攻撃特化と守備特化、無敵の双子は矛と盾!

天眼鏡

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妹コンビの急降下

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 一方その頃──。


 磁砂竜《じさりゅう》との戦闘を終えて、またしても竜覧船に擬態したシルドと、その背の操縦席に腰掛けるフェアト。

 よくよく考えずとも他に人の目がない事は明らかなのだから、あえて竜覧船に擬態する必要はないのではと思うかもしれないが、フェアトにとっては必要で。

 もし、シルドが擬態せぬまま──つい先程のパイクのように素の状態で雲に突っ込み急降下し始めれば。


 ……その瞬間に振り落とされてしまうだろうから。


 そのせいでとまでは言わないが、ほんの少しパイクに遅れを取ってしまっていた事によって、フェアトもシルドも余裕がないというか気が気でないというか。

「──……姉さん、大丈夫かな……」

『りゅっ、りゅうぅ!』

「えっ、あっ……声、出てました?」

『りゅー、りゅっ、りゅあぁ!』

 もはや敬語も忘れて不安を声に出している事にさえ気がついておらず、シルドの声でようやくハッとなった顔を上げたフェアトに対し、シルドは何とかパートナーを元気づけようと『りゅー』だの『りゅあー』だのという竜語──……竜語? 的な鳴き声で励ました。

「……えぇ、そうですね。 それを確認する為にも急ぎましょう、きっとパイクもがんばっている筈ですし」

『りゅーっ!』

 その竜語を、もはや深いところまで理解しているかのような反応を見せて、フェアトが頷くと同時にシルドをも気遣うが如き発言をして微笑んでみせた事により、シルドも元気に一鳴きして降下の速度を上げる。


 ……だが、フェアトの表情はすぐに曇ってしまう。


(とは言ったものの、こっちはともかく向こうの状況は芳しくない……【蘇《リザレクション》】の性質を考えればなおさら)

 先述したように、ほんの少し前にパイクが懸念していた【蘇《リザレクション》】の性質についてはフェアトも理解している為、正直に言ってしまえば魔法が効きやすいとはいえ蘇生の成功確率は低いだろうとも覚悟していた。

(急いで合流した後、姉さんの蘇生が上手くいってるならそれで良い。 でも、もし失敗してたらすぐにでもシルドに水か雷の【蘇《リザレクション》】を行使してもらう他に──)

 それに、もし成功するとしても先程まで自分に対して回復魔法の行使が必要だったくらいに満身創痍なパイクには言うほど魔力も残っていない筈であり、その事を考えてもシルドに蘇生してもらう事を前提として行動するべきだと判断していた──まさに、その時。

『──……りゅっ!?』

「シルド? どう──」

 突如、何かに反応して驚くような鳴き声を上げたシルドに、フェアトが疑問を抱き『どうしました?』と問いかけようとした瞬間、ビリビリと大気が震えて。


『──……ォオオオオオオオオオオオオ……ッ!!』

「──!?」

『り"ゅっ、い"ぃ……っ!?』


 喧しさよりも、おぞましさの方が勝って聞こえなくもない、そんな轟音が雲の下から遥か上空を飛ぶ彼女たちにまで届き、かたや『うるさい』とは思えど耳を塞ぐような事はせず、かたや【土壁《バリア》】で防がなければ鉱石の身体にヒビが入りかねない轟音に顔を顰める。

 そのおぞましい轟音は、フェアトたちを通り過ぎてもなお衰える事なく分厚い雲を突き抜けていき──。

「……い、今のは……? 咆哮、みたいな──」

 びっくりしたのは事実でも、これといってダメージは受けていない為に割と冷静ではあるフェアトが、その轟音を魔物の咆哮か何かかと推測したうえで、どうせ見えないと分かっていても雲の下に目を向ける中。

『……っ、りゅーっ! りゅ、りゅいぃ!!』

「え──……っ!? ま、まさか」

 ぶんぶんと首を振って耳鳴りを解消しようとしていたシルドが、それどころではないと判断しつつ何かを伝える為に鳴き始め、それを受けたフェアトは一瞬きょとんとしていたが──すぐに、その意図を察する。


 神晶竜たちパイクやシルドが、ここまで強く反応するという事は。


「──この分厚い雲の下に……っ、【美食国家】の陸地に並び立つ者たちシークエンスがいるって言うんですか……?」

『りゅあっ!!』

「……っ、何でこんな時に限って……!」

 これから自分たちが向かう地に、そして姉コンビが到着している筈の地に選ばれし二十六体の転生した魔族──並び立つ者たちシークエンスがいるのかと確認すると、シルドは我が意を得たりと言わんばかりに頷いて一鳴き。

 最悪だ──と、フェアトは歯噛みしながらも。

(……南ルペラシオの国土の半分以上は砂の海で構成されてて……確か、この下の砂漠には名前があった筈)

 ここで取り乱したところで状況は好転しないとも分かっている為に、ひとまず自分が把握している情報を整理しつつ、この雲の下に大砂漠がある事自体は知っていたが何かしらの異名がついていた筈だと回想し。

