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第43話
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守光は、浴衣に着替えてはいるものの、相変わらずの端然とした佇まいで待っていた。部屋に入った和彦を見るなり、頬を緩める。
「髪がまだ濡れているな。慌てなくてもかまわないから、脱衣所で乾かしてくればいい」
「……いえ」
入浴後すぐに部屋に来いと言われたわけではないのだが、ゆっくりと髪を乾かそうなどと思いつきもしなかった。
ふいに沈黙が訪れ、立ったままの和彦と、コタツに入ったままの守光との視線が交わる。柔らかな微笑を浮かべていた守光の表情が瞬きする間に変化した。
静かにコタツから出た守光が襖を開ける。奥は思ったとおり寝室となっており、すでに床が延べられていた。
振り返った守光に軽く手招きをされ、反射的に半歩だけ後退った和彦だが、自分がこの部屋に来た覚悟を思い出し、すぐに従う。
枕元には、見覚えのある文箱と折り畳まれたスカーフがあった。体を強張らせた和彦の背後で襖が閉まり、手を取られて布団の傍らに立つ。穏やかな声音で守光に言われた。
「服を脱いで見せてくれないか。先生」
いまさら裸を見られたところで、という気持ちはある。しかし、脱がされるのと、自ら脱ぐのとでは心構えはまったく違う。和彦はすがるように守光を見たが、意に介した様子もなく守光は畳に正座する。
さあ、とでも言うように見上げられ、ぐっと喉が詰まる。できませんとは、口が裂けても言えなかった。
和彦は機械的にトレーナーを脱ぎ捨ててから、数秒のためらいのあと、パンツと下着を一気に下ろす。このときすでに、それでなくても熱くなっていた全身は、うっすらと汗ばんでいた。
脱いだものを畳もうとして、手首を掴まれる。引っ張られるまま膝をつくと、守光に顔を覗き込まれた。
「そのままで」
そう言って守光がスカーフを取り上げる。薄い布をどう使うか、もちろん和彦は知っている。今の守光との関係では、もう必要としていない小道具であることも。
今晩は、いつもと何かが違う――。
本能的な怯えから、ざわりと肌が粟立った。頬にスカーフの滑らかな感触が触れ、和彦は顔を背けようとしたが、かまわず両目を覆われ、きつく後頭部で結ばれた。
「怯えなくても大丈夫だ。久しぶりにこうやって、あんたを嬲ってみたくなっただけだ……」
本当にそうなのか、問いかけようとしたときには、肩を押されて布団の上に仰向けで倒れる。だからといって素直に身を任せられるはずもなく、体を強張らせる。
和彦の緊張が見て取れたらしく、笑いを含んだ声で守光が言った。
「わしが怖いかね、先生」
枕元で微かな物音がする。文箱を開けている音だと、これまでの経験でわかった和彦は、堪らず体を起こそうとする。すると片方の手首を掴まれた。強い力を込められたわけでないが、必要とあれば多少の痛みを与えるという意志のようなものを感じる。
「落ち着きなさい」
短く諭され、動きを止める。結局和彦は、自分から布団の上に仰臥し、覆われた両目で天井を見上げた。
和彦の体の強張りを解こうとしているのか、守光のひんやりとしたてのひらが肌に這わされる。肩や腕をさすられたかと思うと、膝から足の甲にかけて撫でられ、軽く片足を持ち上げられてから、今度はふくらはぎから腿へとてのひらが移動してくる。そして、腹部にてのひらが押し当てられた。
何も見えない状況で黙々と行為は行われ、和彦はされるがままになりながら、少し速くなった自分の呼吸音を聞いていた。
今晩に限っては、快感が訪れる予感すらなかった。このまま守光が興ざめして、自分を解放するのではないかと、ささやかな期待を抱いてしまう。
守光を甘く見ているのではなく、そんな希望にすがりたくなるほど、不安に押し潰されそうだったのだ。
和彦の体温を受けて、守光の手がほんのりと暖まってきた頃、両足を立てて大きく開かされる。
「はうっ……」
いきなり欲望を掴まれて声を洩らす。緩く扱かれて無意識に腰が逃げそうになる。当然のことながら、和彦のものはまったく反応していなかった。守光がどんな顔をしているのか、目隠しを取って確認したい衝動に駆られたが、すぐに和彦はそれどころではなくなる。
感じやすい先端を指の腹で擦られたあと、爪の先で弄られる。慌てて手を押しのけようとしたが、括れを指の輪で締め付けられて再び声を洩らした。
