34 / 333
食事処を探して
しおりを挟む
その後、次の行動を決めたスタークとフェアトは港町の中心部を物珍しげに見て回りながら、そして若干の空腹感とともに食事処を探していたのだが──。
「──すまないねぇ、今は満席なんだよ。 お嬢ちゃんたち、この町に来たばかりなんだろう? うちの料理を食べていってほしいのは山々なんだけど……」
いざ訪ねてみた食事処はどこもかしこも満員御礼。
「いえいえ、それなら仕方ありませんから」
「本当にごめんね、空《す》いてる時にまたおいで」
今も人当たりのよさげな恰幅のいい熟年女性に申し訳なさそうに断れてしまい、こちらまで申し訳なくなったフェアトは苦笑しつつ姉と一緒に店を後にする。
ちなみに食事処の店員との会話は全てフェアトが対応していたのだが、それが何故かと問われると──彼女の隣に立つ姉の表情を見れば一目瞭然であろう。
「空《す》いてんだよなぁ、腹がよぉ……何軒目だ今ので」
「……五軒目ですね」
そう、スタークは限界寸前の空腹でかなり苛立っており、とても一般の人に向けていいようなものではない表情で干し肉をかじり続けていた為、怖がらせないようにフェアトが対応せざるを得なかったのだ。
そんな双子の会話からも分かる通り、すでに先程の食事処で五軒目──その全てが満席となっていた。
店内で美味しそうにご飯や酒を嗜む人々を見たスタークの機嫌は、みるみるうちに悪化してしまい──。
「この町のやつらはあれか? 同じ時間に食事処で飯食わなきゃいけねぇ決まりにでも従ってんのか? あ?」
ブチッと音を立てて干し肉を噛みちぎる、これが魔族だと言われてしまえば納得しかねないほどの姉の表情も、フェアトにとっては特に畏怖の対象でもない。
「そういうわけではないでしょうけど……」
だからこそ、その空腹感からか随分と荒唐無稽な妄言を口走る彼女に対しても、せいぜい苦笑いを浮かべて困惑を露わにするくらいで済んでいるのである。
翻って、フェアトとしてもここまで食事処が賑わっているのは気にかかっていたが、それについては何となくではあるものの想定自体はできており──。
「多分、さっきの処刑の影響なんでしょうね。 あのイザイアスとかいう男が処刑された事への喜び、もしくはあの男に殺された人たちへの弔いも兼ねて、とか」
おそらく、あの男の凶行による被害者たちが集まって、もう犠牲者が出る事はないのだと、これで犠牲者たちも安心して眠れるだろうという感傷を食事を通して分かち合っているのでは──と推測していた。
「……まぁ分からなくはねぇが」
そんな妹の確信めいた推論を聞いたスタークは、流石に殺された者たちや遺族に関して愚痴を言うつもりはないのか、少しだけ気まずげに栗色の髪を掻く。
「そもそも殺されたんなら復活させりゃあいいんじゃねぇのか? ほら、あの【蘇《リザレクション》】とかいう魔法でよ」
とはいえ、あの辺境の地にいた頃から何度か死にかけた事も──何なら実際に死んだ事もあるスタークとしては、レイティアが何の気なしに多用していた蘇生魔法、【蘇《リザレクション》】を思い返しつつ妹に話を振った。
確かに──もしも、この町にレイティアがいたのならば、たとえ今は墓の下に眠っている亡骸であっても傷ひとつなく復活させる事も可能かもしれない。
だが──いない者にどう頼ればいいと言うのか。
「……そう上手くはいきませんよ。 死者を蘇らせる事を可能とするほどの力を持つ魔法使いなんて、一つの国につき二桁いればいい方だそうですし」
何より、フェアトが口にしたように死者を蘇らせられるほどの力を持った魔法使いなど、この魔導国家においても三桁に満たないらしく、それでも二桁にすら届くか怪しい他国に比べればマシであるようだ。
補足するのなら、【蘇《リザレクション》】を行使できるほどの魔力や技量があったとしても、それが回復に長けた光や水、或いは【蘇《リザレクション》】に限り高い効果を発揮する雷に適性がなければ、というのが現実であり──。
「お母さんが当たり前のように使っていたから感覚が麻痺してるんだと思いますけど、そもそも光の使い手自体が希少なんです。 全体の一厘にも満たないとか」
そもそもヴィルファルト大陸の総人口、およそ一千万と二十万人の一厘──要は一万と二百人ほどしか光属性の適性は持っておらず、その中で【蘇《リザレクション》】を行使できる使い手となると更に限られてしまう。
加えて言えば、その殆どが大陸の中心に位置する大国──聖《セント》レイティアに居を構えているらしく、国内であれ国外であれ高い金を払わなければ行使しないという者が殆どらしいとフェアトは母から聞いていた。
「ほーん……まぁ何でもいいが」
そんな中、色々と聞いたのは自分であるにも関わらず、スタークが興味なさげに欠伸する一方で──。
『『りゅう~……』』
「貴女たちもお腹空きましたよね……この町にいくつ食事処があるか分かりませんけど、そろそろ……」
未だ人目がある為に剣、或いは指輪となったままのパイクとシルドが、いかにも元気なさげに間延びした声で鳴いてみせた事で、それを察したフェアトは申し訳なさそうな表情とともに指輪の一つを撫でる。
「……あれも食事処《そう》じゃねぇか? 行ってみようぜ」
「あ、ちょっと姉さん!」
その時、顔を上げたスタークの視界に明らかに食事処だという事を示す看板を掲げた店が映り、『あそこも駄目だったらどうしてやろうか』と言いたげな早足でへ向かい、少し遅れてフェアトも姉を追いかけた。
その食事処の名は──“ミールレック”。
図らずも、この港町では知る人ぞ知る隠れた名店だったのだが──そんな事実を双子は知る由もない。
「──すまないねぇ、今は満席なんだよ。 お嬢ちゃんたち、この町に来たばかりなんだろう? うちの料理を食べていってほしいのは山々なんだけど……」
いざ訪ねてみた食事処はどこもかしこも満員御礼。
「いえいえ、それなら仕方ありませんから」
「本当にごめんね、空《す》いてる時にまたおいで」
今も人当たりのよさげな恰幅のいい熟年女性に申し訳なさそうに断れてしまい、こちらまで申し訳なくなったフェアトは苦笑しつつ姉と一緒に店を後にする。
ちなみに食事処の店員との会話は全てフェアトが対応していたのだが、それが何故かと問われると──彼女の隣に立つ姉の表情を見れば一目瞭然であろう。
「空《す》いてんだよなぁ、腹がよぉ……何軒目だ今ので」
「……五軒目ですね」
そう、スタークは限界寸前の空腹でかなり苛立っており、とても一般の人に向けていいようなものではない表情で干し肉をかじり続けていた為、怖がらせないようにフェアトが対応せざるを得なかったのだ。
そんな双子の会話からも分かる通り、すでに先程の食事処で五軒目──その全てが満席となっていた。
店内で美味しそうにご飯や酒を嗜む人々を見たスタークの機嫌は、みるみるうちに悪化してしまい──。
「この町のやつらはあれか? 同じ時間に食事処で飯食わなきゃいけねぇ決まりにでも従ってんのか? あ?」
ブチッと音を立てて干し肉を噛みちぎる、これが魔族だと言われてしまえば納得しかねないほどの姉の表情も、フェアトにとっては特に畏怖の対象でもない。
「そういうわけではないでしょうけど……」
だからこそ、その空腹感からか随分と荒唐無稽な妄言を口走る彼女に対しても、せいぜい苦笑いを浮かべて困惑を露わにするくらいで済んでいるのである。
翻って、フェアトとしてもここまで食事処が賑わっているのは気にかかっていたが、それについては何となくではあるものの想定自体はできており──。
「多分、さっきの処刑の影響なんでしょうね。 あのイザイアスとかいう男が処刑された事への喜び、もしくはあの男に殺された人たちへの弔いも兼ねて、とか」
おそらく、あの男の凶行による被害者たちが集まって、もう犠牲者が出る事はないのだと、これで犠牲者たちも安心して眠れるだろうという感傷を食事を通して分かち合っているのでは──と推測していた。
「……まぁ分からなくはねぇが」
そんな妹の確信めいた推論を聞いたスタークは、流石に殺された者たちや遺族に関して愚痴を言うつもりはないのか、少しだけ気まずげに栗色の髪を掻く。
「そもそも殺されたんなら復活させりゃあいいんじゃねぇのか? ほら、あの【蘇《リザレクション》】とかいう魔法でよ」
とはいえ、あの辺境の地にいた頃から何度か死にかけた事も──何なら実際に死んだ事もあるスタークとしては、レイティアが何の気なしに多用していた蘇生魔法、【蘇《リザレクション》】を思い返しつつ妹に話を振った。
確かに──もしも、この町にレイティアがいたのならば、たとえ今は墓の下に眠っている亡骸であっても傷ひとつなく復活させる事も可能かもしれない。
だが──いない者にどう頼ればいいと言うのか。
「……そう上手くはいきませんよ。 死者を蘇らせる事を可能とするほどの力を持つ魔法使いなんて、一つの国につき二桁いればいい方だそうですし」
何より、フェアトが口にしたように死者を蘇らせられるほどの力を持った魔法使いなど、この魔導国家においても三桁に満たないらしく、それでも二桁にすら届くか怪しい他国に比べればマシであるようだ。
補足するのなら、【蘇《リザレクション》】を行使できるほどの魔力や技量があったとしても、それが回復に長けた光や水、或いは【蘇《リザレクション》】に限り高い効果を発揮する雷に適性がなければ、というのが現実であり──。
「お母さんが当たり前のように使っていたから感覚が麻痺してるんだと思いますけど、そもそも光の使い手自体が希少なんです。 全体の一厘にも満たないとか」
そもそもヴィルファルト大陸の総人口、およそ一千万と二十万人の一厘──要は一万と二百人ほどしか光属性の適性は持っておらず、その中で【蘇《リザレクション》】を行使できる使い手となると更に限られてしまう。
加えて言えば、その殆どが大陸の中心に位置する大国──聖《セント》レイティアに居を構えているらしく、国内であれ国外であれ高い金を払わなければ行使しないという者が殆どらしいとフェアトは母から聞いていた。
「ほーん……まぁ何でもいいが」
そんな中、色々と聞いたのは自分であるにも関わらず、スタークが興味なさげに欠伸する一方で──。
『『りゅう~……』』
「貴女たちもお腹空きましたよね……この町にいくつ食事処があるか分かりませんけど、そろそろ……」
未だ人目がある為に剣、或いは指輪となったままのパイクとシルドが、いかにも元気なさげに間延びした声で鳴いてみせた事で、それを察したフェアトは申し訳なさそうな表情とともに指輪の一つを撫でる。
「……あれも食事処《そう》じゃねぇか? 行ってみようぜ」
「あ、ちょっと姉さん!」
その時、顔を上げたスタークの視界に明らかに食事処だという事を示す看板を掲げた店が映り、『あそこも駄目だったらどうしてやろうか』と言いたげな早足でへ向かい、少し遅れてフェアトも姉を追いかけた。
その食事処の名は──“ミールレック”。
図らずも、この港町では知る人ぞ知る隠れた名店だったのだが──そんな事実を双子は知る由もない。
0
お気に入りに追加
38
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
追放された偽物聖女は、辺境の村でひっそり暮らしている
黎
ファンタジー
辺境の村で人々のために薬を作って暮らすリサは“聖女”と呼ばれている。その噂を聞きつけた騎士団の数人が現れ、あらゆる疾病を治療する万能の力を持つ聖女を連れて行くべく強引な手段に出ようとする中、騎士団長が割って入る──どうせ聖女のようだと称えられているに過ぎないと。ぶっきらぼうながらも親切な騎士団長に惹かれていくリサは、しかし実は数年前に“偽物聖女”と帝都を追われたクラリッサであった。

僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた
黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。
その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。
曖昧なのには理由があった。
『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。
どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。
※小説家になろうにも随時転載中。
レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。
それでも皆はレンが勇者だと思っていた。
突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。
はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。
ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。
※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。
スキルが【アイテムボックス】だけってどうなのよ?
山ノ内虎之助
ファンタジー
高校生宮原幸也は転生者である。
2度目の人生を目立たぬよう生きてきた幸也だが、ある日クラスメイト15人と一緒に異世界に転移されてしまう。
異世界で与えられたスキルは【アイテムボックス】のみ。
唯一のスキルを創意工夫しながら異世界を生き抜いていく。

婚約破棄?一体何のお話ですか?
リヴァルナ
ファンタジー
なんだかざまぁ(?)系が書きたかったので書いてみました。
エルバルド学園卒業記念パーティー。
それも終わりに近付いた頃、ある事件が起こる…
※エブリスタさんでも投稿しています

【完結】『飯炊き女』と呼ばれている騎士団の寮母ですが、実は最高位の聖女です
葉桜鹿乃
恋愛
ルーシーが『飯炊き女』と、呼ばれてそろそろ3年が経とうとしている。
王宮内に兵舎がある王立騎士団【鷹の爪】の寮母を担っているルーシー。
孤児院の出で、働き口を探してここに配置された事になっているが、実はこの国の最も高貴な存在とされる『金剛の聖女』である。
王宮という国で一番安全な場所で、更には周囲に常に複数人の騎士が控えている場所に、本人と王族、宰相が話し合って所属することになったものの、存在を秘する為に扱いは『飯炊き女』である。
働くのは苦では無いし、顔を隠すための不細工な丸眼鏡にソバカスと眉を太くする化粧、粗末な服。これを襲いに来るような輩は男所帯の騎士団にも居ないし、聖女の力で存在感を常に薄めるようにしている。
何故このような擬態をしているかというと、隣国から聖女を狙って何者かが間者として侵入していると言われているためだ。
隣国は既に瘴気で汚れた土地が多くなり、作物もまともに育たないと聞いて、ルーシーはしばらく隣国に行ってもいいと思っているのだが、長く冷戦状態にある隣国に行かせるのは命が危ないのでは、と躊躇いを見せる国王たちをルーシーは説得する教養もなく……。
そんな折、ある日の月夜に、明日の雨を予見して変装をせずに水汲みをしている時に「見つけた」と言われて振り向いたそこにいたのは、騎士団の中でもルーシーに優しい一人の騎士だった。
※感想の取り扱いは近況ボードを参照してください。
※小説家になろう様でも掲載予定です。

日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる