血と束縛と

北川とも

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第44話

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 賢吾のものが口腔で一層逞しく育っていく。息苦しさにぐっと喉が締まると、後頭部にかかった手の力がいくらか緩められた。和彦は頭を動かし、口腔から欲望を出し入れしながら、賢吾から言われるまま、唾液をたっぷり絡めるようにして、大きく湿った音を立てるようにする。
 ときには根本に舌を這わせ、そのまま先端まで舐め上げると、また口腔深くまで呑み込み、しっとりと粘膜で包み込む。その頃には、賢吾の両手で髪を掻き乱されていた。それはまるで愛撫のようで、髪の付け根を指でまさぐられるたびに、和彦の体には肉の疼きが駆け抜ける。
 賢吾の爪先に両足の間を押さえつけられる。自覚もないまま、和彦の欲望も高ぶっていた。
「いやらしいな、和彦……」
 愉悦を含んだ声で賢吾が呟き、口元に笑みを刻む。
 口淫の途中で腕を掴まれて、ベッドに引き上げられていた。のしかかられながら余裕なく服を剥ぎ取られ、裸の体をベッドに横たえる。
「賢吾……」
 細い声で呼びかけた和彦は、向けられる冴えた眼差しに耐える。当然のように賢吾は、和彦の体を検分し始めていた。
 別荘での守光と南郷との情交の跡は、かろうじて消えている。この部屋に滞在するようになってからは、二人とも指一本和彦に触れていない。だからといって、見られて平気なわけではなかった。
 賢吾の指先が胸元から鳩尾を滑り落ち、さらに移動して下腹部へとたどり着く。緩く勃ち上がった欲望の形をまさぐられて、和彦は小さく声を上げたが、頓着した様子もなく賢吾に膝を掴まれた。足を大きく左右に広げると、秘められた部分もすべて晒す。
「大事に扱われているみたいだな。よかったな。自分のものだと思った途端、横暴になる男じゃなくて」
「……違う。長嶺賢吾のオンナだから、大事に扱ってくれているんだ……」
「それは、どうだろうな」
 意味ありげにそう言った賢吾が、内奥の入り口を指でまさぐってくる。和彦は反射的に腰を震わせていた。
「関わった男を骨抜きにしてきたお前相手に、あるいは――」
「変なことを言わないでくれっ。ぼくは……、利用されているんだ。あの人が興味あるのは、あんただけだ」
 自分でも驚くほど鋭い声を発していた。和彦の反応に驚く素振りもなく、賢吾は機嫌を取るように膝に唇を押し当てる。
「悪かった。今は、あいつのことは話したくないし、聞きたくないんだったな」
 大蛇の潜む目でこちらを見つめてきながら、賢吾の手が柔らかな膨らみに触れる。強い刺激を予期して身を震わせた和彦だが、賢吾から視線を逸らせなかった。
 賢吾が、和彦の反応が本心のものからなのか、探ってきていると感じた。自分のオンナが南郷を求め始めているのではないかという嫉妬心が、賢吾の視線から読み取れる。
「うっ、あぁっ……」
 柔らかな膨らみを性急に揉みしだかれて腰が揺れる。賢吾が内腿に唇を寄せ、強く肌を吸い上げてから、じわりと歯を立ててきた。明らかに、所有の証を刻み付ける行為だった。
 痛みよりも、快美さに身を貫かれ、和彦は煩悶する。賢吾が示す強い独占欲や執着心は、まるで媚薬だ。理性の箍を外し、浅ましい獣になれと唆される。
 痛切に、賢吾の側にいたいと願っていた。誰にも奪われず、大蛇の化身のような男のものでいたいと――。
「今、何を考えた?」
 ふいに賢吾に問われて、和彦は瞬時には意味が理解できなかった。賢吾が上目遣いに見上げてきながら、無遠慮な手つきで欲望を掴む。先端に唇を寄せられ、吐息が触れただけで感じてしまう。
「言ってみろ。お前が今、ひどく興奮しているのはわかっている。――何を考えたんだ」
 欲しい返事をもぎ取ろうとする男の性質に、和彦はゾクゾクするほど興奮する。賢吾が何を求めているのか、もちろんわかっている。
「……あんたが、早く欲しいと……」
「だからもう、こんなに濡れているのか?」
 透明なしずくが浮かんだ先端をちろりと舌先で舐められ、息が詰まる。
「ここも、触れる前からこんなに真っ赤に充血して、物欲しげにヒクヒクさせやがって……。可愛いオンナだ。俺が、こんなふうにした。そうだな?」
 内奥の入り口をくすぐるように指の腹で撫でられ、和彦は羞恥で全身を熱くしながら、それでも夢中で頷く。
「そうだ。あんたの、せいだっ……」
 次の瞬間、勢いよく体をひっくり返されると、足を開き、腰を突き出した恥辱に満ちた姿勢を取らされた。
 尻の肉を乱暴に掴まれながら、賢吾の視線を痛いほど感じる。刺激を欲して無意識に腰が揺れると、ぴしゃりと腿を叩かれたが、鋭い痛みが心地いい。
「どんなふうに、手酷く責めてやろうかと思っていたんだがな」

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