「――あんたの性質は把握したつもりだ。痛いのも、苦しいのも苦手だが、その実、肉の悦びを覚えている。本当は、ひどくされるのが好きなんだろう」
「そんなこと……」
「ただし、愛情を持って」
「髪がまだ濡れているな。慌てなくてもかまわないから、脱衣所で乾かしてくればいい」
「……いえ」
入浴後すぐに部屋に来いと言われたわけではないのだが、ゆっくりと髪を乾かそうなどと思いつきもしなかった。
ふいに沈黙が訪れ、立ったままの和彦と、コタツに入ったままの守光との視線が交わる。柔らかな微笑を浮かべていた守光の表情が瞬きする間に変化した。
静かにコタツから出た守光が襖を開ける。奥は思ったとおり寝室となっており、すでに床が延べられていた。
振り返った守光に軽く手招きをされ、反射的に半歩だけ後退った和彦だが、自分がこの部屋に来た覚悟を思い出し、すぐに従う。
枕元には、見覚えのある文箱と折り畳まれたスカーフがあった。体を強張らせた和彦の背後で襖が閉まり、手を取られて布団の傍らに立つ。穏やかな声音で守光に言われた。
「服を脱いで見せてくれないか。先生」
いまさら裸を見られたところで、という気持ちはある。しかし、脱がされるのと、自ら脱ぐのとでは心構えはまったく違う。和彦はすがるように守光を見たが、意に介した様子もなく守光は畳に正座する。
さあ、とでも言うように見上げられ、ぐっと喉が詰まる。できませんとは、口が裂けても言えなかった。
和彦は機械的にトレーナーを脱ぎ捨ててから、数秒のためらいのあと、パンツと下着を一気に下ろす。このときすでに、それでなくても熱くなっていた全身は、うっすらと汗ばんでいた。
脱いだものを畳もうとして、手首を掴まれる。引っ張られるまま膝をつくと、守光に顔を覗き込まれた。
「そのままで」
そう言って守光がスカーフを取り上げる。薄い布をどう使うか、もちろん和彦は知っている。今の守光との関係では、もう必要としていない小道具であることも。
今晩は、いつもと何かが違う――。
本能的な怯えから、ざわりと肌が粟立った。頬にスカーフの滑らかな感触が触れ、和彦は顔を背けようとしたが、かまわず両目を覆われ、きつく後頭部で結ばれた。
「怯えなくても大丈夫だ。久しぶりにこうやって、あんたを嬲ってみたくなっただけだ……」
本当にそうなのか、問いかけようとしたときには、肩を押されて布団の上に仰向けで倒れる。だからといって素直に身を任せられるはずもなく、体を強張らせる。
和彦の緊張が見て取れたらしく、笑いを含んだ声で守光が言った。
「わしが怖いかね、先生」
枕元で微かな物音がする。文箱を開けている音だと、これまでの経験でわかった和彦は、堪らず体を起こそうとする。すると片方の手首を掴まれた。強い力を込められたわけでないが、必要とあれば多少の痛みを与えるという意志のようなものを感じる。
「落ち着きなさい」
短く諭され、動きを止める。結局和彦は、自分から布団の上に仰臥し、覆われた両目で天井を見上げた。
和彦の体の強張りを解こうとしているのか、守光のひんやりとしたてのひらが肌に這わされる。肩や腕をさすられたかと思うと、膝から足の甲にかけて撫でられ、軽く片足を持ち上げられてから、今度はふくらはぎから腿へとてのひらが移動してくる。そして、腹部にてのひらが押し当てられた。
何も見えない状況で黙々と行為は行われ、和彦はされるがままになりながら、少し速くなった自分の呼吸音を聞いていた。
今晩に限っては、快感が訪れる予感すらなかった。このまま守光が興ざめして、自分を解放するのではないかと、ささやかな期待を抱いてしまう。
守光を甘く見ているのではなく、そんな希望にすがりたくなるほど、不安に押し潰されそうだったのだ。
和彦の体温を受けて、守光の手がほんのりと暖まってきた頃、両足を立てて大きく開かされる。
「はうっ……」
いきなり欲望を掴まれて声を洩らす。緩く扱かれて無意識に腰が逃げそうになる。当然のことながら、和彦のものはまったく反応していなかった。守光がどんな顔をしているのか、目隠しを取って確認したい衝動に駆られたが、すぐに和彦はそれどころではなくなる。
感じやすい先端を指の腹で擦られたあと、爪の先で弄られる。慌てて手を押しのけようとしたが、括れを指の輪で締め付けられて再び声を洩らした。
「――あんたの性質は把握したつもりだ。痛いのも、苦しいのも苦手だが、その実、肉の悦びを覚えている。本当は、ひどくされるのが好きなんだろう」
「そんなこと……」
「ただし、愛情を持って」
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