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第1話
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「菫、私達、100歳になったわね」
「そうね、馨」
「18歳から同居して、82年か……色々あったわね」
「そうね、色々あったわね……あてて、腰が……」
現在、午前10時。縁側に座りながら、2人の同じ日の誕生日を祝っていた。左側には、与謝野馨、右側には、陸奥菫がそれぞれ正座をしてお茶をすすっている。
「もう歳だから腰が痛くて仕方ないわね」
「本当、そうね。外へ出かけて腰に良いものでも買ってくるわ」
「待って、一緒に出かけましょう。私達は常に一緒よ」
そして、一緒に何回も通ったドラッグストアへの道のりを歩く。
「ドラッグストアで、腰痛に効く薬かシップでも買いましょうか」
「えぇ、そうね気休めになるのではないかしら」
何て、話しているとローブを着た占い師みたいな老婆が椅子に座っていた。
「ちょいと、そこのお嬢さん2人」
「まぁ、お嬢さんだなんて、もうそんな歳ではありませんよ」
「そうですよ~気持ちだけは高校生のままですけどね~」
「見えるんですよ、若いオーラがねぇ。ところでお嬢さん達。若返ることに興味ないかい?」
「若返りねぇ。高校生の頃に戻って、菫との青春をもう一度味わいたいねぇ」
「あたしも馨との青春をもう一度味わいたいねぇ」
「ふふふ、やはりワシの目に狂いはなかったわい。ならば、この入浴剤を購入するとよい。浸かると一日だけ若返る。張ったお湯は古湯になると入浴剤の効果を失うから、一度浸かってしまうと若返る効果は失われる。2人同時に若返りたいのならば同時に入ることじゃな。どうじゃ、1個しかない、若返りの入浴剤。いかがなものか?」
2人は顔を見合わせる。馨は気になることを聞いてみる
「ちなみに、いくらかしら?」
「千円じゃよ」
「千円!? そんな凄い入浴剤をこんな低価で売ってしまっていいんですか?」
「いいんじゃよ。ワシの開発した入浴剤が誰かの手に渡り役に立ってくれればな」
「「買います!」」
2人は声を合わせて入浴剤を老婆から購入した。
「あいよ。まいどあり。使った感想を後日教えてくれたら嬉しい。またここに居るから」
「わかりました。行こう、菫」
「ありがとうございました。うん、馨」
2人は仲良く元来た道をゆっくり戻っていく。本人達は急いでいるつもりでも、歳の所為で脚が思うように動かない。もどかしいが、楽しみな気持ちはゆっくり膨れ上がっていく。
家に帰ってきた。袋から取り出す入浴剤。2人は脱衣所にて裸になり、風呂場へ入る。そして、入浴剤を浴槽に入れる。お湯の色が乳白色に変化する。2人はかけ湯をして、見つめ合う。
「では、入ってみるとしますかねぇ」
「そうねぇ」
そして、2人はゆっくり浴槽に入る。向かい合って互いの姿を確認するが、まだ老けたままだ。
「本当に若返るのかしらね……」
「まぁ、お肌がツルツルになるくらいでしょ」
なんて話をしていると……2人の姿はみるみる18歳頃の姿に戻っていたのであった。
「嘘でしょ!? 本当に若返っている!?」
「あぁ、最も可愛かった時の馨だ……!!」
菫は、手を伸ばし、馨の顔をむにむにと触る。
「あ、こら! 菫!!」
その感触はハリがあった。幻想ではない。確かな感触であった。
「じゃあ、ここも……」
菫は、手の位置を下にずらしていく。そこはお湯に浸かって隠れているが上半分が主張をしている部分……
「ひゃああ、す、菫!!」
「相変わらず、感度が良いわね馨」
「やったわね、菫。私も仕返ししてやる」
馨も菫のお湯に浸かって隠れているが上半分が主張をしている部分をまさぐった。
「あんっ! やるわね馨」
「菫だって感度良いじゃん……あははっ、それにしても……本当に若返っているわね」
「高校生の時くらいの姿かしら」
「髪も白髪から黒髪になっているし」
「本当だ、髪もちゃんと若返ってる!」
互いに髪に触れてみる。サラッとした感触。艶もある。馨はショートカットであり、菫はロングヘアである。
「本物だったわね。謳い文句じゃなくて……」
「そうね。若返るなんて、お肌ツルツルになるくらいだと思ってたもの」
