血と束縛と

北川とも

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第46話

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 久しぶりの鷹津との口づけは、まずは一方的なものだった。痛いほどきつく唇を吸われて噛みつかれ、後ろ髪を掴まれてソファに半身を倒れ込ませる。のしかかってきた鷹津の荒い息遣いが顔に触れたが、すぐにまた唇を塞がれた。
 口腔にねじ込まれた熱い舌が蠢き、粘膜をまさぐられ、歯列をなぞられる。搦め捕られた舌に歯を立てられたときは、このまま噛み千切られるのではないかと本気で危惧したが、同時に、抗いがたい肉の疼きも自覚していた。
 夢中で互いを貪り、呼吸すら止まりかねない勢いで掻き抱き合っていたが、大の男二人が激情をぶつけるにはソファの上は狭すぎる。床に転がり落ちそうになった和彦は、すかさず鷹津の腕に引き止められた。
 間近で目が合い、いまさらながら怯みそうになったが、鷹津に再び唇を塞がれ、すぐにまた求め合う。唇を吸い合い、差し出した舌を絡めながら、唾液を交わす。ぐっと腰に押し当てられた鷹津の欲望はすでに高ぶっていた。
 四日前に鷹津が唐突に見せた性衝動は、自分が見た都合のいい夢のような気すらしていたが、もちろんそんなことはなかった。鷹津はひたすらじっと待っていたのだ。だから今、こんなにも荒々しく猛っている。
「――最後にお前を抱いたのは、去年の秋だった」
 鷹津にセーターをたくし上げられ、下に着ているシャツのボタンを外されていく。和彦の鼓動は狂ったように速くなっていた。
「クソ忌々しいことに、そのときのことを何度も思い出して、夜一人で悶えていた。ついでに言うなら、夢の中でお前を犯してた」
「……そんなこと言うなんて、悪いものでも食べたんじゃないか……」
「お前と同じものしか食ってねーよ」
 鷹津は短く声を洩らして笑う。
「俺はお前に、どんな男だと思われてるんだ。一途な男なんだぜ。だから、ここにいる」
 かつてであれば、憎たらしい口ぶりと表情で、餌をくれとねだってきていた鷹津だが、もうその言葉は必要ないと、和彦自身もわかっている。二人の関係は変わったのだ。
 インナーシャツの下に入り込んできた熱いてのひらに脇腹を撫でられる。たったそれだけのことが鳥肌が立つほど心地よく、目が潤む。鷹津の唇が目元に押し当てられた。
「欲しくてたまらないって目だな。――和彦」
 息遣いが肌を掠め、それすら心地いい。和彦から求めて口づけを交わしながら、身じろいだ鷹津に片手を取られて下肢に導かれる。触れさせられたのは、剥き出しとなった男の欲望だった。握り締め、手を動かす。すると、服を強引にたくし上げた鷹津のてのひらが胸元に這わされ、触れられる前から興奮で凝った胸の突起を転がされる。
 すぐに鷹津がむしゃぶりついてきて、いきなりきつく吸い上げられる。和彦が息を弾ませると、舌先で弄られたあと、歯を立てられた。知っている鷹津の愛撫ではないと感じるのは、肌にチクチクと当たる髭のせいだ。鷹津自身、意識しているのか、ときおり擦りつけるように顔を動かす。
 布の上から強く両足の間を押し上げられて、和彦は煩悶する。さきほどから握っている鷹津のものは重量と硬さを増しており、力強く脈打っている。その反応に和彦は感化されていた。
「しゅ、う……。秀っ――」
 舌打ちした鷹津が体を離してソファから下りた。
「ベッドに行くぞ」
 腕を掴まれて引っ張り起こされる。否も応もなく、和彦は寝室へと連れて行かれ、ベッドに押し倒された。
 動きの制限がなくなった分、理性という制限もなくなる。ベッドの上でもつれ合いながら、余裕なく服を脱ぎ、ようやく素肌を重ねる。すっかり高ぶった欲望同士を擦りつけ合ってから、すぐにそれだけでは物足りなくなり、自然な流れとして、互いのものを口腔に含んだ。
 鷹津の顔を跨ぐようにしてうつ伏せとなり、その体勢に激しい羞恥を覚えるが、和彦の羞恥を溶かすように、鷹津に強く欲望を吸引される。無意識に腰が逃げそうになっても、しっかりと腿を掴まれているため、突き出した尻を揺らすだけだ。
 腰を引き寄せられ、熱い口腔深くにさらに呑み込まれる。和彦は呻き声を洩らしてから、鷹津の逞しいものの先端に丹念に舌を這わせ、唇で締め付ける。舌を添えながら、ぎこちなく頭を動かして口腔から出し入れすると、鷹津の下腹部が強張る。
 この男の悦びを知ることが、今の自分の悦びだと、和彦は思った。
「んうっ」
 欲望を口腔に含んだまま。鷹津の指が内奥の入り口に触れてくる。和彦は大きく腰を震わせた。落ち着けと言いたげに、尾てい骨から背筋にかけててのひらが這わされ、その感触に痺れてしまう。
 鷹津は察するものがあったのか、口淫の途中だった和彦は呆気なくベッドの上に再び転がされた。獣のように這った姿勢を取らされて、背後から柔らかな膨らみを揉みしだかれながら、尾てい骨から背筋にかけて舌先が何度も行き来し、和彦は快感に鳴かされる。
「あっ、あっ、あぁっ――。んっ、あっ……ん、んふっ」
 巧みに蠢く指先に、柔らかな膨らみの中にある弱みをまさぐられ、刺激される。何もかも差し出したくなるような、怖さを含んだ愉悦がうねりとなって体の奥から溢れ出してきた。
 和彦は毛布を握り締めながら全身を戦慄かせ、鷹津の指と唇、舌によって秘めた場所すべてを暴かれていく。唾液と汗で潤った内奥に二本の指を揃って挿入されたときには、軽い絶頂に達していた。
「ああ……、俺がよく知っているお前の体だ。性質が悪いほど貪欲で、快感に弱い。だからこそ――ムカつくほど愛しい」
 じっくりと内奥の襞と粘膜を擦り上げながらそんなことを言われ、和彦は意識しないまま、指を締め付ける。反り返った欲望の先端から透明なしずくが垂れていき、少しずつ内腿を濡らしていく。
 一度指が引き抜かれ、ひくつく内奥の入り口にまた舌が這わされた。
「はあっ、あっ、んっ、んっ……。くうっ……ぅ」
 唾液で濡れそぼった場所に、今度は三本の指を含まされ、掻き回すように動かされる。じわりと痺れるような快感が腰に広がり、和彦は身をくねらせる。反射的に腰を押し付けるような動きをしてしまい、我に返って激しく羞恥する。しかしその羞恥が、官能に火をつける。
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