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第47話
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噛みつくように唇を吸われてから、強引に舌が口腔に押し込まれてくる。首の後ろにかかった指にぐっと力が入り、身を捩って抵抗しようとしていた和彦は、それだけで動けなくなった。
我が物顔で口腔中を舐り回しながら賢吾の目が笑っている。睨み返す気力など、あっという間に食われてしまった。
ようやく唇が離れて喘ぐ和彦に、ヌケヌケと賢吾が言う。
「今夜は我慢するつもりだったが、お前に冷たくされて、気が変わった」
「……冷たくなんてしてないだろ」
「俺の誘いを露骨に受け流した。三か月もお前を待ち続けていた身には、堪えるんだ。こう見えて、けっこう繊細だからな」
自分で言っておかしかったのか、賢吾は低い笑い声を洩らす。獰猛な獣の鳴き声のようでもあり、和彦はそっと身を震わせていた。
「――久しぶりに、お前の体を見せてくれ」
耳に唇が押し当てられ、囁きを注ぎ込まれる。鼓膜を震わせるバリトンの響きに逆らえず、シャツのボタンを外し始めたが、途中、賢吾の視線から逃れるように背を向ける。
「いまさら気になるものか?」
「あんたが、今にも取って食いそうな目をしてるからだ」
シャツを脱いで足元に落とすと、当然のように指示される。
「下も」
和彦は大きく深呼吸をすると、注文通り一糸まとわぬ姿となった。賢吾に背を向けたままでいたが、すぐ背後で気配が動き、ビクリと身じろぐ。
背骨のラインに沿って指先が這われた。
「筋肉のつき方が少し変わったか?」
「よく山を歩いていたからな。それに……、軽く護身術を習っていた」
「怖いな。油断したら、お前に投げ飛ばされるかもな」
そこまで本格的なものは教わっていないし、何を血迷ってそんな命知らずなことをしなければならないのかと、和彦は顔をしかめる。
「……できるとは思ってないくせに、意地の悪い男だな」
「この機会に挑戦してみたらどうだ」
和彦の力を試すように背後から抱き締められる。抱擁というより拘束で、がっしりとした両腕の中では身じろぎもままならない。髪に頬ずりしたあと、賢吾が首の付け根に唇を押し当ててきた。
二度、三度と肌を吸われたあと、硬い感触が触れる。賢吾の歯だとわかった瞬間、怖気立つとともに、背筋を熱い感覚が駆け抜ける。
「――俺が噛みつくと思ったか?」
和彦が息を詰めたのを感じ取ったのだろう。揶揄するように耳元で囁かれる。そのまま耳朶に軽く歯が立てられ、足元が乱れた。
「噛む、なっ……」
「噛んでない。歯が当たっただけだ」
屁理屈を言うなと窘めて、腕の中から抜け出そうとしても、それは許されなかった。
賢吾の片手がスッと下へと移動し、下腹部にてのひらが押し当てられる。意味ありげに陰りをまさぐられて咄嗟に和彦が考えたのは、鷹津との行為だった。すでに、そのときの行為の名残りはなく、和彦の記憶にあるだけだ。しかし、賢吾の指が動くたびに、その記憶を暴かれそうな危惧を覚える。
足を開くよう命じられ、勝手に体が動く。怯えている和彦の形を指先でなぞってから、賢吾の手が両足の間に差し込まれる。
「うっ……」
柔らかな膨らみに指がかかり、それだけで膝から崩れ込みそうになる。その気配を察したのか、賢吾に腰を抱えられるようにして洗面台の前へと連れて行かれた。
「ここに掴まってろ」
言われるまま洗面台の縁に手をかけた和彦は、顔を上げてぎょっとする。鏡に自分の姿が映っており、すでに締まりのない顔をしている。視線を逸らすと、今度は背後に立っている賢吾と鏡越しに目が合った。
「――しっかり俺を見ていろよ」
視線を逸らすのは許さないと言外に仄めかし、賢吾は容赦なく和彦の体を調べていく。両足の間に膝を割り込まされて、さらに大きく足を開くと、背を押さえつけられる。自然と腰を突き出したような姿勢となり、羞恥から顔を背けようとしたが、無遠慮な手つきで尻の肉を掴まれて動けなくなる。
体を丹念に見ている賢吾の様子を、和彦は見せつけられる。鷹津との最後の情交の痕跡は、もう肌に残っていないはずだと目まぐるしく考える自分自身が嫌になる。甘やかしてくる賢吾を舐めていたわけではないが、改めて、大蛇の化身のような男の怖さを実感していた。
強い執着は、見えない蛇の舌だ。それがじわじわと肌を這い回る。見つめてくる眼差しに体をまさぐられているようで、あっという間に和彦の息遣いは乱れ、体温が上昇していく。
しっとりと肌が汗ばむと、賢吾が再び首筋に顔を寄せてきた。
「髪が長いと、お前の顔が見えにくいな。早いうちに切りに行ってこい」
伸びた髪もなかなかいい、という発言を一昨日聞いたばかりだが、もう賢吾の気は変わったらしい。和彦は唇を緩めそうになり、慌てて引き結ぶ。
触れられないまま興奮のため硬く凝った胸の突起を、爪の先で弄られる。さらにもう片方の手は、いつの間にかゆるゆると形を変え始めていた和彦の欲望を包み込んでいた。
「んっ……」
敏感な先端を指の腹でそっと撫でられる。そうかと思えば、欲望全体を手荒く扱かれてから、括れを指の輪で強く締め付けられる。和彦は息を喘がせ、顔を紅潮させながら、鏡の中の自分の姿をじっと見ていた。正確には、賢吾の手の動きを。いかがわしく胸元を這い回る手つきは、まさに和彦に見せつけるためのものだ。視覚的にも感じさせられ、理性の箍は巧みに緩められていく。
「――自分でやってみろ」
我が物顔で口腔中を舐り回しながら賢吾の目が笑っている。睨み返す気力など、あっという間に食われてしまった。
ようやく唇が離れて喘ぐ和彦に、ヌケヌケと賢吾が言う。
「今夜は我慢するつもりだったが、お前に冷たくされて、気が変わった」
「……冷たくなんてしてないだろ」
「俺の誘いを露骨に受け流した。三か月もお前を待ち続けていた身には、堪えるんだ。こう見えて、けっこう繊細だからな」
自分で言っておかしかったのか、賢吾は低い笑い声を洩らす。獰猛な獣の鳴き声のようでもあり、和彦はそっと身を震わせていた。
「――久しぶりに、お前の体を見せてくれ」
耳に唇が押し当てられ、囁きを注ぎ込まれる。鼓膜を震わせるバリトンの響きに逆らえず、シャツのボタンを外し始めたが、途中、賢吾の視線から逃れるように背を向ける。
「いまさら気になるものか?」
「あんたが、今にも取って食いそうな目をしてるからだ」
シャツを脱いで足元に落とすと、当然のように指示される。
「下も」
和彦は大きく深呼吸をすると、注文通り一糸まとわぬ姿となった。賢吾に背を向けたままでいたが、すぐ背後で気配が動き、ビクリと身じろぐ。
背骨のラインに沿って指先が這われた。
「筋肉のつき方が少し変わったか?」
「よく山を歩いていたからな。それに……、軽く護身術を習っていた」
「怖いな。油断したら、お前に投げ飛ばされるかもな」
そこまで本格的なものは教わっていないし、何を血迷ってそんな命知らずなことをしなければならないのかと、和彦は顔をしかめる。
「……できるとは思ってないくせに、意地の悪い男だな」
「この機会に挑戦してみたらどうだ」
和彦の力を試すように背後から抱き締められる。抱擁というより拘束で、がっしりとした両腕の中では身じろぎもままならない。髪に頬ずりしたあと、賢吾が首の付け根に唇を押し当ててきた。
二度、三度と肌を吸われたあと、硬い感触が触れる。賢吾の歯だとわかった瞬間、怖気立つとともに、背筋を熱い感覚が駆け抜ける。
「――俺が噛みつくと思ったか?」
和彦が息を詰めたのを感じ取ったのだろう。揶揄するように耳元で囁かれる。そのまま耳朶に軽く歯が立てられ、足元が乱れた。
「噛む、なっ……」
「噛んでない。歯が当たっただけだ」
屁理屈を言うなと窘めて、腕の中から抜け出そうとしても、それは許されなかった。
賢吾の片手がスッと下へと移動し、下腹部にてのひらが押し当てられる。意味ありげに陰りをまさぐられて咄嗟に和彦が考えたのは、鷹津との行為だった。すでに、そのときの行為の名残りはなく、和彦の記憶にあるだけだ。しかし、賢吾の指が動くたびに、その記憶を暴かれそうな危惧を覚える。
足を開くよう命じられ、勝手に体が動く。怯えている和彦の形を指先でなぞってから、賢吾の手が両足の間に差し込まれる。
「うっ……」
柔らかな膨らみに指がかかり、それだけで膝から崩れ込みそうになる。その気配を察したのか、賢吾に腰を抱えられるようにして洗面台の前へと連れて行かれた。
「ここに掴まってろ」
言われるまま洗面台の縁に手をかけた和彦は、顔を上げてぎょっとする。鏡に自分の姿が映っており、すでに締まりのない顔をしている。視線を逸らすと、今度は背後に立っている賢吾と鏡越しに目が合った。
「――しっかり俺を見ていろよ」
視線を逸らすのは許さないと言外に仄めかし、賢吾は容赦なく和彦の体を調べていく。両足の間に膝を割り込まされて、さらに大きく足を開くと、背を押さえつけられる。自然と腰を突き出したような姿勢となり、羞恥から顔を背けようとしたが、無遠慮な手つきで尻の肉を掴まれて動けなくなる。
体を丹念に見ている賢吾の様子を、和彦は見せつけられる。鷹津との最後の情交の痕跡は、もう肌に残っていないはずだと目まぐるしく考える自分自身が嫌になる。甘やかしてくる賢吾を舐めていたわけではないが、改めて、大蛇の化身のような男の怖さを実感していた。
強い執着は、見えない蛇の舌だ。それがじわじわと肌を這い回る。見つめてくる眼差しに体をまさぐられているようで、あっという間に和彦の息遣いは乱れ、体温が上昇していく。
しっとりと肌が汗ばむと、賢吾が再び首筋に顔を寄せてきた。
「髪が長いと、お前の顔が見えにくいな。早いうちに切りに行ってこい」
伸びた髪もなかなかいい、という発言を一昨日聞いたばかりだが、もう賢吾の気は変わったらしい。和彦は唇を緩めそうになり、慌てて引き結ぶ。
触れられないまま興奮のため硬く凝った胸の突起を、爪の先で弄られる。さらにもう片方の手は、いつの間にかゆるゆると形を変え始めていた和彦の欲望を包み込んでいた。
「んっ……」
敏感な先端を指の腹でそっと撫でられる。そうかと思えば、欲望全体を手荒く扱かれてから、括れを指の輪で強く締め付けられる。和彦は息を喘がせ、顔を紅潮させながら、鏡の中の自分の姿をじっと見ていた。正確には、賢吾の手の動きを。いかがわしく胸元を這い回る手つきは、まさに和彦に見せつけるためのものだ。視覚的にも感じさせられ、理性の箍は巧みに緩められていく。
「――自分でやってみろ」
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