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第44話
(36)
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いつも賢吾がしているように、自分の胸元にてのひらを這わせる。まだ冷たい手にざわっと肌が粟立つが、同時に、胸の
突起も反応する。
「んっ」
微かな疼きを発し始めたものを指の腹で撫でると、それだけでゾクゾクするような感覚が背筋を駆け抜ける。賢吾の声を聞いただけで、
どうしようもなく欲情してしまったのだ。
電話越しとはいえ賢吾に痴態を晒したくないと、ほんのわずかに残った理性が引き止めるが、当の賢吾が追い打ちをかけてくる。
『いつも俺がしているみたいに、やってみろ』
何度となく賢吾に抱かれては見せてきた己の痴態が、一気に脳裏に蘇る。どんなに強い欲情に駆られても、決して和彦に乱暴なまねは
しない、堪能するようにじっくりと触れてくる手指の動きは、体に刻み込まれていた。
賢吾の言葉に逆らえず、それどころか積極的に、和彦は自らの胸をまさぐり、すぐに物足りなくなって、スウェットパンツの中に片手
を差し込む。もちろん、声に出して説明したわけではないが、すべてわかっているように賢吾が深く息を吐き出した。
『――もう、熱くなってるな。和彦』
堪らず和彦は小さく呻き声を洩らす。
『意地を張るくせに、体は素直だからな。俺が、そんなふうにした。そうだろう?』
「どう、だろうな……」
長嶺の男がこんな言い方をするときは、当然のようにたった一つの返事しか求めていない。わかっていながら、こんなことを言ってしま
うのは、結局のところ、賢吾に甘えているのだ。
『ほら見ろ。やっぱり意地を張る』
鼓膜を震わせる低い笑い声に官能を刺激され、和彦は掴んだ己のものを緩く擦る。呆れるほど昂っていた。
はあっ、と熱い吐息をこぼすと、賢吾が名を呼んでくれる。その声にすがりつくように、和彦は手を動かす。あっという間に先端が濡れ
始め、指の腹で塗り込めるように撫でると、腰が震える。
『濡れてきたか?』
狙い澄ましたようなタイミングで問われる。和彦は唇を噛んで声を堪えたが、かまわず賢吾は続ける。
『こっちに戻ってきたら、ふやけるほどしゃぶって、飲んでやる』
「……年明け早々、なんでそう、品のないことをっ……」
『興奮するだろう?』
握り締めたものは、賢吾の言葉に呼応するように熱くしなっている。
「こんなこと、している状況じゃないのに……」
『お前一人が深刻な面をして、思い悩んだところで、何もかもがよくなるわけじゃねーだろ。ヤクザ相手に見せるようなふてぶてしさ
を、そっちでも発揮したらどうだ』
「そんなことしたら、ますますここでの居場所がなくなる」
つい苦い笑みをこぼした和彦に、抜け目ない男はすかさずこう囁いてくる。
『おう。そうなったら悠々とお前を引き取れるな。とっくに骨身に沁みてると思うが、大事にしてやるぜ』
こちらの気持ちを解すための冗談――ではないだろう。むしろ、本気であってほしいと和彦は願う。
「ワガママを言いまくって、あんたを振り回せるんだな」
『お前の言うワガママは、いつだって可愛い。控えめで、遠慮がちで。俺を振り回したいなら、もっとがんばれよ』
賢吾との会話によって、沈み込んでいた心は完全に掬い上げられる。一時の情欲は潮が引くようになくなり、賢吾には申し訳
ないが、艶めかしい声を聞かせられそうにはない。
和彦は横たわったまま、乱れた格好を整える。それを気配で察したらしく、賢吾も行為を続けろとは言わなかった。
『――きつくなったら、いつでも電話をかけてこい。迎えに行ってやると言ったのも、本気だ』
ありがとう、と自然に口にできた。あと二、三日で里帰りが終わることを思えば、賢吾のこの言葉は十分すぎるほどのお守りだ。
おかげで、電話を切るのにさほど勇気は必要としなかった。
賢吾の声の名残りがまだ耳に残っているうちに、今夜はすぐにでも眠りにつきたいと、和彦はすぐに寝支度を調え始めた。
突起も反応する。
「んっ」
微かな疼きを発し始めたものを指の腹で撫でると、それだけでゾクゾクするような感覚が背筋を駆け抜ける。賢吾の声を聞いただけで、
どうしようもなく欲情してしまったのだ。
電話越しとはいえ賢吾に痴態を晒したくないと、ほんのわずかに残った理性が引き止めるが、当の賢吾が追い打ちをかけてくる。
『いつも俺がしているみたいに、やってみろ』
何度となく賢吾に抱かれては見せてきた己の痴態が、一気に脳裏に蘇る。どんなに強い欲情に駆られても、決して和彦に乱暴なまねは
しない、堪能するようにじっくりと触れてくる手指の動きは、体に刻み込まれていた。
賢吾の言葉に逆らえず、それどころか積極的に、和彦は自らの胸をまさぐり、すぐに物足りなくなって、スウェットパンツの中に片手
を差し込む。もちろん、声に出して説明したわけではないが、すべてわかっているように賢吾が深く息を吐き出した。
『――もう、熱くなってるな。和彦』
堪らず和彦は小さく呻き声を洩らす。
『意地を張るくせに、体は素直だからな。俺が、そんなふうにした。そうだろう?』
「どう、だろうな……」
長嶺の男がこんな言い方をするときは、当然のようにたった一つの返事しか求めていない。わかっていながら、こんなことを言ってしま
うのは、結局のところ、賢吾に甘えているのだ。
『ほら見ろ。やっぱり意地を張る』
鼓膜を震わせる低い笑い声に官能を刺激され、和彦は掴んだ己のものを緩く擦る。呆れるほど昂っていた。
はあっ、と熱い吐息をこぼすと、賢吾が名を呼んでくれる。その声にすがりつくように、和彦は手を動かす。あっという間に先端が濡れ
始め、指の腹で塗り込めるように撫でると、腰が震える。
『濡れてきたか?』
狙い澄ましたようなタイミングで問われる。和彦は唇を噛んで声を堪えたが、かまわず賢吾は続ける。
『こっちに戻ってきたら、ふやけるほどしゃぶって、飲んでやる』
「……年明け早々、なんでそう、品のないことをっ……」
『興奮するだろう?』
握り締めたものは、賢吾の言葉に呼応するように熱くしなっている。
「こんなこと、している状況じゃないのに……」
『お前一人が深刻な面をして、思い悩んだところで、何もかもがよくなるわけじゃねーだろ。ヤクザ相手に見せるようなふてぶてしさ
を、そっちでも発揮したらどうだ』
「そんなことしたら、ますますここでの居場所がなくなる」
つい苦い笑みをこぼした和彦に、抜け目ない男はすかさずこう囁いてくる。
『おう。そうなったら悠々とお前を引き取れるな。とっくに骨身に沁みてると思うが、大事にしてやるぜ』
こちらの気持ちを解すための冗談――ではないだろう。むしろ、本気であってほしいと和彦は願う。
「ワガママを言いまくって、あんたを振り回せるんだな」
『お前の言うワガママは、いつだって可愛い。控えめで、遠慮がちで。俺を振り回したいなら、もっとがんばれよ』
賢吾との会話によって、沈み込んでいた心は完全に掬い上げられる。一時の情欲は潮が引くようになくなり、賢吾には申し訳
ないが、艶めかしい声を聞かせられそうにはない。
和彦は横たわったまま、乱れた格好を整える。それを気配で察したらしく、賢吾も行為を続けろとは言わなかった。
『――きつくなったら、いつでも電話をかけてこい。迎えに行ってやると言ったのも、本気だ』
ありがとう、と自然に口にできた。あと二、三日で里帰りが終わることを思えば、賢吾のこの言葉は十分すぎるほどのお守りだ。
おかげで、電話を切るのにさほど勇気は必要としなかった。
賢吾の声の名残りがまだ耳に残っているうちに、今夜はすぐにでも眠りにつきたいと、和彦はすぐに寝支度を調え始めた。
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