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砂漠への帰還
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「──……たった数時間の筈なのに……」
まるで数ヶ月も迷宮《あそこ》に居たみたいだ──。
南ルペラシオ──通称【美食国家】が誇る最大の迷宮、可食迷宮《エディブル》へ流されたかもしれない姉を救う為、歴戦の鉱人《ドワーフ》傭兵と新進気鋭の獣人冒険者を引き連れて向かったフェアト。
「何故だ!? 何故お前たちは迷宮から出てきた!? 今ここは封鎖されているのだぞ!?」
「いやぁ、ちょっと理由《わけ》があってねぇ……」
「魔奔流《スタンピード》は鎮められたと報告を受けてはいるが……! もしや、お前たちが何かを……!」
「お、おいおい! まずは話をだな──」
そんな彼女たちが数時間の後、魔奔流《スタンピード》騒動の件により今この瞬間も封鎖されている正規の出入り口から姿を見せた事で、そこに配置されていた王都の衛兵たちが驚き、それに対してガウリアやティエントが説明する中で。
フェアトが最初に思ったのは、どうにも十五歳という年齢には見合わない呟きだった。
尤も、それは無理もない事であり──。
迷宮内で遭遇した大量の蠍や、【竜種】もかくやという強力な魔物の数々、そして何よりも──序列五位・六位の並び立つ者たち。
これらとの戦いや話し合い──……それから、その後に待っていた名状しがたい異形の魔族との邂逅と、その魔族を封印する結界を文字通り腹に収めた三神獣が一体、大陸亀《たいりくがめ》。
……もう、お腹いっぱいだったのだ。
しかも並び立つ者たちは倒せてない。
あの二体──五位のエステルと六位のフェンは、『次は本気でやったるわ』『キミらに恨みはないけどねぇ』といった別れの言葉を贈り、フェアトたちの帰還を見届けている。
「……くー……すー……」
「……呑気な事で」
『りゅあー……』
ちなみに、スタークはまだ目覚めてない。
……いや、正確に言えば起きてはいた。
一度は間違いなく目覚めたのだが、その後は【一視同仁《イコール》】の反動など関係なしに、どうやら普通に眠気に襲われて眠ってしまった。
そんな彼女は今、パイクが化けた極駱駝《ごくらくだ》へ仰向けに騎乗する形で背負われており、あまりの気の抜けっぷりにパイクまでもが嘆息。
無論、呆れの感情がこもった溜息だ──。
……ただ、まぁ。
フェアトにしても、そこまで悪い状況でもないのだ──今、姉が寝ているというのは。
何せ、この姉は数時間前に絶品砂海《デザートデザート》に大きな穴を穿ち、この星の核たる世界の心臓を剥き出しにして八色の魔素を溢れさせ、あわや世界の機能を停止させかけた張本人なのだ。
王の命令により配置されているという、この衛兵たちにその事がバレてしまえば──。
(……今度こそ、不敬罪どころじゃなくなる)
そう、【魔導国家】では寛容な王や友好的な王女のお陰で回避できた不敬が、いよいよ以て適用されてしまうのは目に見えている。
平民との距離が比較的近い貴族ならともかく、そこまで民草との距離が近くない王族に優しさなど必要ない事は彼女も知っており。
そういう意味では【魔導国家】の王族こそが珍しく、【美食国家】の王族が必ずしもあちらのように寛容だとは限らないから──。
と、これから起こすかもしれない姉の不祥事を未然に防ぐ為に考えを巡らせていた時。
「大体、子供連れというのも妙な話だ! ここは可食迷宮《エディブル》! 【美食国家】最大にして最難関の迷宮で──……おい! 聞いてるのか!?」
「……え? あぁはい、それは──」