「また、青春に戻れるなんて……お湯にのんびり浸かっている場合じゃないわ!」
「そうね、若者の時しかできないことしましょう!! 思い切り外で遊びましょう!」
ザバーンッと勢いよく2人はお湯から出て、脱衣所でタオルで体を拭く。
そして、また着物に着替える。2人は若い頃より着物が私服なのだ。だけど、靴は動きやすいようにスニーカーだ。
「どこへ行く?」
「遊園地行きたい!!」
「よし!よく行った流星遊園地に行こっ!」
「車はもう免許を返納しているし、公共交通機関使って行くしかないわね……車があればあっという間に着くのに」
「まぁまぁ、のんびり電車に揺られて行きましょう」
「行き方覚えてて良かった~。ボケて忘れてしまっているかと思ったわ」
「脳も若返ったのかしら? でもここって学生時代、年間パスポート買って何度も来たわよね。体が覚えていたのかしら」
「年齢的に本来なら遊園地なんて遊べない所だけど、若返ったのだから、童心に返って遊ぶわよ~!!」
「そうよね、身長制限だけじゃなくて、年齢制限もあったわね。大丈夫よね」
2人はさっそく、ジェットコースターの列に並ぶ。
「わぁ、何年ぶりかしら……!!」
「そうね、社会人以来じゃないかしら……」
「確か、最後はイルミネーションを見たという記憶があるわ」
「よく覚えているわね。でも、今は夏だし、イルミネーションはないわね」
「まぁ、その分、花火が夜に打ち上げられると思うから楽しみね」
「あ、もう私達の番じゃない? 今日は平日だから空いているわね」
先頭に隣同士で座り、安全バーを装着する。そして、ゆっくり動き出す。
「久しぶりだから、ちょっと怖いかも」
「なら、手を繋いでいればいいじゃない」
「そう、するね」
ジェットコースターにドキドキしているのか、馨と手を繋ぐことにドキドキしているのかわからなくなってきた。あぁ、吊り橋効果なんて働かなくても馨にはドキドキなのに。待って、これ心不全の症状とかじゃないわよね?と焦る菫。
「大丈夫?菫、顔色が悪いわよ」
「大丈夫、久しぶりだからちょっと怖いだけよ。でも、もっと怖いこと想像して」
「もしかして、ドキドキしているの心不全の症状かも? とか思った?」
「え、どうしてそれを!?」
「私もそう思ったからよ」
「考えていることは同じなのね。体が若返ったからって臓器とか神経とかも全部若くなっているのかしらって不安になって……」
「大丈夫よ、きっと。不安に呑みこまれているのがもったいないわ。楽しみましょう。ほら、いよいよ落ちるわよ……キャー!!!!!」
「キャー!!!!!」
ジェットコースターは勢いよく急な道を下り落ち乗務員を恐怖の底に落とす。その後は旋回したり、また、急な道を昇ったと思ったら下り落ちを繰り返す。
「あ~楽しかったわね~!!」
「えぇ、不安なんて吹き飛んでしまったわ」
「少し休憩したら、次は何乗ろうかしら」
「あ、あそこでソフトクリーム食べない?」
「いいわね、年金散財してやる程、売上に貢献してやりましょう」
そして、ソフトクリームを購入した。ベンチに座りソフトクリームをペロペロ舐めていると、頬にクリームがついた菫。それに気づいた馨は、クリームの辺りに口づける。
「ちょっ馨!! ここ外!!」
「えぇ、学生時代もしたの覚えていないの~?」
「……いや、覚えているけどさ……」
「懐かしいことしてくれるなって」
「うぅ、さっさと拭けばよかった、恥ずかしい……」
「最近だったら、手がぷるぷる震えておかずを落とすことだもんね」
「今は若者だから手が震えることなんてないもん」
「そうだね~でも、恥ずかしさで手が震えているみたいよ?」
「あぁ、もう!!」
そういうと、口が汚れることを気にせずバクバクと食べていく菫。もちろん、口の周りはクリームだらけだ。
「味わって食べなさいよ~逃げないんだから」
「あたしは、今すぐこの場から逃げたいわよ。さっきの誰かに見られたんじゃないかって」
「良いじゃない。若気の至りということで。あと、誰も気にしていないと思うわ。今の菫の口周りの方が恥ずかしいわよ」
「今度は唇なんてされる前に拭くわよ!」
「ちぇ~してやろうと思ったのに……ま、夜のお楽しみね♡」
「む~、なんで公共の場でそういう恥ずかしい話するかなぁ」
「さて、私も食べ終わったし、次はゆったりしたの乗りたいわね。メリーゴーラウンドでも乗りましょうか」
2人はベンチから立ち、メリーゴーラウンドの場所へ向かう。
「どこの席に座る」
「あたし、またお姫様席が良い」
「はいはい、わかりましたよ。私が馬車を引きますね」
そして、馨は馬車に繋がれた馬の席、菫は馬車に乗った。合図のベルが鳴り、ゆっくり動き出す。
「あぁ、舞踏会が待ち遠しいわ」
「なあに、もうすぐ着きますよ」
「王子様はあたしを見つけて、一緒に踊ってくれるかしら」
「王子は私です。到着したら共に踊りましょう」
「まぁ、王子様自ら迎えに来てくださったのですね、嬉しい」
「えぇ、気付いたら魔女の魔法であなたの家の前におりましたから」
「そうでしたものね、でも0時には帰られないといけないの」
「どうしてです?美しいあなたをそんなすぐに帰したくない」
「だって、0時になったら……」
というところでメリーゴーラウンドは動きが止まった。
「楽しかった、シンデレラごっこ」
「菫、メリーゴーラウンド乗ると必ずやるもんね」
「王子が隣にいてくれているわ。幸せ」
「それは良かったです。次はどこに参りましょう」
「もう、夜になるわ。そろそろ花火の時間になるし、観覧車に並んでおきましょう」
「その前にチュロス買わない?お腹空いた」
「あ、もう王子終わり? もう~それにさっき、ソフトクリームを食べたばかりなのに早っ!」
「花より団子ね、私は。花火よりチュロス。ここの縦に長いシナモンのチュロスが食べたかったのよ」
「はいはい、買いに行きましょう」
チュロスの列に並び、無事購入した2人は、観覧車に向かう。順番を待っている間にチュロスを食す。
「ん~やっぱり、ここのチュロス美味しいわね。良かった、まだあって」
「人気の食べ歩き食品だからじゃない? やっぱり、皆、花火の時間に合わせて観覧車に乗ろうとしているわね……無事、見られるかしら?」
順番が回ってきた。遊園地の従業員が観覧車の扉を開ける。
「はい、2名様、足元に気をつけてご乗車ください~」
「「はい」」
菫、馨の順に乗り込んでいく。菫は左側に、馨は右側に座る。
「あ、花火始まったね」
「下からでも見えるね」
「この時間ならちょうど良いのではないかしら」
「そうね。大きいの発射された時、ちょうど頂上じゃない?」
「ちょうど良い時に乗れたんじゃない?」
「えぇ、そうね。学生時代でもこのタイミングで乗れなかったわ」
「あら、忘れちゃったの? 一度だけグッドタイミングで乗れた日あったわよ」
「そうだったかしら?」
「なら、頂上いった時、思い出させてあげる」
「思い出させる……?」
馨の言葉に疑問が残るが、花火に見惚れてすぐに忘れた。夜空を鮮やかに彩る七色の火は人々を魅了する。しばらく、2人は黙ったまま花火に目線を向けていた。
そして、頂上付近になって、馨が菫の方を向いた。
「菫、こっち向いて」
「何、馨」
ちゅ。と口づけた。背景では大きな花火が打ちあがっていた。まるで2人のキスを祝福してくれているかのように。
「菫、どう? 思い出した」
「……いや、まったく」
「もう、18歳の誕生日の時も、こうして夜に観覧車に乗って、大花火が打ちあがった瞬間にキスできたじゃない」
「……そうだったっけ?」
「そうだよ。それで頂上でキスもできて、大花火も見れて私達、両想いだねってなったじゃない」
「そういえば、そうだったかも……」
「頂上で花火を背景にキスできたカップルは永遠に結ばれるってジンクスあるじゃない? 叶ったよね」
「……そうだね。しかもまた、誕生日にできたんだ」
「青春できたね」
「あの入浴剤売ってくれたお婆さんに感謝しないとね」
「使った感想は最高! また青春を味わえたのだから」
「お疲れ様でした~、足元に気をつけて降りてください」
「あら、もう下まで来てたのね」
「あっという間だったわね」
2人は観覧車から降り、伸びをしながら歩いている。
「帰りましょうか」
「そうね、これが学生時代だったらお土産を買って帰るところだけど、もうあたし達には必要ないものね」
2人は公共交通機関を利用して自宅に帰る。地元に着いてからはタクシーを使い自宅まで帰宅した。
「はーやっぱり、家が落ち着く」
「そうね」
ソファに2人で座り込む。
「でも、お風呂入らないとね」
「そうね、また、一緒に入る?」
「せっかくだから入りましょう!」
2人は脱衣所で服を脱ぎ合った。もうずっと見ている裸なのに、今日はまた久しぶりにドキドキした。若い肌に2人はまた若い時の感情が蘇っているのだ。だが、いつまでも恥ずかしがっていては仕方ないので、馨、菫の順でお風呂場へ入った。かけ湯をかけ、体を洗い始める2人。
「楽しかったわね」
「えぇ、やはり遊園地は最高ね。若返り最高!」
「でも、それも、あと12時間で終わりね」
「そうね、このお湯に浸かっても、もう若返る効果は失われているし」
「あの入浴剤また売ってくれないかしらね?」
「そうよね、あの魔法使いっぽいお婆さんなら大量に作れてそう」
「さ、体も洗い終わったし、入りましょう」
「えぇ」
そして、向かい合って浸かる2人。恥ずかしくて俯く。
「やっぱり綺麗ね……菫」
「やっぱり可愛いね……馨」
互いの姿を改めて褒め合う2人。高揚する心臓。この後の予定はあれにしたいという欲望。
「ねぇ、菫。今日は久しぶりに……夜伽しない?」
「えぇ、同じことを考えていたわ。あたし達、お互いの体触れ合っていたけど、それはマッサージであって、愛情表現ではなかった。今日は全身感じたい」
2人は見つめ合い、口づける。ぷるんとした唇のぶつかり合いの感触は久しぶりだ。そして、手繰り寄せ合い、思い切り抱きしめ合いながら、接吻を続ける。
「のぼせそうになるから、続きは上がってからにしよう」
「そうね、先に上がってるからもう少ししたら上がってきて」
菫は先に風呂から上がり、タオルで体を拭き始める。その後にドライヤーを掛けて、浴衣に着替えて、脱衣所を後にした。
「そろそろ、私も上がろうかしら」
先程の菫とのキスですでにのぼせかけている馨。風呂から上がり、タオルで体を拭く。その後にドライヤーを掛けて、同じように浴衣に着替えて、脱衣所を後にした。
「やはり和服はいいわね」
「今は洋服が主流だから目立っちゃうけどね。でも、夏だから、浴衣は溶け込むわよね」
「お祭りがあるなら行きたかったけど、そんな都合よく開催していないからね」
「ま、でもいいじゃない。今日は最高の花火を見られたのだから」
「そうね、両想いを後押ししてくれる花火」
「久しぶりに結ばれましょう、馨。あなたが欲しい」
いつ頃から夜伽をしなくなっただろうか。魅力がなくなったわけではない。ただ、体力が歳を重ねる内になくなっていったのだ。でも、今は違う。激しく求められる。
お風呂の続きである唇を貪った。その間に着物の間に手を入れていく。肌もカサカサ感はなく、潤いのあるツルツルでハリのある肌に手が埋もれていく。はだける浴衣。
「帯が邪魔ね」
そう言って、解いていく。2人共、またしても裸になった。今度は布団の上で。抱きしめ合う。
「和服で着替えるの楽で良いわよね」
「そうね、特に脱がせるのが楽で良い」
2人は、若返りの効果を惜しまず楽しむ為、夜通し楽しむことにした。
「今宵は寝かさないわ、菫」
「寝落ちしないでよね、馨」
とはいうものの、オーガズムを感じ合った2人は、今日の遊園地での疲れも相まって寝てしまうのであった。その時刻4時であった。2人は手を繋ぎ、裸で布団の上で寝ていた。夏のおかげで寝冷えすることもない。
そして、若返りの効果が消える11時。2人の心臓は止まった。互いの手を取りながら、同じ日に息を引き取った。長年連れ添った夫婦は同じ日に死ぬという例があるが、この2人にもあったようだ。後日、回覧板を渡しに来た近所の人が気づき、最期の時まで仲睦まじい2人だと冥福をお祈り申し上げた。そして、2人はエンディングノートを残していた。2人を一緒の棺桶に入れて、墓にも一緒にととにかく共にあることを強調されていた。葬式では故人の遺言通り、棺桶には2人が手を繋ぎ入っていた。葬式には、入浴剤を売った老婆の姿があった。だが、その老婆は魔法使い。一般人には見えないのであった。
「ふぇふぇふぇ。感想は聴けなかったが、幸せそうな顔をしておるわい。私の魔法は成功したのじゃ。最期を迎える前の2人に再び青春を味わわせることができたのだから。今度は何をつくろうかのう。それとも、またこの入浴剤を必要とする人の為に入浴剤を作ろうかのう?」
馨と菫は青春時代も目一杯、やりたいことをやりつくしたが、さらに青春を謳歌できた。そう安らかに眠る顔が告げている。
「そうね、馨」
「18歳から同居して、82年か……色々あったわね」
「そうね、色々あったわね……あてて、腰が……」
現在、午前10時。縁側に座りながら、2人の同じ日の誕生日を祝っていた。左側には、与謝野馨、右側には、陸奥菫がそれぞれ正座をしてお茶をすすっている。
「もう歳だから腰が痛くて仕方ないわね」
「本当、そうね。外へ出かけて腰に良いものでも買ってくるわ」
「待って、一緒に出かけましょう。私達は常に一緒よ」
そして、一緒に何回も通ったドラッグストアへの道のりを歩く。
「ドラッグストアで、腰痛に効く薬かシップでも買いましょうか」
「えぇ、そうね気休めになるのではないかしら」
何て、話しているとローブを着た占い師みたいな老婆が椅子に座っていた。
「ちょいと、そこのお嬢さん2人」
「まぁ、お嬢さんだなんて、もうそんな歳ではありませんよ」
「そうですよ~気持ちだけは高校生のままですけどね~」
「見えるんですよ、若いオーラがねぇ。ところでお嬢さん達。若返ることに興味ないかい?」
「若返りねぇ。高校生の頃に戻って、菫との青春をもう一度味わいたいねぇ」
「あたしも馨との青春をもう一度味わいたいねぇ」
「ふふふ、やはりワシの目に狂いはなかったわい。ならば、この入浴剤を購入するとよい。浸かると一日だけ若返る。張ったお湯は古湯になると入浴剤の効果を失うから、一度浸かってしまうと若返る効果は失われる。2人同時に若返りたいのならば同時に入ることじゃな。どうじゃ、1個しかない、若返りの入浴剤。いかがなものか?」
2人は顔を見合わせる。馨は気になることを聞いてみる
「ちなみに、いくらかしら?」
「千円じゃよ」
「千円!? そんな凄い入浴剤をこんな低価で売ってしまっていいんですか?」
「いいんじゃよ。ワシの開発した入浴剤が誰かの手に渡り役に立ってくれればな」
「「買います!」」
2人は声を合わせて入浴剤を老婆から購入した。
「あいよ。まいどあり。使った感想を後日教えてくれたら嬉しい。またここに居るから」
「わかりました。行こう、菫」
「ありがとうございました。うん、馨」
2人は仲良く元来た道をゆっくり戻っていく。本人達は急いでいるつもりでも、歳の所為で脚が思うように動かない。もどかしいが、楽しみな気持ちはゆっくり膨れ上がっていく。
家に帰ってきた。袋から取り出す入浴剤。2人は脱衣所にて裸になり、風呂場へ入る。そして、入浴剤を浴槽に入れる。お湯の色が乳白色に変化する。2人はかけ湯をして、見つめ合う。
「では、入ってみるとしますかねぇ」
「そうねぇ」
そして、2人はゆっくり浴槽に入る。向かい合って互いの姿を確認するが、まだ老けたままだ。
「本当に若返るのかしらね……」
「まぁ、お肌がツルツルになるくらいでしょ」
なんて話をしていると……2人の姿はみるみる18歳頃の姿に戻っていたのであった。
「嘘でしょ!? 本当に若返っている!?」
「あぁ、最も可愛かった時の馨だ……!!」
菫は、手を伸ばし、馨の顔をむにむにと触る。
「あ、こら! 菫!!」
その感触はハリがあった。幻想ではない。確かな感触であった。
「じゃあ、ここも……」
菫は、手の位置を下にずらしていく。そこはお湯に浸かって隠れているが上半分が主張をしている部分……
「ひゃああ、す、菫!!」
「相変わらず、感度が良いわね馨」
「やったわね、菫。私も仕返ししてやる」
馨も菫のお湯に浸かって隠れているが上半分が主張をしている部分をまさぐった。
「あんっ! やるわね馨」
「菫だって感度良いじゃん……あははっ、それにしても……本当に若返っているわね」
「高校生の時くらいの姿かしら」
「髪も白髪から黒髪になっているし」
「本当だ、髪もちゃんと若返ってる!」
互いに髪に触れてみる。サラッとした感触。艶もある。馨はショートカットであり、菫はロングヘアである。
「本物だったわね。謳い文句じゃなくて……」
「そうね。若返るなんて、お肌ツルツルになるくらいだと思ってたもの」
「また、青春に戻れるなんて……お湯にのんびり浸かっている場合じゃないわ!」
「そうね、若者の時しかできないことしましょう!! 思い切り外で遊びましょう!」
ザバーンッと勢いよく2人はお湯から出て、脱衣所でタオルで体を拭く。
そして、また着物に着替える。2人は若い頃より着物が私服なのだ。だけど、靴は動きやすいようにスニーカーだ。
「どこへ行く?」
「遊園地行きたい!!」
「よし!よく行った流星遊園地に行こっ!」
「車はもう免許を返納しているし、公共交通機関使って行くしかないわね……車があればあっという間に着くのに」
「まぁまぁ、のんびり電車に揺られて行きましょう」
「行き方覚えてて良かった~。ボケて忘れてしまっているかと思ったわ」
「脳も若返ったのかしら? でもここって学生時代、年間パスポート買って何度も来たわよね。体が覚えていたのかしら」
「年齢的に本来なら遊園地なんて遊べない所だけど、若返ったのだから、童心に返って遊ぶわよ~!!」
「そうよね、身長制限だけじゃなくて、年齢制限もあったわね。大丈夫よね」
2人はさっそく、ジェットコースターの列に並ぶ。
「わぁ、何年ぶりかしら……!!」
「そうね、社会人以来じゃないかしら……」
「確か、最後はイルミネーションを見たという記憶があるわ」
「よく覚えているわね。でも、今は夏だし、イルミネーションはないわね」
「まぁ、その分、花火が夜に打ち上げられると思うから楽しみね」
「あ、もう私達の番じゃない? 今日は平日だから空いているわね」
先頭に隣同士で座り、安全バーを装着する。そして、ゆっくり動き出す。
「久しぶりだから、ちょっと怖いかも」
「なら、手を繋いでいればいいじゃない」
「そう、するね」
ジェットコースターにドキドキしているのか、馨と手を繋ぐことにドキドキしているのかわからなくなってきた。あぁ、吊り橋効果なんて働かなくても馨にはドキドキなのに。待って、これ心不全の症状とかじゃないわよね?と焦る菫。
「大丈夫?菫、顔色が悪いわよ」
「大丈夫、久しぶりだからちょっと怖いだけよ。でも、もっと怖いこと想像して」
「もしかして、ドキドキしているの心不全の症状かも? とか思った?」
「え、どうしてそれを!?」
「私もそう思ったからよ」
「考えていることは同じなのね。体が若返ったからって臓器とか神経とかも全部若くなっているのかしらって不安になって……」
「大丈夫よ、きっと。不安に呑みこまれているのがもったいないわ。楽しみましょう。ほら、いよいよ落ちるわよ……キャー!!!!!」
「キャー!!!!!」
ジェットコースターは勢いよく急な道を下り落ち乗務員を恐怖の底に落とす。その後は旋回したり、また、急な道を昇ったと思ったら下り落ちを繰り返す。
「あ~楽しかったわね~!!」
「えぇ、不安なんて吹き飛んでしまったわ」
「少し休憩したら、次は何乗ろうかしら」
「あ、あそこでソフトクリーム食べない?」
「いいわね、年金散財してやる程、売上に貢献してやりましょう」
そして、ソフトクリームを購入した。ベンチに座りソフトクリームをペロペロ舐めていると、頬にクリームがついた菫。それに気づいた馨は、クリームの辺りに口づける。
「ちょっ馨!! ここ外!!」
「えぇ、学生時代もしたの覚えていないの~?」
「……いや、覚えているけどさ……」
「懐かしいことしてくれるなって」
「うぅ、さっさと拭けばよかった、恥ずかしい……」
「最近だったら、手がぷるぷる震えておかずを落とすことだもんね」
「今は若者だから手が震えることなんてないもん」
「そうだね~でも、恥ずかしさで手が震えているみたいよ?」
「あぁ、もう!!」
そういうと、口が汚れることを気にせずバクバクと食べていく菫。もちろん、口の周りはクリームだらけだ。
「味わって食べなさいよ~逃げないんだから」
「あたしは、今すぐこの場から逃げたいわよ。さっきの誰かに見られたんじゃないかって」
「良いじゃない。若気の至りということで。あと、誰も気にしていないと思うわ。今の菫の口周りの方が恥ずかしいわよ」
「今度は唇なんてされる前に拭くわよ!」
「ちぇ~してやろうと思ったのに……ま、夜のお楽しみね♡」
「む~、なんで公共の場でそういう恥ずかしい話するかなぁ」
「さて、私も食べ終わったし、次はゆったりしたの乗りたいわね。メリーゴーラウンドでも乗りましょうか」
2人はベンチから立ち、メリーゴーラウンドの場所へ向かう。
「どこの席に座る」
「あたし、またお姫様席が良い」
「はいはい、わかりましたよ。私が馬車を引きますね」
そして、馨は馬車に繋がれた馬の席、菫は馬車に乗った。合図のベルが鳴り、ゆっくり動き出す。
「あぁ、舞踏会が待ち遠しいわ」
「なあに、もうすぐ着きますよ」
「王子様はあたしを見つけて、一緒に踊ってくれるかしら」
「王子は私です。到着したら共に踊りましょう」
「まぁ、王子様自ら迎えに来てくださったのですね、嬉しい」
「えぇ、気付いたら魔女の魔法であなたの家の前におりましたから」
「そうでしたものね、でも0時には帰られないといけないの」
「どうしてです?美しいあなたをそんなすぐに帰したくない」
「だって、0時になったら……」
というところでメリーゴーラウンドは動きが止まった。
「楽しかった、シンデレラごっこ」
「菫、メリーゴーラウンド乗ると必ずやるもんね」
「王子が隣にいてくれているわ。幸せ」
「それは良かったです。次はどこに参りましょう」
「もう、夜になるわ。そろそろ花火の時間になるし、観覧車に並んでおきましょう」
「その前にチュロス買わない?お腹空いた」
「あ、もう王子終わり? もう~それにさっき、ソフトクリームを食べたばかりなのに早っ!」
「花より団子ね、私は。花火よりチュロス。ここの縦に長いシナモンのチュロスが食べたかったのよ」
「はいはい、買いに行きましょう」
チュロスの列に並び、無事購入した2人は、観覧車に向かう。順番を待っている間にチュロスを食す。
「ん~やっぱり、ここのチュロス美味しいわね。良かった、まだあって」
「人気の食べ歩き食品だからじゃない? やっぱり、皆、花火の時間に合わせて観覧車に乗ろうとしているわね……無事、見られるかしら?」
順番が回ってきた。遊園地の従業員が観覧車の扉を開ける。
「はい、2名様、足元に気をつけてご乗車ください~」
「「はい」」
菫、馨の順に乗り込んでいく。菫は左側に、馨は右側に座る。
「あ、花火始まったね」
「下からでも見えるね」
「この時間ならちょうど良いのではないかしら」
「そうね。大きいの発射された時、ちょうど頂上じゃない?」
「ちょうど良い時に乗れたんじゃない?」
「えぇ、そうね。学生時代でもこのタイミングで乗れなかったわ」
「あら、忘れちゃったの? 一度だけグッドタイミングで乗れた日あったわよ」
「そうだったかしら?」
「なら、頂上いった時、思い出させてあげる」
「思い出させる……?」
馨の言葉に疑問が残るが、花火に見惚れてすぐに忘れた。夜空を鮮やかに彩る七色の火は人々を魅了する。しばらく、2人は黙ったまま花火に目線を向けていた。
そして、頂上付近になって、馨が菫の方を向いた。
「菫、こっち向いて」
「何、馨」
ちゅ。と口づけた。背景では大きな花火が打ちあがっていた。まるで2人のキスを祝福してくれているかのように。
「菫、どう? 思い出した」
「……いや、まったく」
「もう、18歳の誕生日の時も、こうして夜に観覧車に乗って、大花火が打ちあがった瞬間にキスできたじゃない」
「……そうだったっけ?」
「そうだよ。それで頂上でキスもできて、大花火も見れて私達、両想いだねってなったじゃない」
「そういえば、そうだったかも……」
「頂上で花火を背景にキスできたカップルは永遠に結ばれるってジンクスあるじゃない? 叶ったよね」
「……そうだね。しかもまた、誕生日にできたんだ」
「青春できたね」
「あの入浴剤売ってくれたお婆さんに感謝しないとね」
「使った感想は最高! また青春を味わえたのだから」
「お疲れ様でした~、足元に気をつけて降りてください」
「あら、もう下まで来てたのね」
「あっという間だったわね」
2人は観覧車から降り、伸びをしながら歩いている。
「帰りましょうか」
「そうね、これが学生時代だったらお土産を買って帰るところだけど、もうあたし達には必要ないものね」
2人は公共交通機関を利用して自宅に帰る。地元に着いてからはタクシーを使い自宅まで帰宅した。
「はーやっぱり、家が落ち着く」
「そうね」
ソファに2人で座り込む。
「でも、お風呂入らないとね」
「そうね、また、一緒に入る?」
「せっかくだから入りましょう!」
2人は脱衣所で服を脱ぎ合った。もうずっと見ている裸なのに、今日はまた久しぶりにドキドキした。若い肌に2人はまた若い時の感情が蘇っているのだ。だが、いつまでも恥ずかしがっていては仕方ないので、馨、菫の順でお風呂場へ入った。かけ湯をかけ、体を洗い始める2人。
「楽しかったわね」
「えぇ、やはり遊園地は最高ね。若返り最高!」
「でも、それも、あと12時間で終わりね」
「そうね、このお湯に浸かっても、もう若返る効果は失われているし」
「あの入浴剤また売ってくれないかしらね?」
「そうよね、あの魔法使いっぽいお婆さんなら大量に作れてそう」
「さ、体も洗い終わったし、入りましょう」
「えぇ」
そして、向かい合って浸かる2人。恥ずかしくて俯く。
「やっぱり綺麗ね……菫」
「やっぱり可愛いね……馨」
互いの姿を改めて褒め合う2人。高揚する心臓。この後の予定はあれにしたいという欲望。
「ねぇ、菫。今日は久しぶりに……夜伽しない?」
「えぇ、同じことを考えていたわ。あたし達、お互いの体触れ合っていたけど、それはマッサージであって、愛情表現ではなかった。今日は全身感じたい」
2人は見つめ合い、口づける。ぷるんとした唇のぶつかり合いの感触は久しぶりだ。そして、手繰り寄せ合い、思い切り抱きしめ合いながら、接吻を続ける。
「のぼせそうになるから、続きは上がってからにしよう」
「そうね、先に上がってるからもう少ししたら上がってきて」
菫は先に風呂から上がり、タオルで体を拭き始める。その後にドライヤーを掛けて、浴衣に着替えて、脱衣所を後にした。
「そろそろ、私も上がろうかしら」
先程の菫とのキスですでにのぼせかけている馨。風呂から上がり、タオルで体を拭く。その後にドライヤーを掛けて、同じように浴衣に着替えて、脱衣所を後にした。
「やはり和服はいいわね」
「今は洋服が主流だから目立っちゃうけどね。でも、夏だから、浴衣は溶け込むわよね」
「お祭りがあるなら行きたかったけど、そんな都合よく開催していないからね」
「ま、でもいいじゃない。今日は最高の花火を見られたのだから」
「そうね、両想いを後押ししてくれる花火」
「久しぶりに結ばれましょう、馨。あなたが欲しい」
いつ頃から夜伽をしなくなっただろうか。魅力がなくなったわけではない。ただ、体力が歳を重ねる内になくなっていったのだ。でも、今は違う。激しく求められる。
お風呂の続きである唇を貪った。その間に着物の間に手を入れていく。肌もカサカサ感はなく、潤いのあるツルツルでハリのある肌に手が埋もれていく。はだける浴衣。
「帯が邪魔ね」
そう言って、解いていく。2人共、またしても裸になった。今度は布団の上で。抱きしめ合う。
「和服で着替えるの楽で良いわよね」
「そうね、特に脱がせるのが楽で良い」
2人は、若返りの効果を惜しまず楽しむ為、夜通し楽しむことにした。
「今宵は寝かさないわ、菫」
「寝落ちしないでよね、馨」
とはいうものの、オーガズムを感じ合った2人は、今日の遊園地での疲れも相まって寝てしまうのであった。その時刻4時であった。2人は手を繋ぎ、裸で布団の上で寝ていた。夏のおかげで寝冷えすることもない。
そして、若返りの効果が消える11時。2人の心臓は止まった。互いの手を取りながら、同じ日に息を引き取った。長年連れ添った夫婦は同じ日に死ぬという例があるが、この2人にもあったようだ。後日、回覧板を渡しに来た近所の人が気づき、最期の時まで仲睦まじい2人だと冥福をお祈り申し上げた。そして、2人はエンディングノートを残していた。2人を一緒の棺桶に入れて、墓にも一緒にととにかく共にあることを強調されていた。葬式では故人の遺言通り、棺桶には2人が手を繋ぎ入っていた。葬式には、入浴剤を売った老婆の姿があった。だが、その老婆は魔法使い。一般人には見えないのであった。
「ふぇふぇふぇ。感想は聴けなかったが、幸せそうな顔をしておるわい。私の魔法は成功したのじゃ。最期を迎える前の2人に再び青春を味わわせることができたのだから。今度は何をつくろうかのう。それとも、またこの入浴剤を必要とする人の為に入浴剤を作ろうかのう?」
馨と菫は青春時代も目一杯、やりたいことをやりつくしたが、さらに青春を謳歌できた。そう安らかに眠る顔が告げている。
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