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31 ギルツ家の業(レオン視点)
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「待って。そもそも、どうして国が私のお婿さんを決めなくてはならないの。普通に考えれば、ローズでしょう」
ラウル様の立ち位置が変わらないと聞いて安心したのか、アリスの頭が回り始めた。確かに、王女を差し置いて、何をしているのだと思うだろう。
「これには、僕たちのご先祖さまの残した業が、深く関わっているんだ」
予想もしなかった角度から切り込まれたせいか、アリスはキョトンとする。いきなり業と言われてもピンとこないだろう。アリスはオカルト話には興味がないから、信じてくれるかどうか分からないけれど、全ての始まりである昔話をしないことには、君の理解は深まらない。
「君の家は、かつて『建国の剣』として戦の先頭に立ち、勇猛果敢に戦った」
はるか昔、国が今の形になりつつあった頃の話だ。ミラーウ国が、我がタエキ国へ攻めて来たことで、戦は始まった。戦闘は何年にも渡り、お互いに甚大な被害をもたらしたが、我が国は辛くも勝利する。
ギルツ家の功績は多大で、救国の英雄として讃えられることになったが、ミラーウ国では逆に、憎き敵として憎悪の対象となった。
「だから、相手国の怨念が、ギルツ家に取り憑いた」
もともと、相手が攻めてこなければ戦争など起こらなかったのに、逆恨みされてしまうとは、何とも理不尽な話だ。アリスには罪などないのに。
「君の家は影響をまともに受けて、後継ぎに恵まれなくなった。『子孫繁栄を妨害し、一族を根絶やしにする』これが、君の家にかけられた呪いで、ギルツ家の秘密の二つ目だ」
「……のろい?」
予想もしなかった言葉が出てきたのか、アリスが固まる。彼女には魔力がほとんどないから、感じることなく過ごして来たのだろう。驚くのも無理はない。
戦が終わってからもギルツ家は、流産や死産、早産や突然死などで、まともに成長する子は稀だった。特に、男子は、誰も生き延びることができなかったらしい。戦に出るのは男性だから、呪いのターゲットになったのだと考えられる。
「君のおじい様もお父上も、婿養子だろう」
思い当たる節があるらしく、アリスは沈黙する。親戚縁者に至るまで、ギルツ家に男性は生まれていないからだ。
「……婿養子を取るのも、女性が家督を継ぐのも、そんな理由があったのね」
「しばらくして、異変に気付いた巫女がいてね、彼女が命懸けの祈祷をしてくれたおかげで、呪いは落ち着いたけれど、完全には消えなかった。でも、大丈夫だ。全国の宗教関係者の皆さんが、朝と夕方の二回、祈りを捧げてくれているから」
ご祈祷を侮るなかれ。祈りの効果は覿面で、ギルツ家は辛じて持ち直すことができた。伝説の英雄は未だに大人気で、その子孫が苦しんでいると聞けば、骨身を惜しまず力を尽くしてくれる人々が国中にいるのだ。
ある時、呪いに打ち勝つためには、強く逞しい血を入れると良いのではないかとの意見が出た。誰が言い出したか知らないが、藁にもすがる思いだったのだろう。
「いつ絶えてしまうか分からないギルツ家の支えになりたいと、全国から男たちが集まったんだ。それが婿取り大会の始りだよ」
「……なぜ、私に隠していたの?」
アリスの目に、不信が浮かぶ。君を守ろうとしてきたみんなを疑って欲しくはないけれど、除け者にされたみたいで寂しい気持ちになったのは理解できる。
「逆に聞くけれど、呪われていると知って、どう思った?」
質問に質問で返すのは良くないと思うけれど、大事なことなので考えて欲しい。アリスは複雑な胸の内を言葉にしようと努力していた。
「えーと、自分が悪いことをしたわけではないのに、何百年も昔の恨み言を、私にぶつけられても困るわ」
「それだけ?」
「うーん。見えない何かに付き纏われていると思うと、気味が悪いわね」
やはり、その程度か。
「アリスは感じないから、深刻にならずにすんでいるんだよ。でも、僕には見えていたよ。祈祷で弾かれていたバラバラの魂たちが、君の婚約を機に意思を持った集合体となり、禍々しい悪意を放っていたのが」
だいぶ減ったけどね。
「その呪いは、私にだけ影響しているの?」
アリスにしては、いいところに気が付いた。まさか言い当てるとは思っていなかった僕は、一瞬、動きが止まり目が泳いだが、すぐに立て直して笑顔を作る。
「もしかして、ラウ」
「とにかく、なんとか女子だけは、無事に成長できるようになった。でも、繊細な子は『呪い』への恐怖と、『婿取り大会』のプレッシャーで、心を病んでしまったそうだよ。だから、本人に隠すようになったんだ」
「呪いは、ラ」
「もともと人数に限りのある子どもだから、大事に育てないといけなかった。男性ならば側室を娶れば済む話だけど、ギルツ家の女性が出産しなければ家系が途絶えてしまうからね」
僕が質問に答えないことに対して、アリスは不満そうだが、これ以上、敵に塩を送る気はない。今までだってサービスしすぎたと後悔しているのに。僕が送った大量の塩で、ラウル様が漬物になればいいんだ。
「でも、魔力を持つ子には呪いが見えるなら、隠しても意味がないでしょう?」
聞き出すのを諦めたアリスは、質問を変えた。その場合は、呪いの部分だけを話して、婿取り大会については伏せると伝えると、「どうしても隠さないといけないの?」と食い下がる。
