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第42話
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ふっと笑みをこぼした和彦は、中嶋に肩を引き寄せられて、再び唇を重ねる。差し出し合った舌を絡め、唾液を交わしながら胸元をまさぐられる。興奮しきって尖った胸の突起を、指で挟むようにして愛撫される。鼻から吐息を洩らすと、中嶋が小さく笑った。
「ダメですよ。そんなふうにされると、俺が先生の中に入りたくなる」
「よく言う。今は、そんな気分じゃないんだろ」
あえて挑発的な物言いをしてみると、中嶋の目の色が変わった。
焦れたように中嶋が身じろいだため、内奥から指を引き抜く。
「先生、後ろから……」
そう言って中嶋がうつ伏せとなり、腰を上げる。和彦はためらうことなく、滑りを帯びてひくつく内奥の入り口に、自らの欲望の先端を押し当てようとする。そこで、大事なことを思い出す。
「あっ、ゴム……」
「俺は、構いませんよ?」
頭を上げた中嶋に婀娜っぽく笑いかけられて、和彦はそれ以上は何も言わず、濡れた肉を自らの肉で押し広げた。
「あううっ」
声を洩らしたのは二人同時だ。自分が男になる瞬間の感覚はやはり強烈で、〈オンナ〉として得る快感に慣れ切った身には、怖さすら覚える。だが、抗い難い魅力がある。
中嶋の引き締まった腰を掴み、緩やかに突き上げる。内奥が複雑に蠢きながら、和彦の欲望をきつく締め付けてくる。律動に合わせてしなる背は、確かに男のものなのにひどく艶めかしく、和彦は目を奪われる。男たちの目に映る自分の姿も想像してしまうのだ。
繋がりを深くしてから、中嶋の尻から腰、背にてのひらを這わせる。小さく呻き声が上がり、卑猥に中嶋の腰が揺れた。和彦はゆっくり目を細めると、中嶋の両足の間に片手を差し込み、反り返って震えている欲望を掴む。内奥を丹念に突きながら、じっくりとてのひらで擦り上げてやる。
先端から、悦びの証であるしずくがトロトロと垂れ落ちていく。和彦は爪の先で優しく先端を苛めてやり、間欠的に上がる嬌声を心地よい響きとして聞く。引き絞るように内奥が収縮し始めたので、やや乱暴に欲望を抜き差しし、はしたない湿った音と、肉を打つ音を立てる。そこに、二人の弾んだ息遣いが重なる。
即物的とも言える交わりに、和彦は酔い痴れていた。おそらく中嶋も。駆け引きも、甘い囁きも必要ではなく、肉欲の衝動にただ突き動かされていればいいのだ。
「はあっ、あっ、あっ……、先生、い、ぃ――」
「あ、あ。ぼくも……」
もっと中嶋を悦ばせてやりたいが、すでに和彦に余裕はない。寸前のところで内奥からズルリと欲望を引き抜き、中嶋の尻から背にかけて精を飛び散らせていた。長嶺の男たちなら、征服欲や支配欲を満たされる光景かもしれないが、あいにく和彦が感じたのは、罪悪感だけだった。
「すまないっ」
慌ててサイドテーブルの上のティッシュペーパーに手を伸ばそうとしたが、中嶋に腕を取られて、ベッドに倒れ込む。
「いいですよ、気にしなくて。どうせシャワーを浴びますから。先生は――」
「ぼくはいい。濡れ髪で帰ったら、いかにも情事を楽しんできました、と言ってるようなものだ。見つかったら、何を言われるか」
「……長嶺組長に怒られますか?」
「いや。ニヤニヤしながら、からかわれるな。きっと」
仲がいいですねと、本当にそう思っているのか、笑いながら中嶋が言う。和彦は曖昧に応じながら、まだ達していない中嶋の欲望に触れ、優しく扱いてやる。中嶋は素直に身を任せてくれた。
行為の余韻と脱力感にしばらく浸っていたいところだが、そんな時間はない。
引きずるようにして体を起こすと、今度こそティッシュペーパーを取って後始末をする。背後にぴたりと中嶋が身を寄せてきて手を伸ばしたので、ティッシュペーパーの箱ごと渡してやった。
ほんの数分前まで、獣じみた欲情に駆り立てられていたなどと信じられないほど、淡々としていた。その代わり、気恥ずかしさもない。それは中嶋も同じなのか、ちらりと背後をうかがうと、気だるげではあるが落ち着いた横顔を見せている。ふと目が合ったとき、するりと言葉が出ていた。
「今日、クリスマスプレゼントを買いに、あちこち駆け回ってたんだ」
中嶋は目を丸くしてから、へえ、と洩らす。
「先生は渡す相手が多くて大変でしょう」
「……秦と同じことを言うんだな」
「先生を知っている人間なら、十人が十人、同じことを言うでしょうね」
和彦は軽く咳払いをすると、シャツを取り上げる。
「君へのプレゼントも手配したんだ。秦のあの部屋に届くようにしてある。クリスマスにでも取りに行ってくれ」
一瞬の沈黙のあと、抑えた笑い声が聞こえてくる。
「今のこの状況で、それを言いますか、先生」
「顔を合わせるにも、きっかけが必要だろ。あっ、できればプレゼントは、二人が揃って開けてくれ」
「――……そんなふうに言われたら、気になるじゃないですか。プレゼント、なんですか?」
和彦は聞こえなかったふりをして、手早く身支度を整え、ジャケットとコートを抱えて立ち上がる。ベッドを離れる前に、中嶋の腫れた頬に触れて諭した。
「切れ者のようで、たまに秦はポンコツなところがあるから、君が気を回してやれ。君は、総和会の中での数少ない、ぼくが信頼できる人間だ。その君に不安定になられると、ぼくが困る。加藤くんとの関係も含めて」
「先生は甘くて優しい人かと思えば、妙に食えない面がありますよね。そこがまあ、気に入っているんですが」
部屋を出ようとした和彦に、最後に中嶋が気になることを教えてくれた。それは、他愛ないともいえる報告ではあったのだが、なぜだかやけに引っかかり、和彦は髪を手櫛で整えることも忘れて、待機していた車に乗り込んだぐらいだ。
南郷がここ数日、隊員たちに行き先も告げず、姿を見せていない。そう、中嶋は言った。
ときどきあることらしいが、そのときはまず間違いなく、守光からの指示を受けて何かしら動いているそうだ。年末年始が近いこともあり、その準備のために奔走しているのだろうと、思えなくもないが――。
そんなことを考えながら、行為の熱も完全に冷め切らないうちに、本宅へと到着する。玄関に入ったところで、漂う空気で賢吾が先に帰宅していると知る。
顔を合わせる前に入浴を済ませたかったが、出迎えてくれた組員に、賢吾の部屋に行ってほしいと言われては無視できない。
着替えも後回しにして賢吾の部屋に出向くと、当の賢吾も帰宅したばかりなのか、まだワイシャツ姿でネクタイも解いていない。和彦を一目見るなり、意味ありげに目を眇めた。
手招きされた和彦は障子を閉め、賢吾の傍らに座る。
「今日は忙しかったみたいだな」
柔らかな口調から、機嫌がいいのだろうかと一瞬錯覚しそうになる。しかし賢吾の顔を覗き込むと、どこか物憂げだ。嫌な予感はしたが、問いかけずにはいられなかった。
「何か、あったのか?」
「――オヤジが、お前に会いたいと言っている」
そう言って賢吾が苦々しい表情を浮かべた。
「ダメですよ。そんなふうにされると、俺が先生の中に入りたくなる」
「よく言う。今は、そんな気分じゃないんだろ」
あえて挑発的な物言いをしてみると、中嶋の目の色が変わった。
焦れたように中嶋が身じろいだため、内奥から指を引き抜く。
「先生、後ろから……」
そう言って中嶋がうつ伏せとなり、腰を上げる。和彦はためらうことなく、滑りを帯びてひくつく内奥の入り口に、自らの欲望の先端を押し当てようとする。そこで、大事なことを思い出す。
「あっ、ゴム……」
「俺は、構いませんよ?」
頭を上げた中嶋に婀娜っぽく笑いかけられて、和彦はそれ以上は何も言わず、濡れた肉を自らの肉で押し広げた。
「あううっ」
声を洩らしたのは二人同時だ。自分が男になる瞬間の感覚はやはり強烈で、〈オンナ〉として得る快感に慣れ切った身には、怖さすら覚える。だが、抗い難い魅力がある。
中嶋の引き締まった腰を掴み、緩やかに突き上げる。内奥が複雑に蠢きながら、和彦の欲望をきつく締め付けてくる。律動に合わせてしなる背は、確かに男のものなのにひどく艶めかしく、和彦は目を奪われる。男たちの目に映る自分の姿も想像してしまうのだ。
繋がりを深くしてから、中嶋の尻から腰、背にてのひらを這わせる。小さく呻き声が上がり、卑猥に中嶋の腰が揺れた。和彦はゆっくり目を細めると、中嶋の両足の間に片手を差し込み、反り返って震えている欲望を掴む。内奥を丹念に突きながら、じっくりとてのひらで擦り上げてやる。
先端から、悦びの証であるしずくがトロトロと垂れ落ちていく。和彦は爪の先で優しく先端を苛めてやり、間欠的に上がる嬌声を心地よい響きとして聞く。引き絞るように内奥が収縮し始めたので、やや乱暴に欲望を抜き差しし、はしたない湿った音と、肉を打つ音を立てる。そこに、二人の弾んだ息遣いが重なる。
即物的とも言える交わりに、和彦は酔い痴れていた。おそらく中嶋も。駆け引きも、甘い囁きも必要ではなく、肉欲の衝動にただ突き動かされていればいいのだ。
