25 / 65
25 心からの謝罪を、あの人に(ラウル視点)
しおりを挟む
「殿下、それ以上は危険です」
マルセルがストップをかける。
「大丈夫ですわ。アリスのものも、ラウル様のものも、随分と軽くなって来ていますから、私には手出し出来なくてよ」
殿下は、不敵な笑みを浮かべられた。俺には見えない何かが、お分かりになるようだ。
「ラウル様は、お気付きになりましたか。これは、婚約の誓約書にサインなさった時から、始まっていますの」
……知らなかった。
「殿下、ラウルは自分の異変について、積年の想いを拗らせたとせいだと思っておりました」
マルセルの話を聞いて、目を見開いた殿下は「それが逆に、良かったのかもしれませんわ」と仰った。
「これは、残酷な呪いですわ。アリスを大切に想えば想うほど、ラウル様は、あの子を傷付けるように操られますの。まるで、暴君のように」
「……え」
「呪い」という単語に気を取られ、意味が分からない。そんな俺に気付いた殿下は、さらに続けられた。
「ハッキリ申し上げますわ。呪いは、二人の仲を引き裂くためにあるのです」
「……」
予想もしない内容に、言葉が出てこない。
すごく頑張って、ようやく彼女と婚約したのに、邪魔をする者がいるのか。
「では、ラウルの極悪非道な振る舞いも、呪いのせいだと?」
「その通りですわ」
二人の遠慮のない会話が、心を抉る。確かに、呪いのせいだろうが何だろうが、俺のしたことは最低だ。
「婚約が、二人を不幸にするなんて」
マルセルは、表情を曇らせる。
殿下の仰ることが本当ならば、アリス殿から嫌われるために、俺は動いていたことになる。
(理解が出来ない)
誰が、何のために、どんな恨みがあって、このような手の込んだ真似をするのだ。
「何者の仕業ですか?」
「……それは、また時間のある時に、お話ししますわ」
俺の質問に対して、殿下は返答に困っていらした。それでも、言える範囲で伝えようとしてくださるのが、見て取れる。
「アリスの関係者は、あなたにも禍の影響があると察しておりましたし、ラウル様が『かなともの会』を通して、アリスのためにご尽力されたことも、もちろん存じておりますわ。あの子に同情しながらも、ラウル様のことも応援していますのよ。一番知っていて欲しいアリスが蚊帳の外なのは、悲劇としかいいようがありませんわ」
そのお言葉に、心の奥が温かくなった。
それにしても、殿下の口から、会の名を聞くとは思わなかった。
「会のことを、ご存知なのですか?」
アリス殿とお友だちになるのが目的の会だから、ご学友の殿下には縁のない話なのに。
「これでも、生徒会長ですのよ。大抵のことは耳に入って来ますわ。会のおかげで、私の影が薄くなって困りますのよ。ふふふ」
そう言って謙遜されるが、『かなともの会』は健全な裏の組織だ。あくまでも、学園の顔は殿下だろう。
「二人にかけられた呪いは、永遠に続くものではありません。解放されるまでの我慢だと、アリスを嗜めていたのですが、逆効果でしたわね。かえって、あなたへの印象を悪くしてしまいましたことを、心よりお詫び申し上げますわ」
「い、いいえ、殿下は悪くありません。全ては、自分の不徳の致すところです」
得体の知れないものに負けてしまった、俺の弱さがいけないのだ。アリス殿にも申し訳ない。
「そんなに、ご自分を責めることはありませんわ。アリスには護衛という物理的な壁があって、周りが見えていませんでしたし、例え、壁がなかったとしても、同じだったかもしれませんわ。あの子の視野は恐ろしく狭いうえに、曲解と勘違いの天才ですから」
……そうなのか。
また新たな彼女の一面を知った。
「残念ながら、あの子はあなたのことを、かなり誤解していますの。少ない情報で「分かれ」というほうが、無理かもしれませんわね」
(誤解ではない)
彼女にとっては、それが事実だから当然のことだ。例え、呪いのせいだしても、俺は、それだけのことをした。
(言えていれば、違っただろうか)
指輪にいろんな効力を持たせたのも、素直になれない俺の代わりに、彼女を守ってもらうためだった。それも、きちんと本人に伝えればよかったのだ。
贈るときに、かけた魔法を全て説明し、「君のことが心配だ。何かあれば駆け付けるから、その指輪をしていて欲しい」とお願いすれば、受け入れてくれただろうか。それが実際に言えたかどうかは分からないが、秘密にするより、ずっといい。
俺の言葉で、彼女の瞳が揺れるたびに胸が痛んだし、どんな気持ちでいるのか知りたかった。でも、こんな自分に心を開くはずもない。
(ここから挽回できるのだろうか)
「もう少しの辛抱ですわ。近いうちに、きっと、アリスと自由に話すことができますわよ。今度こそ、ご自分のお言葉を、伝えてあげてくださいませ」
それが本当だったら、どれだけ嬉しいか分からないが、まずは、過去の自分と向き合う必要がある。
(呪いのせいにしては、ダメだ!)
