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いざ、三つ巴──
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──“不動象《ふどうぞう》”。
その名の通り象の姿を模した石の魔物。
身体の後ろ半分が迷宮の壁と一体化しているという事もあり、その場からは動けない。
また、この種は可食迷宮《エディブル》にのみ出現する事で知られる固有種であるという一面も持ち。
当然ながら、その身は可食迷宮《エディブル》に出現する魔物の例に漏れず食す事もできなくはない。
……ただ、とんでもなく固いらしい。
ほんの小さな欠片でさえ投擲武器として利用した方がまだマシだ、というくらいには。
そして、その固さは必然的に頑丈さや一撃の重さにも通じ、どの階層にも出現しうる魔物でありながらにして、『下れば下るほど強くなる』という法則に唯一逆らう魔物──。
それこそが、この不動象《ふどうぞう》なのである。
ちなみに、この種自体は全身が完全に岩石である為、空気中の魔素を取り込む以外の食事に値する行動をとる事は一切ないようで。
その頑強かつ伸縮自在な岩石の鼻で獲物を捕らえ、ある程度の咀嚼を繰り返した後は。
ペッ──と吐き出してしまうらしい。
『──パオ"ォ』
『『『……グ、エ"……』』』
……こんな風に。
「──……雌喰たちが一瞬で……! ガウリアさん! 狙ってたのは共倒れなんですね!?」
「……まぁそうなんだけど──ねっと!」
「っ? まだ何か──」
そんな凄惨極まる光景を、ティエントに抱えられたまま見ていたフェアトが、それを引き起こした張本人に問うたところ、ガウリアは飛んできた瓦礫を回避しつつ肯定するも。
その表情は世辞にも明るいとは──策が上手くいった者の表情とは言えず、それに違和感を覚えたフェアトが『何か言いにくい事でもあるのか』と尋ねようとした、その瞬間。
「……二つ問題があってねぇ! どっちから解決するか、それとも同時に解決するか──」
回避しきれないと判断した大きな瓦礫をティエントとともに破壊しながら、ガウリアはフェアトの言う『共倒れ』を完遂する為には二つの問題があり、どの順番で解決するのかという事と──……それ以前の問題として。
「……っ、そもそも解決できるかどうか!」
「……どう、いう──」
ガウリアに──というか、ここに居合わせた三人にとって厄介という他ない二つの問題を、そもそも解決できるどうかも分からないと語る彼女の叫びにも、やはり要領を得ないフェアトが更なる疑問を口にせんとした時。
「一つは不動象《あれ》の討伐だろ!? あの鼻を何とか躱して──っとぉ!? と、とにかく下層に逃げられりゃいいが、それだと雌喰《めんくい》どもがお前らを追う状況に戻っちまうってこった!」
そんな少女の疑問を解決するべく口を挟んだのは、フェアトを左腕で抱えたままガウリアを射撃で援護しつつ、それに加えて周囲の警戒をも忙しなくこなすティエントであり。
ガウリアが告げた二つの問題──そのうちの一つが、おそらく『不動象《ふどうぞう》を起こしたはいいものの倒せるかどうかは不明』という問題なのだろうと半ば以上の確信を持って叫ぶ。
何しろ、たった今この瞬間も雌喰《めんくい》たちは次から次に不動象《ふどうぞう》の伸縮自在な岩石の鼻に絡め取られ、そして口に放り込まれて咀嚼され。
三つ巴の戦いが始まった当初、三十羽ほどいた筈の雌喰《めんくい》は、もはや数羽を残すばかり。
絶対強者である不動象《ふどうぞう》を倒そうとする個体と、ガウリアやフェアトを懲りずに食そうとする個体とで連携が取れていないのも悪手。
三つ巴を狙って始めた戦いも、もう間もなく一つの勢力が消え入ろうとしていた──。
「……それは何となく──もう一つは?」
「知らねぇよ! どうなんだ、ガウリア!」