「はあっ、あっ、あっ……、先生、い、ぃ――」
「あ、あ。ぼくも……」
もっと中嶋を悦ばせてやりたいが、すでに和彦に余裕はない。寸前のところで内奥からズルリと欲望を引き抜き、中嶋の尻から背にかけて精を飛び散らせていた。長嶺の男たちなら、征服欲や支配欲を満たされる光景かもしれないが、あいにく和彦が感じたのは、罪悪感だけだった。
「すまないっ」
慌ててサイドテーブルの上のティッシュペーパーに手を伸ばそうとしたが、中嶋に腕を取られて、ベッドに倒れ込む。
「いいですよ、気にしなくて。どうせシャワーを浴びますから。先生は――」
「ぼくはいい。濡れ髪で帰ったら、いかにも情事を楽しんできました、と言ってるようなものだ。見つかったら、何を言われるか」
「……長嶺組長に怒られますか?」
「いや。ニヤニヤしながら、からかわれるな。きっと」
仲がいいですねと、本当にそう思っているのか、笑いながら中嶋が言う。和彦は曖昧に応じながら、まだ達していない中嶋の欲望に触れ、優しく扱いてやる。中嶋は素直に身を任せてくれた。
行為の余韻と脱力感にしばらく浸っていたいところだが、そんな時間はない。
引きずるようにして体を起こすと、今度こそティッシュペーパーを取って後始末をする。背後にぴたりと中嶋が身を寄せてきて手を伸ばしたので、ティッシュペーパーの箱ごと渡してやった。
ほんの数分前まで、獣じみた欲情に駆り立てられていたなどと信じられないほど、淡々としていた。その代わり、気恥ずかしさもない。それは中嶋も同じなのか、ちらりと背後をうかがうと、気だるげではあるが落ち着いた横顔を見せている。ふと目が合ったとき、するりと言葉が出ていた。
「今日、クリスマスプレゼントを買いに、あちこち駆け回ってたんだ」
中嶋は目を丸くしてから、へえ、と洩らす。
「先生は渡す相手が多くて大変でしょう」
「……秦と同じことを言うんだな」
「先生を知っている人間なら、十人が十人、同じことを言うでしょうね」
和彦は軽く咳払いをすると、シャツを取り上げる。
「君へのプレゼントも手配したんだ。秦のあの部屋に届くようにしてある。クリスマスにでも取りに行ってくれ」
一瞬の沈黙のあと、抑えた笑い声が聞こえてくる。
「今のこの状況で、それを言いますか、先生」
「顔を合わせるにも、きっかけが必要だろ。あっ、できればプレゼントは、二人が揃って開けてくれ」
「――……そんなふうに言われたら、気になるじゃないですか。プレゼント、なんですか?」
和彦は聞こえなかったふりをして、手早く身支度を整え、ジャケットとコートを抱えて立ち上がる。ベッドを離れる前に、中嶋の腫れた頬に触れて諭した。
「切れ者のようで、たまに秦はポンコツなところがあるから、君が気を回してやれ。君は、総和会の中での数少ない、ぼくが信頼できる人間だ。その君に不安定になられると、ぼくが困る。加藤くんとの関係も含めて」
「先生は甘くて優しい人かと思えば、妙に食えない面がありますよね。そこがまあ、気に入っているんですが」
部屋を出ようとした和彦に、最後に中嶋が気になることを教えてくれた。それは、他愛ないともいえる報告ではあったのだが、なぜだかやけに引っかかり、和彦は髪を手櫛で整えることも忘れて、待機していた車に乗り込んだぐらいだ。
南郷がここ数日、隊員たちに行き先も告げず、姿を見せていない。そう、中嶋は言った。
ときどきあることらしいが、そのときはまず間違いなく、守光からの指示を受けて何かしら動いているそうだ。年末年始が近いこともあり、その準備のために奔走しているのだろうと、思えなくもないが――。
そんなことを考えながら、行為の熱も完全に冷め切らないうちに、本宅へと到着する。玄関に入ったところで、漂う空気で賢吾が先に帰宅していると知る。
顔を合わせる前に入浴を済ませたかったが、出迎えてくれた組員に、賢吾の部屋に行ってほしいと言われては無視できない。
着替えも後回しにして賢吾の部屋に出向くと、当の賢吾も帰宅したばかりなのか、まだワイシャツ姿でネクタイも解いていない。和彦を一目見るなり、意味ありげに目を眇めた。
手招きされた和彦は障子を閉め、賢吾の傍らに座る。
「今日は忙しかったみたいだな」
柔らかな口調から、機嫌がいいのだろうかと一瞬錯覚しそうになる。しかし賢吾の顔を覗き込むと、どこか物憂げだ。嫌な予感はしたが、問いかけずにはいられなかった。
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