245 / 333
対照的な二つの街
しおりを挟む
女王ファシネイトより受けた依頼を完遂する為に、それぞれが全く別方向の問題を抱える二つの街へ別々に向かう事となった双子。
王命により用意された絢爛な駱駝車に乗って移動し、ギラギラとした太陽に照らされて熱された街道を往くところまでは同じだが。
スタークを始めとした三人と、フェアトを始めとした三人がそれぞれ辿り着いた街は。
全く趣きが異なる──……のは違う街なのだから無理はないとしても、ここまでかと。
……もう片方の街を見ていない双子には分からないが、ここまで対照的なのかと驚いてしまうのも仕方ないといえるほどの正反対。
先に一つの街を造って、『次は、あの街と真逆の趣きをした街を造ってください』と言われて造ったのだろうとさえ思ってしまう。
そんな街を外から見た双子の反応は──?
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
──まずは、スタークたち。
「──見えますか? あれがズィーノです」
やはり、どこか不機嫌にも見える表情を浮かべつつも、ポーラが指差した先には何を媒体として発光しているのかさえも分からない奇妙なほどの光度を持つ光を放つ街があり。
その街から少し離れた場所、僅かに盛り上がっているとはいえ整地されていると見える砂丘に沿うように舗装された街道の端に駱駝車を停め、そこから街を見ていた一行──。
「俺が初めて行った時とは全然違ぇな。 あんなギラギラしてなかったと思うんだが……」
「ああなったのは、ここ二・三年ですから」
「なるほどな、俺が行ったのは五年前──」
かつて、ズィーノを訪れた事も──……そして何より賭博で痛い目を見た事もあるティエントは、その頃と比べて変貌を遂げすぎている街の姿に困惑するも、ここ二・三年で変化したのだから仕方ないとポーラに言われ。
確かにな、と納得しつつも彼が五年前の出来事を独り言ちようとしていた、その一方。
「──……おい、スターク? どうした、そんなに目ぇ細めないと見えねぇのかあの街が」
そんな彼の隣に立っていたスタークは、どういうわけか真紅の瞳を限界まで細めるように目蓋をほぼ閉じており、まさか先の迷宮での出来事で視力が落ちたのかと心配するも。
「……逆だ逆、見えすぎて眩しい……こんなに距離あんのに目ぇ潰れそうなんだが……」
「え、マジかよ……」
どうやら見えにくいのではなく見えすぎるがゆえに興味よりも眩しさが勝つらしく、それこそ直視し続けたら失明するかもしれないと語る少女の発言にティエントは若干引く。
「……確か貴女は異常なほど魔法に弱いのでしたか。 あの光は魔法によるものではないようですが、だからといって普通の光ではないでしょう。 元魔族の影響下にあるのですし」
「だろうな……おい、パイク」
『りゅ?』
そんな二人の会話を聞いていたポーラはといえば、アレイナを出立する前に女王から伝えられていた無敵の【矛】の弱点について言及しつつ、ズィーノを覆う光は魔法でこそないものの、おそらく並び立つ者たちの力によるものである以上、仕方ないだろうと語り。
それを聞いたスタークは、『はあぁ』と浅くない溜息をこぼしながらも背負っている矛に──……というか、パイクに声をかけて。
「何か、こう……あたしの目を覆うか塞ぐかするやつに変われ。 眼帯でも何でもいいぞ」
『りゅあぁ……? りゅう』
想像力にも語彙力にも乏しい彼女による精一杯の言い方で、とにかく眩しいのを何とかしろという指示を出した事で、パイクはしばらく悩んだ末──……言われた通りにした。
光を通さない真っ黒な縞瑪瑙《オニキス》のようで、それでいて紙か布のように軽い素材に変化したパイクによる、スタークの両目を覆う眼帯。
「──……ん、いい感じじゃねぇか」
「……それ、歩けるのか?」
「舐めんな。 お前より鼻も目も利くぜ?」
「そう、なのか? まぁいいけどよ」
頭に巻きつける形で十字状に装着された眼帯に触れたスタークが満足げにする中で、そんな一歩前も見えない状態で行動できるのかとティエントが問うも、はっきり言って彼女は獣人以上に感覚が優れている為、無問題。
「問題なさそうですね。 では参りましょう」
それを見て、ポーラも同じく問題は解決したようだと判断したらしく、そろそろ街に向かおうかとなったところで──場面は移り。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
──そして、フェアトたち。
「見えてきた……と言うまでもないですね」
「あぁ、本当にねぇ」
スタークたちとは違い街道の左車線でぴたりと停まって──後続車を考える必要がないからだが──遠くから目的地を眺める一行。
「……あの大きな壁が、例の……?」
「えぇ、パラドを隔離する壁です」
そんな三人の視界の中心に堂々と居座っている巨大な石塊こそ、パラドから他の街へと疫病が拡がらないようにする為の壁であり。
今、三人が立っている街道はあちらと同じく盛り上がりつつも均された砂丘に沿うように舗装されている為、多少なり高さがあるのだが、それでも軽く見上げる程度には高い。
「よくもまぁ、あんなもん創ったねぇ。 あたいが羽を伸ばしに行った時ゃ、ここらから見ても分かるくらい綺麗な行楽地だったのに」
「……それ何年前の話です?」
「ん? あー……三十年くらい前かね」
「……結構、昔ですね」
噂には聞いていたものの、こうして実際に見るのは初めてだったらしいガウリアも、ほぼフェアトと変わらぬ驚きと困惑を感じながら、かつて訪れた時との差に溜息をこぼす。
尤も、ガウリアの言葉にもある通り三十年近くも前──……要は元も何も魔族という種の存在さえ確認されていなかった時の話である為に、まぁ三十年もあれば色々変わっていて当然だろうと思わずにはいられなかった。
とはいえ隔離でもしなければ対処のしようがないほどの疫病が流行したり、その政策を成す為に街を覆い隠すほどの壁を造るなど。
普通そんな変わり方はしないのだろうが。
はは、とガウリアの話を聞いた末に改めて種族の差を感じ、フェアトが苦笑いする中。
「……? ポールさん? どうしたんですか」
「……魔導師団に先触れを出しまして」
「なるほど──で、何かあったんですか?」
一人だけ少し離れた位置で何かをしていたポールが戻ってきた為、気になっていたフェアトが問うてみたところ、どうやら彼は『これから自分たちが入街する』と魔導師団に伝えていたらしいのだが、その表情がどうにも優れない事を感じ取ったフェアトの問いに。
「──……どうやら、すでに霊人への感染が確認されたようです。 私が最後にパラドの情報を耳にしたのが一週間前ですので、その短期間で変異を遂げたと見てよいでしょうね」
「「……!」」
あろう事か、パラド内ではすでに六属性の霊人全てへの感染が確認されていたらしく。
たった七日かそこらという短期間で変異したという、その事実自体も驚きではあるが。
「私個人としては、ガウリア殿の帰還を推奨したいところですが──……いかがですか」
「……」
六属性全て──という事は当然ながら鉱人《ドワーフ》も含まれているわけで、そう考えるとフェアトはともかくガウリアは引き返すか街の外で待機するのが身の為ではと勧めるポールに。
「……悪いけど、そういうわけにはいかないんだよねぇ。 何しろ前金もらっちゃったし」
「え、いつの間に……」
数秒ほど悩みこそすれ、どうやら答えは最初から決まっていたらしいガウリアは、いつの間にか女王直々に手渡されていたという決して少なくない前金を理由としつつも──。
「それに、『絶対に死なないし傷つく事もない』と分かってても、この子を放っておけないんだよ。 何だか危なっかしいじゃないか」
「ガウリアさん……」
「……無用の親切だったようですね」
前金うんぬんは建前で、たとえ何が起きても大丈夫だと先の魔奔流《スタンピード》や迷宮の件で理解していても、それとこれとは話が別だと微笑みながらガウリアはフェアトの頭に手を置き。
やはり傭兵らしさに欠ける彼女の不器用な優しさに苦笑で返すフェアトを見て、ポールが仕方ないかとばかりに溜息をこぼす一方。
「というかさ、あたいの事よりあんたは大丈夫なのかい? 人間の方が耐性はないだろ?」
「確かに……私は、あれですけど……」
霊人である自分の事より、そもそも疫病に耐性などあろう筈もない人間であるポールの方が余程マズイのではと抱いて当然の疑問をぶつけ、それに便乗する形で無敵の【盾】である自分はともかく彼の方が待機しておくべきなのではとフェアトまでもが口にすると。
「大丈夫です、私の鎧や兜は常に防御と回復の魔法で覆われていますから。 尤も、これさえ対処されるようなら……それまでですが」
「覚悟してんならいいけど──……ん?」
ポールは自らの鎧や盾、今は外している兜まで含めた装備一式に、【壁《バリア》】や【治《キュア》】といった防御及び回復魔法の術式を織り込み、それらを常に更新させでいるのだと明かして。
もし、これでも対応できないようなら自分が未熟だっただけなのだという覚悟をすでに決めており、それを察しながらも呆れた様子のガウリアの隣で、フェアトが何かを外し。
「──……お二人とも、これを」
「「?」」
それを、ポールたちに差し出してきた。
「シルドを四つの指輪に分けたうちの二つです。 私が装備している間は私と同じく傷つかない指輪ですが、ひとたび私から離れれば単なる始神晶製の指輪です。 それでも回復や防御は世界最高峰……意味はある筈ですから」
フェアトが差し出したのは、フェアト自身が両手に二つずつ嵌めていたうちの左手の指輪であり、こうして外した時点で彼女と同様の【守備力】こそ失われてしまうが、だとしても世界最古にして最強の魔物の一部である以上、役に立たない事は絶対にない筈──。
「……ありがとうございます、フェアト殿」
