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第48話
(26)
しおりを挟む「奇遇ですね。俺もです」
笑い合いながら和彦も上半身裸となると、次の瞬間には中嶋にのしかかられ、二人一緒にラグの上に倒れ込む。お互い酔っているのは、勢い任せの口づけから伝わってくる。ふざけ半分、本気半分で絡み合いながら転がっているうちに、クスクスと笑い声を洩らしていた。
なんとなく、このまま興ざめとなって終わりになるかと思ったが、中嶋の手が下肢に這わされてうろたえる。するするとスラックスを下ろされたところで、中嶋の本気を察した。遠慮はいらないなと、和彦も中嶋の穿いているジーンズの前を寛げる。
「んっ……ふ」
両足の間に腰を割り込ませてのしかかってきた中嶋と、互いのものを擦り合わせる。ふとあることが気になった。
「ここ……、勝手に人が入ってくるなんてことは――」
「緊急でもない限り夜は誰も来ませんよ。……朝は、加藤が朝メシを持ってきますけど」
このとき物言いたげな顔をしたらしく、中嶋が薄い笑みを浮かべる。
「加藤が気になりますか?」
「別に……」
「先生は、秦さんと仲良しですもんね」
そんなことはないと言いたかったが、中嶋に唇を塞がれていた。
中嶋の体に両てのひらを這わせながら、首筋に顔を寄せる。〈前線基地〉でよくわからない情報収集に励んでいるという話だが、そんな環境下でもコロンの甘い香りがする。ふっと魔が差したように加虐的なものを刺激された和彦は、首筋にゆっくりと歯を立てた。ビクリと体を震わせた中嶋が、小さく喉を鳴らす。
触れ合っている中嶋の欲望が瞬く間に形を変え、熱くなっていく。中嶋のその反応に、和彦は煽られる。
「へえ、こういうのが好きなんだ、君は」
首筋の次は耳朶に歯を立てる。今度はやや強く。呼吸を弾ませた中嶋が、刺激を欲しがるように腰を揺らす。意図を察して互いの下肢に手を伸ばし、身を起こしかけたものを握り込む。
「んっ……」
どちらともなく吐息をこぼし、ちらりと視線を交わした次の瞬間には舌を絡め合う。そこから先はじゃれ合うように体に触れ、唇を這わせ、飽きたらいつでも終えられる際どい行為を繰り返す。大人の男同士がやることかと、賢吾が見ていたら苦笑いしたかもしれない。
突然、中嶋が手を伸ばし、スマートフォンを取り上げた。何かを確認したあと、微妙な表情を浮かべた。
「……長嶺組からで、一時間ほどで先生を迎えに来るそうです」
「ぼく宛てだと読まないと判断したんだな。――ここの場所、把握されていいのか?」
「先生を連れ込んだぐらいですから、秘匿情報というわけではないですよ。何かあれば身軽に移動できますし」
ならいいんだと呟いて、和彦は仰向けでひっくり返ったまま両手を投げ出す。中嶋との遊びの時間は呆気なく終わりを迎えたのだと思ったら、少しだけ残念だった。
中嶋はスマートフォンを放り出し、裸のまま一旦ラグから離れたが、すぐに戻ってくる。手には小さなボトルを持っていた。
「一時間あれば、十分ですね」
「……何がだ?」
「やだなー。どちらも味わってみたいんでしょう」
婀娜っぽく笑みを浮かべた中嶋が、小さなボトルを開けてとろみのあるローションをてのひらに取る。中嶋は慣れた手つきで己のものに塗りつけると、和彦にのしかかってきた。制止するどころか、期待を込めた眼差しで中嶋を見上げる。
絡みついてくるような甘く重い情欲ではなく、手軽な享楽を求めるだけの体の繋がりが、中嶋との関係の利点であり、魅力だ。昼間、自分に接近していたという青年の存在を、頭の中から追い払うには何よりの手段だ。
和彦のものにもローションが塗り込められ、さらには内奥にも施される。愛撫らしい愛撫もないまま、中嶋のものが内奥に挿入されてきた。
圧迫感と、下腹部に広がる重苦しさに呻き声を上げたものの、引き裂かれるような痛みはなかった。和彦は深く息を吐き出して、内奥で蠢く中嶋のものを締め付ける。受け入れたばかりの熱にすでに体が馴染み始めていた。
肉が擦れ合う淫靡な音が二人の間で生まれる。息を弾ませながら唇を啄み合い、舌を絡ませ唾液を交わす。中嶋のものが一層深くに押し入り、ひくつく襞と粘膜を強く擦り上げてくる。
「ああ、すごいな、先生の中……」
掠れた声で中嶋が洩らす。和彦は律動に合わせて自らのものを擦り上げていると、中嶋がじっと見下ろしてくる。
「……なんだ?」
「先生のような存在は、高校生には強烈だっただろうなと思って。さんざん世間に揉まれてきた俺ですら、先生と初めて会ったときは、見た目はまともになのにとんでもない人だと感じたぐらいですから」
「それにしては、初対面でもぼくに対してけっこうふてぶてしかったぞ」
そうでしたかねー、と呟きながら中嶋が、乱暴に腰を突き上げる。内奥深くをぐうっと突き上げられ、たまらず和彦は上擦った声を洩らす。ゆっくりと何度も弱い部分を突かれているうちに、熱くなった和彦の欲望の先端からトロトロと透明なしずくが滴り落ちる。
「こういう姿、伊勢崎玲にも見せたんですか? 純朴で、まじめそうな印象の子でしたけど」
「そういう言い方をされると、心が痛む……。そんな子に、ぼくは――」
「そうですね。先生が狂わせた」
揶揄するような中嶋の物言いに、反射的に反感を覚えたが、次の瞬間には甘い呻き声を洩らすことになる。内奥からズルリと熱いものが引き抜かれていた。中嶋が隣に横たわり、熱っぽい視線を向けてくる。
意趣返しというわけではないが、中嶋をラグの上に這わせ、腰を突き出した姿勢を取らせる。和彦は遠慮なく背後から中嶋を犯した。
「あっ……、うぅっ、うっ、うくっ……」
洩らされる苦痛の声に、いつもの和彦なら怯んでいただろうが、今はむしろゾクゾクするような快感があった。
「――……本当は、〈こっち〉の気分だったんだろう? 中嶋くん」
きつく収縮する肉を押し開き、自分の高ぶる欲望をねじ込みながら和彦は囁きかける。ひくりと中嶋の背がしなり、和彦のものを締め付けてくる。優しくはしてやらなかった。中嶋の腰を掴み、乱暴に内奥を突き上げる。そのたびに上がる苦しげな声が耳に心地いい。
単調な律動を繰り返しているうちに中嶋の肌が赤く染まっていき、上がる声に艶が加わる。和彦は深く息を吐き出すと、内奥深くをじっくりと突き上げ、掻き回すように腰を動かす。
「いっ……い、です。先生、それ、いい……」
物欲しげに和彦の欲望に襞と粘膜が吸い付き、絡みついてくる。
「ああ、ぼくも、気持ちいいよ」
しっかりと根本まで欲望を埋め込んでから動きを止めると、中嶋のほうから腰を擦りつけてくる。なかなかの痴態っぷりにひっそりと笑みを洩らした和彦は、ふっと人の気配を感じる。なぜか危機感も芽生えず、緩慢にドアのほうを見ると、加藤が立ち尽くしていた。二人を見る目に嫌悪でもあれば慌てたのかもしれないが、加藤はただ魅入られたように一心に見つめている。
中嶋も加藤の存在に気づいたのか、内奥が淫らに蠢き、きつく和彦のものを締め付けてきた。
「……夜は誰も来ないんじゃなかったのか」
返ってきたのは中嶋の抑えた笑い声だった。和彦は軽く嘆息すると、加藤に向けて口元に人さし指を立てる。あえて指示しなくとも、加藤なら声をかけてくるなど無粋なまねはしないだろうが、念のためだ。
加藤が見ている前で、かまわず和彦は律動を再開し、せがまれるまま内奥深くに精を注ぎ込んだ。同時に、中嶋は自らのものを手早く扱いて果てる。すぐに体を離して、中嶋とともにラグに倒れて呼吸を整える。
シャワーを浴びる時間はあるだろうかと、少し冷静になって心配していると、中嶋が気だるげに加藤に指示を出す。玄関の外で、これからやってくる長嶺組の組員に少し待つよう伝えてくれというものだ。加藤の登場のタイミングからして、中嶋は長嶺組からの連絡を受けたときに、ついでに加藤も呼びつけていたのかもしれない。
「――……加藤くんに見られてしまった……」
玄関のドアが閉まる音を聞いて、和彦は軽い自己嫌悪に陥りながら呟く。一方の中嶋は悪びれない。
「いまさらでしょう、先生。俺たちはこうやって、信頼関係を深めてきたんじゃないですか」
『俺たち』の中に加藤も引き込むつもりなのか、中嶋は行為のあととは思えない鋭い笑みを浮かべていた。
かつて中嶋には、賢吾との行為を見られたことがある。信頼関係というより、共犯関係ではないかと言いたかったが、その前に中嶋に急かされバスルームに追いやられていた。
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感想ありがとうございます(*^▽^*)
もういつ再会しても不思議では状況で……。
そろそろ、かな
感想ありがとうございます(*'▽')
その玲のまっすぐさに、大人たちはハラハラです(笑)。
ようやく近距離接近まで果たせたので、早く和彦と再会させたいですねー
はじめまして!
いつも楽しみに読ませていただいてます。
何度も読み返したくなる作品で2周目です。
眠らない蛇も購入させていただきました。
賢吾さんが最高でバリトンボイスっていうのも最高です!
でも御堂さんと伊勢崎さんの出会いや過去も気になったり(>ㅿ<;;)
機会があれば読んでみたいです。
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