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対照的な二つの街

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 女王ファシネイトより受けた依頼を完遂する為に、それぞれが全く別方向の問題を抱える二つの街へ別々に向かう事となった双子。

 王命により用意された絢爛な駱駝車に乗って移動し、ギラギラとした太陽に照らされて熱された街道を往くところまでは同じだが。

 スタークを始めとした三人と、フェアトを始めとした三人がそれぞれ辿り着いた街は。

 全く趣きが異なる──……のは違う街なのだから無理はないとしても、と。

 ……もう片方の街を見ていない双子には分からないが、ここまで対照的なのかと驚いてしまうのも仕方ないといえるほどの正反対。

 先に一つの街を造って、『次は、あの街と真逆の趣きをした街を造ってください』と言われて造ったのだろうとさえ思ってしまう。


 そんな街を外から見た双子の反応は──?

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 ──まずは、スタークたち。


「──見えますか? あれがズィーノです」

 やはり、どこか不機嫌にも見える表情を浮かべつつも、ポーラが指差した先には何を媒体として発光しているのかさえも分からない奇妙なほどの光度を持つ光を放つ街があり。

 その街から少し離れた場所、僅かに盛り上がっているとはいえ整地されていると見える砂丘に沿うように舗装された街道の端に駱駝車を停め、そこから街を見ていた一行──。

「俺が初めて行った時とは全然違ぇな。 あんなギラギラしてなかったと思うんだが……」

のは、ここ二・三年ですから」

「なるほどな、俺が行ったのは五年前──」

 かつて、ズィーノを訪れた事も──……そして何より賭博で痛い目を見た事もあるティエントは、その頃と比べて変貌を遂げすぎている街の姿に困惑するも、ここ二・三年で変化したのだから仕方ないとポーラに言われ。

 確かにな、と納得しつつも彼が五年前の出来事を独り言ちようとしていた、その一方。

「──……おい、スターク? どうした、そんなに目ぇ細めないと見えねぇのかあの街が」

 そんな彼の隣に立っていたスタークは、どういうわけか真紅の瞳を限界まで細めるように目蓋をほぼ閉じており、まさか先の迷宮での出来事で視力が落ちたのかと心配するも。

「……逆だ逆、見えすぎて眩しい……こんなに距離あんのに目ぇ潰れそうなんだが……」

「え、マジかよ……」

 どうやら見えにくいのではなく見えすぎるがゆえに興味よりも眩しさが勝つらしく、それこそ直視し続けたら失明するかもしれないと語る少女の発言にティエントは若干引く。

「……確か貴女は異常なほど魔法に弱いのでしたか。 あの光は魔法によるものではないようですが、だからといって普通の光ではないでしょう。 元魔族の影響下にあるのですし」

「だろうな……おい、パイク」

『りゅ?』

 そんな二人の会話を聞いていたポーラはといえば、アレイナを出立する前に女王から伝えられていた無敵の【矛】の弱点について言及しつつ、ズィーノを覆う光は魔法でこそないものの、おそらく並び立つ者たちシークエンスの力によるものである以上、仕方ないだろうと語り。

 それを聞いたスタークは、『はあぁ』と浅くない溜息をこぼしながらも背負っている矛に──……というか、パイクに声をかけて。

「何か、こう……あたしの目を覆うか塞ぐかするやつに変われ。 眼帯でも何でもいいぞ」

『りゅあぁ……? りゅう』

 想像力にも語彙力にも乏しい彼女による精一杯の言い方で、とにかく眩しいのを何とかしろという指示を出した事で、パイクはしばらく悩んだ末──……言われた通りにした。

 光を通さない真っ黒な縞瑪瑙《オニキス》のようで、それでいて紙か布のように軽い素材に変化したパイクによる、スタークの両目を覆う眼帯。

「──……ん、いい感じじゃねぇか」

「……それ、歩けるのか?」

「舐めんな。 お前より鼻も目も利くぜ?」

「そう、なのか? まぁいいけどよ」

 頭に巻きつける形で十字状に装着された眼帯に触れたスタークが満足げにする中で、そんな一歩前も見えない状態で行動できるのかとティエントが問うも、はっきり言って彼女は獣人以上に感覚が優れている為、無問題。

「問題なさそうですね。 では参りましょう」

 それを見て、ポーラも同じく問題は解決したようだと判断したらしく、そろそろ街に向かおうかとなったところで──場面は移り。

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 ──そして、フェアトたち。


「見えてきた……と言うまでもないですね」

「あぁ、本当にねぇ」

 スタークたちとは違い街道の左車線でぴたりと停まって──後続車を考える必要がないからだが──遠くから目的地を眺める一行。

「……あの大きな壁が、例の……?」

「えぇ、パラドを隔離する壁です」

 そんな三人の視界の中心に堂々と居座っている巨大な石塊こそ、パラドから他の街へと疫病が拡がらないようにする為の壁であり。

 今、三人が立っている街道はあちらと同じく盛り上がりつつも均された砂丘に沿うように舗装されている為、多少なり高さがあるのだが、それでも軽く見上げる程度には高い。

「よくもまぁ、あんなもん創ったねぇ。 あたいが羽を伸ばしに行った時ゃ、ここらから見ても分かるくらい綺麗な行楽地だったのに」

「……それ何年前の話です?」

「ん? あー……三十年くらい前かね」

「……結構、昔ですね」

 噂には聞いていたものの、こうして実際に見るのは初めてだったらしいガウリアも、ほぼフェアトと変わらぬ驚きと困惑を感じながら、かつて訪れた時との差に溜息をこぼす。

 尤も、ガウリアの言葉にもある通り三十年近くも前──……要はも何も魔族という種の存在さえ確認されていなかった時の話である為に、まぁ三十年もあれば色々変わっていて当然だろうと思わずにはいられなかった。

 とはいえ隔離でもしなければ対処のしようがないほどの疫病が流行したり、その政策を成す為に街を覆い隠すほどの壁を造るなど。

 普通そんな変わり方はしないのだろうが。

 はは、とガウリアの話を聞いた末に改めて種族の差を感じ、フェアトが苦笑いする中。

「……? ポールさん? どうしたんですか」

「……魔導師団に先触れを出しまして」

「なるほど──で、何かあったんですか?」

 一人だけ少し離れた位置で何かをしていたポールが戻ってきた為、気になっていたフェアトが問うてみたところ、どうやら彼は『これから自分たちが入街する』と魔導師団に伝えていたらしいのだが、その表情がどうにも優れない事を感じ取ったフェアトの問いに。

「──……どうやら、すでにが確認されたようです。 私が最後にパラドの情報を耳にしたのが一週間前ですので、その短期間で変異を遂げたと見てよいでしょうね」

「「……!」」

 あろう事か、パラド内ではすでに六属性の霊人全てへの感染が確認されていたらしく。

 たった七日かそこらという短期間で変異したという、その事実自体も驚きではあるが。

「私個人としては、ガウリア殿の帰還を推奨したいところですが──……いかがですか」

「……」

 六属性全て──という事は当然ながら鉱人《ドワーフ》も含まれているわけで、そう考えるとフェアトはともかくガウリアは引き返すか街の外で待機するのが身の為ではと勧めるポールに。

「……悪いけど、そういうわけにはいかないんだよねぇ。 何しろ前金もらっちゃったし」

「え、いつの間に……」

 数秒ほど悩みこそすれ、どうやら答えは最初から決まっていたらしいガウリアは、いつの間にか女王直々に手渡されていたという決して少なくない前金を理由としつつも──。

「それに、『絶対に死なないし傷つく事もない』と分かってても、この子を放っておけないんだよ。 何だか危なっかしいじゃないか」

「ガウリアさん……」

「……無用の親切だったようですね」

 前金うんぬんは建前で、たとえ何が起きても大丈夫だと先の魔奔流《スタンピード》や迷宮の件で理解していても、それとこれとは話が別だと微笑みながらガウリアはフェアトの頭に手を置き。

 やはり傭兵らしさに欠ける彼女の不器用な優しさに苦笑で返すフェアトを見て、ポールが仕方ないかとばかりに溜息をこぼす一方。

「というかさ、あたいの事よりあんたは大丈夫なのかい? 人間の方が耐性はないだろ?」

「確かに……私は、ですけど……」

 霊人である自分の事より、そもそも疫病に耐性などあろう筈もない人間であるポールの方が余程マズイのではと抱いて当然の疑問をぶつけ、それに便乗する形で無敵の【盾】である自分はともかく彼の方が待機しておくべきなのではとフェアトまでもが口にすると。

「大丈夫です、私の鎧や兜は常に防御と回復の魔法で覆われていますから。 尤も、これさえ対処されるようなら……それまでですが」

「覚悟してんならいいけど──……ん?」

 ポールは自らの鎧や盾、今は外している兜まで含めた装備一式に、【壁《バリア》】や【治《キュア》】といった防御及び回復魔法の術式を織り込み、それらを常に更新させでいるのだと明かして。

 もし、これでも対応できないようなら自分が未熟だっただけなのだという覚悟をすでに決めており、それを察しながらも呆れた様子のガウリアの隣で、フェアトが何かを外し。

「──……お二人とも、これを」

「「?」」

 それを、ポールたちに差し出してきた。

「シルドを四つの指輪に分けたうちの二つです。 私が装備している間は私と同じく傷つかない指輪ですが、ひとたび私から離れれば単なる始神晶製の指輪です。 それでも回復や防御は世界最高峰……意味はある筈ですから」

 フェアトが差し出したのは、フェアト自身が両手に二つずつ嵌めていたうちの左手の指輪であり、こうして外した時点で彼女と同様の【守備力】こそ失われてしまうが、だとしても世界最古にして最強の魔物の一部である以上、役に立たない事は絶対にない筈──。

「……ありがとうございます、フェアト殿」

「助かる。 頼んだよ、シルド」

『りゅっ!』

 そういった考えの末に手渡した指輪を、それぞれ受け取ったポールとガウリアは、かたや神妙かつ慎重な様子で、かたや素直な様子でフェアトやシルドへの礼を述べ、嵌める。










 ──フェアトは、見逃さなかった。


 指輪を嵌める為に手甲を外し、そして嵌めた後に手甲を装着し直す──……その一瞬。


 ポールが左手の薬指に指輪を嵌めたのを。


 ……まぁ、でも。


(……別にいいよね? お父さん、お母さん)


 フェアトは、そう結論づける事にした。


 もう、勇者はこの世にいないのだし──。
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