「助かる。 頼んだよ、シルド」
『りゅっ!』
そういった考えの末に手渡した指輪を、それぞれ受け取ったポールとガウリアは、かたや神妙かつ慎重な様子で、かたや素直な様子でフェアトやシルドへの礼を述べ、嵌める。
──フェアトは、見逃さなかった。
指輪を嵌める為に手甲を外し、そして嵌めた後に手甲を装着し直す──……その一瞬。
ポールが左手の薬指に指輪を嵌めたのを。
……まぁ、でも。
(……別にいいよね? お父さん、お母さん)
フェアトは、そう結論づける事にした。
もう、勇者はこの世にいないのだし──。
王命により用意された絢爛な駱駝車に乗って移動し、ギラギラとした太陽に照らされて熱された街道を往くところまでは同じだが。
スタークを始めとした三人と、フェアトを始めとした三人がそれぞれ辿り着いた街は。
全く趣きが異なる──……のは違う街なのだから無理はないとしても、ここまでかと。
……もう片方の街を見ていない双子には分からないが、ここまで対照的なのかと驚いてしまうのも仕方ないといえるほどの正反対。
先に一つの街を造って、『次は、あの街と真逆の趣きをした街を造ってください』と言われて造ったのだろうとさえ思ってしまう。
そんな街を外から見た双子の反応は──?
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
──まずは、スタークたち。
「──見えますか? あれがズィーノです」
やはり、どこか不機嫌にも見える表情を浮かべつつも、ポーラが指差した先には何を媒体として発光しているのかさえも分からない奇妙なほどの光度を持つ光を放つ街があり。
その街から少し離れた場所、僅かに盛り上がっているとはいえ整地されていると見える砂丘に沿うように舗装された街道の端に駱駝車を停め、そこから街を見ていた一行──。
「俺が初めて行った時とは全然違ぇな。 あんなギラギラしてなかったと思うんだが……」
「ああなったのは、ここ二・三年ですから」
「なるほどな、俺が行ったのは五年前──」
かつて、ズィーノを訪れた事も──……そして何より賭博で痛い目を見た事もあるティエントは、その頃と比べて変貌を遂げすぎている街の姿に困惑するも、ここ二・三年で変化したのだから仕方ないとポーラに言われ。
確かにな、と納得しつつも彼が五年前の出来事を独り言ちようとしていた、その一方。
「──……おい、スターク? どうした、そんなに目ぇ細めないと見えねぇのかあの街が」
そんな彼の隣に立っていたスタークは、どういうわけか真紅の瞳を限界まで細めるように目蓋をほぼ閉じており、まさか先の迷宮での出来事で視力が落ちたのかと心配するも。
「……逆だ逆、見えすぎて眩しい……こんなに距離あんのに目ぇ潰れそうなんだが……」
「え、マジかよ……」
どうやら見えにくいのではなく見えすぎるがゆえに興味よりも眩しさが勝つらしく、それこそ直視し続けたら失明するかもしれないと語る少女の発言にティエントは若干引く。
「……確か貴女は異常なほど魔法に弱いのでしたか。 あの光は魔法によるものではないようですが、だからといって普通の光ではないでしょう。 元魔族の影響下にあるのですし」
「だろうな……おい、パイク」
『りゅ?』
そんな二人の会話を聞いていたポーラはといえば、アレイナを出立する前に女王から伝えられていた無敵の【矛】の弱点について言及しつつ、ズィーノを覆う光は魔法でこそないものの、おそらく並び立つ者たちの力によるものである以上、仕方ないだろうと語り。
それを聞いたスタークは、『はあぁ』と浅くない溜息をこぼしながらも背負っている矛に──……というか、パイクに声をかけて。
「何か、こう……あたしの目を覆うか塞ぐかするやつに変われ。 眼帯でも何でもいいぞ」
『りゅあぁ……? りゅう』
想像力にも語彙力にも乏しい彼女による精一杯の言い方で、とにかく眩しいのを何とかしろという指示を出した事で、パイクはしばらく悩んだ末──……言われた通りにした。
光を通さない真っ黒な縞瑪瑙《オニキス》のようで、それでいて紙か布のように軽い素材に変化したパイクによる、スタークの両目を覆う眼帯。
「──……ん、いい感じじゃねぇか」
「……それ、歩けるのか?」
「舐めんな。 お前より鼻も目も利くぜ?」
「そう、なのか? まぁいいけどよ」
頭に巻きつける形で十字状に装着された眼帯に触れたスタークが満足げにする中で、そんな一歩前も見えない状態で行動できるのかとティエントが問うも、はっきり言って彼女は獣人以上に感覚が優れている為、無問題。
「問題なさそうですね。 では参りましょう」
それを見て、ポーラも同じく問題は解決したようだと判断したらしく、そろそろ街に向かおうかとなったところで──場面は移り。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
──そして、フェアトたち。