俺は、彼女の婚約者になれたことで、浮かれていたんだ。この立ち位置が不動のものだと思い込み、慢心が生まれた。そこを、呪いに付け込まれたに過ぎない。原因は、俺にあるのだ。
「例え本心ではなくとも、口から出た言葉は消えません。俺は彼女に、心からの謝罪をしなくては」
謝っても、許してもらえないかもしれないが、謝るしかない。俺に出来るのは、頭を下げることだけだ。
「検討を祈りますわ」
「骨は拾ってやるぞ」
殿下とマルセルが、笑顔で送り出してくれる。
俺は一礼し、走り出した。
マルセルがストップをかける。
「大丈夫ですわ。アリスのものも、ラウル様のものも、随分と軽くなって来ていますから、私には手出し出来なくてよ」
殿下は、不敵な笑みを浮かべられた。俺には見えない何かが、お分かりになるようだ。
「ラウル様は、お気付きになりましたか。これは、婚約の誓約書にサインなさった時から、始まっていますの」
……知らなかった。
「殿下、ラウルは自分の異変について、積年の想いを拗らせたとせいだと思っておりました」
マルセルの話を聞いて、目を見開いた殿下は「それが逆に、良かったのかもしれませんわ」と仰った。
「これは、残酷な呪いですわ。アリスを大切に想えば想うほど、ラウル様は、あの子を傷付けるように操られますの。まるで、暴君のように」
「……え」
「呪い」という単語に気を取られ、意味が分からない。そんな俺に気付いた殿下は、さらに続けられた。
「ハッキリ申し上げますわ。呪いは、二人の仲を引き裂くためにあるのです」
「……」
予想もしない内容に、言葉が出てこない。
すごく頑張って、ようやく彼女と婚約したのに、邪魔をする者がいるのか。
「では、ラウルの極悪非道な振る舞いも、呪いのせいだと?」
「その通りですわ」
二人の遠慮のない会話が、心を抉る。確かに、呪いのせいだろうが何だろうが、俺のしたことは最低だ。
「婚約が、二人を不幸にするなんて」
マルセルは、表情を曇らせる。
殿下の仰ることが本当ならば、アリス殿から嫌われるために、俺は動いていたことになる。
(理解が出来ない)
誰が、何のために、どんな恨みがあって、このような手の込んだ真似をするのだ。
「何者の仕業ですか?」
「……それは、また時間のある時に、お話ししますわ」
俺の質問に対して、殿下は返答に困っていらした。それでも、言える範囲で伝えようとしてくださるのが、見て取れる。
「アリスの関係者は、あなたにも禍の影響があると察しておりましたし、ラウル様が『かなともの会』を通して、アリスのためにご尽力されたことも、もちろん存じておりますわ。あの子に同情しながらも、ラウル様のことも応援していますのよ。一番知っていて欲しいアリスが蚊帳の外なのは、悲劇としかいいようがありませんわ」
そのお言葉に、心の奥が温かくなった。
それにしても、殿下の口から、会の名を聞くとは思わなかった。
「会のことを、ご存知なのですか?」
アリス殿とお友だちになるのが目的の会だから、ご学友の殿下には縁のない話なのに。
「これでも、生徒会長ですのよ。大抵のことは耳に入って来ますわ。会のおかげで、私の影が薄くなって困りますのよ。ふふふ」
そう言って謙遜されるが、『かなともの会』は健全な裏の組織だ。あくまでも、学園の顔は殿下だろう。
「二人にかけられた呪いは、永遠に続くものではありません。解放されるまでの我慢だと、アリスを嗜めていたのですが、逆効果でしたわね。かえって、あなたへの印象を悪くしてしまいましたことを、心よりお詫び申し上げますわ」
「い、いいえ、殿下は悪くありません。全ては、自分の不徳の致すところです」
得体の知れないものに負けてしまった、俺の弱さがいけないのだ。アリス殿にも申し訳ない。
「そんなに、ご自分を責めることはありませんわ。アリスには護衛という物理的な壁があって、周りが見えていませんでしたし、例え、壁がなかったとしても、同じだったかもしれませんわ。あの子の視野は恐ろしく狭いうえに、曲解と勘違いの天才ですから」
……そうなのか。
また新たな彼女の一面を知った。
「残念ながら、あの子はあなたのことを、かなり誤解していますの。少ない情報で「分かれ」というほうが、無理かもしれませんわね」
(誤解ではない)
彼女にとっては、それが事実だから当然のことだ。例え、呪いのせいだしても、俺は、それだけのことをした。
(言えていれば、違っただろうか)
指輪にいろんな効力を持たせたのも、素直になれない俺の代わりに、彼女を守ってもらうためだった。それも、きちんと本人に伝えればよかったのだ。
贈るときに、かけた魔法を全て説明し、「君のことが心配だ。何かあれば駆け付けるから、その指輪をしていて欲しい」とお願いすれば、受け入れてくれただろうか。それが実際に言えたかどうかは分からないが、秘密にするより、ずっといい。
俺の言葉で、彼女の瞳が揺れるたびに胸が痛んだし、どんな気持ちでいるのか知りたかった。でも、こんな自分に心を開くはずもない。
(ここから挽回できるのだろうか)
「もう少しの辛抱ですわ。近いうちに、きっと、アリスと自由に話すことができますわよ。今度こそ、ご自分のお言葉を、伝えてあげてくださいませ」
それが本当だったら、どれだけ嬉しいか分からないが、まずは、過去の自分と向き合う必要がある。
(呪いのせいにしては、ダメだ!)
