1,117 / 1,268
第43話
(20)
しおりを挟む
守光は、浴衣に着替えてはいるものの、相変わらずの端然とした佇まいで待っていた。部屋に入った和彦を見るなり、頬を緩める。
「髪がまだ濡れているな。慌てなくてもかまわないから、脱衣所で乾かしてくればいい」
「……いえ」
入浴後すぐに部屋に来いと言われたわけではないのだが、ゆっくりと髪を乾かそうなどと思いつきもしなかった。
ふいに沈黙が訪れ、立ったままの和彦と、コタツに入ったままの守光との視線が交わる。柔らかな微笑を浮かべていた守光の表情が瞬きする間に変化した。
静かにコタツから出た守光が襖を開ける。奥は思ったとおり寝室となっており、すでに床が延べられていた。
振り返った守光に軽く手招きをされ、反射的に半歩だけ後退った和彦だが、自分がこの部屋に来た覚悟を思い出し、すぐに従う。
枕元には、見覚えのある文箱と折り畳まれたスカーフがあった。体を強張らせた和彦の背後で襖が閉まり、手を取られて布団の傍らに立つ。穏やかな声音で守光に言われた。
「服を脱いで見せてくれないか。先生」
いまさら裸を見られたところで、という気持ちはある。しかし、脱がされるのと、自ら脱ぐのとでは心構えはまったく違う。和彦はすがるように守光を見たが、意に介した様子もなく守光は畳に正座する。
さあ、とでも言うように見上げられ、ぐっと喉が詰まる。できませんとは、口が裂けても言えなかった。
和彦は機械的にトレーナーを脱ぎ捨ててから、数秒のためらいのあと、パンツと下着を一気に下ろす。このときすでに、それでなくても熱くなっていた全身は、うっすらと汗ばんでいた。
脱いだものを畳もうとして、手首を掴まれる。引っ張られるまま膝をつくと、守光に顔を覗き込まれた。
「そのままで」
そう言って守光がスカーフを取り上げる。薄い布をどう使うか、もちろん和彦は知っている。今の守光との関係では、もう必要としていない小道具であることも。
今晩は、いつもと何かが違う――。
本能的な怯えから、ざわりと肌が粟立った。頬にスカーフの滑らかな感触が触れ、和彦は顔を背けようとしたが、かまわず両目を覆われ、きつく後頭部で結ばれた。
「怯えなくても大丈夫だ。久しぶりにこうやって、あんたを嬲ってみたくなっただけだ……」
本当にそうなのか、問いかけようとしたときには、肩を押されて布団の上に仰向けで倒れる。だからといって素直に身を任せられるはずもなく、体を強張らせる。
和彦の緊張が見て取れたらしく、笑いを含んだ声で守光が言った。
「わしが怖いかね、先生」
枕元で微かな物音がする。文箱を開けている音だと、これまでの経験でわかった和彦は、堪らず体を起こそうとする。すると片方の手首を掴まれた。強い力を込められたわけでないが、必要とあれば多少の痛みを与えるという意志のようなものを感じる。
「落ち着きなさい」
短く諭され、動きを止める。結局和彦は、自分から布団の上に仰臥し、覆われた両目で天井を見上げた。
和彦の体の強張りを解こうとしているのか、守光のひんやりとしたてのひらが肌に這わされる。肩や腕をさすられたかと思うと、膝から足の甲にかけて撫でられ、軽く片足を持ち上げられてから、今度はふくらはぎから腿へとてのひらが移動してくる。そして、腹部にてのひらが押し当てられた。
何も見えない状況で黙々と行為は行われ、和彦はされるがままになりながら、少し速くなった自分の呼吸音を聞いていた。
今晩に限っては、快感が訪れる予感すらなかった。このまま守光が興ざめして、自分を解放するのではないかと、ささやかな期待を抱いてしまう。
守光を甘く見ているのではなく、そんな希望にすがりたくなるほど、不安に押し潰されそうだったのだ。
和彦の体温を受けて、守光の手がほんのりと暖まってきた頃、両足を立てて大きく開かされる。
「はうっ……」
いきなり欲望を掴まれて声を洩らす。緩く扱かれて無意識に腰が逃げそうになる。当然のことながら、和彦のものはまったく反応していなかった。守光がどんな顔をしているのか、目隠しを取って確認したい衝動に駆られたが、すぐに和彦はそれどころではなくなる。
感じやすい先端を指の腹で擦られたあと、爪の先で弄られる。慌てて手を押しのけようとしたが、括れを指の輪で締め付けられて再び声を洩らした。
「――あんたの性質は把握したつもりだ。痛いのも、苦しいのも苦手だが、その実、肉の悦びを覚えている。本当は、ひどくされるのが好きなんだろう」
「そんなこと……」
「ただし、愛情を持って」
「髪がまだ濡れているな。慌てなくてもかまわないから、脱衣所で乾かしてくればいい」
「……いえ」
入浴後すぐに部屋に来いと言われたわけではないのだが、ゆっくりと髪を乾かそうなどと思いつきもしなかった。
ふいに沈黙が訪れ、立ったままの和彦と、コタツに入ったままの守光との視線が交わる。柔らかな微笑を浮かべていた守光の表情が瞬きする間に変化した。
静かにコタツから出た守光が襖を開ける。奥は思ったとおり寝室となっており、すでに床が延べられていた。
振り返った守光に軽く手招きをされ、反射的に半歩だけ後退った和彦だが、自分がこの部屋に来た覚悟を思い出し、すぐに従う。
枕元には、見覚えのある文箱と折り畳まれたスカーフがあった。体を強張らせた和彦の背後で襖が閉まり、手を取られて布団の傍らに立つ。穏やかな声音で守光に言われた。
「服を脱いで見せてくれないか。先生」
いまさら裸を見られたところで、という気持ちはある。しかし、脱がされるのと、自ら脱ぐのとでは心構えはまったく違う。和彦はすがるように守光を見たが、意に介した様子もなく守光は畳に正座する。
さあ、とでも言うように見上げられ、ぐっと喉が詰まる。できませんとは、口が裂けても言えなかった。