「見えてきた……と言うまでもないですね」
「あぁ、本当にねぇ」
スタークたちとは違い街道の左車線でぴたりと停まって──後続車を考える必要がないからだが──遠くから目的地を眺める一行。
「……あの大きな壁が、例の……?」
「えぇ、パラドを隔離する壁です」
そんな三人の視界の中心に堂々と居座っている巨大な石塊こそ、パラドから他の街へと疫病が拡がらないようにする為の壁であり。
今、三人が立っている街道はあちらと同じく盛り上がりつつも均された砂丘に沿うように舗装されている為、多少なり高さがあるのだが、それでも軽く見上げる程度には高い。
「よくもまぁ、あんなもん創ったねぇ。 あたいが羽を伸ばしに行った時ゃ、ここらから見ても分かるくらい綺麗な行楽地だったのに」
「……それ何年前の話です?」
「ん? あー……三十年くらい前かね」
「……結構、昔ですね」
噂には聞いていたものの、こうして実際に見るのは初めてだったらしいガウリアも、ほぼフェアトと変わらぬ驚きと困惑を感じながら、かつて訪れた時との差に溜息をこぼす。
尤も、ガウリアの言葉にもある通り三十年近くも前──……要は元も何も魔族という種の存在さえ確認されていなかった時の話である為に、まぁ三十年もあれば色々変わっていて当然だろうと思わずにはいられなかった。
とはいえ隔離でもしなければ対処のしようがないほどの疫病が流行したり、その政策を成す為に街を覆い隠すほどの壁を造るなど。
普通そんな変わり方はしないのだろうが。
はは、とガウリアの話を聞いた末に改めて種族の差を感じ、フェアトが苦笑いする中。
「……? ポールさん? どうしたんですか」
「……魔導師団に先触れを出しまして」
「なるほど──で、何かあったんですか?」
一人だけ少し離れた位置で何かをしていたポールが戻ってきた為、気になっていたフェアトが問うてみたところ、どうやら彼は『これから自分たちが入街する』と魔導師団に伝えていたらしいのだが、その表情がどうにも優れない事を感じ取ったフェアトの問いに。
「──……どうやら、すでに霊人への感染が確認されたようです。 私が最後にパラドの情報を耳にしたのが一週間前ですので、その短期間で変異を遂げたと見てよいでしょうね」
「「……!」」
あろう事か、パラド内ではすでに六属性の霊人全てへの感染が確認されていたらしく。
たった七日かそこらという短期間で変異したという、その事実自体も驚きではあるが。
「私個人としては、ガウリア殿の帰還を推奨したいところですが──……いかがですか」
「……」
六属性全て──という事は当然ながら鉱人《ドワーフ》も含まれているわけで、そう考えるとフェアトはともかくガウリアは引き返すか街の外で待機するのが身の為ではと勧めるポールに。
「……悪いけど、そういうわけにはいかないんだよねぇ。 何しろ前金もらっちゃったし」
「え、いつの間に……」
数秒ほど悩みこそすれ、どうやら答えは最初から決まっていたらしいガウリアは、いつの間にか女王直々に手渡されていたという決して少なくない前金を理由としつつも──。
「それに、『絶対に死なないし傷つく事もない』と分かってても、この子を放っておけないんだよ。 何だか危なっかしいじゃないか」
「ガウリアさん……」
「……無用の親切だったようですね」
前金うんぬんは建前で、たとえ何が起きても大丈夫だと先の魔奔流《スタンピード》や迷宮の件で理解していても、それとこれとは話が別だと微笑みながらガウリアはフェアトの頭に手を置き。
やはり傭兵らしさに欠ける彼女の不器用な優しさに苦笑で返すフェアトを見て、ポールが仕方ないかとばかりに溜息をこぼす一方。
「というかさ、あたいの事よりあんたは大丈夫なのかい? 人間の方が耐性はないだろ?」
「確かに……私は、あれですけど……」
霊人である自分の事より、そもそも疫病に耐性などあろう筈もない人間であるポールの方が余程マズイのではと抱いて当然の疑問をぶつけ、それに便乗する形で無敵の【盾】である自分はともかく彼の方が待機しておくべきなのではとフェアトまでもが口にすると。
「大丈夫です、私の鎧や兜は常に防御と回復の魔法で覆われていますから。 尤も、これさえ対処されるようなら……それまでですが」
「覚悟してんならいいけど──……ん?」
ポールは自らの鎧や盾、今は外している兜まで含めた装備一式に、【壁《バリア》】や【治《キュア》】といった防御及び回復魔法の術式を織り込み、それらを常に更新させでいるのだと明かして。
もし、これでも対応できないようなら自分が未熟だっただけなのだという覚悟をすでに決めており、それを察しながらも呆れた様子のガウリアの隣で、フェアトが何かを外し。
「──……お二人とも、これを」
「「?」」
それを、ポールたちに差し出してきた。
「シルドを四つの指輪に分けたうちの二つです。 私が装備している間は私と同じく傷つかない指輪ですが、ひとたび私から離れれば単なる始神晶製の指輪です。 それでも回復や防御は世界最高峰……意味はある筈ですから」
