41 / 65
41 生まれた家
しおりを挟む
大会参加者であったみなさまは帰途につき、街は落ち着きを取り戻しつつある。しかし、まだ私には、やるべき事が残っていた。目の前にいる、怒れるおじさんと話をつけなければならないのだ。
立ち上がり、ハゥラスを見つめる。
街での逮捕劇の黒幕だと彼は暴露しているし、騎士団と自警団が周りを固めているのだから、逃げられるわけがない。
ならば、少しでも平和的に終われないだろうか。彼が不信感を抱くのは当然だが、ラウル様たちなら、人道的に扱ってくれるはずだ。無駄な抵抗をして、余計な苦しみや痛みを味わうことはない。
「投降してはいかがですか?」
彼は、侮蔑の眼を向ける。
「はっ! 捕まったら殺されると分かっていて、従うバカはおるまい。これだから、お嬢さん育ちは困る」
何を言う。ハゥラスがどんな人生を歩んできたか知らないが、お嬢様には、お嬢様の苦労があるのだ。
「……あなたの仰る通りです。しかし、出自というものは、本人の努力ではどうにもなりません。……あなたも、そうではありませんか? 生まれた家は選べませんもの」
「な、何を小癪な! 分かったような口を聞くな!」
図星を突かれたのか、彼は顔を真っ赤にして怒鳴り声をあげる。彼の心に寄り添おうとしたが、私は失敗したらしい。
「アリス殿を愚弄するな。彼女の優しさが、お前には分からないのか」
ラウル様の言葉に、ハゥラスは何かを思い出し、狂気を帯びた高笑いを轟かせた。
「ははははは! そうか、お前は『剣の魔人』の子孫だったな! 自ら殺されに来るとは、愚かな娘だ! 先祖の犯した罪は、お前が償え!」
なぜに。
生まれた家の業を背負わされ、すでにいっぱいいっぱいなのに、これ以上、私の仕事を増やしてくれるな。
それと、ご先祖様の行った所業の数々は、本人の死をもって不問にしてくれないだろうか。数多のご先祖様がなさった事を全て押し付けられたら、私は生まれただけで大罪人になってしまうではないか。
ふと、彼の発言に激しい違和感を覚えた。この国の人は、ギルツ家の英雄を『剣の魔人』と呼ぶことは、絶対にない。おそらく、ハゥラスは外国人だ。
「あなた、どこの国から来たの?」
ハゥラスは、ニタリと笑うと、魔力を一点に集中させ、強制的に圧縮し始めた。その膨大な魔力は圧巻で、私でも何をしているか分かる。
「キィーン」という耳鳴りのような音とともに、周囲の空気が歪んでいくのを感じた。その場の全員が彼の思惑を察し、信じられないと目を合わせた刹那、ラウル様が叫んだ。
「退避ーっ!」
立ち上がり、ハゥラスを見つめる。
街での逮捕劇の黒幕だと彼は暴露しているし、騎士団と自警団が周りを固めているのだから、逃げられるわけがない。
ならば、少しでも平和的に終われないだろうか。彼が不信感を抱くのは当然だが、ラウル様たちなら、人道的に扱ってくれるはずだ。無駄な抵抗をして、余計な苦しみや痛みを味わうことはない。
「投降してはいかがですか?」
彼は、侮蔑の眼を向ける。
「はっ! 捕まったら殺されると分かっていて、従うバカはおるまい。これだから、お嬢さん育ちは困る」
何を言う。ハゥラスがどんな人生を歩んできたか知らないが、お嬢様には、お嬢様の苦労があるのだ。
「……あなたの仰る通りです。しかし、出自というものは、本人の努力ではどうにもなりません。……あなたも、そうではありませんか? 生まれた家は選べませんもの」
「な、何を小癪な! 分かったような口を聞くな!」
図星を突かれたのか、彼は顔を真っ赤にして怒鳴り声をあげる。彼の心に寄り添おうとしたが、私は失敗したらしい。
「アリス殿を愚弄するな。彼女の優しさが、お前には分からないのか」
ラウル様の言葉に、ハゥラスは何かを思い出し、狂気を帯びた高笑いを轟かせた。
「ははははは! そうか、お前は『剣の魔人』の子孫だったな! 自ら殺されに来るとは、愚かな娘だ! 先祖の犯した罪は、お前が償え!」
なぜに。
生まれた家の業を背負わされ、すでにいっぱいいっぱいなのに、これ以上、私の仕事を増やしてくれるな。
それと、ご先祖様の行った所業の数々は、本人の死をもって不問にしてくれないだろうか。数多のご先祖様がなさった事を全て押し付けられたら、私は生まれただけで大罪人になってしまうではないか。
ふと、彼の発言に激しい違和感を覚えた。この国の人は、ギルツ家の英雄を『剣の魔人』と呼ぶことは、絶対にない。おそらく、ハゥラスは外国人だ。
「あなた、どこの国から来たの?」
ハゥラスは、ニタリと笑うと、魔力を一点に集中させ、強制的に圧縮し始めた。その膨大な魔力は圧巻で、私でも何をしているか分かる。
「キィーン」という耳鳴りのような音とともに、周囲の空気が歪んでいくのを感じた。その場の全員が彼の思惑を察し、信じられないと目を合わせた刹那、ラウル様が叫んだ。
「退避ーっ!」
41
お気に入りに追加
570
あなたにおすすめの小説

