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五位と六位の共闘
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──並び立つ者たちにおける序列とは。
純粋な強さはもちろんの事、魔王の至上目的であった『世界の掌握』にどれだけ貢献していたか──というのも指標の一つであり。
今ここにいる二体も、その例に漏れず魔族として非常に優秀といえる働きをしていた。
並び立つ者たち、序列五位──エステル。
称号──……【暴飲暴食《イート》】。
どういうわけか、カタストロによって生み出された瞬間から他の魔族とは違う妙な訛りで喋り、その気風の良さも相まって名もなき同胞たちからの好感度が高かった女性魔族。
並び立つ者たち、序列六位──フェン。
称号──……【怠慢忘心《フォーゲット》】。
今も絶品砂海《デザートデザート》で屯しているかもしれない怠惰な騎士団長と同じか、それ以上にやる気を感じられないものの、その称号が持つ異様な力ゆえ疎まれる事などはなかった男性魔族。
この二体、序列が並んでいる事以外にこれといった接点はなく、かたや溌剌、かたや怠惰と正反対な性格だというのに、どうして迷宮なんて閉鎖空間に二体でいたのだろうか。
フェアトなら、そう考えたかもしれない。
だがしかし、この二体を実際に相手取っているのは、フェアトの姉──……スターク。
考えるよりも先に手が出て、こうして眠っている時にさえも先に手が出るという、もはや魔族よりも魔族らしいとさえ言える少女。
あっさりと音の速度を超え、あわや光の速度まで到達しようかという動きに加え、あまつさえその速度から【破壊分子《ジャガーノート》】と並ぶかそれ以上の剛力を以て、一発一発が常に一撃必殺となる威力の攻撃を繰り出している──。
──……筈なのに。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「──あ"ぁもぉ!! 目ぇしんどいわ!! ちょこまかちょこまか動きおってからに!!」
訛り全開で怒声を放つ霆人《ラムウ》──エステルはというと、その怒髪天を突く勢いの叫びに込められた感情とは裏腹に、そこまで大きな怪我を負っているようには見えないのが現状。
先述した通り、スタークによる打撃や不可視の斬撃で多少の打撲や切り傷は見られるものの、それらが生命維持に影響するかどうかと言われると、首を横に振らざるを得ない。
結論から言ってしまうと、エステルの目はスタークの動きを捉え始めており、その肌に刻まれた数々の傷は並び立つ者たちの誇りに懸けて紙一重で躱そうと試みたせいである。
そして、その傷を負う頻度も段々と少なくなっているというのは本人も気づいており。
「っ、ふぅ……っ」
こうやって少しでも気を抜き、ある程度の休息を取れるくらいの余裕もできた彼女は。
「──……フェン。 気づいとんのやろな」
自分が気づいているという事は、おそらくこいつも気づいている筈だと半ば決めつけたうえで、『とある推測』について言及する。
「……何の話ぃ?」
「あ"ぁ!?」
しかし、フェンから返ってきたのは何とも気の抜けた『何のこっちゃ』的な声であり。
予想と反する返答をされた事に、エステルは露骨な怒気と失望を込めた叫びを放つも。
「ごめんごめん冗談だってぇ。 ちゃんと気づいてるよぉ? 何なら今から証明しよっか?」
「証明やと……?」
彼なりに和ませようとしたのか、へらへらとした笑みを浮かべたフェンは、それでも小さなかまくらからは出ないまま、エステルと自分の推測が一致しているだろう事を証明すると曰い、のそりとかまくらから這い出て。
「まずはぁ──【氷拡《スプレッド》】っと」
途轍もない光量の水色の魔方陣を展開させるやいなや、ほぼ間髪入れずに一発一発が致命的な威力を持つ氷の散弾が撃ち出される。
まさに弾幕と呼ぶに相応しい魔法だが、これはあくまでも彼が元魔族だからこそ可能なのであって、ごく一般的な雪人《イエティ》が放ったところで、せいぜい魔法銃を上回る程度であり。
間違っても十五歳の少女に撃つ魔法ではない──というのが普通の感覚なのだろうが。
「……」
フェンが目標と定めたのは、かつての勇者ディーリヒトと瓜二つに成長しつつある無敵の【矛】であり、スタークは未だに眠ったままの状態で魔法の接近を本能的に察知して。
「うわ、すっご……あれ躱せるんだ……」
もはや隙間などあってないようなものだというのに、まるで氷の散弾の通り路をあらかじめ分かっているかの如く回避するスタークに、フェンは何なら深い感心を覚えていた。
……が、これでも彼は序列六位。
一の矢をいなされたからといって、そこで終わってしまうほど弱卒ではなかった──。
「でも、こうなったら無理なんじゃない?」
フェンが次に取った行動は、【氷拡《スプレッド》】を発動させたままスタークの上下を挟み込むようにして二の矢、三の矢となる魔法の行使であり、上からは【氷降《フォール》】、下からは【氷噴《イラプション》】が完全に逃げ場を潰すべく少女に襲いかかる。
頭上からは人の頭ほどもある雹が絶え間なく降り注ぎ、かと思えば足下からは全てを凍てつかせる猛吹雪が魔方陣より噴出されて。
(……こりゃ無理やわな、いくら何でも──)
もし仮に、この連携が自分に向けられたとしたら、ハッキリ言って躱しきる事はまず不可能であり、まぁ相殺くらいならと腕組みしながら傍観していたエステルだったが──。
「……っ!!」
「えっ?」
「はっ!?」
突如、何を思ったかスタークは空中で異常な速度を以て横回転し始め、あろう事かその風圧で上からの雹と下からの吹雪を吹き飛ばすだけでは飽き足らず、それらを術者のフェンの方へと飛ばすように調整までしており。
「っ、どこまでも……! 【雷渦《ボルテックス》】!!」
利用されてるやないか──と叫ぶ間も与えてくれない反撃に、エステルは攻防一体となる轟雷の渦で雹と吹雪を相殺しつつ、スタークにも攻撃を加えるべく魔力を込め続ける。
しかし、やはりスタークには直撃しない。
「……っ、これやと何の証明にも──」
これでは、おそらく彼が証明しようとしていた『とある推測』を共有できない──と言いたげに、エステルが強めに舌を打つ中で。
「そんな事ないよ──ほら、あれ見て」
「あ?」
フェンは、フェンだけは至って平静な様子で何やらスタークの方へ指を向けており、それに釣られたエステルが顔を向けた先では。
「……っ」
「!」
目を閉じたままではあるが、どう見ても露骨に嫌そうな表情で、おそらく躱し切れずに服の切れ端に付着してしまった雹や冷気、雷による火花を、スタークが指で引きちぎったり手刀で切り離したりを高速で行っていた。
その一連の動作を見た二人は、確信する。
「氷と雷……服の切れ端に当たっただけやのに、あんだけ過敏になるっちゅう事は──」
「間違いなさそうだね。 あの子、多分──」
あれだけの剛力を持っているなら、まず間違いなく身体も頑強であり、おそらく魔法にもある程度の耐性があるのだと思っていた。
だが、その憶測に反して少女は絶対に身体に触れさせないようにと回避を続けており。
何であれば、『攻撃』よりも『回避』に重きを置いているという事実に気づくのに、さほども時間はかからなかったのである──。
──ゆえに、二人が辿り着いた結論は。
「魔力を帯びたものへの耐性が極端に薄い」
「……せやろな」
魔法、或いは自分たちの称号からなる力までもを含めた、あらゆる魔力を帯びたものへの耐性がない──……というものであった。
純粋な強さはもちろんの事、魔王の至上目的であった『世界の掌握』にどれだけ貢献していたか──というのも指標の一つであり。
今ここにいる二体も、その例に漏れず魔族として非常に優秀といえる働きをしていた。
並び立つ者たち、序列五位──エステル。
称号──……【暴飲暴食《イート》】。
どういうわけか、カタストロによって生み出された瞬間から他の魔族とは違う妙な訛りで喋り、その気風の良さも相まって名もなき同胞たちからの好感度が高かった女性魔族。
並び立つ者たち、序列六位──フェン。
称号──……【怠慢忘心《フォーゲット》】。
今も絶品砂海《デザートデザート》で屯しているかもしれない怠惰な騎士団長と同じか、それ以上にやる気を感じられないものの、その称号が持つ異様な力ゆえ疎まれる事などはなかった男性魔族。
この二体、序列が並んでいる事以外にこれといった接点はなく、かたや溌剌、かたや怠惰と正反対な性格だというのに、どうして迷宮なんて閉鎖空間に二体でいたのだろうか。
フェアトなら、そう考えたかもしれない。
だがしかし、この二体を実際に相手取っているのは、フェアトの姉──……スターク。
考えるよりも先に手が出て、こうして眠っている時にさえも先に手が出るという、もはや魔族よりも魔族らしいとさえ言える少女。
あっさりと音の速度を超え、あわや光の速度まで到達しようかという動きに加え、あまつさえその速度から【破壊分子《ジャガーノート》】と並ぶかそれ以上の剛力を以て、一発一発が常に一撃必殺となる威力の攻撃を繰り出している──。
──……筈なのに。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「──あ"ぁもぉ!! 目ぇしんどいわ!! ちょこまかちょこまか動きおってからに!!」
訛り全開で怒声を放つ霆人《ラムウ》──エステルはというと、その怒髪天を突く勢いの叫びに込められた感情とは裏腹に、そこまで大きな怪我を負っているようには見えないのが現状。
先述した通り、スタークによる打撃や不可視の斬撃で多少の打撲や切り傷は見られるものの、それらが生命維持に影響するかどうかと言われると、首を横に振らざるを得ない。
結論から言ってしまうと、エステルの目はスタークの動きを捉え始めており、その肌に刻まれた数々の傷は並び立つ者たちの誇りに懸けて紙一重で躱そうと試みたせいである。
