血と束縛と

北川とも

文字の大きさ
上 下
1,209 / 1,268
第46話

(10)

しおりを挟む

 久しぶりの鷹津との口づけは、まずは一方的なものだった。痛いほどきつく唇を吸われて噛みつかれ、後ろ髪を掴まれてソファに半身を倒れ込ませる。のしかかってきた鷹津の荒い息遣いが顔に触れたが、すぐにまた唇を塞がれた。
 口腔にねじ込まれた熱い舌が蠢き、粘膜をまさぐられ、歯列をなぞられる。搦め捕られた舌に歯を立てられたときは、このまま噛み千切られるのではないかと本気で危惧したが、同時に、抗いがたい肉の疼きも自覚していた。
 夢中で互いを貪り、呼吸すら止まりかねない勢いで掻き抱き合っていたが、大の男二人が激情をぶつけるにはソファの上は狭すぎる。床に転がり落ちそうになった和彦は、すかさず鷹津の腕に引き止められた。
 間近で目が合い、いまさらながら怯みそうになったが、鷹津に再び唇を塞がれ、すぐにまた求め合う。唇を吸い合い、差し出した舌を絡めながら、唾液を交わす。ぐっと腰に押し当てられた鷹津の欲望はすでに高ぶっていた。
 四日前に鷹津が唐突に見せた性衝動は、自分が見た都合のいい夢のような気すらしていたが、もちろんそんなことはなかった。鷹津はひたすらじっと待っていたのだ。だから今、こんなにも荒々しく猛っている。
「――最後にお前を抱いたのは、去年の秋だった」
 鷹津にセーターをたくし上げられ、下に着ているシャツのボタンを外されていく。和彦の鼓動は狂ったように速くなっていた。
「クソ忌々しいことに、そのときのことを何度も思い出して、夜一人で悶えていた。ついでに言うなら、夢の中でお前を犯してた」
「……そんなこと言うなんて、悪いものでも食べたんじゃないか……」
「お前と同じものしか食ってねーよ」
 鷹津は短く声を洩らして笑う。
「俺はお前に、どんな男だと思われてるんだ。一途な男なんだぜ。だから、ここにいる」
 かつてであれば、憎たらしい口ぶりと表情で、餌をくれとねだってきていた鷹津だが、もうその言葉は必要ないと、和彦自身もわかっている。二人の関係は変わったのだ。
 インナーシャツの下に入り込んできた熱いてのひらに脇腹を撫でられる。たったそれだけのことが鳥肌が立つほど心地よく、目が潤む。鷹津の唇が目元に押し当てられた。
「欲しくてたまらないって目だな。――和彦」
 息遣いが肌を掠め、それすら心地いい。和彦から求めて口づけを交わしながら、身じろいだ鷹津に片手を取られて下肢に導かれる。触れさせられたのは、剥き出しとなった男の欲望だった。握り締め、手を動かす。すると、服を強引にたくし上げた鷹津のてのひらが胸元に這わされ、触れられる前から興奮で凝った胸の突起を転がされる。
 すぐに鷹津がむしゃぶりついてきて、いきなりきつく吸い上げられる。和彦が息を弾ませると、舌先で弄られたあと、歯を立てられた。知っている鷹津の愛撫ではないと感じるのは、肌にチクチクと当たる髭のせいだ。鷹津自身、意識しているのか、ときおり擦りつけるように顔を動かす。
 布の上から強く両足の間を押し上げられて、和彦は煩悶する。さきほどから握っている鷹津のものは重量と硬さを増しており、力強く脈打っている。その反応に和彦は感化されていた。
「しゅ、う……。秀っ――」
 舌打ちした鷹津が体を離してソファから下りた。
「ベッドに行くぞ」
 腕を掴まれて引っ張り起こされる。否も応もなく、和彦は寝室へと連れて行かれ、ベッドに押し倒された。
 動きの制限がなくなった分、理性という制限もなくなる。ベッドの上でもつれ合いながら、余裕なく服を脱ぎ、ようやく素肌を重ねる。すっかり高ぶった欲望同士を擦りつけ合ってから、すぐにそれだけでは物足りなくなり、自然な流れとして、互いのものを口腔に含んだ。
 鷹津の顔を跨ぐようにしてうつ伏せとなり、その体勢に激しい羞恥を覚えるが、和彦の羞恥を溶かすように、鷹津に強く欲望を吸引される。無意識に腰が逃げそうになっても、しっかりと腿を掴まれているため、突き出した尻を揺らすだけだ。
 腰を引き寄せられ、熱い口腔深くにさらに呑み込まれる。和彦は呻き声を洩らしてから、鷹津の逞しいものの先端に丹念に舌を這わせ、唇で締め付ける。舌を添えながら、ぎこちなく頭を動かして口腔から出し入れすると、鷹津の下腹部が強張る。
 この男の悦びを知ることが、今の自分の悦びだと、和彦は思った。
「んうっ」
 欲望を口腔に含んだまま。鷹津の指が内奥の入り口に触れてくる。和彦は大きく腰を震わせた。落ち着けと言いたげに、尾てい骨から背筋にかけててのひらが這わされ、その感触に痺れてしまう。
 鷹津は察するものがあったのか、口淫の途中だった和彦は呆気なくベッドの上に再び転がされた。獣のように這った姿勢を取らされて、背後から柔らかな膨らみを揉みしだかれながら、尾てい骨から背筋にかけて舌先が何度も行き来し、和彦は快感に鳴かされる。
「あっ、あっ、あぁっ――。んっ、あっ……ん、んふっ」
 巧みに蠢く指先に、柔らかな膨らみの中にある弱みをまさぐられ、刺激される。何もかも差し出したくなるような、怖さを含んだ愉悦がうねりとなって体の奥から溢れ出してきた。
 和彦は毛布を握り締めながら全身を戦慄かせ、鷹津の指と唇、舌によって秘めた場所すべてを暴かれていく。唾液と汗で潤った内奥に二本の指を揃って挿入されたときには、軽い絶頂に達していた。
「ああ……、俺がよく知っているお前の体だ。性質が悪いほど貪欲で、快感に弱い。だからこそ――ムカつくほど愛しい」
 じっくりと内奥の襞と粘膜を擦り上げながらそんなことを言われ、和彦は意識しないまま、指を締め付ける。反り返った欲望の先端から透明なしずくが垂れていき、少しずつ内腿を濡らしていく。
 一度指が引き抜かれ、ひくつく内奥の入り口にまた舌が這わされた。
「はあっ、あっ、んっ、んっ……。くうっ……ぅ」
 唾液で濡れそぼった場所に、今度は三本の指を含まされ、掻き回すように動かされる。じわりと痺れるような快感が腰に広がり、和彦は身をくねらせる。反射的に腰を押し付けるような動きをしてしまい、我に返って激しく羞恥する。しかしその羞恥が、官能に火をつける。
しおりを挟む
感想 80

あなたにおすすめの小説

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

壁乳

リリーブルー
BL
俺は後輩に「壁乳」に行こうと誘われた。 (作者の挿絵付きです。)

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

朝起きたら幼なじみと番になってた。

オクラ粥
BL
寝ぼけてるのかと思った。目が覚めて起き上がると全身が痛い。 隣には昨晩一緒に飲みにいった幼なじみがすやすや寝ていた 思いつきの書き殴り オメガバースの設定をお借りしてます

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

魔王に飼われる勇者

たみしげ
BL
BLすけべ小説です。 敵の屋敷に攻め込んだ勇者が逆に捕まって淫紋を刻まれて飼われる話です。

処理中です...