血と束縛と

北川とも

文字の大きさ
上 下
1,134 / 1,268
第43話

(37)

しおりを挟む
「しっかり撫でろ」
 傲慢に命じた南郷に再び唇を塞がれる。嫌悪感から呻き声を洩らした和彦だが、それだけでは逃れることはできない。苦しさから息を喘がせたときには、口腔に南郷の舌が入り込んでいた。
 感じやすい粘膜を舐め回されながら、唾液を流し込まれる。和彦が小さく喉を鳴らすと、柔らかな膨らみをまさぐる南郷の指の動きが変わった。脅すためではなく、和彦の官能を刺激するために、巧みに弱みを攻め始めたのだ。堪らず爪先を突っ張らせる。
「うっ、うっ……、そこ、やめ――……」
「なら、ここか、先生?」
 次に南郷が興味を示したのは、昨夜守光に犯された欲望の先端だった。指の腹で強く擦られたあと、じわりと爪を立てられる。和彦は短く悲鳴を上げ、反射的に百足を引っ掻いていた。次の瞬間、南郷が激高するのではないかと、和彦は心底震え上がる。
 相手は、自分に情を注いでくれる男たちとは違うのだ。
 和彦の反応に、南郷は目を眇める。
「俺の言葉は信用できないか? 何度でも言うが、あんたに手を上げたり、声を荒らげることは絶対にしない。――約束する」
「だったら、やめてください。放して、ください……」
「それはできない。俺の誠意を受け取る代わりに、あんたにはオンナとしての役割を果たしてもらわないとな」
 和彦は返事の代わりに、今度はしっかりと百足に爪を立てる。それこそ食い込むほど。痛痒も感じていない様子で南郷は続けた。
「俺の誠意なんていらない、というのはなしだ。あんたももう、この世界の男たちのやり口はわかってるだろ。俺たちは恩着せがましくて、悪辣だ。目的のためなら、善悪なんて糞くらえという人種なんだ。それでもあんた相手には、ずいぶん優しくしている」
 この瞬間、南郷に対して抱いた強烈な畏怖や嫌悪感には、覚えがあった。かつて、和彦の堅気としての生活を奪った賢吾に対して、抱いたものと同じだ。横暴で傲慢で理不尽で、しかし和彦には抗う力もなく――。
 かつての賢吾のやり方を踏襲しているようではないかと、和彦は瞬きも忘れて南郷の顔を凝視する。
 唇を啄みながら南郷が言った。
「かまわないから、俺の百足にもっと爪を立ててくれ。あんたの爪は痛くない」
 和彦はその言葉に促されるように、ギリギリと百足に爪を立てる。悠然としてふてぶてしい南郷の顔に、わずかでも苦痛の表情を浮かべさせたかった。
 南郷の腹筋が硬く締まる。何も感じないはずがないのだ。しかし南郷は――笑っていた。
 触れている百足がふいに蠢いた気がして、和彦は爪を立てるのをやめる。掴まれたままの手が導かれたのは、南郷の欲望だった。さきほど目にしたときよりさらに猛っており、興奮しているとわかる。
「――わかるか、先生?」
 和彦は力を振り絞り、這ってでも湯から出ようとしたが、南郷にとっては緩慢な動作でしかなかったのだろう。やすやすと肩を掴まれた挙げ句に、強引に体の向きを変えられる。抗おうとして湯舟の縁に手をかけたが滑ってしまい、そのまま前のめりとなる。背後に南郷に回り込まれ、完全に抵抗を封じられていた。
 腰を突き出した姿勢を取らされてから、硬いてのひらが背に這わされる。和彦は震えを帯びた息を吐き出したが、それだけだ。南郷の手は背から腰、そして尻へと移動していく。
「うっ……」
 いきなり尻の肉を鷲掴まれて、ビクリと腰が揺れる。
「じっとしてろよ、先生」
 背に重みがかかり、思いがけず間近から南郷が話しかけてくる。次に水音が。総毛立ったのは、南郷の唇に耳朶を啄まれているとわかったからだ。同時に、昨夜さんざん犯された内奥の入り口を、太い指にまさぐられる。
「まだ柔らかいな……。これなら――」
 わずかな異物感を内奥に感じ、和彦は目を見開いた。南郷が無遠慮に指を挿入し、肉を捏ねるように蠢かす。まだ熱と疼痛を帯びているその場所は、驚くほどすんなりと南郷の指を呑み込み、緩く締め付ける。
「あっ、あっ……」
「熱いな。あんたの中。もうすっかり、その気になってるのか?」
 執拗に内奥の浅い部分を、指の腹で擦られ、押し上げられる。和彦はビクビクと腰を震わせ、懸命に前に逃れようと手を伸ばすが、床の硬いタイルは滑り、爪を立てることもできない。
 内奥から指が引き抜かれ、今度は、熱く重量のあるものが押し当てられる。
「うあっ」
 衝撃が生まれ、和彦は大きな声を発する。昨夜味わったばかりの感覚だった。
 圧倒的な存在が肉を押し広げながら、強引に挿入されてくる。重苦しい鈍痛が下肢に生まれ、じわじわと範囲を広げていく。南郷の欲望は容赦なく侵入を続け、和彦は何度も呻き声を洩らしていた。

しおりを挟む
感想 80

あなたにおすすめの小説

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

壁乳

リリーブルー
BL
俺は後輩に「壁乳」に行こうと誘われた。 (作者の挿絵付きです。)

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

魔王に飼われる勇者

たみしげ
BL
BLすけべ小説です。 敵の屋敷に攻め込んだ勇者が逆に捕まって淫紋を刻まれて飼われる話です。

塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。 そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。

処理中です...