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30 敗者復活戦とは(レオン視点)
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「え、と。私が、ラウル様との婚約に異議を申し立てたため、再度、婿選びを行うと書いてあるわ」
「それが、通称『敗者復活戦』。絶賛開催中だよ」
「え」
「続きを読んでごらん。参加資格を有する者は、アリスが誰かと結婚するまで、何度でも挑戦する権利があるんだ。ちなみに、『犯罪行為は禁止』となっているけれど、おかしな奴がいないとも限らないから、気を付けるんだよ」
ようやく、これが本当の事だと分かって来たようで、アリスが青ざめる。
「……参加者って、何人くらい?」
「さあ、初戦からだと想像もできないな。街に溢れていたのは、みんなそうだよ。気付かなかった?」
「ええ? 男性が多いとは思ったけど、嘘でしょう!?」
大会は、十五年に一度くらいのペースで秘密裏に行われるし、大会について話すことは禁止されているから、一般の人は知らないはずだ。
「しかし、この文書は本物だ」
「……ソフィや他のご令嬢も、婿取り大会をするの?」
そう来たか。
普通はそう思うよね。
「するわけないでしょう」
あんな大変な大会を、貴族令嬢全員に出来るわけがない。君は、特別な存在なんだよ。
「これは、ギルツ家の長女のためだけに行われる大会だ。予算は国持ちで、何回も合宿が行われ、勉強や鍛錬、マナー講座やダンスレッスン漬けの毎日を過ごす。もちろん、生活態度もチェックされるよ」
朝から晩まで、他人と過ごすことは、相当なストレスがかかる。その中で、参加者がどのように振る舞うかを見る目的もあるらしい。
「我が国の男性が文武両道であるのも、婿選び大会のおかげだと言われているよ。また、合宿で出会った仲間との絆は強く、国を、より強固にしているのは間違いないしね」
「でも、貴族の中で、うちだけが特別扱いされるなんて、おかしいわ」
「だが、そうなんだ」
「それが本当だとしたら、ラウル様は少なくとも三年以上前から私のことを知っていて、大会に参加していたの? しかも、優勝したのね?」
「その通りだよ」
事実を知った彼女は、ひどくショックを受けて、動揺していた。想像した以上に、アリスはラウル様への嫌悪感がなくなっているのか。
「……待って。じゃあ、ラウル様はどうなるの? 大会へ参加した理由はどうあれ、ものすごく努力して勝ち進んで来たのでしょう? それなのに、無知な私の言動で全てを失うなんて、あってはならないわ」
そんな顔をしないでくれ。
君は、ラウル様のことしか思わないのか。
胸がチクチク痛むが、笑顔は崩さない。
「君は知らなかったから、仕方ないよ」
「でも、みんなからも「結論を急ぐな」「よく考えろ」と言われていたのに」
嫌な流れだ。
罪悪感と後悔の念から、アリスの心がラウル様へ傾いてしまう。そんな結末、僕は望んでいない。
「あんなに嫌がっていたのに気になるの?」
「……責任を感じるわ」
「婚約を取り消しにするのは、女性側に与えられた正当な権利だと大会規約にある。気にすることはないよ」
「でも、婿取り大会のことを知っていたら、いろんな勘違いをしなかったわ。こんな大事になるなんて……」
居た堪れなくなったのか、アリスが両手で顔を覆う。その時、アリスの体から、ふわりと黒い影が抜けて行った。
いけない。
僕は、アリスとの間にある壁をどうにかしたくて必死にもがいているのに、ラウル様はきっと、その壁を軽々と飛び越えてしまう。
大会の説明をしたら、こうなるのは予想していたが、嘘をつくのはフェアじゃない。
僕は、意を決して口を開いた。
「ラウル様は、もう婚約者ではなくなった、と言いたいところだけどね。新たな婚約者が現れるまでは、そのままだよ」
アリスのホッとした顔を見て、僕は胸が潰れる思いだった。
「それが、通称『敗者復活戦』。絶賛開催中だよ」
「え」
「続きを読んでごらん。参加資格を有する者は、アリスが誰かと結婚するまで、何度でも挑戦する権利があるんだ。ちなみに、『犯罪行為は禁止』となっているけれど、おかしな奴がいないとも限らないから、気を付けるんだよ」
ようやく、これが本当の事だと分かって来たようで、アリスが青ざめる。
「……参加者って、何人くらい?」
「さあ、初戦からだと想像もできないな。街に溢れていたのは、みんなそうだよ。気付かなかった?」
「ええ? 男性が多いとは思ったけど、嘘でしょう!?」
大会は、十五年に一度くらいのペースで秘密裏に行われるし、大会について話すことは禁止されているから、一般の人は知らないはずだ。
「しかし、この文書は本物だ」
「……ソフィや他のご令嬢も、婿取り大会をするの?」
そう来たか。
普通はそう思うよね。
「するわけないでしょう」
あんな大変な大会を、貴族令嬢全員に出来るわけがない。君は、特別な存在なんだよ。
「これは、ギルツ家の長女のためだけに行われる大会だ。予算は国持ちで、何回も合宿が行われ、勉強や鍛錬、マナー講座やダンスレッスン漬けの毎日を過ごす。もちろん、生活態度もチェックされるよ」
朝から晩まで、他人と過ごすことは、相当なストレスがかかる。その中で、参加者がどのように振る舞うかを見る目的もあるらしい。
「我が国の男性が文武両道であるのも、婿選び大会のおかげだと言われているよ。また、合宿で出会った仲間との絆は強く、国を、より強固にしているのは間違いないしね」
「でも、貴族の中で、うちだけが特別扱いされるなんて、おかしいわ」
「だが、そうなんだ」
「それが本当だとしたら、ラウル様は少なくとも三年以上前から私のことを知っていて、大会に参加していたの? しかも、優勝したのね?」
「その通りだよ」
事実を知った彼女は、ひどくショックを受けて、動揺していた。想像した以上に、アリスはラウル様への嫌悪感がなくなっているのか。
「……待って。じゃあ、ラウル様はどうなるの? 大会へ参加した理由はどうあれ、ものすごく努力して勝ち進んで来たのでしょう? それなのに、無知な私の言動で全てを失うなんて、あってはならないわ」
そんな顔をしないでくれ。
君は、ラウル様のことしか思わないのか。
胸がチクチク痛むが、笑顔は崩さない。
「君は知らなかったから、仕方ないよ」
「でも、みんなからも「結論を急ぐな」「よく考えろ」と言われていたのに」
嫌な流れだ。
罪悪感と後悔の念から、アリスの心がラウル様へ傾いてしまう。そんな結末、僕は望んでいない。
「あんなに嫌がっていたのに気になるの?」
「……責任を感じるわ」
「婚約を取り消しにするのは、女性側に与えられた正当な権利だと大会規約にある。気にすることはないよ」
「でも、婿取り大会のことを知っていたら、いろんな勘違いをしなかったわ。こんな大事になるなんて……」
居た堪れなくなったのか、アリスが両手で顔を覆う。その時、アリスの体から、ふわりと黒い影が抜けて行った。
いけない。
僕は、アリスとの間にある壁をどうにかしたくて必死にもがいているのに、ラウル様はきっと、その壁を軽々と飛び越えてしまう。
大会の説明をしたら、こうなるのは予想していたが、嘘をつくのはフェアじゃない。
僕は、意を決して口を開いた。
「ラウル様は、もう婚約者ではなくなった、と言いたいところだけどね。新たな婚約者が現れるまでは、そのままだよ」
アリスのホッとした顔を見て、僕は胸が潰れる思いだった。
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