愛しの婚約者に「学園では距離を置こう」と言われたので、婚約破棄を画策してみた
迦陵 れん
恋愛
「学園にいる間は、君と距離をおこうと思う」
待ちに待った定例茶会のその席で、私の大好きな婚約者は唐突にその言葉を口にした。
「え……あの、どうし……て?」
あまりの衝撃に、上手く言葉が紡げない。
彼にそんなことを言われるなんて、夢にも思っていなかったから。
ーーーーーーーーーーーーー
侯爵令嬢ユリアの婚約は、仲の良い親同士によって、幼い頃に結ばれたものだった。
吊り目でキツい雰囲気を持つユリアと、女性からの憧れの的である婚約者。
自分たちが不似合いであることなど、とうに分かっていることだった。
だから──学園にいる間と言わず、彼を自分から解放してあげようと思ったのだ。
婚約者への淡い恋心は、心の奥底へとしまいこんで……。
※基本的にゆるふわ設定です。
※プロット苦手派なので、話が右往左往するかもしれません。→故に、タグは徐々に追加していきます
※感想に返信してると執筆が進まないという鈍足仕様のため、返事は期待しないで貰えるとありがたいです。
※仕事が休みの日のみの執筆になるため、毎日は更新できません……(書きだめできた時だけします)ご了承くださいませ。
※※しれっと短編から長編に変更しました。(だって絶対終わらないと思ったから!)

【完結】公爵令嬢は、婚約破棄をあっさり受け入れる
櫻井みこと
恋愛
突然、婚約破棄を言い渡された。
彼は社交辞令を真に受けて、自分が愛されていて、そのために私が必死に努力をしているのだと勘違いしていたらしい。
だから泣いて縋ると思っていたらしいですが、それはあり得ません。
私が王妃になるのは確定。その相手がたまたま、あなただった。それだけです。
またまた軽率に短編。
一話…マリエ視点
二話…婚約者視点
三話…子爵令嬢視点
四話…第二王子視点
五話…マリエ視点
六話…兄視点
※全六話で完結しました。馬鹿すぎる王子にご注意ください。
スピンオフ始めました。
「追放された聖女が隣国の腹黒公爵を頼ったら、国がなくなってしまいました」連載中!

余命3ヶ月を言われたので静かに余生を送ろうと思ったのですが…大好きな殿下に溺愛されました
Karamimi
恋愛
公爵令嬢のセイラは、ずっと孤独の中生きてきた。自分に興味のない父や婚約者で王太子のロイド。
特に王宮での居場所はなく、教育係には嫌味を言われ、王宮使用人たちからは、心無い噂を流される始末。さらに婚約者のロイドの傍には、美しくて人当たりの良い侯爵令嬢のミーアがいた。
ロイドを愛していたセイラは、辛くて苦しくて、胸が張り裂けそうになるのを必死に耐えていたのだ。
毎日息苦しい生活を強いられているせいか、最近ずっと調子が悪い。でもそれはきっと、気のせいだろう、そう思っていたセイラだが、ある日吐血してしまう。
診察の結果、母と同じ不治の病に掛かっており、余命3ヶ月と宣言されてしまったのだ。
もう残りわずかしか生きられないのなら、愛するロイドを解放してあげよう。そして自分は、屋敷でひっそりと最期を迎えよう。そう考えていたセイラ。
一方セイラが余命宣告を受けた事を知ったロイドは…
※両想いなのにすれ違っていた2人が、幸せになるまでのお話しです。
よろしくお願いいたします。
他サイトでも同時投稿中です。

