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王様VS王様

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 王様《キング》と王様《キング》の戦闘ともなると、さも特殊な規定《ルール》の一つや二つありそうなものだが──。

 ──そういう物は、これといってない。

 ただ単に、この戦闘の勝敗自体が四方世界《スモールワールド》そのものの勝敗に直結するというだけの話。

 ……そう聞くと途轍もなく重要な一戦に思えるが、それはあくまで一般的な物の見方。

 今のスタークとマキシミリアンからしてみれば、この一戦で重要なのは勝敗ではなく。

 いかに、という事。

 決して認めたくはないだろうが、やはり彼の言う通りスタークは潜在的な賭博師《ギャンブラー》──。

「──ほら、さっさと来いよ派手男」

 その声と貌が、全てを物語っていた。

 そして、当のマキシミリアンはe1へ移動し自分の隣まで進んで来たスタークを見て。

「ふ、くふふ……くははは!! これです、これですよ! 私が心より望んでいたGambleとは、このように互いの全てを懸けた物の事を言うのです! 貴女もそうでしょう!?」

「一緒にすんな馬鹿」

「ははは! これは手厳しい!」

 誰がどう見てもスタークより遥かにこの一戦を愉しみにしていたのだろう事が窺える高笑いを響かせ、スタークの胸中を見透かしていると言わんばかりに同意を求めてくる彼の言葉を、スタークは無情にも切って捨てる。

 そんな少女の素っ気なさにもめげず、マキシミリアンは大袈裟な身振り手振りで以て。

「では改めて──王様《わたし》を、e1へ!!」

『『『おぉおおおおっ!!』』』

 一つ隣のマス目へと、スタークの待つマス目へと王様たる自らを前進させ、それと同時に王様同士の戦闘が確定した事で観客たちのボルテージはいよいよ最高潮に達していた。

「……この中で派手に暴れても外には一切影響しない──だったか? 便利で良いよな、お前ら並び立つ者たちシークエンスの称号とやらはよぉ」

 一方で、そんな観客たちとは対照的にスタークは冷静さを保ったまま、その冷静さには似つかわしくない脚力で以て足元の地面にヒビを入れつつ、その影響で起きた決して小さくない地震も外には届いていないという事実に改めて魔族の力に理不尽さを覚えていた。

 四方世界《スモールワールド》が、ある種の異空間である為だ。

 実際、観客たちはスタークが素の力で地面を割ったという事を理解してどよめきはすれど、およそ悲鳴の如き声は上がっていない。

「そうでしょうとも! それが我々の、延いては魔王カタストロ様のGreatness Power! 至高なる御方の偉業なのです!」

 それを受けたマキシミリアンは、もう存在ごと完全に消失している魔王カタストロへの忠誠を未だ忘れてはいないと言わんばかりの誇らしげな表情と声音で称賛の言葉を紡ぐ。

 その一つ一つが、スタークを苛立たせ。

「……御託はいいから、さっさと来いよ」

「Of Course! ではまず──」

 元より決して気が長い方ではないスタークからの開戦を促す合図に、マキシミリアンは懐から何枚かのトランプを取り出してきた。

 パイクとの戦いでは、しなかった事だ。

(……ちと面倒なのは、パイクとの戦いであいつ独自の戦法らしきものが何一つ明らかになってねぇって事だ。 まさか闇の魔法と身体能力だけで、パイクを圧倒しやがるとはな──)

 そう、マキシミリアンは何と最古にして最強の魔物の半身が宿った女王との戦闘を、あろう事か称号の力を一切使わず制してみせており、パイクとの戦闘を見て対策を講じようと考えていたスタークの策は破綻していた。

 もちろん、だからといって悲観はしない。

(対策なんざ必要ねぇ、まずは手管を見る!)

 事前の策こそ練れなかったが、そんな事は殆どの並び立つ者たちシークエンスとの戦いがそうだったのだから──と開き直ったスタークは、ひとまず相手の初手を見る為に地面へ指を刺し。

「うらぁ! こいつをどうする派手男ぉ!!」

『な、何と! スターク選手、地面を投擲!』

『馬鹿力という言葉では、とても……っ』

 実況が叫んだ通り、そして解説が戦慄した通り家一軒を軽く上回るほどの土塊を片手で持ち上げ、それをマキシミリアンへ投げる。

 数百キロを優に超える筈の土塊は、スタークの馬鹿げた膂力によって相当な速度で飛んでいき、もはや砲弾と呼ぶにも足らない破壊力を今まさに披露しようという、その瞬間。

「さぁ、同じ土俵《ステージ》へ──“No Hand”」

「っ!? 何だ──」

 唐突に数枚のトランプを頭上へとばら撒いたかと思えば、そのうちの五枚だけがマキシミリアンが口にした何らかの呟きとともに光を放ち、また目を潰されたらマズイと判断したスタークは、ほんの一瞬だけ目を逸らす。

 そして一秒も経っていない、その一瞬で。

「……はっ? 消え──」

 二人の間にあった筈の巨大な土塊が音もなく完全に消失した事に、スタークが何事かと驚くのも束の間、彼の周囲となる宙をくるくると舞っていたトランプのうちの五枚が、またしても強く煌めく光を放ったかと思えば。

「集束し、貫く力──“Straight”」

「ぐっ!? あ"ぁっ!?」

 その五枚それぞれから、スタークの反射神経なら充分に躱しきれた筈の細い光線が放射され、たった今の出来事に一瞬だけとはいえ呆然としていたスタークの右肩に光線が集まり、それは一本の大きな光線となって貫き。

 スタークの右肩に小さくない穴を穿つ。

「これが私の称号、【胡蝶之夢《マスカレード》】が誇る力の一端、“魔族麻札《イービルポーカー》”! 十ほど存在する役がそれぞれ効果の違う力を有しているのですよ!」

「……っ、博打由来の力ってわけか……!」

 このトランプを基とした力は、パイクとの戦いでは見せなかったマキシミリアンの本領である博打を由来とした並び立つ者たちシークエンスの中でも異質な能力であり、この他にも様々な効果を持つ力があるのだと笑う彼に、スタークは『ただでさえ策もねぇのに』と舌を打つ。

 だが、が分かればやりようはある。

「役なんざ揃える間も与えなきゃいい!  当てられるもんなら──当ててみやがれぇ!!」

「Wao! 何というQuickness!」

 ばら撒かれたトランプの役が彼の言葉に従って揃うまでには時間差がある、それをすでに見抜いていたスタークは、だったら揃う前に仕留めれば問題はないと判断し、パチパチと乾いた拍手をするマキシミリアンを無視して戦場を目にも止まらぬ超高速で駆け回る。

 もはや音速にも到達するスタークの移動は衝撃波も伴っていたが、マキシミリアンは涼しげな顔で辺りを見回す事しかしておらず。

(後ろ取れる──……っし、ぶち抜け!!)

 そんな余裕綽々な彼の様子に更なる苛立ちを抱きつつ、されど決して慌ててはいないスタークは彼の視界から完全に外れた事を確信した瞬間、左腕に思い切り力を込めてから。

「【迫撃《モーター》──」

 全ての基本となる必殺技で攻撃しようと。










 ……した、スタークの手が止まる。

「──……Stupid」

「っ!?」

 マキシミリアンが呟いた何らかの言葉とともに感じた、あまりにも嫌な予感によって。

 瞬間、スタークは痛む右腕を動かし。

「……っ!! うおあぁっ!!」

 マキシミリアンを一撃で吹き飛ばすべく放った【迫撃拳《モーターノック》】を──右手で殴って止めた。

『い、今のは何事でしょうか? スターク選手が自らの拳を自らの手で止めたような……』

『何かを、回避した? いや、しかし──』

 勢いもそのままに転がるようにして横方向へ移動したスタークだったが、それを見ていた実況や解説は何が何だか分かっておらず。

(分からねぇ、分からねぇが……あのまま振り抜いてたら、……!)

 どころか、スターク自身にさえ『あのまま攻撃を続けていたら死んでいたのは自分の方だ』という事以外は何も分からないでいた。

 そんな中、マキシミリアンは不敵に嗤い。

「……ふふ……馬鹿であっても、間抜けではない──と。 Amazingな判断力です」

「何が、言いてぇ……!」

「もしも、あのまま振り抜いていたら──」

 馬鹿Stupidではあっても間抜けIdiotではない──とても褒め言葉とは思えない口ぶりでを称賛するも、スタークとしては本当に何が何だか分かっていない為、悔しげにしつつも問い返し。

 その問いに対してマキシミリアンは、さも何でもないような事を伝えるが如き軽い笑みとは裏腹に、さも大切な事を伝えるが如く重い声音とともに近くにあった木を指差して。

「──のは、貴女だった」

「斬撃……!? いや待て、は──」

 こうなっていた──と絶対に彼自身は何もしていない筈なのに指し示した木が、スタークの位置だから何とか視認できるほどの細かい破片となるまで斬り裂かれていた事に、スタークは驚きながらも何かに思い至る──。

 ──それは、不可視かつ不可避の斬撃。

 が、発生したという結果だけを残す力。

「そう、そうです! これも我が力の一端、その名も“魔族賽子《イービルダイス》”! 出た目の合計数と同じ序列の並び立つ者たちシークエンスの称号を一瞬だが我が物とする事ができる! 愉快な力でしょう!?」

「それで、あの見えねぇ斬撃を……」

「その通りです! つまり貴女は──」

 その可能性にスタークが思い至った事を察したマキシミリアンは、この力もまた称号によるものなのだと明かしつつ、その手に持ったいくつかの賽子を見せびらかす彼の言動でスタークが全てを察した事を、またしてもマキシミリアンはいち早く察し、こう告げる。

「──序列一位とXYZジーゼットを除く二十二体の力を扱う序列十三位《わたし》を相手取らねばならない!」
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