俺は、彼女の婚約者になれたことで、浮かれていたんだ。この立ち位置が不動のものだと思い込み、慢心が生まれた。そこを、呪いに付け込まれたに過ぎない。原因は、俺にあるのだ。
「例え本心ではなくとも、口から出た言葉は消えません。俺は彼女に、心からの謝罪をしなくては」
謝っても、許してもらえないかもしれないが、謝るしかない。俺に出来るのは、頭を下げることだけだ。
「検討を祈りますわ」
「骨は拾ってやるぞ」
殿下とマルセルが、笑顔で送り出してくれる。
俺は一礼し、走り出した。
79
お気に入りに追加
570
あなたにおすすめの小説

愛しの婚約者に「学園では距離を置こう」と言われたので、婚約破棄を画策してみた
迦陵 れん
恋愛
「学園にいる間は、君と距離をおこうと思う」
待ちに待った定例茶会のその席で、私の大好きな婚約者は唐突にその言葉を口にした。
「え……あの、どうし……て?」
あまりの衝撃に、上手く言葉が紡げない。
彼にそんなことを言われるなんて、夢にも思っていなかったから。
ーーーーーーーーーーーーー
侯爵令嬢ユリアの婚約は、仲の良い親同士によって、幼い頃に結ばれたものだった。
吊り目でキツい雰囲気を持つユリアと、女性からの憧れの的である婚約者。
自分たちが不似合いであることなど、とうに分かっていることだった。
だから──学園にいる間と言わず、彼を自分から解放してあげようと思ったのだ。
婚約者への淡い恋心は、心の奥底へとしまいこんで……。
※基本的にゆるふわ設定です。
※プロット苦手派なので、話が右往左往するかもしれません。→故に、タグは徐々に追加していきます
※感想に返信してると執筆が進まないという鈍足仕様のため、返事は期待しないで貰えるとありがたいです。
※仕事が休みの日のみの執筆になるため、毎日は更新できません……(書きだめできた時だけします)ご了承くださいませ。
※※しれっと短編から長編に変更しました。(だって絶対終わらないと思ったから!)

【完結】公爵令嬢は、婚約破棄をあっさり受け入れる
櫻井みこと
恋愛
突然、婚約破棄を言い渡された。
彼は社交辞令を真に受けて、自分が愛されていて、そのために私が必死に努力をしているのだと勘違いしていたらしい。
だから泣いて縋ると思っていたらしいですが、それはあり得ません。
私が王妃になるのは確定。その相手がたまたま、あなただった。それだけです。
またまた軽率に短編。
一話…マリエ視点
二話…婚約者視点
三話…子爵令嬢視点
四話…第二王子視点
五話…マリエ視点
六話…兄視点
※全六話で完結しました。馬鹿すぎる王子にご注意ください。
スピンオフ始めました。
「追放された聖女が隣国の腹黒公爵を頼ったら、国がなくなってしまいました」連載中!

