血と束縛と

北川とも

文字の大きさ
上 下
1,250 / 1,268
第48話

(8)

しおりを挟む



「まあ、後でじっくりしっかり話させてもらうから。ひとまず許す」

その“ひとまず”が怖すぎる。

「それでさ、ひなが魔力をコントロールするのに、魔力を感知しなきゃいけないのが必須で。そのコントロールの訓練に、カルにも参加してほしいんだよね」

俺? と言いたげに、カルナークが自分を指さす。

アレックスがうなずき、「お前がやらかしたおかげでの副作用みたいなもんだ」とニヤリと笑う。

強面の笑顔、ある意味怖い。

普段はすごくあったかい視線で見てくれるけど、なにかされそうな笑顔に見えてしまう。今日は。

「陽向の魔力だけだと、誰かの魔力に引っ張ってもらってっていうのがなかなか難しいらしい。特殊な魔力だからな。だが、お前は魔力の扱い関係に関しちゃ、相当に巧い。しかも、ちょっとずつ違和感がないように、まわりにもバレないようにと少量ずつ混ぜていった。陽向の体を覆っている魔力の至る所に、カルナークの魔力の痕跡が残っているらしい。ようするに、馴染んでいるから、カルナークがその魔力を操作して、陽向に意識させたりコントロール訓練のサポートをするのに準備万端な状態になっている。……ということだ」

「それと、それだけ馴染ませてあったら、カルがひなのサポートしてても、ひなにかかる負担も少ないだろうし、ひなが上手く扱えなくなった時に抑え込むことも可能だろう? ……ね? 出来るよね? カルだったら」

アレックスの説明の後に、ジークの命令に聞こえなくもないお願いっぽいのが含まれている。

こ、怖い。

カルナークは大丈夫かなと心配になって顔を覗きこめば、意外な顔をしていた。

「……カルナーク?」

キリリと、今まで見たことがない引き締まった表情。

真剣に二人の話を聞いている姿に、驚いた。

自分が怒られているって、やらかしたって、オロオロしているとばかり思っていたから。

「陽向……」

不意にあたしへ体ごと向きを変え、カルナークが頭を下げる。

「悪かった。悪意はなかった。これは本当。嘘じゃない。謝ったからって、やったことが帳消しになるとかぬるいことは望んでいない。陽向に言っていたように、お前の魔力が心地よすぎて、一回触れたら“もっともっと”って陽向の魔力に触れたくなっていって。――――止められなかった俺が悪い。でも……今後は陽向が魔力の訓練をするのに、俺が一番支えてやれる! こんなことになることを望んで馴染ませてきたつもりはなかったけど、陽向の力になれるなら俺の力を使いたいだけ使ってくれ。お前にだったら、俺のすべてをやってもいい!!!」

“お前にだったら、俺のすべてをやってもいい”

「な…………な、んってこと、いうのぉ……」

言い返したいのに、無自覚な爆弾発言の破壊力がすごすぎて、言葉の最後は蚊の鳴いているような声になってしまった。

「…………もう、やだあ」

両手で顔を覆って、三人に顔が見えないように隠す。

こういう台詞に免疫なし、異性にこういう感情を投げつけられたこともない、自分だけ特別扱いをされたこともない。

「カルナークのばかぁ…」

顔の熱が引かない。

「えぇー。なんでばかって言われてるの? 俺」

投下した本人は、ばかと言われた理由をわかっていない。

天然無自覚系ですか、この人。

「……ばか」

もう一回繰り返すと、「よくわかんないけど、ごめん。悪気ないんだよ、ほんと」って困ったような声で呟いた。

どうしていいかわからなくなって、顔を隠したままジークに聞いてみる。

「説明はわかったから……戻ってもいい? お部屋」

一人になりたい。今はこの場所にいるのは、ちょっと耐えられない。

「んー、まあいいけど。カルはまだ話があるから、部屋に帰るなよ」

とジークがいえば「俺が部屋まで送ろう」とアレックスの声がした。

すこし考えた後に、一回だけうなずく。

「顔を見せたくないんだろう? 俺が抱きあげていってやろうな」

なんて優しげな声が聞こえたと同時に、体がふわりと浮く。

これはこれで予想よりも、恥ずかしい。もう、なんでこうなるのー。

「あ、ちょっとアレク。動きがずいぶん早くないか?」

ジークがドアの前に立ちふさがり、部屋に戻るのを止められる。

「今は俺たちの感情よりも、陽向がどうしたいかを優先すべきだろう。それにジークはカルナークとここで待っていてくれた方がいい。部屋へ送っている間に、残りの話をしておいてくれないか」

抱きあげられて、耳のすぐそばでイケボが優しくあたしを護ってくれている。

(夢みたいなイベントが起きている気がする。ボイスレコーダーで撮っておきたいくらいいい声だった)

この場には不謹慎なことを脳内で考えつつ、アレックスの上着の胸元をちょっとだけつまむ。

「お願い、部屋に行かせて?」

胸元のシャツをつかんでいるあたしの手に、アレックスの手が一瞬重なる。片手で抱きあげているたくましさに、すこしドキドキした。

ドアノブに手をかけてアレックスが「すぐに戻る」と告げて、二人が残る部屋を出ていく。

高身長で、もちろん脚が長いアレックスは歩くのも速い。

……のに。

あたしの部屋までが、ずいぶんと遠い気が。

「アレックス?」

顔を隠していた手を外して、間近にあるアレックスの耳元に囁く。

強面の顔が、目が合った瞬間ふにゃりとだらしなく崩れる。

「へ?」

動揺を隠せないあたし。

アレックスって、こんな顔も出来る人だったの?

「自分で歩くよ、やっぱり」

身をよじって降りようとするけれど、たくましい腕の中から降ろしてはもらえないみたいだ。

「俺にまかせて、たまには甘えてくれていいんだからなっ」

すこし弾んだ声で告げたその言葉に、機嫌がいい時のお兄ちゃんを思い出してしまった。

「…………う、ん」

でも、上手に甘えることは出来ないあたしが返せる、精いっぱいの返事がこれだ。

遠回りしたような気がしたものの、部屋にちゃんと送り届けてくれた。

「それじゃ、またな」

ベッドにそっとあたしを運んで、少し乱れた髪を撫でて整えてくれ。

「ありがとう、アレックス」

あたたかくなった胸の奥。その気持ちを笑顔に込めて、感謝を伝えたら。

「イイコにしてるんだぞ?」

耳元で囁かれて、声の余韻が残ったのかと思うような感覚で。

頬に、キスされてた。

ピシリと固まってしまったあたしに気づくことなく、アレックスは鼻歌まじりで部屋を出ていく。

どの人も、日常のあいさつ感覚でいろんなものを投下しないでほしい!

抱えきれない情報を処理しきれないまま、ベッドで意識を手離した。

――――その日の夜。この世界に来て初めて、熱を出した。

気づいたのは、カルナーク。

あたしに馴染ませていた魔力のおかげで、というのは、若干複雑。


しおりを挟む
感想 80

あなたにおすすめの小説

壁乳

リリーブルー
BL
俺は後輩に「壁乳」に行こうと誘われた。 (作者の挿絵付きです。)

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

朝起きたら幼なじみと番になってた。

オクラ粥
BL
寝ぼけてるのかと思った。目が覚めて起き上がると全身が痛い。 隣には昨晩一緒に飲みにいった幼なじみがすやすや寝ていた 思いつきの書き殴り オメガバースの設定をお借りしてます

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

男子高校に入学したらハーレムでした!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 ゆっくり書いていきます。 毎日19時更新です。 よろしくお願い致します。 2022.04.28 お気に入り、栞ありがとうございます。 とても励みになります。 引き続き宜しくお願いします。 2022.05.01 近々番外編SSをあげます。 よければ覗いてみてください。 2022.05.10 お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。 精一杯書いていきます。 2022.05.15 閲覧、お気に入り、ありがとうございます。 読んでいただけてとても嬉しいです。 近々番外編をあげます。 良ければ覗いてみてください。 2022.05.28 今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。 次作も頑張って書きます。 よろしくおねがいします。

塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。 そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。

処理中です...