和彦は機械的にトレーナーを脱ぎ捨ててから、数秒のためらいのあと、パンツと下着を一気に下ろす。このときすでに、それでなくても熱くなっていた全身は、うっすらと汗ばんでいた。
脱いだものを畳もうとして、手首を掴まれる。引っ張られるまま膝をつくと、守光に顔を覗き込まれた。
「そのままで」
そう言って守光がスカーフを取り上げる。薄い布をどう使うか、もちろん和彦は知っている。今の守光との関係では、もう必要としていない小道具であることも。
今晩は、いつもと何かが違う――。
本能的な怯えから、ざわりと肌が粟立った。頬にスカーフの滑らかな感触が触れ、和彦は顔を背けようとしたが、かまわず両目を覆われ、きつく後頭部で結ばれた。
「怯えなくても大丈夫だ。久しぶりにこうやって、あんたを嬲ってみたくなっただけだ……」
本当にそうなのか、問いかけようとしたときには、肩を押されて布団の上に仰向けで倒れる。だからといって素直に身を任せられるはずもなく、体を強張らせる。
和彦の緊張が見て取れたらしく、笑いを含んだ声で守光が言った。
「わしが怖いかね、先生」
枕元で微かな物音がする。文箱を開けている音だと、これまでの経験でわかった和彦は、堪らず体を起こそうとする。すると片方の手首を掴まれた。強い力を込められたわけでないが、必要とあれば多少の痛みを与えるという意志のようなものを感じる。
「落ち着きなさい」
短く諭され、動きを止める。結局和彦は、自分から布団の上に仰臥し、覆われた両目で天井を見上げた。
和彦の体の強張りを解こうとしているのか、守光のひんやりとしたてのひらが肌に這わされる。肩や腕をさすられたかと思うと、膝から足の甲にかけて撫でられ、軽く片足を持ち上げられてから、今度はふくらはぎから腿へとてのひらが移動してくる。そして、腹部にてのひらが押し当てられた。
何も見えない状況で黙々と行為は行われ、和彦はされるがままになりながら、少し速くなった自分の呼吸音を聞いていた。
今晩に限っては、快感が訪れる予感すらなかった。このまま守光が興ざめして、自分を解放するのではないかと、ささやかな期待を抱いてしまう。
守光を甘く見ているのではなく、そんな希望にすがりたくなるほど、不安に押し潰されそうだったのだ。
和彦の体温を受けて、守光の手がほんのりと暖まってきた頃、両足を立てて大きく開かされる。
「はうっ……」
いきなり欲望を掴まれて声を洩らす。緩く扱かれて無意識に腰が逃げそうになる。当然のことながら、和彦のものはまったく反応していなかった。守光がどんな顔をしているのか、目隠しを取って確認したい衝動に駆られたが、すぐに和彦はそれどころではなくなる。
感じやすい先端を指の腹で擦られたあと、爪の先で弄られる。慌てて手を押しのけようとしたが、括れを指の輪で締め付けられて再び声を洩らした。
「――あんたの性質は把握したつもりだ。痛いのも、苦しいのも苦手だが、その実、肉の悦びを覚えている。本当は、ひどくされるのが好きなんだろう」
「そんなこと……」
「ただし、愛情を持って」
27
お気に入りに追加
1,391
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。


朝起きたら幼なじみと番になってた。
オクラ粥
BL
寝ぼけてるのかと思った。目が覚めて起き上がると全身が痛い。
隣には昨晩一緒に飲みにいった幼なじみがすやすや寝ていた
思いつきの書き殴り
オメガバースの設定をお借りしてます
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…
しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。
高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。
数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。
そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

男子高校に入学したらハーレムでした!
はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。
ゆっくり書いていきます。
毎日19時更新です。
よろしくお願い致します。
2022.04.28
お気に入り、栞ありがとうございます。
とても励みになります。
引き続き宜しくお願いします。
2022.05.01
近々番外編SSをあげます。
よければ覗いてみてください。
2022.05.10
お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。
精一杯書いていきます。
2022.05.15
閲覧、お気に入り、ありがとうございます。
読んでいただけてとても嬉しいです。
近々番外編をあげます。
良ければ覗いてみてください。
2022.05.28
今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。
次作も頑張って書きます。
よろしくおねがいします。

塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)
ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。
そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる