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38 悔いのない今を(ラウル視点)
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俺の頭は、真っ白になった。
「ラウル、行け! 俺たちが見届けてやる!」
「あ、ああ」
フラフラとレストランの中へ入るが、アリス殿の姿は席にはなかった。店内を彷徨い、ようやく彼女を見付けたけれど、俺は足がすくんで動けなくなった。
彼女がレオンと並んで立つその距離感は、友だちのものではなかったからだ。二人は深い仲だったのかと匂わせるような現実を突き付けられ、何度も奮い立たせてきた心は、再び力を失いそうになった。
でも、謝らなくては。
どうか聞いてほしいと祈りを込めて歩き出したのに、また俺は、機会を逃す。強盗がいると彼女が必死に訴えるから、話を聞こうと近付いただけなのに、向こうから掴みかかって来たからだ。
俺の顔はそんなに怖いのだろうか。
仕方なく応戦して、全員を拘束したとき、やはり彼女はいなくなっていた。レオンと婚約すると彼女が宣言すれば、俺は終わりだ。せめて、その前に弁解するチャンスを与えて欲しいのに。
「ラウル、崖っぷちのところすまないが、聞いてくれ」
思案にくれていると、マルセルが自警団と共に現れた。正直に言うと放っておいて欲しいが、仕事ならば仕方がない。渋々聞くと、今日の逮捕者には、思わぬ共通点があったそうだ。
「門番の身元引受人、アーカンホームの支援者、家具屋と古着屋とは取引先。強盗が塒にしていた小屋の大家。一人の男が立場を変えて、これら全ての者と繋がりがあった」
門番の事など、もう忘れていた。
思えば、朝からいろいろあったものだ。
「それは、誰だ」
「商人のハゥラスだ。商売の腕は悪くないが、チラホラ悪い噂も聞く。もしかしたら、今回の事件にも関係があるのかもしれない」
恩人の名を聞いて、クロードは激昂した。
「そんなわけない! あの人は俺たち孤児に優しくしてくれた!」
自分を奈落の底へ突き落とした魔薬を、恩人が広めたなんて信じたくないのだろう。その気持ちは分かるし、本人から話も聞かずに決めつけてはいけないと、俺も思う。
殴るのは、事実確認してからだ。
「これからハゥラスの所へ行く。定宿にしているホテルにいるはずだ」
自警団と騎士団、そしてクロードは、敗者復活戦の参加者で溢れる街の中を、ホテルへ向かった。
歩いて行くと、どんどん人が増えていくのを感じた。彼女も近くにいるのだろうかと思うが、任務中に探すわけにはいかない。拳を握って、グッと我慢する。
「お客様に関することは、お答えしかねます」
かれこれ数十分ほど経つだろうか。
訝しむフロントからは、つれない答えしか返ってこない。「宿泊客のハゥラスさんに、大至急、聞きたいことがある。取り次いでくれないか」とマルセルが頼んでいるが、頑なに拒否されるのだ。
これは、もう支配人を呼んで交渉するしかないかと思ったとき「お、クロードじゃないか」と声がした。クロードによると、彼はアーカンホームの関係者らしい。
「いやあ、驚いたよ。うちの子どもたちが、外国に連れて行かれるところだったろう? 街では、家具屋も古着屋も逮捕されるし、さっき通りかかったレストランでも、強盗だか盗賊だか知らないが、捕まったそうじゃないか。ハゥラスさんは、たいそう驚いていたぞ」
ハゥラスへ報告に来たようだ。やはり部屋にいるようだが、彼は街での騒動に詳しすぎないか。
どこでその話を聞いたのか尋ねると、街はその噂で持ちきりだそうだ。「ギルツ家のご令嬢が悪い奴らをやっつけた」「さすがは『建国の剣』の血を引く娘さんだ」と、民が褒め称えているらしい。
「その話をしたら、ハゥラスさんは、彼女にお礼しなくてはと仰って、探すように言われたんだ」
お礼とは、謝辞を述べるのか、仕返しをするのか、どちらの意味だ。いや、どちらにしても、今はレオンと一緒にいるから安全だろう。
「そうしたらさ、ホテルの外が人で溢れているだろう? 何かあったのかと尋ねたら、そのご令嬢がこのホテルにいるって言うじゃないか。早速、ボーイにチップを渡して、部屋を聞いたよ」
「どこだ!」
まさか、ここにいるとは想定していなかったので、思わず叫んでしまった。
聞き耳を立てていたのがバレてしまうが、そんなことはどうでもいい。金で情報を得るなんて、俺は考えたこともなかった。フロントにもいくらか渡せば融通してもらえたのだろうか。いや、そんなスタッフばかりではないはずだ。
「ハゥラスには伝わったのか!? 部屋番号は!?」
「えっ、はい! 三◯五号室です!」
階段を駆け上がると、上の方から大声が聞こえて来た。彼女が危険な目に遭っているのかと、血の気が引く。
これが、きっと最後だ。
彼女は何としても助けるが、その後の二人の関係はどうなるか分からない。レオンの頑張り次第では、今夜が、会える最後の日だ。
例え、明日この命が終わったとしても、やり切ったと満足して笑えるように、悔いのない今を生きたい。