その事実もあってか、ティエントが口にした方の問題は何となく理解できていたフェアトからの質問に、ティエントも一つしか分かっていなかった為、改めてガウリアに問う。
「大体、不動象《あいつ》が雌喰《こいつら》を始末してくれんならそれでいいじゃねぇか! どうせ不動象《あいつ》は動かねぇんだ! このまま避け続けてりゃあ──」
それもその筈、前提として伸縮自在の鼻を除けば不動象《ふどうぞう》が逃げる獲物を捕らえる術など殆どなく、このまま回避に専念していれば残りの雌喰《めんくい》たちも問題なく倒してくれるのに。
一体、何が問題だというのか──。
──……と、そう叫ばんとした瞬間。
「……っ、あんたらは知らないんだろうけどね──雌喰《めんくい》って魔物は殆どの個体が雌、雄の個体は一つの群れに一羽しかいない! ここにいる雌喰《やつら》は、その全部が雌! 最悪だよ!!」
「はっ!?」
「え? ぜ、全部が雌……?」
二人が雌喰《めんくい》と遭遇したのは今日が初なのだから無理もないが、この種が群れを作る際に必要な雄は一羽のみであり、その姿も非常に特徴的である為、雌しかいないと断言でき。
その事実は、この種の生態を知る彼女にとって最悪という他ないと苦々しく舌を打つ。
「っ、それの何が最悪だってんだよ!? まさか大量の雌が弱ぇ雄を護ってて、そいつを倒さねぇ限り無限に雌が湧き続けるとか──」
しかし、その事実のどこが最悪なのか全く要領を得ないティエントは、よもや迷宮のどこかにいる雄が雌喰《めんくい》討伐の鍵となっているのではと推測したものの──ガウリアは否定。
「逆だよ! たった一羽の雄の下、雌は働き蟻みたいに駆り出される! で、さっきも言っただろう!? この魔物は雌しか喰わない! つまり、雄の個体にとっての雌ってのは──」
ティエントが口にした推測とは全くの真逆であり、この種の雄にとっての雌の個体とは縄張りで文字通りに羽を休める自分の為に餌を狩る兵隊のようなもので──それでいて。
「──非常食でしかないんだ! けど、それでも自分の飯を奪われりゃあたしらだってキレる! それは、この種も同じだって事さね!」
「……おい、まさか──……っ!?」
「てぃ、ティエントさん?」
雄の個体もまた、その『雌喰《めんくい》』という名に違わず雌の生物しか喰らわず、それは同種である雌喰《めんくい》の雌であっても構わない為、餌が獲れなかった時の『非常食』なのだと解説し。
それを聞いたティエントが、ようやくガウリアが口にしていた『もう一つの問題』を察するやいなや、そんな驚きの表情もそのままに戦闘中である事も忘れ勢いよく振り向く。
その勢いで身体がぐるんと横回転する事になったフェアトが、これといって目が回っているわけでもなさそうな空色の瞳で彼を見上げつつ、『何事か』と問うてみたはいいが。
……彼からの返答は、ない。
(……何だ、この匂いは……っ!? 雌喰《あいつら》と同じようで、それでいて全く違う……!! 下手すりゃ不動象《あいつ》にも劣らねぇくらいの殺意が──)
それも無理はない、ティエントが振り向いた先から感じ取っていたのは、さっき不動象《ふどうぞう》の存在を嗅覚で悟った時と同じか、それ以上の吐き気さえ感じるほど色濃い殺意の香り。
その香りの正体が、おそらくガウリアの言う『問題』──雌喰《めんくい》の雄だと察したその時。
迷宮の奥に、もはや嗅覚で感じ取る必要もない二つの現象──地鳴りが起こるほどの何かの足音と、とんでもない煌めきの緑光を放つ巨大な魔方陣が展開されたのを見た彼は。
「──!! ガウリアぁ!! 伏せろぉ!!」
「っ、お出ましかい……!!」
「ひゃあ!?」
自分が抱えたままのフェアトはともかくとしても、やや離れた場所で二種の魔物と戦闘中のガウリアには警告せねばと考えて叫び。
それを受けたガウリアは全てを察して後退し、フェアトがティエントの腕の中でびっくりして可愛げのある悲鳴を上げた瞬間──。
ゴォッ──という途轍もない轟音とともに風属性の【砲《カノン》】が迷宮の奥から飛んできた。
『『『──ッ!!』』』
間違いなく雌喰《めんくい》たちをも巻き込み、そして吹き飛ばす威力だった筈だが、まるであらかじめ示し合わせていたかのように雌喰《めんくい》たちの生き残りが一斉に【風強《ビルド》】で強化した脚力を活かして暴風の砲弾をあっさり回避する中。
『──ッ!? パ、オ"オォ……ッ!?』
膂力や頑強さは目を見張るものがあったとしても、そこから動く事は絶対にできない魔物──不動象《ふどうぞう》に【風砲《カノン》】が直撃して、その岩石の身体が荒れ狂う暴風の砲弾で半壊する。
無論、流石にこれで消滅するほど柔ではないし、そもそも崩れた先から迷宮の魔力を借りて再生する為、決定打とはなっていない。
そして、ようやく暴風の勢いが収まってきた頃、可食迷宮《エディブル》そのものを揺らしかねない足音とともにフェアトたちの前に現れたのは。
『──ギュウ"ゥア"ァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!』
「「「……っ!!」」」
もはや雌とは比べるのも馬鹿らしくなってくる大きさと派手な羽毛が特徴的な、まず間違いなく雌喰《めんくい》の雄となる個体であり、およそ十メートルはあろうかという巨大な鳥の魔物の放つ咆哮にフェアトたちが戦慄する一方。
すでに、【風砲《カノン》】による損壊の再生を終えていた不動象《ふどうぞう》は、そんな雌喰《めんくい》に対応するが如く岩石でできた身体を更に増大させていき。
『──……ッ、パァオ"ォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!』
ほぼ同じくらいの大きさとなったところで雌喰《めんくい》の咆哮に対抗するように、或いはかき消してしまうように甲高い唸り声を轟かせた。
かたや煌びやかな羽毛を広げる巨鳥、かたや雄々しい岩の身体で地盤を踏み均す巨象。
そんな二体の絶対強者が今にもぶつかり合わんとする絶望的な光景に、ティエントは。
「……悪夢かよ……!!」
思わず、そう呟いてしまったのだった。
その名の通り象の姿を模した石の魔物。
身体の後ろ半分が迷宮の壁と一体化しているという事もあり、その場からは動けない。
また、この種は可食迷宮《エディブル》にのみ出現する事で知られる固有種であるという一面も持ち。
当然ながら、その身は可食迷宮《エディブル》に出現する魔物の例に漏れず食す事もできなくはない。
……ただ、とんでもなく固いらしい。
ほんの小さな欠片でさえ投擲武器として利用した方がまだマシだ、というくらいには。
そして、その固さは必然的に頑丈さや一撃の重さにも通じ、どの階層にも出現しうる魔物でありながらにして、『下れば下るほど強くなる』という法則に唯一逆らう魔物──。
それこそが、この不動象《ふどうぞう》なのである。
ちなみに、この種自体は全身が完全に岩石である為、空気中の魔素を取り込む以外の食事に値する行動をとる事は一切ないようで。
その頑強かつ伸縮自在な岩石の鼻で獲物を捕らえ、ある程度の咀嚼を繰り返した後は。
ペッ──と吐き出してしまうらしい。
『──パオ"ォ』
『『『……グ、エ"……』』』
……こんな風に。
「──……雌喰たちが一瞬で……! ガウリアさん! 狙ってたのは共倒れなんですね!?」
「……まぁそうなんだけど──ねっと!」
「っ? まだ何か──」
そんな凄惨極まる光景を、ティエントに抱えられたまま見ていたフェアトが、それを引き起こした張本人に問うたところ、ガウリアは飛んできた瓦礫を回避しつつ肯定するも。
その表情は世辞にも明るいとは──策が上手くいった者の表情とは言えず、それに違和感を覚えたフェアトが『何か言いにくい事でもあるのか』と尋ねようとした、その瞬間。
「……二つ問題があってねぇ! どっちから解決するか、それとも同時に解決するか──」
回避しきれないと判断した大きな瓦礫をティエントとともに破壊しながら、ガウリアはフェアトの言う『共倒れ』を完遂する為には二つの問題があり、どの順番で解決するのかという事と──……それ以前の問題として。
「……っ、そもそも解決できるかどうか!」
「……どう、いう──」
ガウリアに──というか、ここに居合わせた三人にとって厄介という他ない二つの問題を、そもそも解決できるどうかも分からないと語る彼女の叫びにも、やはり要領を得ないフェアトが更なる疑問を口にせんとした時。
「一つは不動象《あれ》の討伐だろ!? あの鼻を何とか躱して──っとぉ!? と、とにかく下層に逃げられりゃいいが、それだと雌喰《めんくい》どもがお前らを追う状況に戻っちまうってこった!」
そんな少女の疑問を解決するべく口を挟んだのは、フェアトを左腕で抱えたままガウリアを射撃で援護しつつ、それに加えて周囲の警戒をも忙しなくこなすティエントであり。
ガウリアが告げた二つの問題──そのうちの一つが、おそらく『不動象《ふどうぞう》を起こしたはいいものの倒せるかどうかは不明』という問題なのだろうと半ば以上の確信を持って叫ぶ。
何しろ、たった今この瞬間も雌喰《めんくい》たちは次から次に不動象《ふどうぞう》の伸縮自在な岩石の鼻に絡め取られ、そして口に放り込まれて咀嚼され。
三つ巴の戦いが始まった当初、三十羽ほどいた筈の雌喰《めんくい》は、もはや数羽を残すばかり。
絶対強者である不動象《ふどうぞう》を倒そうとする個体と、ガウリアやフェアトを懲りずに食そうとする個体とで連携が取れていないのも悪手。
三つ巴を狙って始めた戦いも、もう間もなく一つの勢力が消え入ろうとしていた──。
「……それは何となく──もう一つは?」
「知らねぇよ! どうなんだ、ガウリア!」
その事実もあってか、ティエントが口にした方の問題は何となく理解できていたフェアトからの質問に、ティエントも一つしか分かっていなかった為、改めてガウリアに問う。
「大体、不動象《あいつ》が雌喰《こいつら》を始末してくれんならそれでいいじゃねぇか! どうせ不動象《あいつ》は動かねぇんだ! このまま避け続けてりゃあ──」
それもその筈、前提として伸縮自在の鼻を除けば不動象《ふどうぞう》が逃げる獲物を捕らえる術など殆どなく、このまま回避に専念していれば残りの雌喰《めんくい》たちも問題なく倒してくれるのに。
一体、何が問題だというのか──。
──……と、そう叫ばんとした瞬間。
「……っ、あんたらは知らないんだろうけどね──雌喰《めんくい》って魔物は殆どの個体が雌、雄の個体は一つの群れに一羽しかいない! ここにいる雌喰《やつら》は、その全部が雌! 最悪だよ!!」
「はっ!?」
「え? ぜ、全部が雌……?」
二人が雌喰《めんくい》と遭遇したのは今日が初なのだから無理もないが、この種が群れを作る際に必要な雄は一羽のみであり、その姿も非常に特徴的である為、雌しかいないと断言でき。
その事実は、この種の生態を知る彼女にとって最悪という他ないと苦々しく舌を打つ。
「っ、それの何が最悪だってんだよ!? まさか大量の雌が弱ぇ雄を護ってて、そいつを倒さねぇ限り無限に雌が湧き続けるとか──」
しかし、その事実のどこが最悪なのか全く要領を得ないティエントは、よもや迷宮のどこかにいる雄が雌喰《めんくい》討伐の鍵となっているのではと推測したものの──ガウリアは否定。
「逆だよ! たった一羽の雄の下、雌は働き蟻みたいに駆り出される! で、さっきも言っただろう!? この魔物は雌しか喰わない! つまり、雄の個体にとっての雌ってのは──」
ティエントが口にした推測とは全くの真逆であり、この種の雄にとっての雌の個体とは縄張りで文字通りに羽を休める自分の為に餌を狩る兵隊のようなもので──それでいて。
「──非常食でしかないんだ! けど、それでも自分の飯を奪われりゃあたしらだってキレる! それは、この種も同じだって事さね!」
「……おい、まさか──……っ!?」
「てぃ、ティエントさん?」
雄の個体もまた、その『雌喰《めんくい》』という名に違わず雌の生物しか喰らわず、それは同種である雌喰《めんくい》の雌であっても構わない為、餌が獲れなかった時の『非常食』なのだと解説し。
それを聞いたティエントが、ようやくガウリアが口にしていた『もう一つの問題』を察するやいなや、そんな驚きの表情もそのままに戦闘中である事も忘れ勢いよく振り向く。
その勢いで身体がぐるんと横回転する事になったフェアトが、これといって目が回っているわけでもなさそうな空色の瞳で彼を見上げつつ、『何事か』と問うてみたはいいが。
……彼からの返答は、ない。
(……何だ、この匂いは……っ!? 雌喰《あいつら》と同じようで、それでいて全く違う……!! 下手すりゃ不動象《あいつ》にも劣らねぇくらいの殺意が──)
それも無理はない、ティエントが振り向いた先から感じ取っていたのは、さっき不動象《ふどうぞう》の存在を嗅覚で悟った時と同じか、それ以上の吐き気さえ感じるほど色濃い殺意の香り。
その香りの正体が、おそらくガウリアの言う『問題』──雌喰《めんくい》の雄だと察したその時。
迷宮の奥に、もはや嗅覚で感じ取る必要もない二つの現象──地鳴りが起こるほどの何かの足音と、とんでもない煌めきの緑光を放つ巨大な魔方陣が展開されたのを見た彼は。
「──!! ガウリアぁ!! 伏せろぉ!!」
「っ、お出ましかい……!!」
「ひゃあ!?」
自分が抱えたままのフェアトはともかくとしても、やや離れた場所で二種の魔物と戦闘中のガウリアには警告せねばと考えて叫び。
それを受けたガウリアは全てを察して後退し、フェアトがティエントの腕の中でびっくりして可愛げのある悲鳴を上げた瞬間──。
ゴォッ──という途轍もない轟音とともに風属性の【砲《カノン》】が迷宮の奥から飛んできた。
『『『──ッ!!』』』
間違いなく雌喰《めんくい》たちをも巻き込み、そして吹き飛ばす威力だった筈だが、まるであらかじめ示し合わせていたかのように雌喰《めんくい》たちの生き残りが一斉に【風強《ビルド》】で強化した脚力を活かして暴風の砲弾をあっさり回避する中。
『──ッ!? パ、オ"オォ……ッ!?』
膂力や頑強さは目を見張るものがあったとしても、そこから動く事は絶対にできない魔物──不動象《ふどうぞう》に【風砲《カノン》】が直撃して、その岩石の身体が荒れ狂う暴風の砲弾で半壊する。
無論、流石にこれで消滅するほど柔ではないし、そもそも崩れた先から迷宮の魔力を借りて再生する為、決定打とはなっていない。
そして、ようやく暴風の勢いが収まってきた頃、可食迷宮《エディブル》そのものを揺らしかねない足音とともにフェアトたちの前に現れたのは。
『──ギュウ"ゥア"ァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!』
「「「……っ!!」」」
もはや雌とは比べるのも馬鹿らしくなってくる大きさと派手な羽毛が特徴的な、まず間違いなく雌喰《めんくい》の雄となる個体であり、およそ十メートルはあろうかという巨大な鳥の魔物の放つ咆哮にフェアトたちが戦慄する一方。
すでに、【風砲《カノン》】による損壊の再生を終えていた不動象《ふどうぞう》は、そんな雌喰《めんくい》に対応するが如く岩石でできた身体を更に増大させていき。
『──……ッ、パァオ"ォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!』
ほぼ同じくらいの大きさとなったところで雌喰《めんくい》の咆哮に対抗するように、或いはかき消してしまうように甲高い唸り声を轟かせた。
かたや煌びやかな羽毛を広げる巨鳥、かたや雄々しい岩の身体で地盤を踏み均す巨象。
そんな二体の絶対強者が今にもぶつかり合わんとする絶望的な光景に、ティエントは。
「……悪夢かよ……!!」
思わず、そう呟いてしまったのだった。
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