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聖女VS妹
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スタークとの手合わせを終えたばかりだというのにも関わらず、レイティアは一も二もなくフェアトに右手をかざし、そこに再び純白の魔方陣を構築する。
「それじゃあ、まずは──【光砲《カノン》】」
「!」
そして、フェアトに構える隙を与える間もなくレイティアの右手から放たれたのは、スタークを吹き飛ばした魔法の弾丸、【弾《バレット》】の上位に当たる魔法、【砲《カノン》】に先程と同じ属性を纏わせた巨大な光の砲弾だった。
ちなみに、幼き日のフェアトが沈んでいた池の水を一瞬で吹き飛ばしたのも、この【砲《カノン》】である。
『『『──……!!』』』
地形や風景を変えてしまうほどの極大な光がフェアトを襲い、あわや渓谷は崩れかけていたものの、レイティアに従う精霊たちが何とか崩壊を防いでいた。
ようやくレイティアの右手から放出される光が弱まってきた頃、彼女はかざしていた手を下げつつ光の砲弾が着弾した影響で深く抉れた地面の中心に──。
「……っ」
「……まぁ、そうなるわよね」
その身体はおろか……日の光を反射して煌々と輝く金色の髪にも、身につけた服や靴にも一切の傷を負っていない至って健常なフェアトの姿を見ていた。
彼女がもし『普通の人間』だったのなら、跡形も残さずに消滅していても不思議ではないというのに。
尤も、これはレイティアとしても想定内。
「貴女は何も、ただ単に頑丈というわけじゃないのよね。 打撃や斬撃といった物理が効かないのはもちろんの事、魔法や病魔はおろか……この世界を揺るがすような大災害でさえ貴女の存在を脅かす事はできない」
──そう。
フェアトは姉のスタークとはあまりに対照的に、この世界に産まれ落ちてから一度も傷を負った事などなく、病に伏した事もなければ痛みを感じた事もない。
かつて、レイティアがどこからか連れてきた明らかに堅気ではない人間たちによる、数え切れないほどの剣や弓や魔法の攻撃をその身に受けても──。
世界のどこかで流行していたらしい致死性の病魔を発生させていた魔物を倒したレイティアが、『後学の為に』と死してなお病原菌を振り撒くその魔物を連れてきて、その菌をフェアトに吸い込ませた時も──。
彼女は──平然としているだけだった。
しかし、よく考えれば『普通に育ってほしい』という、レイティアの教育方針と矛盾しているように思えるかもしれないが、これはあくまでも『死なないでほしい』という母親としての想いからくる行動である。
……それは、『普通の母親』がする事ではない?
それはそうだろう。
彼女もまた、普通ではないのだから。
……ちなみに、もう確かめようのない事だが。
おそらく魔王や勇者でも、フェアトを傷つける事はできないだろうとレイティアは半ば確信していた。
唯一、彼女が死を迎えるような事象といえば──。
──それこそ、寿命くらいのものだろう。
「……それが分かっているのなら、もう諦めてもらえると助かります。 早く姉さんを治してあげて──」
間違いなく自分は傷を負わないとは分かっていたとしても、目の前の母親は世界を救った英雄の一人。
だからこそ、フェアトは安堵からくる溜息をこぼしつつ、レイティアによって遥か遠くまで吹き飛ばされている筈の姉を心配する旨の発言を口にしようと。
──したのだが。
「──けれど、弱点が存在しないわけじゃない。 それは貴女が一番……理解しているわよね」
「……? っ! まさか……っ」
そんな彼女の言葉を遮って、レイティアが浮かべる真剣味の溢れる表情で何かを察したフェアトは。
──瞬時に、地面の方を見た。
だが──もう、遅い。
「えぇ、そうよ。 終わらせましょう──」
瞬間、再びレイティアが右手をかざすも、そこに純白の魔方陣は出現せず……されど、フェアトの視界は一瞬で神々しい純白の光の輝きに包まれてしまう。
魔方陣が出現したのは──フェアトの足下だった。
「──【光噴《イラプション》】」
そして、かざした右の掌を上に向けてから人差し指をクイッと動かし、フェアトも知る魔法の名を口にした時、魔方陣が一層強い光を放ち──爆ぜた。
いや、正確には──噴出したと言うべきか。
【噴《イラプション》】……それは、この世界の自然物であればどんな物にも内在しうる、【魔法】を行使する為のエネルギーである【魔力】の源──【魔素】を活性化させて噴火の如き衝撃を発生させる魔法である。
「これ、は……っ!!」
当然、レイティアが扱える属性は光のみの為、噴出してきた光の柱にフェアトは一瞬で呑み込まれた。
とはいえ、ただ狙われる場所を変えられたくらいでフェアトが傷を負う筈もないのだが──。
(噴き出してくる光の波動……これ自体は私に何の被害も及ぼさない……けれど……っ!)
フェアトは、すでにレイティアの狙いに気がついており、どうにかして光の中から抜け出そうとする。
だが、その守備力の代償か……フェアトは極端なほどに身体能力が低く、それこそ物心ついたばかりの子供と大して差がないと言っても過言ではない。
ゆえに──間に合わない。
「フェアト。 貴女は無敵かもしれないけれど──」
「貴女が立つ地面《あしば》は──無敵《そう》じゃないわよね」
そう、レイティアの狙いはフェアトではなく。
今もフェアトが立つ地面。
仕組みはいまいち分かっていないが、フェアトが身に着けている服や靴も彼女と同じく傷つかなくなる一方、足場にまでその守備力を付与する事はできない。
その事を重々承知していたからこそ……レイティアは地面を狙い、フェアトは瞬時に足下を警戒した。
「く……! う、あぁああああああああ……っ!」
……結局、奈落へと落ちてしまったのだが。
「それじゃあ、まずは──【光砲《カノン》】」
「!」
そして、フェアトに構える隙を与える間もなくレイティアの右手から放たれたのは、スタークを吹き飛ばした魔法の弾丸、【弾《バレット》】の上位に当たる魔法、【砲《カノン》】に先程と同じ属性を纏わせた巨大な光の砲弾だった。
ちなみに、幼き日のフェアトが沈んでいた池の水を一瞬で吹き飛ばしたのも、この【砲《カノン》】である。
『『『──……!!』』』
地形や風景を変えてしまうほどの極大な光がフェアトを襲い、あわや渓谷は崩れかけていたものの、レイティアに従う精霊たちが何とか崩壊を防いでいた。
ようやくレイティアの右手から放出される光が弱まってきた頃、彼女はかざしていた手を下げつつ光の砲弾が着弾した影響で深く抉れた地面の中心に──。
「……っ」
「……まぁ、そうなるわよね」
その身体はおろか……日の光を反射して煌々と輝く金色の髪にも、身につけた服や靴にも一切の傷を負っていない至って健常なフェアトの姿を見ていた。
彼女がもし『普通の人間』だったのなら、跡形も残さずに消滅していても不思議ではないというのに。
尤も、これはレイティアとしても想定内。
「貴女は何も、ただ単に頑丈というわけじゃないのよね。 打撃や斬撃といった物理が効かないのはもちろんの事、魔法や病魔はおろか……この世界を揺るがすような大災害でさえ貴女の存在を脅かす事はできない」
──そう。
フェアトは姉のスタークとはあまりに対照的に、この世界に産まれ落ちてから一度も傷を負った事などなく、病に伏した事もなければ痛みを感じた事もない。
かつて、レイティアがどこからか連れてきた明らかに堅気ではない人間たちによる、数え切れないほどの剣や弓や魔法の攻撃をその身に受けても──。
世界のどこかで流行していたらしい致死性の病魔を発生させていた魔物を倒したレイティアが、『後学の為に』と死してなお病原菌を振り撒くその魔物を連れてきて、その菌をフェアトに吸い込ませた時も──。
彼女は──平然としているだけだった。
しかし、よく考えれば『普通に育ってほしい』という、レイティアの教育方針と矛盾しているように思えるかもしれないが、これはあくまでも『死なないでほしい』という母親としての想いからくる行動である。
……それは、『普通の母親』がする事ではない?
それはそうだろう。
彼女もまた、普通ではないのだから。
……ちなみに、もう確かめようのない事だが。
おそらく魔王や勇者でも、フェアトを傷つける事はできないだろうとレイティアは半ば確信していた。
唯一、彼女が死を迎えるような事象といえば──。
──それこそ、寿命くらいのものだろう。
「……それが分かっているのなら、もう諦めてもらえると助かります。 早く姉さんを治してあげて──」
間違いなく自分は傷を負わないとは分かっていたとしても、目の前の母親は世界を救った英雄の一人。
だからこそ、フェアトは安堵からくる溜息をこぼしつつ、レイティアによって遥か遠くまで吹き飛ばされている筈の姉を心配する旨の発言を口にしようと。
──したのだが。
「──けれど、弱点が存在しないわけじゃない。 それは貴女が一番……理解しているわよね」
「……? っ! まさか……っ」
そんな彼女の言葉を遮って、レイティアが浮かべる真剣味の溢れる表情で何かを察したフェアトは。
──瞬時に、地面の方を見た。
だが──もう、遅い。
「えぇ、そうよ。 終わらせましょう──」
瞬間、再びレイティアが右手をかざすも、そこに純白の魔方陣は出現せず……されど、フェアトの視界は一瞬で神々しい純白の光の輝きに包まれてしまう。
魔方陣が出現したのは──フェアトの足下だった。
「──【光噴《イラプション》】」
そして、かざした右の掌を上に向けてから人差し指をクイッと動かし、フェアトも知る魔法の名を口にした時、魔方陣が一層強い光を放ち──爆ぜた。
いや、正確には──噴出したと言うべきか。
【噴《イラプション》】……それは、この世界の自然物であればどんな物にも内在しうる、【魔法】を行使する為のエネルギーである【魔力】の源──【魔素】を活性化させて噴火の如き衝撃を発生させる魔法である。
「これ、は……っ!!」
当然、レイティアが扱える属性は光のみの為、噴出してきた光の柱にフェアトは一瞬で呑み込まれた。
とはいえ、ただ狙われる場所を変えられたくらいでフェアトが傷を負う筈もないのだが──。
(噴き出してくる光の波動……これ自体は私に何の被害も及ぼさない……けれど……っ!)
フェアトは、すでにレイティアの狙いに気がついており、どうにかして光の中から抜け出そうとする。
だが、その守備力の代償か……フェアトは極端なほどに身体能力が低く、それこそ物心ついたばかりの子供と大して差がないと言っても過言ではない。
ゆえに──間に合わない。
「フェアト。 貴女は無敵かもしれないけれど──」
「貴女が立つ地面《あしば》は──無敵《そう》じゃないわよね」
そう、レイティアの狙いはフェアトではなく。
今もフェアトが立つ地面。
仕組みはいまいち分かっていないが、フェアトが身に着けている服や靴も彼女と同じく傷つかなくなる一方、足場にまでその守備力を付与する事はできない。
その事を重々承知していたからこそ……レイティアは地面を狙い、フェアトは瞬時に足下を警戒した。
「く……! う、あぁああああああああ……っ!」
……結局、奈落へと落ちてしまったのだが。
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