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雪景色に疾る雷
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その結論が正解なのかどうかを確認する術はないが、そんな些細な事はもう関係ない。
「そんなら話は早いわ。 フェン、お前があの小娘の動き止めぇや。 その隙にウチが──」
ハッキリ言って、もう目がしぱしぱしていたエステルは、すぐにでも戦いを終わらせたいという一心で、ばちばちと音を立てる雷撃を纏いつつ、フェンに指示を出そうとした。
──……その時。
「──もうやってるよ」
「……何やと?」
フェンから返ってきたのは、すでにエステルが指示しようとしている事は終えているという旨の言葉であり、それ自体は何となく分かっていても実際に何を成したのかまでは理解できていないエステルが首をかしげると。
「……ん? 今のは──」
そんな彼女の視界を、ふわりと上から下へと小さく白い何かが通りすぎていった──。
「──……雪、か……?」
それがひとひらの雪だったと気づくのに時間はかからず、それを皮切りに次から次へ雪が降り注ぐだけでなく、いつの間にできあがったかも分からない大小様々な雪達磨や、この迷宮に出現するものからしないものまで多彩な魔物の彫刻がいくつも展開されており。
「【白雪祭典《ホワイトフェスタ》】、雪人《イエティ》の秘技だよ。 こうして辺りを白く染めて──……あぁ駄目だ眠い」
「おいこら! しゃんとせぇ──」
この美しい雪景色は、フェンが今世で属している霊人──要は雪人《イエティ》の秘技によるものであるらしいが、その寒さを心地良く感じた彼は説明もそこそこに睡魔に負けかけており。
そんな彼を咎めるべく、エステルが彼の胸倉を掴んで怒鳴り散らそうとした、その時。
「……っ」
「「!」」
がくん、とスタークが膝をついた事に二人が同時に気づき、エステルが『何事や』と驚く一方、フェンは片目だけを開け、ただただその事実を気怠げに見つめるだけに留まる。
目論見通り、という表情にも見えるが。
「……何や? 何でいきなり──」
そんな中、スタークは一面の雪原と化した地面に膝をつくだけでなく、どういうわけか身体を起こす為の動作、起こした身体で前へ歩く動作といった一挙手一投足が極端に遅くなり、それを疑問に感じたエステルに対し。
「【白雪祭典《ホワイトフェスタ》】は辺りを雪景色にするだけの力じゃないんだよ。 この寒さなら大抵の生物は体温が下がって、まともに動けなくなる」
「……あの小娘なら、なおさらか」
要は、【白雪祭典《ホワイトフェスタ》】の真価は雪景色を作り出す事ではなく、その寒さによって過剰なくらいに体温と熱量を低下させる事で範囲内の生物の動きを遅滞させる事にあると語った。
普通の生物でも動きが相当鈍くなるのだから、スタークならもっと──フェンは、そう考えたうえで【白雪祭典《ホワイトフェスタ》】を行使したのだ。
「よぉやった! 後はウチがやったる! せっかくやし秘技ゆーもんでも使うたろかなぁ!」
「はいはい……まぁ、がんばってね」
それを理解したエステルは、その目に映る少女を尻目に愉快愉快とフェンの肩を叩き。
自分に対抗するかのように秘技まで使うと宣言してきた彼女に、フェンは眠気と戦いつつもそれなりに応援して、その目を閉じた。
それからすぐ、エステルは極寒の中でも特に運動量を落とす事なくズカズカと歩き、スタークから少し離れた辺りで右手をかざす。
その瞬間、彼女の心臓の鼓動とリンクするように雷鳴が轟き始めたかと思えば、それに伴い異常なほどの稲光が彼女の身体を包み。
「【生命放電】!! 魔力の代わりに生命力を消費して放つ雷撃や! そんじょそこらの魔法とは威力も規模も……っ、段違いやぞ!!」
この現象が【生命放電】なる霆人《ラムウ》の秘技によるものであり、ただの霆人でも寿命を消費する為か必殺の威力を持つのに、エステルは前世からの生命力を引き継いでいた為、魔族としての生命力を消費する技となっていた。
その一撃は、【竜種】である磁砂竜《じさりゅう》の魔法や息吹《ブレス》を遥かに上回り、この世界に現存する雷の使い手では最も優れているといえよう。
……序列一位《アストリット》を除けば、の話だが。
「っしゃあ!! 充填完了!! 消し炭になれやボケぇええええええええええええっ!!!」
そして、さっさと決着をつけたいという欲が頂点に達していたエステルは、もう我慢できないとばかりに【雷創《クリエイト》】で極大の砲塔を創り出し、そこから超高圧縮した雷撃を射出。
「……っ」
まず間違いなく【竜種】でさえ消し炭どころか塵も残らない一撃、天地がひっくり返ってもスタークでは耐えられない──ここで無敵の【矛】の快進撃は終わってしまうのか。
──……否。
まだ、スタークは終わらない。
……片割れが、それを許さない。
「──……ぁああああああああ……!!」
突如、転移でもしてきたかの如き速度でエステルとスタークとの間に割り込んできたのは、それまで後ろの方に潜んでいた三人のうちの一人──他でもない、フェアトである。
「……はっ!?」
「……えぇ?」
そして、エステルとフェンが『何事か』と驚きを露わにする間もなく、いきなり乱入してきた少女はエステルの放った雷撃を──。
──……見事に受け止めてみせた。
「そんなら話は早いわ。 フェン、お前があの小娘の動き止めぇや。 その隙にウチが──」
ハッキリ言って、もう目がしぱしぱしていたエステルは、すぐにでも戦いを終わらせたいという一心で、ばちばちと音を立てる雷撃を纏いつつ、フェンに指示を出そうとした。
──……その時。
「──もうやってるよ」
「……何やと?」
フェンから返ってきたのは、すでにエステルが指示しようとしている事は終えているという旨の言葉であり、それ自体は何となく分かっていても実際に何を成したのかまでは理解できていないエステルが首をかしげると。
「……ん? 今のは──」
そんな彼女の視界を、ふわりと上から下へと小さく白い何かが通りすぎていった──。
「──……雪、か……?」
それがひとひらの雪だったと気づくのに時間はかからず、それを皮切りに次から次へ雪が降り注ぐだけでなく、いつの間にできあがったかも分からない大小様々な雪達磨や、この迷宮に出現するものからしないものまで多彩な魔物の彫刻がいくつも展開されており。
「【白雪祭典《ホワイトフェスタ》】、雪人《イエティ》の秘技だよ。 こうして辺りを白く染めて──……あぁ駄目だ眠い」
「おいこら! しゃんとせぇ──」
この美しい雪景色は、フェンが今世で属している霊人──要は雪人《イエティ》の秘技によるものであるらしいが、その寒さを心地良く感じた彼は説明もそこそこに睡魔に負けかけており。
そんな彼を咎めるべく、エステルが彼の胸倉を掴んで怒鳴り散らそうとした、その時。
「……っ」
「「!」」
がくん、とスタークが膝をついた事に二人が同時に気づき、エステルが『何事や』と驚く一方、フェンは片目だけを開け、ただただその事実を気怠げに見つめるだけに留まる。
目論見通り、という表情にも見えるが。
「……何や? 何でいきなり──」
そんな中、スタークは一面の雪原と化した地面に膝をつくだけでなく、どういうわけか身体を起こす為の動作、起こした身体で前へ歩く動作といった一挙手一投足が極端に遅くなり、それを疑問に感じたエステルに対し。
「【白雪祭典《ホワイトフェスタ》】は辺りを雪景色にするだけの力じゃないんだよ。 この寒さなら大抵の生物は体温が下がって、まともに動けなくなる」
「……あの小娘なら、なおさらか」
要は、【白雪祭典《ホワイトフェスタ》】の真価は雪景色を作り出す事ではなく、その寒さによって過剰なくらいに体温と熱量を低下させる事で範囲内の生物の動きを遅滞させる事にあると語った。
普通の生物でも動きが相当鈍くなるのだから、スタークならもっと──フェンは、そう考えたうえで【白雪祭典《ホワイトフェスタ》】を行使したのだ。
「よぉやった! 後はウチがやったる! せっかくやし秘技ゆーもんでも使うたろかなぁ!」
「はいはい……まぁ、がんばってね」
それを理解したエステルは、その目に映る少女を尻目に愉快愉快とフェンの肩を叩き。
自分に対抗するかのように秘技まで使うと宣言してきた彼女に、フェンは眠気と戦いつつもそれなりに応援して、その目を閉じた。
それからすぐ、エステルは極寒の中でも特に運動量を落とす事なくズカズカと歩き、スタークから少し離れた辺りで右手をかざす。
その瞬間、彼女の心臓の鼓動とリンクするように雷鳴が轟き始めたかと思えば、それに伴い異常なほどの稲光が彼女の身体を包み。
「【生命放電】!! 魔力の代わりに生命力を消費して放つ雷撃や! そんじょそこらの魔法とは威力も規模も……っ、段違いやぞ!!」
この現象が【生命放電】なる霆人《ラムウ》の秘技によるものであり、ただの霆人でも寿命を消費する為か必殺の威力を持つのに、エステルは前世からの生命力を引き継いでいた為、魔族としての生命力を消費する技となっていた。
その一撃は、【竜種】である磁砂竜《じさりゅう》の魔法や息吹《ブレス》を遥かに上回り、この世界に現存する雷の使い手では最も優れているといえよう。
……序列一位《アストリット》を除けば、の話だが。
「っしゃあ!! 充填完了!! 消し炭になれやボケぇええええええええええええっ!!!」
そして、さっさと決着をつけたいという欲が頂点に達していたエステルは、もう我慢できないとばかりに【雷創《クリエイト》】で極大の砲塔を創り出し、そこから超高圧縮した雷撃を射出。
「……っ」
まず間違いなく【竜種】でさえ消し炭どころか塵も残らない一撃、天地がひっくり返ってもスタークでは耐えられない──ここで無敵の【矛】の快進撃は終わってしまうのか。
──……否。
まだ、スタークは終わらない。
……片割れが、それを許さない。
「──……ぁああああああああ……!!」
突如、転移でもしてきたかの如き速度でエステルとスタークとの間に割り込んできたのは、それまで後ろの方に潜んでいた三人のうちの一人──他でもない、フェアトである。
「……はっ!?」
「……えぇ?」
そして、エステルとフェンが『何事か』と驚きを露わにする間もなく、いきなり乱入してきた少女はエステルの放った雷撃を──。
──……見事に受け止めてみせた。
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