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36 回想・クロード③(ラウル視点)
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会場や合宿所を隅から隅まで探しても、クロードは見当たらない。俺は、運営に聞いた。
「すみません! クロードはいますか!?」
「ああ、彼か。今回は来ていないね。期待していたんだけど、残念だよ」
そんな。
懸命に這いあがろうとしていた彼が諦めるなんて、絶対におかしい。何かあったに違いない。今すぐにでも探しに行きたかったが、仲間に止められた。
「落ち着け。大会を投げ出して探しに行っても、クロードは喜ばないぞ」
その通りだ。
頭では理解できたから残ったけれど、心を制御できるほど、俺は大人じゃない。集中できなかった俺は、精彩を欠いたまま合宿を終えた。
ダメかもしれない。
絶望的な気持ちを抱えながらも、その足で彼の家へ向かった。ここからそんなに遠くないし、学園も長期休暇中だから、数日くらい帰宅が遅れても問題はない。
しかし、丸一日かけてたどり着いたクロードの家には、知らない人が住んでいた。本人から聞いた住所だから、ここで間違いないのに。
「そいつは、前の住人だよ。行き先? 知らないね」
クロードは引越していた。だから、大会の通知も本人に届かなかったのか。諦めきれない俺は、周りの人に聞き込みをした。
「仕事場なら、分かるよ」
働いている店を教えてもらって、今度こそ会えると期待して行ったが、そこにも彼の姿はなかった。「クロード? クビにしたよ」と店主は言う。なぜだと問い詰める俺に、困った様子で教えてくれた。
「あいつ、クスリに手を出しやがった。最初は俺も気付かなかったんだがな、様子がおかしくなって分かったんだ。近付くと、お前も巻き込まれるぞ。悪いことは言わねえ、縁を切れ」
「……そんな」
嘘だ。
あんなに頑張っていたのに、クロードが自分から人生を投げ捨てるなんて信じられない。どこに行けば会えるかを聞いても、知らないの一点張りだった。そこら中の人に尋ねて歩いたが、なかなか情報は得られなかった。
捜索は三日目を迎えた。手持ちの金も少なくなってきて、心許ない。帰りの馬車代がギリギリ出せるくらいだ。探せるのは、午前中までだろう。
とはいえ、当てなどない。
トボトボ街を歩いていると、「やめろ! 来るな!」「誰か! 助けてくれ!」と叫び声が聞こえた。
誰かが助けを求めている。
声の聞こえた方へ走って行くと、ボロボロの服を着た男が、壁に向かって叫んでいた。誰にも襲われていない。彼は一人で泣き狂っている。
「あんた危ないよ。もっと離れな、襲われるよ」
近くにいた女性が親切に声をかけてくれたが、俺には従うことが出来なかった。涙が溢れて止まらない。
「クロード!」
ありったけの力を込めて、友の名前を呼んだ。一瞬、ピクリと反応したように見えたが、再び彼は妄想と戦い始めた。
「どうして、こんなことになったんだ!」
泣きながら駆け寄り、クロードを抱きしめた。驚いた彼は激しく暴れたが、離すまいと必死になって力を込めた。
「正気に戻ってくれ! 俺だ! 分かるか! ラウルだ!」
「やめろおおおお! はなせええええ!」
どれだけ殴られても、蹴られても俺は諦めずに話しかけた。なんで、どうして、とても納得なんてできっこない。誰が、クロードをこんな姿にしたんだ。
ごめん、助けられなくて。
やがて、クロードは力尽き、その場にしゃがみ込んだ。ひとまずは落ち着いたようだ。でも、これからどうすればいいのか、俺には分からない。
なぜ、頼ってくれなかったのだ。いや、俺でなくてもいい。恩人と慕うハゥラスさんに相談したら、もっと違う未来があっただろうに。
もしかして、頼れなかったのか。
きっと自分を責めただろうし、クスリでボロボロになった姿も、見せたくなかっただろう。気持ちは分かるが、それでも俺は、お前に頼って欲しかった。
「何の騒ぎだ」
誰かが呼んでくれたのか、自警団が来てくれた。事情を話すと、悲痛な面持ちになり「またか」と呟いた。どうやら、ここ最近、魔薬の流通が活発になっていて、多くの若者が被害に遭っているそうだ。
「病院に運んでやる。君は友だちか。この子に家族は?」
「いません」
「……そうか。この子、貯金はあるか? 病院代が払えないと門前払いを食うぞ」
おそらく、家賃が払えなくなったクロードは、路上生活を余儀なくされたのだろう。貯金なんて、あるわけがない。
「僕が、僕が代わりに治療費を出します! だから、病院へ連れて行ってください!」
「……分かった。ついてこい」
こうして、クロードは病院で治療を受けることができた。医師によると、魔薬によって蝕まれた体は、二度と元には戻らないそうだ。しかも、体からクスリを抜くのは大変で、かなりの苦しみを伴うらしい。話を聞きながら、俺は泣くことしか出来なかった。
「お前のせいじゃない。そう気を落とすな」
自警団のお兄さんが、俺を心配して付き添ってくれた。病院を出て、帰りの馬車を逃したことを話すと、泊めてくれると言ってくれたので、お言葉に甘えることにする。
「でも、俺が、マメに連絡を取っていたら、助けられたかもしれないのに」
「お前は助けただろう。クロードは生きている。十分だ。俺たちが、売人を探して仇を打ってやる」
「ありがとうございます」
お兄さんの言葉が俺の心に染み込んで、これからのことを考える力になった。
*~*~*~*~
この日から、俺には二つの目標が出来た。
アリス殿の婚約者になることと、クロードが元気になるようにサポートすることだ。
俺が金を出していると知ったら気を遣うだろうから、病院側には黙っていてもらった。弱った状態の自分を見られたくはないだろうから、見舞いには行かない。生活再建のための資金も用立てたが、国からの支援金として渡してもらった。
三年に及ぶ試練がようやく終わり、何とか大会を優勝することができたが、クロードに会いに行って良いものか迷っているうちに、敗者復活戦になってしまった。
これでは合わせる顔がない。
泣きたくなる気持ちを堪えて、俺は一人、雑踏に紛れていた。
「すみません! クロードはいますか!?」
「ああ、彼か。今回は来ていないね。期待していたんだけど、残念だよ」
そんな。
懸命に這いあがろうとしていた彼が諦めるなんて、絶対におかしい。何かあったに違いない。今すぐにでも探しに行きたかったが、仲間に止められた。
「落ち着け。大会を投げ出して探しに行っても、クロードは喜ばないぞ」
その通りだ。
頭では理解できたから残ったけれど、心を制御できるほど、俺は大人じゃない。集中できなかった俺は、精彩を欠いたまま合宿を終えた。
ダメかもしれない。
絶望的な気持ちを抱えながらも、その足で彼の家へ向かった。ここからそんなに遠くないし、学園も長期休暇中だから、数日くらい帰宅が遅れても問題はない。
しかし、丸一日かけてたどり着いたクロードの家には、知らない人が住んでいた。本人から聞いた住所だから、ここで間違いないのに。
「そいつは、前の住人だよ。行き先? 知らないね」
クロードは引越していた。だから、大会の通知も本人に届かなかったのか。諦めきれない俺は、周りの人に聞き込みをした。
「仕事場なら、分かるよ」
働いている店を教えてもらって、今度こそ会えると期待して行ったが、そこにも彼の姿はなかった。「クロード? クビにしたよ」と店主は言う。なぜだと問い詰める俺に、困った様子で教えてくれた。
「あいつ、クスリに手を出しやがった。最初は俺も気付かなかったんだがな、様子がおかしくなって分かったんだ。近付くと、お前も巻き込まれるぞ。悪いことは言わねえ、縁を切れ」
「……そんな」
嘘だ。
あんなに頑張っていたのに、クロードが自分から人生を投げ捨てるなんて信じられない。どこに行けば会えるかを聞いても、知らないの一点張りだった。そこら中の人に尋ねて歩いたが、なかなか情報は得られなかった。
捜索は三日目を迎えた。手持ちの金も少なくなってきて、心許ない。帰りの馬車代がギリギリ出せるくらいだ。探せるのは、午前中までだろう。
とはいえ、当てなどない。
トボトボ街を歩いていると、「やめろ! 来るな!」「誰か! 助けてくれ!」と叫び声が聞こえた。
誰かが助けを求めている。
声の聞こえた方へ走って行くと、ボロボロの服を着た男が、壁に向かって叫んでいた。誰にも襲われていない。彼は一人で泣き狂っている。
「あんた危ないよ。もっと離れな、襲われるよ」
近くにいた女性が親切に声をかけてくれたが、俺には従うことが出来なかった。涙が溢れて止まらない。
「クロード!」
ありったけの力を込めて、友の名前を呼んだ。一瞬、ピクリと反応したように見えたが、再び彼は妄想と戦い始めた。
「どうして、こんなことになったんだ!」
泣きながら駆け寄り、クロードを抱きしめた。驚いた彼は激しく暴れたが、離すまいと必死になって力を込めた。
「正気に戻ってくれ! 俺だ! 分かるか! ラウルだ!」
「やめろおおおお! はなせええええ!」
どれだけ殴られても、蹴られても俺は諦めずに話しかけた。なんで、どうして、とても納得なんてできっこない。誰が、クロードをこんな姿にしたんだ。
ごめん、助けられなくて。
やがて、クロードは力尽き、その場にしゃがみ込んだ。ひとまずは落ち着いたようだ。でも、これからどうすればいいのか、俺には分からない。
なぜ、頼ってくれなかったのだ。いや、俺でなくてもいい。恩人と慕うハゥラスさんに相談したら、もっと違う未来があっただろうに。
もしかして、頼れなかったのか。
きっと自分を責めただろうし、クスリでボロボロになった姿も、見せたくなかっただろう。気持ちは分かるが、それでも俺は、お前に頼って欲しかった。
「何の騒ぎだ」
誰かが呼んでくれたのか、自警団が来てくれた。事情を話すと、悲痛な面持ちになり「またか」と呟いた。どうやら、ここ最近、魔薬の流通が活発になっていて、多くの若者が被害に遭っているそうだ。
「病院に運んでやる。君は友だちか。この子に家族は?」
「いません」
「……そうか。この子、貯金はあるか? 病院代が払えないと門前払いを食うぞ」
おそらく、家賃が払えなくなったクロードは、路上生活を余儀なくされたのだろう。貯金なんて、あるわけがない。
「僕が、僕が代わりに治療費を出します! だから、病院へ連れて行ってください!」
「……分かった。ついてこい」
こうして、クロードは病院で治療を受けることができた。医師によると、魔薬によって蝕まれた体は、二度と元には戻らないそうだ。しかも、体からクスリを抜くのは大変で、かなりの苦しみを伴うらしい。話を聞きながら、俺は泣くことしか出来なかった。
「お前のせいじゃない。そう気を落とすな」
自警団のお兄さんが、俺を心配して付き添ってくれた。病院を出て、帰りの馬車を逃したことを話すと、泊めてくれると言ってくれたので、お言葉に甘えることにする。
「でも、俺が、マメに連絡を取っていたら、助けられたかもしれないのに」
「お前は助けただろう。クロードは生きている。十分だ。俺たちが、売人を探して仇を打ってやる」
「ありがとうございます」
お兄さんの言葉が俺の心に染み込んで、これからのことを考える力になった。
*~*~*~*~
この日から、俺には二つの目標が出来た。
アリス殿の婚約者になることと、クロードが元気になるようにサポートすることだ。
俺が金を出していると知ったら気を遣うだろうから、病院側には黙っていてもらった。弱った状態の自分を見られたくはないだろうから、見舞いには行かない。生活再建のための資金も用立てたが、国からの支援金として渡してもらった。
三年に及ぶ試練がようやく終わり、何とか大会を優勝することができたが、クロードに会いに行って良いものか迷っているうちに、敗者復活戦になってしまった。
これでは合わせる顔がない。
泣きたくなる気持ちを堪えて、俺は一人、雑踏に紛れていた。
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