裏切られた令嬢は死を選んだ。そして……
希猫 ゆうみ
恋愛
スチュアート伯爵家の令嬢レーラは裏切られた。
幼馴染に婚約者を奪われたのだ。
レーラの17才の誕生日に、二人はキスをして、そして言った。
「一度きりの人生だから、本当に愛せる人と結婚するよ」
「ごめんねレーラ。ロバートを愛してるの」
誕生日に婚約破棄されたレーラは絶望し、生きる事を諦めてしまう。
けれど死にきれず、再び目覚めた時、新しい人生が幕を開けた。
レーラに許しを請い、縋る裏切り者たち。
心を鎖し生きて行かざるを得ないレーラの前に、一人の求婚者が現れる。
強く気高く冷酷に。
裏切り者たちが落ちぶれていく様を眺めながら、レーラは愛と幸せを手に入れていく。
☆完結しました。ありがとうございました!☆
(ホットランキング8位ありがとうございます!(9/10、19:30現在))
(ホットランキング1位~9位~2位ありがとうございます!(9/6~9))
(ホットランキング1位!?ありがとうございます!!(9/5、13:20現在))
(ホットランキング9位ありがとうございます!(9/4、18:30現在))
拝啓、婚約者様。ごきげんよう。そしてさようなら
みおな
恋愛
子爵令嬢のクロエ・ルーベンスは今日も《おひとり様》で夜会に参加する。
公爵家を継ぐ予定の婚約者がいながら、だ。
クロエの婚約者、クライヴ・コンラッド公爵令息は、婚約が決まった時から一度も婚約者としての義務を果たしていない。
クライヴは、ずっと義妹のファンティーヌを優先するからだ。
「ファンティーヌが熱を出したから、出かけられない」
「ファンティーヌが行きたいと言っているから、エスコートは出来ない」
「ファンティーヌが」
「ファンティーヌが」
だからクロエは、学園卒業式のパーティーで顔を合わせたクライヴに、にっこりと微笑んで伝える。
「私のことはお気になさらず」

手放したくない理由
ねむたん
恋愛
公爵令嬢エリスと王太子アドリアンの婚約は、互いに「務め」として受け入れたものだった。貴族として、国のために結ばれる。
しかし、王太子が何かと幼馴染のレイナを優先し、社交界でも「王太子妃にふさわしいのは彼女では?」と囁かれる中、エリスは淡々と「それならば、私は不要では?」と考える。そして、自ら婚約解消を申し出る。
話し合いの場で、王妃が「辛い思いをさせてしまってごめんなさいね」と声をかけるが、エリスは本当にまったく辛くなかったため、きょとんとする。その様子を見た周囲は困惑し、
「……王太子への愛は芽生えていなかったのですか?」
と問うが、エリスは「愛?」と首を傾げる。
同時に、婚約解消に動揺したアドリアンにも、側近たちが「殿下はレイナ嬢に恋をしていたのでは?」と問いかける。しかし、彼もまた「恋……?」と首を傾げる。
大人たちは、その光景を見て、教育の偏りを大いに後悔することになる。


婚約破棄された公爵令嬢は本当はその王国にとってなくてはならない存在でしたけど、もう遅いです
神崎 ルナ
恋愛
ロザンナ・ブリオッシュ公爵令嬢は美形揃いの公爵家の中でも比較的地味な部類に入る。茶色の髪にこげ茶の瞳はおとなしめな外見に拍車をかけて見えた。そのせいか、婚約者のこのトレント王国の王太子クルクスル殿下には最初から塩対応されていた。
そんな折り、王太子に近付く女性がいるという。
アリサ・タンザイト子爵令嬢は、貴族令嬢とは思えないほどその親しみやすさで王太子の心を捕らえてしまったようなのだ。
仲がよさげな二人の様子を見たロザンナは少しばかり不安を感じたが。
(まさか、ね)
だが、その不安は的中し、ロザンナは王太子に婚約破棄を告げられてしまう。
――実は、婚約破棄され追放された地味な令嬢はとても重要な役目をになっていたのに。
(※誤字報告ありがとうございます)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる