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番外編 拍手お礼66
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その日、いつものように差し入れのケーキを手に、由香がクリニックに遊びに来た。
正確には、施術に訪れた、というべきなのだろうが、どちらがメインなのか由香本人も気にしていないようなので、和彦の判断で、遊びに来たと表現している。
昭政組組長の愛人という、人聞きのよくない立場にある由香だが、本人は屈託なく、後ろ暗さを微塵も感じさせない。年若い女の子らしく、些細なことで楽しげに笑う様子を見ていると、毎日楽しいのだろうなと、和彦は兄にでもなった気分で思ってしまうのだ。
次の患者の予約時間までまだ余裕があるため、和彦は施術後、由香とともに待合室に移動し、紅茶と差し入れのケーキを味わいつつ、世間話をする。
このあと由香は、組員を引き連れてデパートに買い物に行くのだという。昭政組組長である難波は、相変わらず目に入れても痛くないほど、由香を可愛がっているようだ。
「足の脱毛が終わったら、次はどうしようかなー」
そんなことを洩らした由香が、ロングスカートの裾をぴらりと捲り上げる。エステやジムにも通っているというだけあって、白い足はすんなりと形がよく、爪先まで手入れされている。
「頻繁に通ってもらえるのはありがたいけど、無理はしなくていいから。こうしてクリニックに来たら、どうしたってカウンセリング名目で料金をいただくようになるけど、電話での相談も受けているんだから。電話ならタダだよ」
由香の支払う施術やカウンセリングの料金が難波から出ていると思うと、和彦としては、由香が売上に貢献してくれるのを純粋に喜べない。過去に賢吾が釘を刺したらしく、現状、難波の態度は改善されてはいるのだが、いつ何があるかわからない。
和彦の心配も知らず、由香が大仰に目を見開く。
「佐伯先生、ダメよ。経営者がそんな弱腰じゃ。若い女の子を誘惑して、もっとお金を引っ張るぐらいの強欲さを見せないと」
「……人聞きの悪い表現はやめてくれないかな。君には、開業したばかりの頃からよく利用してもらってるから、どうしても心配になるんだよ」
「あっ、難波さんのこと? 大丈夫よ。あの人の一晩の飲み代に比べたら、わたしがきれいになるお金なんて、可愛いものなんだから」
この娘(こ)は本当に千尋と同じ歳なんだろうかと、少しだけ疑いたくなる。見た目はいいところのお嬢さんなのだが、何かの拍子にしたたかさがちらりと覗き、『弱腰』の和彦としてはドキリとするのだ。
寸前までのやり取りなど忘れたように、由香は買い換えたばかりだという最新のスマートフォンを取り出して見せてくれる。和彦は機能云々よりも、スマートフォンケースが高級ブランド品であることに感心していたが、突然、由香が素っ頓狂な声を上げたため、危うくフォークを落としそうになる。
「何っ?」
「佐伯先生っ、いいこと思いついちゃったっ」
目を輝かせてそんなことを言った由香には申し訳ないが、正直、嫌な予感しかしなかった。口ごもる和彦にかまわず、由香がぐいっとに身を乗り出してくる。
「今週の土曜日、友達と集まって、一緒にご飯を食べることになってるの。メンバーは今のところ、わたしを含めて六人なんだけど、みんな女の子。つまり、女子会」
「はあ……」
「だから、佐伯先生も参加しようよ」
何が、『だから』なのか、もちろん和彦には理解できない。若い女の子の話すことはときどき非常に難解だと、つい神妙な顔つきとなってしまう。
「美容外科クリニックの先生だって紹介するから、みんなのアドバイスに乗ってあげるの。そのとき、さりげなく名刺を渡して、営業活動するんだよ」
「……アドバイスするのはいいけど、君の友達ということは、若い女の子ばかりだろ。そんな集まりに、いい歳した美容外科医がのこのこと出かけていくのは――、気が進まないなあ」
「大丈夫、大丈夫。普段は、いろんなお仕事の、佐伯先生よりずっと年上のおじさんの相手をしているような子たちだから。しかも、けっこう稼いでるよ」
んんっ、と声を洩らした和彦は、首を傾げる。遠慮がちに由香に問いかけた。
「君の友達って、一体何をしている子たちなのかな?」
「いわゆる、接客業。わたしも短大通ってた頃、バイトしてたんだよ。難波さんと知り合ったのも、バイトしてたお店だったし」
「へえ……。でも、本当にぼくでいいのかな。その『お店』に通ってるお客さんの中に、もっとキャリアが上の美容外科医もいそうだと思うけど」
「仕事抜きで会うならやっぱり、優しくて顔のいい男の人がいいの。佐伯先生ってガツガツしてないし、まあ、いろんな意味で安心、みたいな?」
由香の明け透けな物言いに、和彦は破顔する。こちらが怒っていないと察したのか、由香は即座に畳み掛けてきた。
「ねっ、ねっ、いいでしょ、佐伯先生? みんな、可愛くていい子たちだし、楽しくご飯食べようよ」
断るのもかわいそうで答えあぐねているうちに、由香の押しの強さに負け、和彦は頷いていた。
笠野が揚げた天ぷらを堪能した和彦は、少し重くなった胃を休めるため、賢吾の部屋で一人寛いでいた。一緒に食事をとった賢吾は仕事の電話があるということで、応接間に行っている。
明日もクリニックがあるため、本宅に泊まるつもりはなかったのだが、座卓についてのんびりとお茶を啜っていると、自宅マンションに帰宅するのが億劫になってくる。
なんとなくテレビをつけて、各チャンネルを一通りチェックしていると、廊下を歩いてくる足音が聞こえてくる。反射的にテレビを消すと同時に、賢吾が部屋に入ってきた。
向かいに座った賢吾は、和彦の前に置かれた湯のみ茶碗を一瞥して言った。
「ワインを持ってこさせるか? 泊まるんなら、飲んでもかまわねーだろ」
「……ぼくは一言も、今晩泊まるなんて言ってないけど……」
「でも、泊まるんだろ」
ニヤリと笑いかけられて、ムキになって否定する気持ちも起きない。頷いてから、慌てて言い加えた。
「ワインはいらないからっ。お茶で十分だ」
そうか、と返事をした賢吾が片手を差し出してきたので、リモコンを渡す。テレビをつけた賢吾が、チャンネルを切り替えていく様子を、ぼんやりと和彦は眺める。
いつも通りといえる、穏やかな空気が流れていた。
今日は特に賢吾に報告することもなく、ニュース番組を一緒に観ながら、世情について取り留めない会話を交わす。その最中、テレビで子猫の映像が流れ、つい和彦は見入ってしまう。
まさに、その瞬間を狙っていたようなタイミングで、自然な口調で賢吾が切り出した。
「――そういや先生、合コンの誘いは断っておいたぞ」
言われた言葉の意味が、すぐにはわからなかった。怪訝な表情を浮かべる和彦に対して、賢吾がもう一度、今度は噛み砕くように言う。
「誘われていたんだろう。難波のオンナに、合コンに。今週の土曜だったか」
和彦はゆっくりと目を見開いたあと、姿勢を正す。思わずこう返していた。
「どうしてそのことを知ってるんだっ」
「ほお。ということは、やっぱり本当だったんだな。……先生が、合コンねえ」
ゾッとするような流し目を寄越され、和彦は言い訳にもならないことを口走ってしまう。
「合コンじゃなく、女子会だっ」
妙な誤解をされては堪らないと、由香から誘われた経緯を説明し、あくまで営業活動の一環だと主張もしておく。賢吾にしても、本気で気を悪くしていたわけではないようで、必死な和彦とは対照的に、楽しげに唇を緩めていた。
「それで先生、その女子会ってのに、のこのこと出かけるつもりだったのか。人がいいというか、警戒心が薄いというか、うちのオンナは危なっかしくていけねーな」
「……土曜日までに、あんたに話すつもりだった。きちんとしたホテルのレストランに集まるって話だったから、危ないこともないだろうと思ったし……」
「自分のオンナから話を聞いた難波が、慌てて電話をかけてきたぞ。とんでもなく失礼なことをしでかしたようで、ってな。詳しく話を聞いて、笑いを堪えるのが大変だった。まあ、怖いもの知らずな若い娘をあまり叱ってやるなと言っておいたがな」
「そして、合コン――女子会の誘いも断ったんだな」
行きたかったか? と澄まし顔で問われ、和彦はムッと唇を引き結ぶ。明らかに試されていると感じたからだ。
「大げさに考えすぎなんだ。若い女の子に、ちょっとクリニックの宣伝ができたらいいなと思っただけで、別にやましい気持ちはなかったし。それぐらい、あんたもわかってるだろ」
「先生にその気はなくても、相手がそうとも限らんな。若い女に限ったことじゃなく、身に覚えがあるんじゃねーか?」
そこまで言われて和彦も、軽々しく由香に返事をしたことを反省する。それに、もっと早めに賢吾に相談すればよかった、とも。
和彦が肩を落とすと、賢吾が慰めの言葉めいたものをかけてきた。
「相手がいくらか弱くて、可愛く見えても、女は女だ。先生みたいなのはガブッと食われかねないから、俺はどうしても口うるさくなる。最近の若い女は怖いぞ。肉食系とか言うらしいが」
またどこからか、あまり役に立たない知識を仕入れてきたんだなと、うつむき加減で和彦はそっと笑みをこぼす。ただ、ささやかな反論はしておきたかった。
「三十男相手に過保護ぶりを発揮してくれてありがたいが、ぼくだって、合コンの経験ぐらいあるんだからな。……今回は女子会だけど」
上目遣いにうかがった先で、賢吾はくっくと喉を鳴らして笑っていた。
「いつの話だ?」
「……学生の頃だ」
「医大に通っている、いかにも世慣れていない、顔のいいお坊ちゃんはモテただろ」
「気になるか?」
「夜も眠れなくなりそうなほど、気になるな」
大まじめな顔で返されて、かえって和彦のほうが返事に窮する。物言いたげな眼差しをじっと向けられ、賢吾を動揺させようという目論見は早々に崩れた。
「――……騙されて、連れて行かれたんだ。合コンだって知ってたら、断ってた」
「ほらみろ。やっぱり先生は危なっかしい」
はあっ、と大きくため息をついた和彦は、賢吾の言い分を認める。そうしないと、今夜は解放してくれないと容易に想像がついた。
正確には、施術に訪れた、というべきなのだろうが、どちらがメインなのか由香本人も気にしていないようなので、和彦の判断で、遊びに来たと表現している。
昭政組組長の愛人という、人聞きのよくない立場にある由香だが、本人は屈託なく、後ろ暗さを微塵も感じさせない。年若い女の子らしく、些細なことで楽しげに笑う様子を見ていると、毎日楽しいのだろうなと、和彦は兄にでもなった気分で思ってしまうのだ。
次の患者の予約時間までまだ余裕があるため、和彦は施術後、由香とともに待合室に移動し、紅茶と差し入れのケーキを味わいつつ、世間話をする。
このあと由香は、組員を引き連れてデパートに買い物に行くのだという。昭政組組長である難波は、相変わらず目に入れても痛くないほど、由香を可愛がっているようだ。
「足の脱毛が終わったら、次はどうしようかなー」
そんなことを洩らした由香が、ロングスカートの裾をぴらりと捲り上げる。エステやジムにも通っているというだけあって、白い足はすんなりと形がよく、爪先まで手入れされている。
「頻繁に通ってもらえるのはありがたいけど、無理はしなくていいから。こうしてクリニックに来たら、どうしたってカウンセリング名目で料金をいただくようになるけど、電話での相談も受けているんだから。電話ならタダだよ」
由香の支払う施術やカウンセリングの料金が難波から出ていると思うと、和彦としては、由香が売上に貢献してくれるのを純粋に喜べない。過去に賢吾が釘を刺したらしく、現状、難波の態度は改善されてはいるのだが、いつ何があるかわからない。
和彦の心配も知らず、由香が大仰に目を見開く。
「佐伯先生、ダメよ。経営者がそんな弱腰じゃ。若い女の子を誘惑して、もっとお金を引っ張るぐらいの強欲さを見せないと」
「……人聞きの悪い表現はやめてくれないかな。君には、開業したばかりの頃からよく利用してもらってるから、どうしても心配になるんだよ」
「あっ、難波さんのこと? 大丈夫よ。あの人の一晩の飲み代に比べたら、わたしがきれいになるお金なんて、可愛いものなんだから」
この娘(こ)は本当に千尋と同じ歳なんだろうかと、少しだけ疑いたくなる。見た目はいいところのお嬢さんなのだが、何かの拍子にしたたかさがちらりと覗き、『弱腰』の和彦としてはドキリとするのだ。
寸前までのやり取りなど忘れたように、由香は買い換えたばかりだという最新のスマートフォンを取り出して見せてくれる。和彦は機能云々よりも、スマートフォンケースが高級ブランド品であることに感心していたが、突然、由香が素っ頓狂な声を上げたため、危うくフォークを落としそうになる。
「何っ?」
「佐伯先生っ、いいこと思いついちゃったっ」
目を輝かせてそんなことを言った由香には申し訳ないが、正直、嫌な予感しかしなかった。口ごもる和彦にかまわず、由香がぐいっとに身を乗り出してくる。
「今週の土曜日、友達と集まって、一緒にご飯を食べることになってるの。メンバーは今のところ、わたしを含めて六人なんだけど、みんな女の子。つまり、女子会」
「はあ……」
「だから、佐伯先生も参加しようよ」
何が、『だから』なのか、もちろん和彦には理解できない。若い女の子の話すことはときどき非常に難解だと、つい神妙な顔つきとなってしまう。
「美容外科クリニックの先生だって紹介するから、みんなのアドバイスに乗ってあげるの。そのとき、さりげなく名刺を渡して、営業活動するんだよ」
「……アドバイスするのはいいけど、君の友達ということは、若い女の子ばかりだろ。そんな集まりに、いい歳した美容外科医がのこのこと出かけていくのは――、気が進まないなあ」
「大丈夫、大丈夫。普段は、いろんなお仕事の、佐伯先生よりずっと年上のおじさんの相手をしているような子たちだから。しかも、けっこう稼いでるよ」
んんっ、と声を洩らした和彦は、首を傾げる。遠慮がちに由香に問いかけた。
「君の友達って、一体何をしている子たちなのかな?」
「いわゆる、接客業。わたしも短大通ってた頃、バイトしてたんだよ。難波さんと知り合ったのも、バイトしてたお店だったし」
「へえ……。でも、本当にぼくでいいのかな。その『お店』に通ってるお客さんの中に、もっとキャリアが上の美容外科医もいそうだと思うけど」
「仕事抜きで会うならやっぱり、優しくて顔のいい男の人がいいの。佐伯先生ってガツガツしてないし、まあ、いろんな意味で安心、みたいな?」
由香の明け透けな物言いに、和彦は破顔する。こちらが怒っていないと察したのか、由香は即座に畳み掛けてきた。
「ねっ、ねっ、いいでしょ、佐伯先生? みんな、可愛くていい子たちだし、楽しくご飯食べようよ」
断るのもかわいそうで答えあぐねているうちに、由香の押しの強さに負け、和彦は頷いていた。
笠野が揚げた天ぷらを堪能した和彦は、少し重くなった胃を休めるため、賢吾の部屋で一人寛いでいた。一緒に食事をとった賢吾は仕事の電話があるということで、応接間に行っている。
明日もクリニックがあるため、本宅に泊まるつもりはなかったのだが、座卓についてのんびりとお茶を啜っていると、自宅マンションに帰宅するのが億劫になってくる。
なんとなくテレビをつけて、各チャンネルを一通りチェックしていると、廊下を歩いてくる足音が聞こえてくる。反射的にテレビを消すと同時に、賢吾が部屋に入ってきた。
向かいに座った賢吾は、和彦の前に置かれた湯のみ茶碗を一瞥して言った。
「ワインを持ってこさせるか? 泊まるんなら、飲んでもかまわねーだろ」
「……ぼくは一言も、今晩泊まるなんて言ってないけど……」
「でも、泊まるんだろ」
ニヤリと笑いかけられて、ムキになって否定する気持ちも起きない。頷いてから、慌てて言い加えた。
「ワインはいらないからっ。お茶で十分だ」
そうか、と返事をした賢吾が片手を差し出してきたので、リモコンを渡す。テレビをつけた賢吾が、チャンネルを切り替えていく様子を、ぼんやりと和彦は眺める。
いつも通りといえる、穏やかな空気が流れていた。
今日は特に賢吾に報告することもなく、ニュース番組を一緒に観ながら、世情について取り留めない会話を交わす。その最中、テレビで子猫の映像が流れ、つい和彦は見入ってしまう。
まさに、その瞬間を狙っていたようなタイミングで、自然な口調で賢吾が切り出した。
「――そういや先生、合コンの誘いは断っておいたぞ」
言われた言葉の意味が、すぐにはわからなかった。怪訝な表情を浮かべる和彦に対して、賢吾がもう一度、今度は噛み砕くように言う。
「誘われていたんだろう。難波のオンナに、合コンに。今週の土曜だったか」
和彦はゆっくりと目を見開いたあと、姿勢を正す。思わずこう返していた。
「どうしてそのことを知ってるんだっ」
「ほお。ということは、やっぱり本当だったんだな。……先生が、合コンねえ」
ゾッとするような流し目を寄越され、和彦は言い訳にもならないことを口走ってしまう。
「合コンじゃなく、女子会だっ」
妙な誤解をされては堪らないと、由香から誘われた経緯を説明し、あくまで営業活動の一環だと主張もしておく。賢吾にしても、本気で気を悪くしていたわけではないようで、必死な和彦とは対照的に、楽しげに唇を緩めていた。
「それで先生、その女子会ってのに、のこのこと出かけるつもりだったのか。人がいいというか、警戒心が薄いというか、うちのオンナは危なっかしくていけねーな」
「……土曜日までに、あんたに話すつもりだった。きちんとしたホテルのレストランに集まるって話だったから、危ないこともないだろうと思ったし……」
「自分のオンナから話を聞いた難波が、慌てて電話をかけてきたぞ。とんでもなく失礼なことをしでかしたようで、ってな。詳しく話を聞いて、笑いを堪えるのが大変だった。まあ、怖いもの知らずな若い娘をあまり叱ってやるなと言っておいたがな」
「そして、合コン――女子会の誘いも断ったんだな」
行きたかったか? と澄まし顔で問われ、和彦はムッと唇を引き結ぶ。明らかに試されていると感じたからだ。
「大げさに考えすぎなんだ。若い女の子に、ちょっとクリニックの宣伝ができたらいいなと思っただけで、別にやましい気持ちはなかったし。それぐらい、あんたもわかってるだろ」
「先生にその気はなくても、相手がそうとも限らんな。若い女に限ったことじゃなく、身に覚えがあるんじゃねーか?」
そこまで言われて和彦も、軽々しく由香に返事をしたことを反省する。それに、もっと早めに賢吾に相談すればよかった、とも。
和彦が肩を落とすと、賢吾が慰めの言葉めいたものをかけてきた。
「相手がいくらか弱くて、可愛く見えても、女は女だ。先生みたいなのはガブッと食われかねないから、俺はどうしても口うるさくなる。最近の若い女は怖いぞ。肉食系とか言うらしいが」
またどこからか、あまり役に立たない知識を仕入れてきたんだなと、うつむき加減で和彦はそっと笑みをこぼす。ただ、ささやかな反論はしておきたかった。
「三十男相手に過保護ぶりを発揮してくれてありがたいが、ぼくだって、合コンの経験ぐらいあるんだからな。……今回は女子会だけど」
上目遣いにうかがった先で、賢吾はくっくと喉を鳴らして笑っていた。
「いつの話だ?」
「……学生の頃だ」
「医大に通っている、いかにも世慣れていない、顔のいいお坊ちゃんはモテただろ」
「気になるか?」
「夜も眠れなくなりそうなほど、気になるな」
大まじめな顔で返されて、かえって和彦のほうが返事に窮する。物言いたげな眼差しをじっと向けられ、賢吾を動揺させようという目論見は早々に崩れた。
「――……騙されて、連れて行かれたんだ。合コンだって知ってたら、断ってた」
「ほらみろ。やっぱり先生は危なっかしい」
はあっ、と大きくため息をついた和彦は、賢吾の言い分を認める。そうしないと、今夜は解放してくれないと容易に想像がついた。
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