婚約者の態度が悪いので婚約破棄を申し出たら、えらいことになりました

神村 月子

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27 デートをしよう(レオン視点)

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「レオン、重いでしょう? もう大丈夫だから降ろして」

 降ろす気はないんだな。
 アリスの体重なんて魔力を使えばなんてことないし、こんなに密着できる機会はそうそうない。

「みんなが見ているわ」

「そうだね、ぜひ見せつけなくては」

「ええっ!?」

「ラウル様のついでに、周りの男どもの心も折っておこう」

「なんで!?」

 大半が冷やかしだが、中には本気で挑んでくる者もいるだろう。アリスへ直接行かれても困るし、無駄な争いは避けたい。

「レオンの評判も悪くなるのよ!?」

 なるほど、外聞を気にしているのか。
 僕に抱っこされているのが嫌なんて言われたら、どうしようかと思った。僕の心配をしてくれるとは、やはりアリスは優しい。

「それなら問題ない。国王陛下の許可を得ているからね」

「どういうこと? 婚約しているのに?」

 この程度で困惑する彼女を見て、これからどんな表情を見せてくれるか楽しみになる。

 それにしても、先ほどから、ラウル様のことを心配しているように見えるが、どういうことだ。僕がようやく行動に移せるようになったというのに、彼への心象が変わったのか。

「……ラウル様との間に、何かあった?」

「え? まあ、その、いろいろと」

 図星なのか。
 この短時間でアリスが心変わりをするとは考えにくい。まさかと思ってアリスを視る。




(……薄くなっている。なぜだ)




 彼女を抱く腕に、思わず力が入る。
 ようやく機会を得たと舞い上がっていたが、思った以上に展開が早い。

(悔しいけど、優勝は伊達だてではないな)

 でも、僕も負けてはいられない。
 まだ戦いは始まったばかりなんだ。
 気持ちを整えて、笑顔を作る。

「婚約破棄するんだよね? まさか気が変わったの?」

「……そうじゃないけど」

 歯切れが悪い。
 朝の勢いはどこへ行ったのだ。
 連れて行くべきだったか。
 だが、誰が予想できた。

 頭の中では、ぐるぐると後悔の思いが駆け巡るが、今さら言っても仕方がない。わずかにアリスの心へ入り込んだラウル様の影を、僕は消すだけだ。今ならまだ間に合う。

「……それならいい。じゃあ、着替えようか」

 アリスに考える隙を与えてはいけない。こちらのペースに乗せなくては。

「いいけど、着替える場所があるかしら。護衛さんに、制服とワンピースが入ったカバンを預かってもらっているの」

 場所なんてどうにでもなるし、なんなら僕の家に来てくれても構わないが、これから行くところは、もう決まっている。

「いや、ビューティサロンに行こう。その後、レストランで食事しながら話すよ。お父上の許可は得ている」

「いつの間に」

「僕も、朝から頑張ったんだよ」

 彼女を抱いたまま貴族御用達ごようたしの店へ入るが、出迎えた定員さんたちは、鳩が豆鉄砲を食ったような顔をした。

「ア、アリス様? そのお召し物は?」

 顔見知りのスタッフが動揺していたので、すかさず、「彼女は仮装パーティーをしていたのです」とフォローしたら、その場にいた全員がホッとした。

「レオン、ナイスフォロー!」

 弾けるような笑顔のアリスが眩しい。
 理性を保つのが難しくなったので、降ろしてあげることにした。

「ありがとう。君といると退屈しないね」

「それほどでもないわ」

 照れているが、褒めたわけじゃない。
 でも、こんな刺激も悪くはない。
 心が満たされて、笑みがこぼれる。

「僕は、ドレスや靴を用意しよう。君は、ご令嬢へ戻っておいで」

 スタッフから説明を受けて、アリスは奥へ案内された。

「レオン様には、お部屋をご用意いたしましたので、そちらでお待ちください」

 別のスタッフが、僕に言う。
 二、三時間くらいかかるだろうから、その間に準備をしよう。
 
「では、ドレスはそこへ運んでもらおう。僕の服は、家から持って来たほうが早いな。頼めるか」

「かしこまりました」

 ラウル様があれで諦めるとは思えない。アリスの気持ちが定まらないうちに、僕との関係を友人以上に引き上げよう。

「失礼いたします。ご希望のお品物をご用意いたしました」

 スタッフが数人がかりで、ドレスと靴、宝飾品を運んでくれる。

「いい物ばかりだね。ありがとう」

 届けられたドレスの中から、アリスに似合いそうなドレスを見繕う。彼女の好きな水色で、露出が少なく上品な物を選んだ。

 仕上がりのイメージをスタッフと相談しながら、髪飾りやネックレス、イヤリングを選んでいく。

「指輪はどうなさいますか?」

「今日はやめておくよ」

 まだ、贈れる立場にはいないから。
 いつか、彼女の指からあの指輪がなくなり、僕が選んだ物を付けてくれる日が来るだろうか。
 彼女と並んで歩く事を想像しながら、僕は濃紺の服にした。

「お待たせしました」

 しばらくして、スタッフから声がかかり、アリスが入室したが、出来上がりは予想以上だった。

「とても綺麗だ」

 水色のドレスを身に付けた彼女は、気品のある令嬢として現れた。茶色の長い髪はスッキリとまとめめられていて、知性を感じさせる。ナチュラルに施された化粧が美貌をさらに際立たせていて、彼女は光り輝いていた。ネックレス、イヤリング、髪飾りも、とても良く似合っている。
 ラウル様から贈られた指輪だけが気に触るが、目をつむることにする。

(ん? 魔法が解けているのか?)

 あれは、簡単に解除できる代物ではなかったはずだ。これまでのアリスの行動を確認する必要があるが、それは後にする。

「さあ、デートしよう」

 僕は嬉しくてたまらないのに、彼女は、なぜか身構える。

「……でえと」

 浮かない返事だ。
 さては、「ラウル様ともしたことないのに、デートしてもいいのかしら」とでも考えているのだろう。
 律儀なところもいいのだけども、君には断るという選択肢はないんだな。

「話題のレストランがあるんだ。行こう」

「お食事ね。行くわ!」

 乗り気になってくれたのは嬉しいが、そうじゃない。

「……自分の都合の良いように変換しているところ悪いけど、これはデートだからね。隙を作る君がいけないんだよ」

 そこは、譲れないポイントだし、きちんと意識してもらわないと困る。
 彼女の手を取りニコリと笑うと、アリスから混乱する気持ちが伝わってきた。
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