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37 仲間の励まし(ラウル視点)
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「ラウル、大丈夫だ。チャンスはまだある」
去ったアリス殿を見送ったまま、思い出の中にいた俺は、マルセルの声で現実に引き戻された。
どうやら、俺の澱んだ雰囲気で察して、慰めてくれたらしい。彼から敗者復活戦のルールを教えてもらい、少しホッとした。
「彼女が新たな婚約者を選ぶまでは、俺は首の皮一枚で繋がっているのか」
少しの反動で首が落ちそうだが、ちょうどいいペナルティだ。完全に落ちる前に、状況を変えたい。
「正式な婚約者に、戻れるかもしれないぞ」
マルセルはそう言ってくれるが、そんなに簡単な話ではないだろう。しかし、こうなったら、なりふり構っていられない。みっともなくても、カッコ悪くても、正面から彼女にぶつかるしかない。
「傷心のラウル様に、最新情報を提供いたしますわ」
殿下はそう仰ると、二人の居場所とスケジュールを教えてくださった。この服では入店できないから、騎士団の制服に着替えるべきだとも。
「あの子、殿方の制服姿に弱いですから、存分に見せてやってくださいませ」
不思議だ。
殿下のご好意を邪推するわけではないが、ご友人の恋が実るほうが、喜ばしいだろうに。
「殿下、無礼を承知でお尋ねします。自分を応援してくださるのには、何か理由があるのでしょうか?」
殿下は、いたずらっ子の顔で微笑む。年相応の表情を見て、しっかりしておいでの殿下も、まだ学生なのだと思い出した。
「うふふ。物事を決めるのに、私情を挟むのは好きではありませんの。それに、アリスの旦那様が気になって、大会をこっそり見ておりましたのよ。ラウル様、私の目に狂いはなかったと、証明してくださいませ」
今日や昨日からの話ではない。殿下は全てをご存知の上で、全幅の信頼を寄せてくださっているのだ。ここまで言われたら、俺は、もう行くしかない。
「必ずや、ご期待に応えられるよう、全力を尽くします」
弱い心に蓋をして、一礼する。
殿下から、嬉しそうな雰囲気が伝わってきた。
彼女のいる場所は、大勢の人が集まっているからすぐに分かったが、いつ出て行けば良いか、タイミングが掴めない。結局、サロンからレストランに移動する様子や、食事を楽しむ二人を、遠くから眺めるだけだった。
コロコロと表情を変えて、朗らかに笑う彼女は、俺といたときとは別人だ。
あんな顔で笑うのか。
無邪気で無防備で、なんて可愛いんだ。
感動すると同時に、自分が彼女にさせていた表情を思い出して、猛省する。終わったことを悔やんでも仕方がないのは分かっているし、何らかの邪魔な力が働いたのも承知している。それでも、自分のしたことが許せない。
顔を覆って立ち尽くす俺に、周りの男たちが、「どうした?」「大丈夫か?」と心配してくれる。みんなの優しさが余計に辛い。君らを負かして彼女の婚約者になれたというのに、こんなことになって本当にすまない。
「お前、ラウルじゃないか?」
どん底に落ちている俺は、浮上するまで時間が必要だ。すぐに答えられないでいると、そいつは近付いて来て、肩を掴んだ。
「俺だよ! お前の相棒だ!」
驚いて声の主を見ると、あの頃と変わらない笑顔の友がいた。何度も会いに行こうとして、その一歩がどうしても踏み出せなかった、懐かしい彼が。
「……俺は、夢を見ているのか?」
あの日から、その身を案じ、回復を祈っていた。
夢でもいいから、お前に会いたかったんだ。
「ああ! 飛び切り、いい夢だろう!」
「クロード!」
あれから二年、外に出られるまで回復したのか。昔と変わらない姿を見られて嬉しい気持ちと、婚約者として再会することご出来なかった自分の情けなさに、俺の涙腺は崩壊した。
「すまない! 応援してくれたのに! こんなことになってしまった!」
「泣くな、大丈夫だ。敗者復活戦は、よくあることらしい。まだまだ、これからだぞ」
え、よくあることなのか?
歴代の婚約者が、同じ愚行をしたとは思えないし、こんなことが毎回あったら、周りもたまらないだろう。
「優勝者のラウルさん?」
「わあ、お会いできて光栄です!」
「一緒に頑張りましょう!」
俺たちの会話を聞いていた敗者復活戦の参加者から、励ましの声が寄せられた。その温かい気持ちに、驚いて声も出ない。
みんな、俺を恨まないのか?
妬まないのか?
「そんな顔をするな。俺たちは、純粋にアリス様の幸せを願っているんだ。今日も昔が懐かしくなって、みんなで盛り上がっていたんだ。なあ! あのころは、楽しかったよな!」
周りから、「そうだ、そうだ!」と声が上がる。
「それに、俺たちは高嶺の花に憧れているだけで、本気で婿になれると思ってないよ。だが、お前は違うだろう?」
彼らは、アリス殿を愛でて、幸せな気持ちになれるだけで満足なのだという。なるほど、ファンの心理に近いのか。
その時、周りの男たちが「うわあ!」と慌て始めた。レストランの中を覗くと、レオンが彼女の手を握っているではないか。
見れば分かる。
今、彼女は愛の告白をされたのだ。
去ったアリス殿を見送ったまま、思い出の中にいた俺は、マルセルの声で現実に引き戻された。
どうやら、俺の澱んだ雰囲気で察して、慰めてくれたらしい。彼から敗者復活戦のルールを教えてもらい、少しホッとした。
「彼女が新たな婚約者を選ぶまでは、俺は首の皮一枚で繋がっているのか」
少しの反動で首が落ちそうだが、ちょうどいいペナルティだ。完全に落ちる前に、状況を変えたい。
「正式な婚約者に、戻れるかもしれないぞ」
マルセルはそう言ってくれるが、そんなに簡単な話ではないだろう。しかし、こうなったら、なりふり構っていられない。みっともなくても、カッコ悪くても、正面から彼女にぶつかるしかない。
「傷心のラウル様に、最新情報を提供いたしますわ」
殿下はそう仰ると、二人の居場所とスケジュールを教えてくださった。この服では入店できないから、騎士団の制服に着替えるべきだとも。
「あの子、殿方の制服姿に弱いですから、存分に見せてやってくださいませ」
不思議だ。
殿下のご好意を邪推するわけではないが、ご友人の恋が実るほうが、喜ばしいだろうに。
「殿下、無礼を承知でお尋ねします。自分を応援してくださるのには、何か理由があるのでしょうか?」
殿下は、いたずらっ子の顔で微笑む。年相応の表情を見て、しっかりしておいでの殿下も、まだ学生なのだと思い出した。
「うふふ。物事を決めるのに、私情を挟むのは好きではありませんの。それに、アリスの旦那様が気になって、大会をこっそり見ておりましたのよ。ラウル様、私の目に狂いはなかったと、証明してくださいませ」
今日や昨日からの話ではない。殿下は全てをご存知の上で、全幅の信頼を寄せてくださっているのだ。ここまで言われたら、俺は、もう行くしかない。
「必ずや、ご期待に応えられるよう、全力を尽くします」
弱い心に蓋をして、一礼する。
殿下から、嬉しそうな雰囲気が伝わってきた。
彼女のいる場所は、大勢の人が集まっているからすぐに分かったが、いつ出て行けば良いか、タイミングが掴めない。結局、サロンからレストランに移動する様子や、食事を楽しむ二人を、遠くから眺めるだけだった。
コロコロと表情を変えて、朗らかに笑う彼女は、俺といたときとは別人だ。
あんな顔で笑うのか。
無邪気で無防備で、なんて可愛いんだ。
感動すると同時に、自分が彼女にさせていた表情を思い出して、猛省する。終わったことを悔やんでも仕方がないのは分かっているし、何らかの邪魔な力が働いたのも承知している。それでも、自分のしたことが許せない。
顔を覆って立ち尽くす俺に、周りの男たちが、「どうした?」「大丈夫か?」と心配してくれる。みんなの優しさが余計に辛い。君らを負かして彼女の婚約者になれたというのに、こんなことになって本当にすまない。
「お前、ラウルじゃないか?」
どん底に落ちている俺は、浮上するまで時間が必要だ。すぐに答えられないでいると、そいつは近付いて来て、肩を掴んだ。
「俺だよ! お前の相棒だ!」
驚いて声の主を見ると、あの頃と変わらない笑顔の友がいた。何度も会いに行こうとして、その一歩がどうしても踏み出せなかった、懐かしい彼が。
「……俺は、夢を見ているのか?」
あの日から、その身を案じ、回復を祈っていた。
夢でもいいから、お前に会いたかったんだ。
「ああ! 飛び切り、いい夢だろう!」
「クロード!」
あれから二年、外に出られるまで回復したのか。昔と変わらない姿を見られて嬉しい気持ちと、婚約者として再会することご出来なかった自分の情けなさに、俺の涙腺は崩壊した。
「すまない! 応援してくれたのに! こんなことになってしまった!」
「泣くな、大丈夫だ。敗者復活戦は、よくあることらしい。まだまだ、これからだぞ」
え、よくあることなのか?
歴代の婚約者が、同じ愚行をしたとは思えないし、こんなことが毎回あったら、周りもたまらないだろう。
「優勝者のラウルさん?」
「わあ、お会いできて光栄です!」
「一緒に頑張りましょう!」
俺たちの会話を聞いていた敗者復活戦の参加者から、励ましの声が寄せられた。その温かい気持ちに、驚いて声も出ない。
みんな、俺を恨まないのか?
妬まないのか?
「そんな顔をするな。俺たちは、純粋にアリス様の幸せを願っているんだ。今日も昔が懐かしくなって、みんなで盛り上がっていたんだ。なあ! あのころは、楽しかったよな!」
周りから、「そうだ、そうだ!」と声が上がる。
「それに、俺たちは高嶺の花に憧れているだけで、本気で婿になれると思ってないよ。だが、お前は違うだろう?」
彼らは、アリス殿を愛でて、幸せな気持ちになれるだけで満足なのだという。なるほど、ファンの心理に近いのか。
その時、周りの男たちが「うわあ!」と慌て始めた。レストランの中を覗くと、レオンが彼女の手を握っているではないか。
見れば分かる。
今、彼女は愛の告白をされたのだ。
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