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42 ハゥラスの心
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「退避ーっ!」
ラウル様の声が響き渡ると、ドア付近にいた人たちは一斉に駆け出した。「ホテルから出るんだ!」「みんな逃げろ!」と各部屋を回る。ラウル様も「レオン! アリス殿を守れ!」と言って、宿泊客の避難誘導に向かった。
「言われなくても! さあ、僕たちも行くよ!」
レオンがそう言うけれど、私は動くことが出来なかった。これだけの力が臨界点を突破したら、大爆発を起こすだろう。
おそらく、今から逃げても間に合わない。
私の脳裏には、街で出会った人たちや、先ほどの賑やかな光景が甦る。無関係の人たちを、巻き込むわけにはいかない。なんとかしなくては。
「何をしているんだ!」
レオンが急かし、私の手を引く様子を、ニタニタとハゥラスが見ている。その顔は、意地悪く憎らしいのに、なぜか泣きそうな顔にも見えた。
……誰かに似ている?
その面差しが、呪いによって心のままに動けなかったであろう、ラウル様のイメージと重なったとき、私の中で、一つの考えが閃いた。
彼も、そうなのかもしれない。
見た目や言動で分かりづらかったけれど、ハゥラスから発せられる感情は、深い悲しみだったように思う。どれだけ悪態をついていても、その根底にあるのは、怒りや憎しみではない。悲哀だ。
「……何が、そんなに悲しいのですか?」
「っ!?」
「あなたの悲しみを、私に分けてください」
予想もしない言葉に驚いたのか、ハゥラスは目を見開いたままだ。きっと、考え事をしているのだろう、魔力の圧縮スピードが明らかに落ちている。
頭の中で言葉を選びながら、私は彼との距離を詰めて行く。
「正気か!?」
レオンは狼狽えるが、好機を逃すわけにはいかない。集中を切らさないように、ハゥラスだけを視界に入れる。
「……復讐は、ご自身が望んだことですか? もしかしたら、違うのではないですか?」
「そ、そんなこと、貴様に言う義務はない!」
動揺しているのを見ると、当たらずとも遠からずといったところだろうか。ハゥラスを追い詰めたのは、何だろう。
「心を強く持ってください。あなたの人生は、あなたが決めて良いのですよ。私はあなたの味方になり、友となりましょう。もう、一人で苦しまなくて良いのです。どうか、振り上げた拳を下ろしてはもらえないでしょうか」
私の言葉が、少しは届いたのだろうか。彼は俯き、黙ってしまった。
「もうやめてくれ!」
大人しくなったハゥラスを見て、逃げるなら今しかないと判断したのか、レオンが私の腕を強く引く。
「待って!」
その会話を聞いて、彼は絶望の色を濃くした顔を上げた。
「……行くのか。お前も俺を見捨てるのだな。先ほどの言葉は嘘だったのか。……少しでも信じた、俺が愚かだった」
そんなつまりはないのに!
しかし、精神的に不安定なハゥラスは、そう受け取ってしまった。期待させておいて裏切るなんて、人として最悪だ。せっかく開きかけた彼の心を閉ざすだけではなく、さらに傷付けた。
もう、何を言っても信じてもらえないだろう。
彼の目が赤く光り、再び魔力の圧縮が行われていく。その動きに迷いはない。ハゥラスは今度こそ、私たちを道連れにして死ぬつもりだ。
「やめて!」
動こうとしない私を抱き上げるようと、レオンが手を離した瞬間、この足は、ハゥラスに向かって走り出していた。
ラウル様の声が響き渡ると、ドア付近にいた人たちは一斉に駆け出した。「ホテルから出るんだ!」「みんな逃げろ!」と各部屋を回る。ラウル様も「レオン! アリス殿を守れ!」と言って、宿泊客の避難誘導に向かった。
「言われなくても! さあ、僕たちも行くよ!」
レオンがそう言うけれど、私は動くことが出来なかった。これだけの力が臨界点を突破したら、大爆発を起こすだろう。
おそらく、今から逃げても間に合わない。
私の脳裏には、街で出会った人たちや、先ほどの賑やかな光景が甦る。無関係の人たちを、巻き込むわけにはいかない。なんとかしなくては。
「何をしているんだ!」
レオンが急かし、私の手を引く様子を、ニタニタとハゥラスが見ている。その顔は、意地悪く憎らしいのに、なぜか泣きそうな顔にも見えた。
……誰かに似ている?
その面差しが、呪いによって心のままに動けなかったであろう、ラウル様のイメージと重なったとき、私の中で、一つの考えが閃いた。
彼も、そうなのかもしれない。
見た目や言動で分かりづらかったけれど、ハゥラスから発せられる感情は、深い悲しみだったように思う。どれだけ悪態をついていても、その根底にあるのは、怒りや憎しみではない。悲哀だ。
「……何が、そんなに悲しいのですか?」
「っ!?」
「あなたの悲しみを、私に分けてください」
予想もしない言葉に驚いたのか、ハゥラスは目を見開いたままだ。きっと、考え事をしているのだろう、魔力の圧縮スピードが明らかに落ちている。
頭の中で言葉を選びながら、私は彼との距離を詰めて行く。
「正気か!?」
レオンは狼狽えるが、好機を逃すわけにはいかない。集中を切らさないように、ハゥラスだけを視界に入れる。
「……復讐は、ご自身が望んだことですか? もしかしたら、違うのではないですか?」
「そ、そんなこと、貴様に言う義務はない!」
動揺しているのを見ると、当たらずとも遠からずといったところだろうか。ハゥラスを追い詰めたのは、何だろう。
「心を強く持ってください。あなたの人生は、あなたが決めて良いのですよ。私はあなたの味方になり、友となりましょう。もう、一人で苦しまなくて良いのです。どうか、振り上げた拳を下ろしてはもらえないでしょうか」
私の言葉が、少しは届いたのだろうか。彼は俯き、黙ってしまった。
「もうやめてくれ!」
大人しくなったハゥラスを見て、逃げるなら今しかないと判断したのか、レオンが私の腕を強く引く。
「待って!」
その会話を聞いて、彼は絶望の色を濃くした顔を上げた。
「……行くのか。お前も俺を見捨てるのだな。先ほどの言葉は嘘だったのか。……少しでも信じた、俺が愚かだった」
そんなつまりはないのに!
しかし、精神的に不安定なハゥラスは、そう受け取ってしまった。期待させておいて裏切るなんて、人として最悪だ。せっかく開きかけた彼の心を閉ざすだけではなく、さらに傷付けた。
もう、何を言っても信じてもらえないだろう。
彼の目が赤く光り、再び魔力の圧縮が行われていく。その動きに迷いはない。ハゥラスは今度こそ、私たちを道連れにして死ぬつもりだ。
「やめて!」
動こうとしない私を抱き上げるようと、レオンが手を離した瞬間、この足は、ハゥラスに向かって走り出していた。
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