 スタークとは違って記憶力には自信がある彼女は。

(……絶品砂海《デザートデザート》。 人間、獣人、霊人、獣に魔物──照りつけるような炎暑にさえ負けなければ、どんな生物にだって好物にありつけたり新たな好物に出会えたりする好機が巡ってくるっていう【美食国家】の生命線《ライフライン》)

 すぐに【美食国家】が誇る砂漠の異名や、その砂漠が絶品砂海《デザートデザート》などと称される理由となる特色を脳内で並べながら、かの地が【美食国家】にとってなくてはならない生命線であるらしいという資料を見た時の事を思い返し、より一層の危機感を覚えてしまっていた。

(そこに、あんなおぞましい咆哮を放つような化け物がいて……しかも、その化け物こそが並び立つ者たちシークエンスかもしれないなんて……っ、姉さんは、パイクは……?)

 南ルペラシオ崩壊の危機、というのもあるにはあるが、それよりもスタークとパイクが決して快調ではない状態で──ましてや片方は生きてすらいない状態で並び立つ者たちシークエンスとの戦いに臨んでいるかもしれないなどと考えると、もはや一刻の猶予もないと判断して。

「──シルド! もっと速く! 急いでください!!」

『りゅー……っ、あーっ!!』

 操縦席内で身体をぶつけてしまうだろうが、そんな事は気にしなくてもいいから──どうせ傷つかないし痛みもないし──と命じた事により、シルドは力を溜めるとともに空気抵抗を減らす為に自身の身体を鋭くして降下を開始し、それによって更に勢いが増す中。

 段々と分厚かった筈の雲が薄れていく事で、そろそろ抜けるのかもとフェアトが思った矢先、妹コンビの視界に入ってきたのは日の光を反射して黄金色に煌めいているようにも見えなくない大砂漠──絶品砂海《デザートデザート》。

 本来なら、この砂漠のどこにでも可食部が豊富な動植物や魔物が溢れている筈なのだが、いくらフェアトの視力が平凡以下とはいえ何もいないように見える。

 しかし、この絶品砂海《デザートデザート》のどこかに並び立つ者たちシークエンスがいるというなら話は別であり、ましてや序列一位《アストリット》から渡されて今は手元にないメモに記されていた、この広い砂漠のどこかに潜んでいる並び立つ者たちシークエンスが──。

 という強者であると考えると、この異常な状況も特に不思議ではないと結論づける事ができた。

 そう、フェアトは故意に逃がした十八位《リャノン》と十九位《サラ》に手渡していたメモの内容を、その時に更新されていた内容までとはいえ詳細をハッキリと覚えていたのだ。


 だからこそ、ここまで平静を保つ事ができていた。


 序列も名前も称号も、事前に把握できているから。


 本当は、もう不安で不安で堪らないというのに。


 翻って、やっと視界が完全に晴れた事で周囲を見渡そうとする前に、フェアトは口惜しげに溜息をつき。

「これが、絶品砂海《デザートデザート》……! こんな時でなければ、この絶景を目に焼きつけておきたいところですが……っ」

『!? りゅ! りゅーう!』

「えぇ分かってます、まずはパイクを──」

 【美食国家】の生命線、今が緊急事態でさえなければ、どうせ暑さも気にならないのだし観光の一つでもと考えていた自分を、てっきり咎めるつもりでシルドが鳴いたのかと思い、フェアトは自分たちの目的とその目的を果たす為の行動を指示しようとしたのだが。

『りゅー! りゅあぁああ!』

「? 何を──……え」

 どうやら、そうではないらしい──と理解したフェアトが、『それじゃあ何を伝えようと』と新たな疑問を抱きながら、シルドの首が向いている方を向くと。


 ──フェアトの視界に映ったのは。










『──ボギュオォオオオオオオオオオオオオッ!!』

『──ゴギャアァアアアアアアアアアアアアッ!!』

 シルドが飛んでいる位置よりも低い空中を舞う真紅の鱗を纏った巨大な竜と、およそ『化け物』としか言いようのなさそうな手も足もない醜悪極まる、その竜よりも遥かに巨大で街一つさえ呑み込めるかもしれないほどの蛇のような魔物が互いに魔法を撃ち合って。

「──……っ、怯むな!! 援護を続けろぉ!!」

 馬はいないが、おそらく騎士なのだろう鎧姿の男性が先頭に立って、あの真紅の竜を援護する旨の叫びを上げながら、もう片方の魔物に対し他の四名とともに魔法を行使して討伐せんとしている──そんな光景。


 きっと、どちらかの魔物が並び立つ者たちシークエンスで。


 あの人たちは、たまたま居合わせてしまっていて。


 それもあって、パイクは姿を隠してるのかも。


 などなど、まぁ色々と瞬時に思いつく事はあるも。


「な……何事……?」


 口をついたのは、そんな疑問符満載の声だった。
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