なせるものか。ユルとハゥラスの名で根回しをしてあるから、協力者はいる。芋づる式に捕らえてから、一気に始末しよう。
「俺は、三日後に国へ戻る。アリスのおかげで母に会いに行ける。ありがとう。母に君を紹介したい。一緒に来ないか?」
「冗談がすぎるぞ、笑えないな」
冗談ではないので、笑う必要はない。
「俺の呪いを解いただけではなく、必死になって庇ってくれた。こんな女性は他にはいない。アリス、結婚しよう」
彼女の前に跪いて手を取りプロポーズするが、その手をパチンと、あの男に弾かれた。
「それは無理だな。彼女の婚約者は俺だ。横恋慕は控えてくれ」
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「……では、やり方を変える。君に相応しい立場を用意しよう。今日はこれで引き上げるが、待っていてくれ。愛しいアリス」
彼女の手に口付けを落として、クロードと部屋を出る。
これから自分のすることは、神の怒りに触れるだろうが、勝手に怒っていればいい。どうせ何も出来やしないのだ。
泣いて助けを乞うても、俺を救わなかった神の赦しなどいらない。せいぜい高いところから、俺の開催するショーを眺めていろ。
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