そんな彼女の思考を遮ったのは、ガウリアたちを問い詰めていた衛兵の一人から発せられた突き上げるような声であり、その言葉が正論であると分かっていたフェアトは、ふと顔を上げつつ何かしらの誤魔化しをせんと。
……したのだろうが、そんな彼女の声もまた、フェアトでもガウリアたちでも、ましてや衛兵でもない第三者に遮られる事となる。
「──……そこまでよ! 衛兵たち!!」
「その方たちは私たちが対処します!」
「! 何者だ──」
突如、息ぴったりといった感じで割り込んできた二つの女声に反応した衛兵たちは、ちょうどいい具合に逆光となっていた砂漠の日差しに目を細めつつも正体を確かめんとし。
「「──なっ!?」」
……すぐさま、その正体に目を剥いた。
何せ、そこにいたのはこの国が誇る騎士団の一番隊に所属する優秀な騎士と、そんな女性騎士を姉に持つ高名な冒険者だったから。
「まさか、【魔弾の銃士】か!? どうなってる、魔奔流《スタンピード》には出張ってなかった筈だぞ!」
「それに、あの騎士はイフティー騎士団一番隊所属の……姉妹揃って何のつもりだ!?」
そう、どちらもがフェアトともスタークとも面識のある姉妹──アルシェとクリセルダであり、この国でも割と有名な姉妹が『ありえないタイミングで迷宮から姿を現した者たち』を明らかに庇うような言動をした事で。
衛兵たちは、ますます疑り深くなった。
「クリセルダ! 来てくれたのかい!!」
「助かるぜ、俺らじゃどうにもよ……」
「えぇ、後は任せてください!」
とはいえ、そこまで口上手というわけでもないガウリアやティエントでは、どれだけ時間がかかったか分かったものではなく、ありがたい事に変わりない為、二人は礼を述べ。
そんな二人に対し、クリセルダが得意げな様子でサムズアップする一方、互いに静かに歩み寄っていたフェアトとアルシェは──。
「お久しぶり……って感じじゃないですね」
「意外と早い再会になったわね、フェアト」
またいつか会いましょう──……そう言って別れてから、何と一日弱しか経過していない事に、お互いに苦笑するしかないようだ。
まるで数ヶ月も迷宮《あそこ》に居たみたいだ──。
南ルペラシオ──通称【美食国家】が誇る最大の迷宮、可食迷宮《エディブル》へ流されたかもしれない姉を救う為、歴戦の鉱人《ドワーフ》傭兵と新進気鋭の獣人冒険者を引き連れて向かったフェアト。
「何故だ!? 何故お前たちは迷宮から出てきた!? 今ここは封鎖されているのだぞ!?」
「いやぁ、ちょっと理由《わけ》があってねぇ……」
「魔奔流《スタンピード》は鎮められたと報告を受けてはいるが……! もしや、お前たちが何かを……!」
「お、おいおい! まずは話をだな──」
そんな彼女たちが数時間の後、魔奔流《スタンピード》騒動の件により今この瞬間も封鎖されている正規の出入り口から姿を見せた事で、そこに配置されていた王都の衛兵たちが驚き、それに対してガウリアやティエントが説明する中で。
フェアトが最初に思ったのは、どうにも十五歳という年齢には見合わない呟きだった。
尤も、それは無理もない事であり──。
迷宮内で遭遇した大量の蠍や、【竜種】もかくやという強力な魔物の数々、そして何よりも──序列五位・六位の並び立つ者たち。
これらとの戦いや話し合い──……それから、その後に待っていた名状しがたい異形の魔族との邂逅と、その魔族を封印する結界を文字通り腹に収めた三神獣が一体、大陸亀《たいりくがめ》。
……もう、お腹いっぱいだったのだ。
しかも並び立つ者たちは倒せてない。
あの二体──五位のエステルと六位のフェンは、『次は本気でやったるわ』『キミらに恨みはないけどねぇ』といった別れの言葉を贈り、フェアトたちの帰還を見届けている。
「……くー……すー……」
「……呑気な事で」
『りゅあー……』
ちなみに、スタークはまだ目覚めてない。
……いや、正確に言えば起きてはいた。
一度は間違いなく目覚めたのだが、その後は【一視同仁《イコール》】の反動など関係なしに、どうやら普通に眠気に襲われて眠ってしまった。
そんな彼女は今、パイクが化けた極駱駝《ごくらくだ》へ仰向けに騎乗する形で背負われており、あまりの気の抜けっぷりにパイクまでもが嘆息。
無論、呆れの感情がこもった溜息だ──。
……ただ、まぁ。
フェアトにしても、そこまで悪い状況でもないのだ──今、姉が寝ているというのは。
何せ、この姉は数時間前に絶品砂海《デザートデザート》に大きな穴を穿ち、この星の核たる世界の心臓を剥き出しにして八色の魔素を溢れさせ、あわや世界の機能を停止させかけた張本人なのだ。
王の命令により配置されているという、この衛兵たちにその事がバレてしまえば──。
(……今度こそ、不敬罪どころじゃなくなる)
そう、【魔導国家】では寛容な王や友好的な王女のお陰で回避できた不敬が、いよいよ以て適用されてしまうのは目に見えている。
平民との距離が比較的近い貴族ならともかく、そこまで民草との距離が近くない王族に優しさなど必要ない事は彼女も知っており。
そういう意味では【魔導国家】の王族こそが珍しく、【美食国家】の王族が必ずしもあちらのように寛容だとは限らないから──。
と、これから起こすかもしれない姉の不祥事を未然に防ぐ為に考えを巡らせていた時。
「大体、子供連れというのも妙な話だ! ここは可食迷宮《エディブル》! 【美食国家】最大にして最難関の迷宮で──……おい! 聞いてるのか!?」
「……え? あぁはい、それは──」
そんな彼女の思考を遮ったのは、ガウリアたちを問い詰めていた衛兵の一人から発せられた突き上げるような声であり、その言葉が正論であると分かっていたフェアトは、ふと顔を上げつつ何かしらの誤魔化しをせんと。
……したのだろうが、そんな彼女の声もまた、フェアトでもガウリアたちでも、ましてや衛兵でもない第三者に遮られる事となる。
「──……そこまでよ! 衛兵たち!!」
「その方たちは私たちが対処します!」
「! 何者だ──」
突如、息ぴったりといった感じで割り込んできた二つの女声に反応した衛兵たちは、ちょうどいい具合に逆光となっていた砂漠の日差しに目を細めつつも正体を確かめんとし。
「「──なっ!?」」
……すぐさま、その正体に目を剥いた。
何せ、そこにいたのはこの国が誇る騎士団の一番隊に所属する優秀な騎士と、そんな女性騎士を姉に持つ高名な冒険者だったから。
「まさか、【魔弾の銃士】か!? どうなってる、魔奔流《スタンピード》には出張ってなかった筈だぞ!」
「それに、あの騎士はイフティー騎士団一番隊所属の……姉妹揃って何のつもりだ!?」
そう、どちらもがフェアトともスタークとも面識のある姉妹──アルシェとクリセルダであり、この国でも割と有名な姉妹が『ありえないタイミングで迷宮から姿を現した者たち』を明らかに庇うような言動をした事で。
衛兵たちは、ますます疑り深くなった。
「クリセルダ! 来てくれたのかい!!」
「助かるぜ、俺らじゃどうにもよ……」
「えぇ、後は任せてください!」
とはいえ、そこまで口上手というわけでもないガウリアやティエントでは、どれだけ時間がかかったか分かったものではなく、ありがたい事に変わりない為、二人は礼を述べ。
そんな二人に対し、クリセルダが得意げな様子でサムズアップする一方、互いに静かに歩み寄っていたフェアトとアルシェは──。
「お久しぶり……って感じじゃないですね」
「意外と早い再会になったわね、フェアト」
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