今度こそ、間違えない。
アリス殿に会ったら、一番最初に大事なことを言おうと、心に決めた。
「ラウル、行け! 俺たちが見届けてやる!」
「あ、ああ」
フラフラとレストランの中へ入るが、アリス殿の姿は席にはなかった。店内を彷徨い、ようやく彼女を見付けたけれど、俺は足がすくんで動けなくなった。
彼女がレオンと並んで立つその距離感は、友だちのものではなかったからだ。二人は深い仲だったのかと匂わせるような現実を突き付けられ、何度も奮い立たせてきた心は、再び力を失いそうになった。
でも、謝らなくては。
どうか聞いてほしいと祈りを込めて歩き出したのに、また俺は、機会を逃す。強盗がいると彼女が必死に訴えるから、話を聞こうと近付いただけなのに、向こうから掴みかかって来たからだ。
俺の顔はそんなに怖いのだろうか。
仕方なく応戦して、全員を拘束したとき、やはり彼女はいなくなっていた。レオンと婚約すると彼女が宣言すれば、俺は終わりだ。せめて、その前に弁解するチャンスを与えて欲しいのに。
「ラウル、崖っぷちのところすまないが、聞いてくれ」
思案にくれていると、マルセルが自警団と共に現れた。正直に言うと放っておいて欲しいが、仕事ならば仕方がない。渋々聞くと、今日の逮捕者には、思わぬ共通点があったそうだ。
「門番の身元引受人、アーカンホームの支援者、家具屋と古着屋とは取引先。強盗が塒にしていた小屋の大家。一人の男が立場を変えて、これら全ての者と繋がりがあった」
門番の事など、もう忘れていた。
思えば、朝からいろいろあったものだ。
「それは、誰だ」
「商人のハゥラスだ。商売の腕は悪くないが、チラホラ悪い噂も聞く。もしかしたら、今回の事件にも関係があるのかもしれない」
恩人の名を聞いて、クロードは激昂した。
「そんなわけない! あの人は俺たち孤児に優しくしてくれた!」
自分を奈落の底へ突き落とした魔薬を、恩人が広めたなんて信じたくないのだろう。その気持ちは分かるし、本人から話も聞かずに決めつけてはいけないと、俺も思う。
殴るのは、事実確認してからだ。
「これからハゥラスの所へ行く。定宿にしているホテルにいるはずだ」
自警団と騎士団、そしてクロードは、敗者復活戦の参加者で溢れる街の中を、ホテルへ向かった。
歩いて行くと、どんどん人が増えていくのを感じた。彼女も近くにいるのだろうかと思うが、任務中に探すわけにはいかない。拳を握って、グッと我慢する。
「お客様に関することは、お答えしかねます」
かれこれ数十分ほど経つだろうか。
訝しむフロントからは、つれない答えしか返ってこない。「宿泊客のハゥラスさんに、大至急、聞きたいことがある。取り次いでくれないか」とマルセルが頼んでいるが、頑なに拒否されるのだ。
これは、もう支配人を呼んで交渉するしかないかと思ったとき「お、クロードじゃないか」と声がした。クロードによると、彼はアーカンホームの関係者らしい。
「いやあ、驚いたよ。うちの子どもたちが、外国に連れて行かれるところだったろう? 街では、家具屋も古着屋も逮捕されるし、さっき通りかかったレストランでも、強盗だか盗賊だか知らないが、捕まったそうじゃないか。ハゥラスさんは、たいそう驚いていたぞ」
ハゥラスへ報告に来たようだ。やはり部屋にいるようだが、彼は街での騒動に詳しすぎないか。
どこでその話を聞いたのか尋ねると、街はその噂で持ちきりだそうだ。「ギルツ家のご令嬢が悪い奴らをやっつけた」「さすがは『建国の剣』の血を引く娘さんだ」と、民が褒め称えているらしい。
「その話をしたら、ハゥラスさんは、彼女にお礼しなくてはと仰って、探すように言われたんだ」
お礼とは、謝辞を述べるのか、仕返しをするのか、どちらの意味だ。いや、どちらにしても、今はレオンと一緒にいるから安全だろう。
「そうしたらさ、ホテルの外が人で溢れているだろう? 何かあったのかと尋ねたら、そのご令嬢がこのホテルにいるって言うじゃないか。早速、ボーイにチップを渡して、部屋を聞いたよ」
「どこだ!」
まさか、ここにいるとは想定していなかったので、思わず叫んでしまった。
聞き耳を立てていたのがバレてしまうが、そんなことはどうでもいい。金で情報を得るなんて、俺は考えたこともなかった。フロントにもいくらか渡せば融通してもらえたのだろうか。いや、そんなスタッフばかりではないはずだ。
「ハゥラスには伝わったのか!? 部屋番号は!?」
「えっ、はい! 三◯五号室です!」
階段を駆け上がると、上の方から大声が聞こえて来た。彼女が危険な目に遭っているのかと、血の気が引く。
これが、きっと最後だ。
彼女は何としても助けるが、その後の二人の関係はどうなるか分からない。レオンの頑張り次第では、今夜が、会える最後の日だ。
例え、明日この命が終わったとしても、やり切ったと満足して笑えるように、悔いのない今を生きたい。
今度こそ、間違えない。
アリス殿に会ったら、一番最初に大事なことを言おうと、心に決めた。
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