そして、その傷を負う頻度も段々と少なくなっているというのは本人も気づいており。
「っ、ふぅ……っ」
こうやって少しでも気を抜き、ある程度の休息を取れるくらいの余裕もできた彼女は。
「──……フェン。 気づいとんのやろな」
自分が気づいているという事は、おそらくこいつも気づいている筈だと半ば決めつけたうえで、『とある推測』について言及する。
「……何の話ぃ?」
「あ"ぁ!?」
しかし、フェンから返ってきたのは何とも気の抜けた『何のこっちゃ』的な声であり。
予想と反する返答をされた事に、エステルは露骨な怒気と失望を込めた叫びを放つも。
「ごめんごめん冗談だってぇ。 ちゃんと気づいてるよぉ? 何なら今から証明しよっか?」
「証明やと……?」
彼なりに和ませようとしたのか、へらへらとした笑みを浮かべたフェンは、それでも小さなかまくらからは出ないまま、エステルと自分の推測が一致しているだろう事を証明すると曰い、のそりとかまくらから這い出て。
「まずはぁ──【氷拡《スプレッド》】っと」
途轍もない光量の水色の魔方陣を展開させるやいなや、ほぼ間髪入れずに一発一発が致命的な威力を持つ氷の散弾が撃ち出される。
まさに弾幕と呼ぶに相応しい魔法だが、これはあくまでも彼が元魔族だからこそ可能なのであって、ごく一般的な雪人《イエティ》が放ったところで、せいぜい魔法銃を上回る程度であり。
間違っても十五歳の少女に撃つ魔法ではない──というのが普通の感覚なのだろうが。
「……」
フェンが目標と定めたのは、かつての勇者ディーリヒトと瓜二つに成長しつつある無敵の【矛】であり、スタークは未だに眠ったままの状態で魔法の接近を本能的に察知して。
「うわ、すっご……あれ躱せるんだ……」
もはや隙間などあってないようなものだというのに、まるで氷の散弾の通り路をあらかじめ分かっているかの如く回避するスタークに、フェンは何なら深い感心を覚えていた。
……が、これでも彼は序列六位。
一の矢をいなされたからといって、そこで終わってしまうほど弱卒ではなかった──。
「でも、こうなったら無理なんじゃない?」
フェンが次に取った行動は、【氷拡《スプレッド》】を発動させたままスタークの上下を挟み込むようにして二の矢、三の矢となる魔法の行使であり、上からは【氷降《フォール》】、下からは【氷噴《イラプション》】が完全に逃げ場を潰すべく少女に襲いかかる。
頭上からは人の頭ほどもある雹が絶え間なく降り注ぎ、かと思えば足下からは全てを凍てつかせる猛吹雪が魔方陣より噴出されて。
(……こりゃ無理やわな、いくら何でも──)
もし仮に、この連携が自分に向けられたとしたら、ハッキリ言って躱しきる事はまず不可能であり、まぁ相殺くらいならと腕組みしながら傍観していたエステルだったが──。
「……っ!!」
「えっ?」
「はっ!?」
突如、何を思ったかスタークは空中で異常な速度を以て横回転し始め、あろう事かその風圧で上からの雹と下からの吹雪を吹き飛ばすだけでは飽き足らず、それらを術者のフェンの方へと飛ばすように調整までしており。
「っ、どこまでも……! 【雷渦《ボルテックス》】!!」
利用されてるやないか──と叫ぶ間も与えてくれない反撃に、エステルは攻防一体となる轟雷の渦で雹と吹雪を相殺しつつ、スタークにも攻撃を加えるべく魔力を込め続ける。
しかし、やはりスタークには直撃しない。
「……っ、これやと何の証明にも──」
これでは、おそらく彼が証明しようとしていた『とある推測』を共有できない──と言いたげに、エステルが強めに舌を打つ中で。
「そんな事ないよ──ほら、あれ見て」
「あ?」
フェンは、フェンだけは至って平静な様子で何やらスタークの方へ指を向けており、それに釣られたエステルが顔を向けた先では。
「……っ」
「!」
目を閉じたままではあるが、どう見ても露骨に嫌そうな表情で、おそらく躱し切れずに服の切れ端に付着してしまった雹や冷気、雷による火花を、スタークが指で引きちぎったり手刀で切り離したりを高速で行っていた。
その一連の動作を見た二人は、確信する。
「氷と雷……服の切れ端に当たっただけやのに、あんだけ過敏になるっちゅう事は──」
「間違いなさそうだね。 あの子、多分──」
あれだけの剛力を持っているなら、まず間違いなく身体も頑強であり、おそらく魔法にもある程度の耐性があるのだと思っていた。
だが、その憶測に反して少女は絶対に身体に触れさせないようにと回避を続けており。
何であれば、『攻撃』よりも『回避』に重きを置いているという事実に気づくのに、さほども時間はかからなかったのである──。
──ゆえに、二人が辿り着いた結論は。
「魔力を帯びたものへの耐性が極端に薄い」
「……せやろな」
魔法、或いは自分たちの称号からなる力までもを含めた、あらゆる魔力を帯びたものへの耐性がない──……というものであった。
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