余命3ヶ月を言われたので静かに余生を送ろうと思ったのですが…大好きな殿下に溺愛されました
Karamimi
恋愛
公爵令嬢のセイラは、ずっと孤独の中生きてきた。自分に興味のない父や婚約者で王太子のロイド。
特に王宮での居場所はなく、教育係には嫌味を言われ、王宮使用人たちからは、心無い噂を流される始末。さらに婚約者のロイドの傍には、美しくて人当たりの良い侯爵令嬢のミーアがいた。
ロイドを愛していたセイラは、辛くて苦しくて、胸が張り裂けそうになるのを必死に耐えていたのだ。
毎日息苦しい生活を強いられているせいか、最近ずっと調子が悪い。でもそれはきっと、気のせいだろう、そう思っていたセイラだが、ある日吐血してしまう。
診察の結果、母と同じ不治の病に掛かっており、余命3ヶ月と宣言されてしまったのだ。
もう残りわずかしか生きられないのなら、愛するロイドを解放してあげよう。そして自分は、屋敷でひっそりと最期を迎えよう。そう考えていたセイラ。
一方セイラが余命宣告を受けた事を知ったロイドは…
※両想いなのにすれ違っていた2人が、幸せになるまでのお話しです。
よろしくお願いいたします。
他サイトでも同時投稿中です。

裏切られた令嬢は死を選んだ。そして……
希猫 ゆうみ
恋愛
スチュアート伯爵家の令嬢レーラは裏切られた。
幼馴染に婚約者を奪われたのだ。
レーラの17才の誕生日に、二人はキスをして、そして言った。
「一度きりの人生だから、本当に愛せる人と結婚するよ」
「ごめんねレーラ。ロバートを愛してるの」
誕生日に婚約破棄されたレーラは絶望し、生きる事を諦めてしまう。
けれど死にきれず、再び目覚めた時、新しい人生が幕を開けた。
レーラに許しを請い、縋る裏切り者たち。
心を鎖し生きて行かざるを得ないレーラの前に、一人の求婚者が現れる。
強く気高く冷酷に。
裏切り者たちが落ちぶれていく様を眺めながら、レーラは愛と幸せを手に入れていく。
☆完結しました。ありがとうございました!☆
(ホットランキング8位ありがとうございます!(9/10、19:30現在))
(ホットランキング1位~9位~2位ありがとうございます!(9/6~9))
(ホットランキング1位!?ありがとうございます!!(9/5、13:20現在))
(ホットランキング9位ありがとうございます!(9/4、18:30現在))
拝啓、婚約者様。ごきげんよう。そしてさようなら
みおな
恋愛
子爵令嬢のクロエ・ルーベンスは今日も《おひとり様》で夜会に参加する。
公爵家を継ぐ予定の婚約者がいながら、だ。
クロエの婚約者、クライヴ・コンラッド公爵令息は、婚約が決まった時から一度も婚約者としての義務を果たしていない。
クライヴは、ずっと義妹のファンティーヌを優先するからだ。
「ファンティーヌが熱を出したから、出かけられない」
「ファンティーヌが行きたいと言っているから、エスコートは出来ない」
「ファンティーヌが」
「ファンティーヌが」
だからクロエは、学園卒業式のパーティーで顔を合わせたクライヴに、にっこりと微笑んで伝える。
「私のことはお気になさらず」

手放したくない理由
ねむたん
恋愛
公爵令嬢エリスと王太子アドリアンの婚約は、互いに「務め」として受け入れたものだった。貴族として、国のために結ばれる。
しかし、王太子が何かと幼馴染のレイナを優先し、社交界でも「王太子妃にふさわしいのは彼女では?」と囁かれる中、エリスは淡々と「それならば、私は不要では?」と考える。そして、自ら婚約解消を申し出る。
話し合いの場で、王妃が「辛い思いをさせてしまってごめんなさいね」と声をかけるが、エリスは本当にまったく辛くなかったため、きょとんとする。その様子を見た周囲は困惑し、
「……王太子への愛は芽生えていなかったのですか?」
と問うが、エリスは「愛?」と首を傾げる。
同時に、婚約解消に動揺したアドリアンにも、側近たちが「殿下はレイナ嬢に恋をしていたのでは?」と問いかける。しかし、彼もまた「恋……?」と首を傾げる。
大人たちは、その光景を見て、教育の偏りを大いに後悔することになる。


婚約破棄された公爵令嬢は本当はその王国にとってなくてはならない存在でしたけど、もう遅いです
神崎 ルナ
恋愛
ロザンナ・ブリオッシュ公爵令嬢は美形揃いの公爵家の中でも比較的地味な部類に入る。茶色の髪にこげ茶の瞳はおとなしめな外見に拍車をかけて見えた。そのせいか、婚約者のこのトレント王国の王太子クルクスル殿下には最初から塩対応されていた。
そんな折り、王太子に近付く女性がいるという。
アリサ・タンザイト子爵令嬢は、貴族令嬢とは思えないほどその親しみやすさで王太子の心を捕らえてしまったようなのだ。
仲がよさげな二人の様子を見たロザンナは少しばかり不安を感じたが。
(まさか、ね)
だが、その不安は的中し、ロザンナは王太子に婚約破棄を告げられてしまう。
――実は、婚約破棄され追放された地味な令嬢はとても重要な役目をになっていたのに。
(※誤字報告ありがとうございます)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる