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【神の眼】
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勇者と聖女の娘というのは事実か──。
決して嘘や冗談や世迷言、まして憶測などというあやふやなものとは思えぬ王の問い。
(嘘だろ!? 何で王がこいつらの事を!?)
(……【神の眼】、だったっけねぇ……)
双子の素性を知るガウリアとティエントも当然驚き、ガウリアに関して言えば女王の持つ【神の眼】の噂を不明瞭ながらも知っていたとはいえ、それでも動揺を隠せていない。
こうなると、この二人と比べものにならないほどの当事者というか、何なら当人である双子の動揺は到底隠しきれるものではなく。
「……何でだよ、何でその事を──」
「姉さん!!」
「え、あ──」
図らずも疑問が口をついて出てしまった姉を、フェアトはその自分の反応こそが図星だと伝えてしまうと分かっていても、そうせざるを得ないとばかりに咎めたが、もう遅い。
「やはり、そうなのか……そうか──」
「「……っ」」
双子の反応を確認した次の瞬間、先程まで寝転がっていた女王は幽鬼か何かであるかのようにゆらりと立ち上がって、たった今も膝をついたままの双子の方へ歩み寄ってくる。
歩み寄られているのが他の何某かだったなら、まず間違いなく畏怖する場面だろうが。
この双子は、これといってかの女王への畏怖や畏敬の感情など抱いてはいないようで。
(軽く叩きゃ忘れてくれんじゃねぇか……?)
(幸いにも一人……何とか話を逸らして──)
こうして息を呑んでいるのも、かたや自分の失態をいかに『力』で以てして挽回するかと彼女なりに思案し、かたや姉の失態をいかに『知恵』で以てして誤魔化すかと普段通りに頭を働かせる事に集中しているだけ──。
そして、ようやく双子の目の前にまで辿り着いた女王、ファシネイトは双子と目を合わせる為に、その長く艶やかな細い褐色の足を曲げつつ、それぞれの細い肩に手を置いて。
「──やはりそうか! 道理で瓜二つじゃと思うておったのじゃ! いやぁ懐かしいのう!」
「「えっ」」
それまでの無気力さはどこへやら、いきなり満面かつ美しい笑みを浮かべながら、双子の姿に勇者や聖女の姿を重ねて懐かしんでいる女王に、またも双子は困惑を強いられる。
「……親父とお袋を知ってんのか……?」
「うむ! 彼奴らとは今も盟友じゃ!」
「盟友ね……死んだ後もか?」
「無論じゃとも!」
「へー……」
あまりの困惑からか、スタークがつい先程妹に咎められた事も忘れて、おまけに敬語すら使わぬまま両親の事を知っているのかとの疑問を呈したところ、まさかの盟友という答えが返ってきた事で更に疑問符が浮かぶ中。
(もう誤魔化しは効かない……それより──)
両親は勇者や聖女として魔族を討滅するべく世界を回っていたのだから、この美貌と年齢が乖離し放題な女王と顔見知りでもおかしくないと踏んでいたフェアトは、その事に対する驚きより『どうして看破されたのか』という事が気になって仕方がない様子である。
女王の言葉通り『瓜二つ』だったからと言ってしまえばそれまでなのだろうが、そんな一言で納得できるほど彼女は浅薄ではない。
……姉とは違うのだ、姉とは。
「……何故、見抜く事ができたのですか」
ゆえにこそ観念しつつ、そして瓜二つである事も受け入れたうえで何故それをと問う。
「む? あぁ、それは──この眼の力じゃな」
「……眼、とは?」
すると、ファシネイトは何でもないかのように右の目尻辺りをとんとんと叩きつつ、その綺麗に切り揃えられた艶やかな黒髪の下にある黄金色の瞳に秘密があるのだと明かす。
もちろん、それを知らないフェアトとしては、ファシネイトが何を言っているのか全く要領を得ず、こてんと首をかしげていたが。
「【神の眼】だろう? あたいは直接その眼の力を見た事ぁなかったけどね。 違うかい?」
そんな少女を見かねたガウリアは女王が補足説明するより早く【美食国家】の女王が持つ異能、【神の眼】とやらについて言及し。
「その通りじゃ、この眼は代々カイゼリンの純粋な血を引く一人の女に受け継がれるものでのう。 これこそ妾が女王たり得る所以よ」
「なる、ほど……」
それを聞いた女王は、『やはり知っておるか』と満足げに頷きつつ、この特殊な力はカイゼリン王家に産まれた一人の女の子にのみ継承されるらしく、その眼で視線を合わせた相手が『隠しておきたい事』を暴くのだと語り、この眼があってこその王位だと明かす。
そんな風に語る女王の得意げな表情を見ていたフェアトは、少し別の事を考えており。
(【魔導国家】の王族に伝わるあの錫杖を操る力と似たようなもの──……なのかな……?)
およそ一ヶ月強ほど前、【魔導国家】を離れる際に王城で見た『精霊の力を以て城を操る錫杖』を、あの国の王家の人間のみが扱えるという話を思い返し、もしかしたらあれと同じような力なのかも──と推測していた。
他の国の王族や皇族にも、このような力があるのかもしれない──とも推測していた。
「つまり、その眼で私たちを見たから──」
それから、フェアトは話を纏めにかかるべく、自分たち双子が隠したかった『素性』を自分たち二人を【神の眼】で見て悟ったのかと結論づけようと──……したのだろうが。
「私たち、というのは少しばかり違うのう」
「え?」
そんな少女の言葉は他でもない女王によって遮られるばかりか、その勢いのままに否定されてしまい、それを疑問に思ったフェアトが女王の方へ顔を向けたところ、ファシネイトはゆらりと立ち上がってから手を伸ばし。
「妾が見抜けたのは、そこな姉のみじゃ。 其方に関する情報は何一つ見抜けておらんぞ」
「!」
この【神の眼】を以てして見抜く事ができたのは、あくまでも姉のスタークに限った話であり、スタークを見通した事で初めて双子の妹だと理解できたフェアトの情報は一つたりとも得られていないと明かすと、フェアトは全てを察したような表情を湛えてしまう。
やはり【神の眼】とやらでも駄目か、と。
尤も、【神の眼】と違い視線を合わさずとも世界の全てを看破する【全知全能《オール》】でさえフェアトの事は全く分からないのだから、どこまでいっても一人の人間が持つ力では無理な筈だ──と思っていたのも事実なのだが。
「フェアトと申したか。 其方は、何じゃ?」
「……それ、は──」
そんな中、先程よりも更に顔を近づける形で覗き込んできつつ、『何者』ではなく『何だ』という人間扱いするつもりのない率直な疑問を投げかけてきた女王に、フェアトは何と答えるべきかと──正直、迷ってしまう。
フェアト自身、自分の【守備力】の出自に関しては何一つ分かっていないからである。
ゆえにこそ言い淀んでいた──その時。
「──……“無敵の【盾】”。 違うか?」
「なっ!?」
「ほう……?」
これまで完全に沈黙を貫いていた大陸一の処刑人、並び立つ者たち序列三位の元魔族たるセリシアが、どういうわけかフェアトの二つ名を確認するような口調で明かし、それを聞いた二人がそれぞれ違う反応を見せる中。
『『りゅ~……っ』』
姉の背に、そして妹の指に装備されている神晶竜たちは形そのままに威嚇しているし。
(……何であいつが知ってんだ……?)
姉は姉でセリシアが元魔族である事を覚えているのかいないのかはともかく、どうして妹の事を知っているのかと気になっていた。
……多分、覚えていないのだろう。
処刑人だという事を覚えていただけでも。
彼女にとっては、とても珍しいのだから。
決して嘘や冗談や世迷言、まして憶測などというあやふやなものとは思えぬ王の問い。
(嘘だろ!? 何で王がこいつらの事を!?)
(……【神の眼】、だったっけねぇ……)
双子の素性を知るガウリアとティエントも当然驚き、ガウリアに関して言えば女王の持つ【神の眼】の噂を不明瞭ながらも知っていたとはいえ、それでも動揺を隠せていない。
こうなると、この二人と比べものにならないほどの当事者というか、何なら当人である双子の動揺は到底隠しきれるものではなく。
「……何でだよ、何でその事を──」
「姉さん!!」
「え、あ──」
図らずも疑問が口をついて出てしまった姉を、フェアトはその自分の反応こそが図星だと伝えてしまうと分かっていても、そうせざるを得ないとばかりに咎めたが、もう遅い。
「やはり、そうなのか……そうか──」
「「……っ」」
双子の反応を確認した次の瞬間、先程まで寝転がっていた女王は幽鬼か何かであるかのようにゆらりと立ち上がって、たった今も膝をついたままの双子の方へ歩み寄ってくる。
歩み寄られているのが他の何某かだったなら、まず間違いなく畏怖する場面だろうが。
この双子は、これといってかの女王への畏怖や畏敬の感情など抱いてはいないようで。
(軽く叩きゃ忘れてくれんじゃねぇか……?)
(幸いにも一人……何とか話を逸らして──)
こうして息を呑んでいるのも、かたや自分の失態をいかに『力』で以てして挽回するかと彼女なりに思案し、かたや姉の失態をいかに『知恵』で以てして誤魔化すかと普段通りに頭を働かせる事に集中しているだけ──。
そして、ようやく双子の目の前にまで辿り着いた女王、ファシネイトは双子と目を合わせる為に、その長く艶やかな細い褐色の足を曲げつつ、それぞれの細い肩に手を置いて。
「──やはりそうか! 道理で瓜二つじゃと思うておったのじゃ! いやぁ懐かしいのう!」
「「えっ」」
それまでの無気力さはどこへやら、いきなり満面かつ美しい笑みを浮かべながら、双子の姿に勇者や聖女の姿を重ねて懐かしんでいる女王に、またも双子は困惑を強いられる。
「……親父とお袋を知ってんのか……?」
「うむ! 彼奴らとは今も盟友じゃ!」
「盟友ね……死んだ後もか?」
「無論じゃとも!」
「へー……」
あまりの困惑からか、スタークがつい先程妹に咎められた事も忘れて、おまけに敬語すら使わぬまま両親の事を知っているのかとの疑問を呈したところ、まさかの盟友という答えが返ってきた事で更に疑問符が浮かぶ中。
(もう誤魔化しは効かない……それより──)
両親は勇者や聖女として魔族を討滅するべく世界を回っていたのだから、この美貌と年齢が乖離し放題な女王と顔見知りでもおかしくないと踏んでいたフェアトは、その事に対する驚きより『どうして看破されたのか』という事が気になって仕方がない様子である。
女王の言葉通り『瓜二つ』だったからと言ってしまえばそれまでなのだろうが、そんな一言で納得できるほど彼女は浅薄ではない。
……姉とは違うのだ、姉とは。
「……何故、見抜く事ができたのですか」
ゆえにこそ観念しつつ、そして瓜二つである事も受け入れたうえで何故それをと問う。
「む? あぁ、それは──この眼の力じゃな」
「……眼、とは?」
すると、ファシネイトは何でもないかのように右の目尻辺りをとんとんと叩きつつ、その綺麗に切り揃えられた艶やかな黒髪の下にある黄金色の瞳に秘密があるのだと明かす。
もちろん、それを知らないフェアトとしては、ファシネイトが何を言っているのか全く要領を得ず、こてんと首をかしげていたが。
「【神の眼】だろう? あたいは直接その眼の力を見た事ぁなかったけどね。 違うかい?」
そんな少女を見かねたガウリアは女王が補足説明するより早く【美食国家】の女王が持つ異能、【神の眼】とやらについて言及し。
「その通りじゃ、この眼は代々カイゼリンの純粋な血を引く一人の女に受け継がれるものでのう。 これこそ妾が女王たり得る所以よ」
「なる、ほど……」
それを聞いた女王は、『やはり知っておるか』と満足げに頷きつつ、この特殊な力はカイゼリン王家に産まれた一人の女の子にのみ継承されるらしく、その眼で視線を合わせた相手が『隠しておきたい事』を暴くのだと語り、この眼があってこその王位だと明かす。
そんな風に語る女王の得意げな表情を見ていたフェアトは、少し別の事を考えており。
(【魔導国家】の王族に伝わるあの錫杖を操る力と似たようなもの──……なのかな……?)
およそ一ヶ月強ほど前、【魔導国家】を離れる際に王城で見た『精霊の力を以て城を操る錫杖』を、あの国の王家の人間のみが扱えるという話を思い返し、もしかしたらあれと同じような力なのかも──と推測していた。
他の国の王族や皇族にも、このような力があるのかもしれない──とも推測していた。
「つまり、その眼で私たちを見たから──」
それから、フェアトは話を纏めにかかるべく、自分たち双子が隠したかった『素性』を自分たち二人を【神の眼】で見て悟ったのかと結論づけようと──……したのだろうが。
「私たち、というのは少しばかり違うのう」
「え?」
そんな少女の言葉は他でもない女王によって遮られるばかりか、その勢いのままに否定されてしまい、それを疑問に思ったフェアトが女王の方へ顔を向けたところ、ファシネイトはゆらりと立ち上がってから手を伸ばし。
「妾が見抜けたのは、そこな姉のみじゃ。 其方に関する情報は何一つ見抜けておらんぞ」
「!」
この【神の眼】を以てして見抜く事ができたのは、あくまでも姉のスタークに限った話であり、スタークを見通した事で初めて双子の妹だと理解できたフェアトの情報は一つたりとも得られていないと明かすと、フェアトは全てを察したような表情を湛えてしまう。
やはり【神の眼】とやらでも駄目か、と。
尤も、【神の眼】と違い視線を合わさずとも世界の全てを看破する【全知全能《オール》】でさえフェアトの事は全く分からないのだから、どこまでいっても一人の人間が持つ力では無理な筈だ──と思っていたのも事実なのだが。
「フェアトと申したか。 其方は、何じゃ?」
「……それ、は──」
そんな中、先程よりも更に顔を近づける形で覗き込んできつつ、『何者』ではなく『何だ』という人間扱いするつもりのない率直な疑問を投げかけてきた女王に、フェアトは何と答えるべきかと──正直、迷ってしまう。
フェアト自身、自分の【守備力】の出自に関しては何一つ分かっていないからである。
ゆえにこそ言い淀んでいた──その時。
「──……“無敵の【盾】”。 違うか?」
「なっ!?」
「ほう……?」
これまで完全に沈黙を貫いていた大陸一の処刑人、並び立つ者たち序列三位の元魔族たるセリシアが、どういうわけかフェアトの二つ名を確認するような口調で明かし、それを聞いた二人がそれぞれ違う反応を見せる中。
『『りゅ~……っ』』
姉の背に、そして妹の指に装備されている神晶竜たちは形そのままに威嚇しているし。
(……何であいつが知ってんだ……?)
姉は姉でセリシアが元魔族である事を覚えているのかいないのかはともかく、どうして妹の事を知っているのかと気になっていた。
……多分、覚えていないのだろう。
処刑人だという事を覚えていただけでも。
彼女にとっては、とても珍しいのだから。
応援ありがとうございます!
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