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町外れの草原にて

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 その後、手合わせをするにしても町の中で行うわけにもいかない為、町の人々の感謝の言葉への対応もそこそこに、港町ヒュティカを出立していった。

 騎士たちは馬に乗り、スタークたちは徒歩だ。

 そして、ヒュティカと王都を繋ぐ街道から少し離れた草原で歩みを止めた騎士たちは、よく見るとクラリアの乗るそれとは随分と異なる物騒な外見の馬から降りた後で二つの魔法を草原と周囲に向けて行使する。

 その二つとは【土強《ビルド》】と【風壁《バリア》】であり、おそらくは団長とスタークたちの手合わせで草原や街道までもが破壊されたり、もしくは手合わせによって発生するだろう騒音をかき消す為の処置であるように思えた。

 本来ならば石や鉄といった素材を身体や武器に纏わせたり、見えもしないし触れもしない真空の障壁を発生させたりする戦闘用の魔法も、術者次第で日常的な物体を補強したり騒音対策に活用したりという方向性の異なる力を引き出す事もできるのだと分からせる。

 決して簡単な事ではないが、それも彼らが騎士団の中でも特に優れた“一番隊”所属ゆえであり、そんな彼らを纏めているのが隊長のハキムなのであった。

 スタークたちとクラリアが立つ地面が、そうそう壊れる事はないだろう硬度になったのを確認した騎士たちは、これより手合わせを行う三人を遠巻きに囲み。

「団長、準備が整いました」

「あぁ、ありがとう」

 どうやら一番隊の副隊長であるらしい兜を被ったままの男性騎士が準備完了を報告すると、クラリアは腰に差したシンプルな造形の長剣の刀身を露わにする。

「……よし、それでは始めようか。 時間は有限だ、できれば二人同時にかかってきてくれると──」

 そして、その鋒《きっさき》を相対する双子に向けつつ、どこか愉しげな笑みとともに『二対一』を提案しようと。


 ──した、その時。


「──お待ちください、団長」

「……どうした? リゼット」

 突如、副団長のリゼットがクラリアの声を遮ってまで割り込んでしまい、それを見たクラリアは顔には出さずとも邪魔をされた事で露骨に声音を低くする。

 すると、リゼットは『いいですか?』と前置きし。

「その二人は仮にも六花の魔女様からの紹介でやってきた者たち。 万が一、貴女に取り返しのつかない傷などがついてしまっては──ヴァイシア騎士団の、ひいてはこの国の損失と言っても過言ではありません」

「また大袈裟な事を……」

 年下だからといってスタークたちを侮っていない事に加え、ましてやフルールの紹介なら弱者であろう筈もないと告げつつ、『もしもという事もあります』と進言するも、クラリアには溜息をつかれてしまう。

 無論、彼女はクラリアが希少な光の使い手である事も知っているし、もっと言えばクラリアの【光癒《ヒール》】をその身に受けた事もある為、自分の傷くらい自分で治せると誰よりも理解している筈なのだが──。

 この過保護さは、いつもの事であるようだった。

「大袈裟などではありません! ですので、ここは私に任せていただけませんか? どうか、お願いします!」

「ふむ……どうだ?」

 だからこそ、リゼットとしても譲る気はないらしく手合わせの代行をさせてほしいと宣言し、それを受けたクラリアは少し思案してから双子に意見を求める。

「好きにしろよ」

「右に同じです」

「……そうか、では──」

 かたやスタークが遅刻の原因が全面的に自分にある事を棚に上げて腕組みしつつ了承し、かたやフェアトが誰が相手でも負傷しないのだからと姉とは違う観点から同意した事で、クラリアが少し残念そうに溜息をこぼしてから長剣を鞘に戻したまではいいのだが。

「おいおい、待てよ。 だったら俺にやらせろ」

 これから起こる戦いを見守るべく遠巻きに円を組んでいた騎士たちの中から、ハキムがスタークたちのところまで歩いてきたかと思えば、その背負っていた重そうな大剣を補強されている筈の地面に突き刺した。

「貴様は引っ込んでいろ! 副団長たる私の役目だ!」

「そうはいかねぇ。 そもそも、その餓鬼どもの同行に反対したのは俺だ。 お前の出る幕じゃねぇよ」

「それは……っ、そうだが──」

 もちろん、そんな彼をよく思っていないリゼットが自分が申し出た役割を奪われまいと叫ぶも、ハキムにも彼なりの言い分があったらしく、その言い分が思った以上に正論だった為にリゼットは言葉に詰まる。

 ぎゃあぎゃあと部下の前で二人の騎士が、みっともなく口論を続けていた──その時だった。


 ──ぐらっ。


 ──と、【土強《ビルド》】で補強されている筈の地面が一瞬だけだが強く大きく揺れた事で二人は口論をやめ、また他の騎士たちやクラリアも周囲を警戒し始める。

「っ!? な……い、今のは地震か!?」

「魔物の可能性もあるが……」

「警戒を怠るな!」

 そして、ヴァイシア騎士団の面々が統率の取れた動きを見せる一方、フェアトはその揺れの原因を完全に理解したうえでスタークの方へと呆れた顔を向けた。

「……みっともないですよ、貧乏ゆすりなんて」

 何を隠そう、その揺れの正体は二人の口論に対して苛ついていたスタークの貧乏ゆすりだったのだが、どうやら当のスタークは無自覚だったらしく──。

「……ん? あたし貧乏ゆすりなんてしてたか」

「えぇ、しっかりと」

 妹が自信を持って頷いたのを見たスタークは『マジかぁ』と若干だが気まずげに栗色の髪を掻いていた。

「おっ、おかしいだろうが! どこの世界に単なる貧乏ゆすりで地震を起こす餓鬼がいるってんだよ!!」

 その一方、双子の会話を聞き逃していなかったハキムが大剣の先をスタークに向け、まるで化け物でも見るかのような目で『ありえねぇだろ』と叫び放つも。

「ここにいるだろ。 つーか、まだ決まんねぇのか? いい加減にしてくれよ、急いでんじゃねぇの?」

「「誰のせいだ!!」」

 未だに眠気が残っているのか『くあぁ』と欠伸したスタークは、さも他人事であるかの如き反応をしてしまい、それがまたハキムやリゼットの逆鱗に触れる。

 息ぴったりな様子で苦言を呈してしまった事に、ハキムもリゼットも嫌気を感じていた──そんな中。

「分かった分かった。 では、こうしよう。 リゼットとハキム、スタークとフェアトが組んで戦うんだ」

「二対二って事ですか、私はそれでもいいですよ」

「あたしもそれでいい。 さっさと戦《や》ろうぜ」

 折衷案だ──とでも言わんばかりに、パンッと手を叩いて注目を集めるクラリアが二対二の戦いを提案すると、フェアトとスタークはそれを了承したのだが。

「えっ、こ、この男とですか……? いや、それよりもこの二人の事ですよ! 明らかに普通じゃ──っ!?」

 一方のリゼットは、与えられた責務以外でハキムと組まなければならない事もそうだが、どう考えても目の前の双子が異常だと、そして同行など以ての外だと口にしようと──した彼女の言葉は、そこで止まる。

「──リゼット。 異論は認めない、いいな?」

「……っ、は、はい……」

 それもその筈、尊敬する団長が先程までとは全く異なる──まるで敵に向けるかのような鋭い眼光を持って自分を射抜いていたからであり、まだ物申したい事もあったリゼットも首を縦に振らざるを得なかった。

「ハキムも、それで構わないか?」

「……いまいちスッキリしねぇが……わーったよ」

 それから、ハキムにも了承を求める旨の声をかけると、ガリガリと赤い短髪を掻いていた彼も頷く。

 その後、遠巻きに円を組み直した騎士たちの中心でスタークとフェアト、ハキムとリゼットが相対し。


「では始めよう。 これより、ヴァイシア騎士団が誇る副団長と一番隊隊長のコンビと、フルール殿から紹介された双子たちとの──二人一組の決闘ツーマンセルバトルを開始する」


 クラリアの号令とともに──戦いの幕が開く。
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