血と束縛と

北川とも

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第43話

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 もっとも太い部分を呑み込まされたとき、浅い呼吸を繰り返しながら、なんとか下腹部に力を入れまいとする。求め合ったうえでの行為なら、相手への身の委ね方は知っている。しかし、今は違う。体が緊張で強張り、和彦自身を苦しめようとするのだ。
 南郷も何かを察したようだった。
「初めてみたいな反応だな、先生。昨夜はこんなんじゃなかっただろ。もっと俺に身を任せてくれ」
「い、や、です……」
 背後で南郷が笑った気配がした。繋がり、ひくつく部分に指が這わされ、擦られる。和彦はビクッと腰を震わせた。
「あんたはいい加減、理解するべきだな。あんたが反抗したり、強がりを言うたびに、俺が興奮するってことを。それとも、わざとなのか? それがオンナの手管だとしたら、俺は見事に引っかかったというわけだが」
 腰を掴んだ南郷が、一層深く欲望を押し込んできた。一旦動くのを止めると、和彦の緊張している下腹部にてのひらを這わせてくる。
「この辺りに、昨夜あんたの中に出したものがまだ残ってるかもな。オヤジさんと、俺の分」
 ゾクッと寒気とも疼きとも取れる感覚が、背筋を駆け抜ける。このとき意識しないまま、内奥でふてぶてしく息づく南郷の欲望を締め付けていた。
「あんたをオンナにしてる男たちは、そうやって自分の存在を馴染ませてきたんだろ。強引な長嶺組長に最初は反発心を抱いていたはずのあんたも、今じゃすっかり従順だ。俺の場合は、あと何回――」
 露骨な言葉を聞かされながら、両足の間に手が差し込まれ、欲望を掴まれる。いつの間にか和彦のものは熱くなり、身を起こしていた。
「嫌、だ……」
「そうか? あんたの体は違うみたいだ。俺のものに吸い付いて、締まり始めてる」
 内奥を突き上げられると同時に、湯が大きく波打つ。和彦は背をしならせ、必死に湯舟の縁にすがりついていた。なんとか耐えようとしたが、膝は震え、爪先に力が入らない。そんな状態が南郷にも伝わったようだった。
「もうのぼせたか、先生?」
 内奥から欲望を引き抜いて、揶揄するように南郷が問いかけてくる。和彦はズルズルと座り込み、俯いた顔をそのまま湯につけそうになったが、寸前のところで南郷にあごを掬い上げられる。
 貪るように激しい口づけを与えられながら、胡坐をかいた南郷の膝の上に引き寄せられ、向き合う格好で座らされる。もちろん和彦は抵抗しようとしたが、南郷が言うとおりのぼせかけているのか、手足に力が入らず、まとわりつく湯が重く感じられる。
 内奥にまた太い指を挿入されたとき、はっきりと肉の疼きを自覚した。うろたえた和彦が目を見開いたとき、間近から食い入るように南郷が見つめていた。引き出された舌を執拗に吸われながら、腰を抱き寄せられ、下腹部が密着する。南郷の目的はわかっている。おぞましい百足を和彦に意識させようとしているのだ。
「――……触れよ、先生。あんたの大好きな、刺青だろ」
 口づけの合間に南郷が熱っぽく囁いてくる。
「嫌、です……」
「今さっき言っただろ。あんたの強がりに、俺は興奮するって」
 腰を上げろと命じられ、和彦は動けなかった。すると急かすように南郷に尻の肉を強く掴まれる。ヒヤリとするような凶暴性を感じた。
 おずおずと腰を浮かせると、再び内奥の入り口に逞しい形を押し当てられた。
「うあっ……」
 逃げようとする腰を掴まれ、内奥に欲望を捩じ込まれる。支えを欲した和彦は咄嗟に南郷の肩に手をかけ、下腹部に広がる衝撃から、つい爪を立てていた。
 下からゆっくりと突き上げられるたびに、否応なく繋がりを深くしていく。苦しさから忙しなく呼吸を繰り返していた和彦だが、次第に意識がぼうっとしてくる。湯にのぼせたのか、過呼吸に近い状態なのか、自分でも判断がつかなくなっていた。あるいは、それ以外の理由なのか――。
 南郷が獣の唸り声のようなものを発したあと、両腕でしっかりと和彦を抱き締めてきた。
「――俺の、オンナだ」
 確認するように、南郷が呟く。内奥深くでドクドクと欲望が脈打ち、内から和彦を圧倒してくる。
「あっ……」
 微かに声を洩らした和彦は、南郷の肩に自分の爪が食い込んだままなのに気づいた。強張った指からぎこちなく力を抜こうとして、南郷が皮肉っぽく唇を歪める。
「俺は爪を立てられたままでもかまわないが」
 次の瞬間には、傍若無人な舌に口腔を犯されていた。
「んっ……、んっ、ふうっ……」
 体を揺さぶられながら、内奥は逞しい欲望で犯される。

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