こちらとしても、話した方が楽なんだよ。秘密にするために、どれだけの労力を費やしていることか。そうせざるを得ないのは、大会をぶち壊しにした女性がいたからだ。
ラウル様の立ち位置が変わらないと聞いて安心したのか、アリスの頭が回り始めた。確かに、王女を差し置いて、何をしているのだと思うだろう。
「これには、僕たちのご先祖さまの残した業が、深く関わっているんだ」
予想もしなかった角度から切り込まれたせいか、アリスはキョトンとする。いきなり業と言われてもピンとこないだろう。アリスはオカルト話には興味がないから、信じてくれるかどうか分からないけれど、全ての始まりである昔話をしないことには、君の理解は深まらない。
「君の家は、かつて『建国の剣』として戦の先頭に立ち、勇猛果敢に戦った」
はるか昔、国が今の形になりつつあった頃の話だ。ミラーウ国が、我がタエキ国へ攻めて来たことで、戦は始まった。戦闘は何年にも渡り、お互いに甚大な被害をもたらしたが、我が国は辛くも勝利する。
ギルツ家の功績は多大で、救国の英雄として讃えられることになったが、ミラーウ国では逆に、憎き敵として憎悪の対象となった。
「だから、相手国の怨念が、ギルツ家に取り憑いた」
もともと、相手が攻めてこなければ戦争など起こらなかったのに、逆恨みされてしまうとは、何とも理不尽な話だ。アリスには罪などないのに。
「君の家は影響をまともに受けて、後継ぎに恵まれなくなった。『子孫繁栄を妨害し、一族を根絶やしにする』これが、君の家にかけられた呪いで、ギルツ家の秘密の二つ目だ」
「……のろい?」
予想もしなかった言葉が出てきたのか、アリスが固まる。彼女には魔力がほとんどないから、感じることなく過ごして来たのだろう。驚くのも無理はない。
戦が終わってからもギルツ家は、流産や死産、早産や突然死などで、まともに成長する子は稀だった。特に、男子は、誰も生き延びることができなかったらしい。戦に出るのは男性だから、呪いのターゲットになったのだと考えられる。
「君のおじい様もお父上も、婿養子だろう」
思い当たる節があるらしく、アリスは沈黙する。親戚縁者に至るまで、ギルツ家に男性は生まれていないからだ。
「……婿養子を取るのも、女性が家督を継ぐのも、そんな理由があったのね」
「しばらくして、異変に気付いた巫女がいてね、彼女が命懸けの祈祷をしてくれたおかげで、呪いは落ち着いたけれど、完全には消えなかった。でも、大丈夫だ。全国の宗教関係者の皆さんが、朝と夕方の二回、祈りを捧げてくれているから」
ご祈祷を侮るなかれ。祈りの効果は覿面で、ギルツ家は辛じて持ち直すことができた。伝説の英雄は未だに大人気で、その子孫が苦しんでいると聞けば、骨身を惜しまず力を尽くしてくれる人々が国中にいるのだ。
ある時、呪いに打ち勝つためには、強く逞しい血を入れると良いのではないかとの意見が出た。誰が言い出したか知らないが、藁にもすがる思いだったのだろう。
「いつ絶えてしまうか分からないギルツ家の支えになりたいと、全国から男たちが集まったんだ。それが婿取り大会の始りだよ」
「……なぜ、私に隠していたの?」
アリスの目に、不信が浮かぶ。君を守ろうとしてきたみんなを疑って欲しくはないけれど、除け者にされたみたいで寂しい気持ちになったのは理解できる。
「逆に聞くけれど、呪われていると知って、どう思った?」
質問に質問で返すのは良くないと思うけれど、大事なことなので考えて欲しい。アリスは複雑な胸の内を言葉にしようと努力していた。
「えーと、自分が悪いことをしたわけではないのに、何百年も昔の恨み言を、私にぶつけられても困るわ」
「それだけ?」
「うーん。見えない何かに付き纏われていると思うと、気味が悪いわね」
やはり、その程度か。
「アリスは感じないから、深刻にならずにすんでいるんだよ。でも、僕には見えていたよ。祈祷で弾かれていたバラバラの魂たちが、君の婚約を機に意思を持った集合体となり、禍々しい悪意を放っていたのが」
だいぶ減ったけどね。
「その呪いは、私にだけ影響しているの?」
アリスにしては、いいところに気が付いた。まさか言い当てるとは思っていなかった僕は、一瞬、動きが止まり目が泳いだが、すぐに立て直して笑顔を作る。
「もしかして、ラウ」
「とにかく、なんとか女子だけは、無事に成長できるようになった。でも、繊細な子は『呪い』への恐怖と、『婿取り大会』のプレッシャーで、心を病んでしまったそうだよ。だから、本人に隠すようになったんだ」
「呪いは、ラ」
「もともと人数に限りのある子どもだから、大事に育てないといけなかった。男性ならば側室を娶れば済む話だけど、ギルツ家の女性が出産しなければ家系が途絶えてしまうからね」
僕が質問に答えないことに対して、アリスは不満そうだが、これ以上、敵に塩を送る気はない。今までだってサービスしすぎたと後悔しているのに。僕が送った大量の塩で、ラウル様が漬物になればいいんだ。
「でも、魔力を持つ子には呪いが見えるなら、隠しても意味がないでしょう?」
聞き出すのを諦めたアリスは、質問を変えた。その場合は、呪いの部分だけを話して、婿取り大会については伏せると伝えると、「どうしても隠さないといけないの?」と食い下がる。
こちらとしても、話した方が楽なんだよ。秘密にするために、どれだけの労力を費やしていることか。そうせざるを得ないのは、大会をぶち壊しにした女性がいたからだ。
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