フェアトが差し出したのは、フェアト自身が両手に二つずつ嵌めていたうちの左手の指輪であり、こうして外した時点で彼女と同様の【守備力】こそ失われてしまうが、だとしても世界最古にして最強の魔物の一部である以上、役に立たない事は絶対にない筈──。
「……ありがとうございます、フェアト殿」
「助かる。 頼んだよ、シルド」
『りゅっ!』
そういった考えの末に手渡した指輪を、それぞれ受け取ったポールとガウリアは、かたや神妙かつ慎重な様子で、かたや素直な様子でフェアトやシルドへの礼を述べ、嵌める。
──フェアトは、見逃さなかった。
指輪を嵌める為に手甲を外し、そして嵌めた後に手甲を装着し直す──……その一瞬。
ポールが左手の薬指に指輪を嵌めたのを。
……まぁ、でも。
(……別にいいよね? お父さん、お母さん)
フェアトは、そう結論づける事にした。
もう、勇者はこの世にいないのだし──。
0
お気に入りに追加
37
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
とある高校の淫らで背徳的な日常
神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。
クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。
後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。
ノクターンとかにもある
お気に入りをしてくれると喜ぶ。
感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。
してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!
よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です!
僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。
つねやま じゅんぺいと読む。
何処にでもいる普通のサラリーマン。
仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・
突然気分が悪くなり、倒れそうになる。
周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。
何が起こったか分からないまま、気を失う。
気が付けば電車ではなく、どこかの建物。
周りにも人が倒れている。
僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。
気が付けば誰かがしゃべってる。
どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。
そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。
想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。
どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。
一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・
ですが、ここで問題が。
スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・
より良いスキルは早い者勝ち。
我も我もと群がる人々。
そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。
僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。
気が付けば2人だけになっていて・・・・
スキルも2つしか残っていない。
一つは鑑定。
もう一つは家事全般。
両方とも微妙だ・・・・
彼女の名は才村 友郁
さいむら ゆか。 23歳。
今年社会人になりたて。
取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。
おっさんの神器はハズレではない
兎屋亀吉
ファンタジー
今日も元気に満員電車で通勤途中のおっさんは、突然異世界から召喚されてしまう。一緒に召喚された大勢の人々と共に、女神様から一人3つの神器をいただけることになったおっさん。はたしておっさんは何を選ぶのか。おっさんの選んだ神器の能力とは。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる